魅了の対価

cyaru

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第24話   早馬がやってきた

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「なんだよ、あれはよ」

「全くだ。くだらねぇな」

エルファンとセレナの徒歩によるパレードはセレナの希望通り民衆と至近距離で触れ合えるものだったが、セレナは多くの民衆と直接素手で握手をしたり、時に軽くハグをする事で隣のエルファンが怪訝な顔をするもご満悦。

エルファンの不機嫌の原因はセレナの衣装にもあった。
出来るだけ素肌に触れてもらう事で魅了をしようと考えたセレナのドレスは布よりも肌の露出が多いもの。王子妃、いやパレードの前に議会が反対する事を見越し、先に国王との間で王位の譲渡をうけていたため王妃としてはあり得ない格好だったのだ。


しかしセレナは大事な事に気がついていなかった。

沿道に集まった民衆は確かに数は多いけれど、全員と触れ合えるわけではない。
家を空けることが出来ない者もいるし、幾つか向こうの通りにいる人間にまでセレナの魅了の魔法は届かない。

日を追うごとに住み難くなる王都。食品も衣料品も寝る間を惜しんで働いても満足できる量を買う事も出来ず、不満を持つ者は王宮にセレナが住まいを移してからは徐々に増えていた。

全ての万人に魅了の魔法が効果を発揮する訳ではなく、ハッキリとした不満や嫌悪感を強く持った者にも魅了は効果がない。

これで問題ないと踏んだセレナだったが、セレナとエルファンを囲う民衆の数だけで十分だと考えてしまった。


休憩を挟みつつも10時間に及んだパレードを終え、城に戻ったセレナに先代国王となったエルファンの父が「お疲れ様だったな」と声を掛けてきた。

「馴れ馴れしいんじゃないのかしら」

「え?」

「私は王妃なの。現役を退いた老害に用はないわ。誰かこの狼藉者を捕まえて。牢に放り込んで頂戴」

セレナの声に魅了されている騎士たちは先代国王と言えど犯罪者にしか見えず乱暴に取り押え始めた。正気を保っている使用人からすれば騎士の反乱にしか見えない行為。
喚く国王は助けを求めるもセレナの言葉を疑いもせず先代国王を床に押し付ける騎士に問う事も出来ず顔を見合わせる。

「どういうこと?」

「退いたって…まさか勝手に譲位したって事?」

も王位がエルファンに移ったとは知らず、突然「王妃だ」と言い始めるセレナに驚いたがさらに驚く事が起きた。


「早馬!!早馬ぁぁーッ!」

遠方から緊急の知らせを持って早馬が城の大門をくぐると伝令係が大声で早馬の乗り入れを知らせてきた。騎士の本能だろうか先代国王を取り押えていた騎士たちも力を緩め、早馬が掛けて来るアプローチへと駆けだした。

アプローチはあっという間に城で働くものが集まってきて人だかりが出来た。

「早速仕事じゃない。頑張ってぇ?」

「レナ。早馬は重要性、緊急度の高い知らせだ。一緒に何の知らせなのか聞いて対応しないと」

「そんなのエルファンがやってよ。アタシ、パレードで疲れてんの。足が痛いってぇーっの。そんなくだらない事より足をマッサージしてもらう方が先よ」

「レナ、それでは誰も王妃と認めてくれなくなる。正式に発表するのはこの後なんだ」

「えぇー。そう言うのそっちでやってくんないかな。超面倒なんだけど」


エルファンがセレナに王妃の役目を説明しようとしたが、早馬がアプローチに到着をした。馬は途中で何度か入れ替えても騎乗してくる騎士は同じ。

あぶみに引っかけた靴は擦れて足の甲は血塗れ。手綱を持っていた手も皮が剥け、尻当ても擦り切れボロボロになった騎士は転がるようにしてエルファンの前に胸の甲冑に守られた手紙を差し出した。

「だ、大至急っ…ハァハァ…援軍っ…援軍をっ!」

手紙を差し出すと同時に騎士はようようの言葉をエルファンに向かって告げる。
この場に国王がおらずエルファンの事は王子だと思っていても王族に変わりはない。寝ずに5日、昼も夜も走り抜けてきた騎士は意識を飛ばす前に伝えるべきことを伝えようと懸命だった。

「こ、これは…メルブール王国の兵は本当に撤退したのか…」

「メルブール王国の兵は1カ月も前に撤退をしておりますっ。わが軍の兵も半数がいない状態でこれ以上の応戦は無理ですっ」

「ポ、ポルク家は何をしてるんだ!」

「ポルク家はメルブール王国の兵が撤退した時点で国防は中止と判断っ!殿下、ご指示を!」

セレナに傾倒をしていても王子として、王族として、そして国王としての仕事が何なのかは理解をしているエルファンの顔色は一瞬で蒼白になった。

モートベル王国とメルブール王国の兵を半分出し合い虎視眈々と領土拡大を狙っている好戦的な国に対応をしてきた。

足元に転がっている国王からもメルブール王国の撤退は聞いたが、ポルク侯爵家が対応すると放っておいたのだ。

しかし、考えずとも悟るべきだった。
国同士の約束である共同派兵を反故にしたのはエルファンと国王。あの夜会でメルブール王国の大使の顔に泥を塗りあざ笑うかのように宗教を冒涜する行為をしてしまっていた。

――なぜ放置して大丈夫と思ったんだ?――

エルファンは自分の行動が理解できなかった。今までだったら即座に対応していたはず。

その結果メルブール王国は兵を引いた。ポルク侯爵家も大使を蔑ろにしてまでの国の決定に従っただけ。

「て、敵兵は何処まで進軍してるんだ?!」

「判りません。私は知らせを届けろと。しかし砦が落ちるのは時間の問題でしたので5日経った今…」

5日もあれば砦のある領地はもう落とされている。
今はその隣にある領地に攻め入っているか、そこも落ちているか。

共同派兵をしていた事で領民は安心しきっているし、騎士に守ってもらわなければ戦う術を知らないのだ。

「すぐに援軍を向かわせる!騎士団に連絡し部隊を編成――」

「それは出来兼ねます」

大声で指示を出そうとしたエルファンの前に早馬が到着と知らせを受けやってきた騎士団の隊長が声を挟んできた。
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