10 / 22
第10話 分厚いハム。口の中の肉汁
しおりを挟む
「息が出来るって幸せぇぇぇーッ!!」
ドレスを脱いだ後、アリアは本気で空に向かって叫んだ。
足元にはドレスだった布の残骸が散らばる。
帰宅してから大急ぎで部屋に運び込まねばならなくなったため、エルフィンは「私が責任を負う」として脱がせる時にドレスを切ったのだ。
コルセットの紐も解いている時間がなく鋏を入れると緩んだと思ったら軽く2mほど吹き飛んだ。
締め付けられすぎて上半身には鬱血していないところがない。
それでも息が出来る喜びにアリアは我慢できず叫んだのだった。
喉も乾いただろうとワゴンを引いてやってきたエルフィンは気取らず、常に素を見せるアリアを見てくすっと笑った。
「落ち着いたら茶でもどうだ」
「お茶ーッ!喉がカラッカラだったの。ありがとう。ついでに食べる物はないの?お腹もペッコペコよ」
夫への最初のリクエストが食事の要求なんてアリアくらいだろう。
エルフィンは手早く作れて軽く抓めるものを従者に持ってくるように命じた。
「君ってさ、自分を繕う事をしないんだな」
「見栄を張っても意味ないでしょう?見られたくない場も見られてしまったし、どうせ離縁するし対外的に社交もしなくていいんだもの」
「確かにね。ま、もう一杯どうだ?」
出会い方が違えばエルフィンほどの美丈夫で侯爵家のボンボン相手ならアリアだって自分を良く見せようとしただろうが、出会って3日目、時間にして1時間もないうちに結婚となれば何を取り繕う必要があるだろう。
ましてや離縁しても手厚く生活を保障してくれるんだし、愛だ、恋だの前にお互いの事もよく知らない。
それにこの結婚で本当の旨味があるのはエルフィン。
キツキツのドレスでもう遠慮することも無く、満喫させてもらおうとアリアは完全に開き直った。
そこにいつも肉屋の前で「いつかは!」と恨めしく見るだけだった分厚いハムの挟まれたサンドウィッチが登場した。
「た、食べても?」
「いいぞ。好きなだけーー」
「いっただぁきまぁす!!」
エルフィンが言葉を言い終わらないうちにアリアは1切れを手に取るとハムの厚さに目を潤ませた。
「こ、こ、こんなに厚いハムっ!!」
「いいから食え」
「言われずともっ!(ぱくっ)」
(フォォォォ!熱くないのに肉汁が凄ぉい!)
口の中で迸る肉汁を吸ってくれる柔らかいパン。
(ここは天国ですか!おいひぃぃぃ!)
アリアが2つ目に手を伸ばすとエルフィンはアリアを見て目を細め、口元にマスタードが付いていると指で拭ってくれた。
「明日は仕立て屋が来る。好きなだけ注文すればいい」
言うついでに何故かマスタードを拭った指をパクリ。
(ヒュッ!!)
アリアは2切目の天国を味わおうと手に取ったパンを落としそうになった。
「どうした?もう腹いっぱいか?」
まだまだイケます!と思いつつも、マスタードの事を指摘していいものかアリアは迷った。迷った挙句…。
「服を着る体は1つですよ?着替えは必要でしょうけど着回せばいいので3、4着で結構です」
「3、4着?しかも着回し?正気か?」
「正気かと聞きたいのはこっちです。今日のドレスもですが貸してくださったことには感謝します。でもこんな事でもなければ生涯に1度しか袖を通さないドレスなんて無駄の極みですっ!ドレス1着のお値段知ってます?その金額で従業員に臨時の賞与も余裕で出せるんですよ?これから事業を本格的に始めようとするのに無駄使いしてどうするんです」
やっぱり小心者なので指摘は出来ず根っからの貧乏性からの言葉を返してしまったのだった。
思いもよらないアリアの可愛い反撃にエルフィンは驚いた。
「ならば好きなようにすると良い。もう何も言わん」
「はーい。好きにさせてもらいまーす。で、お聞きしたいことがあります」
「なんだ?」
「住んでいた家なんですけど、家賃の支払いがもうすぐなんです。住まいを移してもらわないといけないって言ってたので退去しようと思うのですけど荷物を片付けて掃除もしなきゃいけなくて」
「その件か。承知した。手続きや引っ越しについてはこちらで手配をする。君は本当に欲しいものがないか仕立て屋の持ってきたカタログを吟味してくれ」
(要らないって言ってるのにしつこいなぁ、もぉ!)
ぷくっと頬を膨らませたアリアはエルフィンと目が合ったが、フンッ!顔を逸らした。
その様子にエルフィンは「ぷっ」と苦笑し部屋を出て行った。
エルフィンは約束通り退去の手続きを済ませてくれたようで、アリアの住んでいた家にあった家財は明らかなゴミ以外は一旦全てエルフィンの屋敷に持ち込まれた。
ほとんどは祖母の物でアリアの物は衣類を含めてもトランクに収まりそうな量しかない。
アリアは1つ1つを使えるもの、使えないものに仕分けし使えるものは手直しをしたり洗濯をして教会に寄付をした。
ドレスを脱いだ後、アリアは本気で空に向かって叫んだ。
足元にはドレスだった布の残骸が散らばる。
帰宅してから大急ぎで部屋に運び込まねばならなくなったため、エルフィンは「私が責任を負う」として脱がせる時にドレスを切ったのだ。
コルセットの紐も解いている時間がなく鋏を入れると緩んだと思ったら軽く2mほど吹き飛んだ。
締め付けられすぎて上半身には鬱血していないところがない。
それでも息が出来る喜びにアリアは我慢できず叫んだのだった。
喉も乾いただろうとワゴンを引いてやってきたエルフィンは気取らず、常に素を見せるアリアを見てくすっと笑った。
「落ち着いたら茶でもどうだ」
「お茶ーッ!喉がカラッカラだったの。ありがとう。ついでに食べる物はないの?お腹もペッコペコよ」
夫への最初のリクエストが食事の要求なんてアリアくらいだろう。
エルフィンは手早く作れて軽く抓めるものを従者に持ってくるように命じた。
「君ってさ、自分を繕う事をしないんだな」
「見栄を張っても意味ないでしょう?見られたくない場も見られてしまったし、どうせ離縁するし対外的に社交もしなくていいんだもの」
「確かにね。ま、もう一杯どうだ?」
出会い方が違えばエルフィンほどの美丈夫で侯爵家のボンボン相手ならアリアだって自分を良く見せようとしただろうが、出会って3日目、時間にして1時間もないうちに結婚となれば何を取り繕う必要があるだろう。
ましてや離縁しても手厚く生活を保障してくれるんだし、愛だ、恋だの前にお互いの事もよく知らない。
それにこの結婚で本当の旨味があるのはエルフィン。
キツキツのドレスでもう遠慮することも無く、満喫させてもらおうとアリアは完全に開き直った。
そこにいつも肉屋の前で「いつかは!」と恨めしく見るだけだった分厚いハムの挟まれたサンドウィッチが登場した。
「た、食べても?」
「いいぞ。好きなだけーー」
「いっただぁきまぁす!!」
エルフィンが言葉を言い終わらないうちにアリアは1切れを手に取るとハムの厚さに目を潤ませた。
「こ、こ、こんなに厚いハムっ!!」
「いいから食え」
「言われずともっ!(ぱくっ)」
(フォォォォ!熱くないのに肉汁が凄ぉい!)
口の中で迸る肉汁を吸ってくれる柔らかいパン。
(ここは天国ですか!おいひぃぃぃ!)
アリアが2つ目に手を伸ばすとエルフィンはアリアを見て目を細め、口元にマスタードが付いていると指で拭ってくれた。
「明日は仕立て屋が来る。好きなだけ注文すればいい」
言うついでに何故かマスタードを拭った指をパクリ。
(ヒュッ!!)
アリアは2切目の天国を味わおうと手に取ったパンを落としそうになった。
「どうした?もう腹いっぱいか?」
まだまだイケます!と思いつつも、マスタードの事を指摘していいものかアリアは迷った。迷った挙句…。
「服を着る体は1つですよ?着替えは必要でしょうけど着回せばいいので3、4着で結構です」
「3、4着?しかも着回し?正気か?」
「正気かと聞きたいのはこっちです。今日のドレスもですが貸してくださったことには感謝します。でもこんな事でもなければ生涯に1度しか袖を通さないドレスなんて無駄の極みですっ!ドレス1着のお値段知ってます?その金額で従業員に臨時の賞与も余裕で出せるんですよ?これから事業を本格的に始めようとするのに無駄使いしてどうするんです」
やっぱり小心者なので指摘は出来ず根っからの貧乏性からの言葉を返してしまったのだった。
思いもよらないアリアの可愛い反撃にエルフィンは驚いた。
「ならば好きなようにすると良い。もう何も言わん」
「はーい。好きにさせてもらいまーす。で、お聞きしたいことがあります」
「なんだ?」
「住んでいた家なんですけど、家賃の支払いがもうすぐなんです。住まいを移してもらわないといけないって言ってたので退去しようと思うのですけど荷物を片付けて掃除もしなきゃいけなくて」
「その件か。承知した。手続きや引っ越しについてはこちらで手配をする。君は本当に欲しいものがないか仕立て屋の持ってきたカタログを吟味してくれ」
(要らないって言ってるのにしつこいなぁ、もぉ!)
ぷくっと頬を膨らませたアリアはエルフィンと目が合ったが、フンッ!顔を逸らした。
その様子にエルフィンは「ぷっ」と苦笑し部屋を出て行った。
エルフィンは約束通り退去の手続きを済ませてくれたようで、アリアの住んでいた家にあった家財は明らかなゴミ以外は一旦全てエルフィンの屋敷に持ち込まれた。
ほとんどは祖母の物でアリアの物は衣類を含めてもトランクに収まりそうな量しかない。
アリアは1つ1つを使えるもの、使えないものに仕分けし使えるものは手直しをしたり洗濯をして教会に寄付をした。
467
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
出て行けと言ったものの、本当に出て行かれるとは思っていなかった旦那様
睡蓮
恋愛
ジーク伯爵は、溺愛する自身の妹レイアと共謀する形で、婚約者であるユフィーナの事を追放することを決めた。ただその理由は、ユフィーナが婚約破棄を素直に受け入れることはないであろうと油断していたためだった。しかしユフィーナは二人の予想を裏切り、婚約破棄を受け入れるそぶりを見せる。予想外の行動をとられたことで焦りの色を隠せない二人は、ユフィーナを呼び戻すべく様々な手段を講じるのであったが…。
あなたへの愛を捨てた日
柴田はつみ
恋愛
公爵夫人エステルは、冷徹な夫レオニスを心から愛していた。彼の好みを調べ、帰宅を待ちわび、献身的に尽くす毎日。
しかし、ある夜会の回廊で、エステルは残酷な真実を知る。
レオニスが、未亡人クラリスの手を取り囁いていたのだ。
「君のような(自立した)女性が、私の隣にいるべきだった」
エステルは悟る。自分の愛は彼にとって「重荷」であり、自分という人間は彼にとって「不足」だったのだと。その瞬間、彼女の中で何かが音を立てて砕け散る。
元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜
日々埋没。
ファンタジー
「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」
かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。
その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。
レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。
地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。
「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」
新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。
一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。
やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。
レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
貴妃エレーナ
無味無臭(不定期更新)
恋愛
「君は、私のことを恨んでいるか?」
後宮で暮らして数十年の月日が流れたある日のこと。国王ローレンスから突然そう聞かれた貴妃エレーナは戸惑ったように答えた。
「急に、どうされたのですか?」
「…分かるだろう、はぐらかさないでくれ。」
「恨んでなどいませんよ。あれは遠い昔のことですから。」
そう言われて、私は今まで蓋をしていた記憶を辿った。
どうやら彼は、若かりし頃に私とあの人の仲を引き裂いてしまったことを今も悔やんでいるらしい。
けれど、もう安心してほしい。
私は既に、今世ではあの人と縁がなかったんだと諦めている。
だから…
「陛下…!大変です、内乱が…」
え…?
ーーーーーーーーーーーーー
ここは、どこ?
さっきまで内乱が…
「エレーナ?」
陛下…?
でも若いわ。
バッと自分の顔を触る。
するとそこにはハリもあってモチモチとした、まるで若い頃の私の肌があった。
懐かしい空間と若い肌…まさか私、昔の時代に戻ったの?!
夫から「用済み」と言われ追い出されましたけれども
神々廻
恋愛
2人でいつも通り朝食をとっていたら、「お前はもう用済みだ。門の前に最低限の荷物をまとめさせた。朝食をとったら出ていけ」
と言われてしまいました。夫とは恋愛結婚だと思っていたのですが違ったようです。
大人しく出ていきますが、後悔しないで下さいね。
文字数が少ないのでサクッと読めます。お気に入り登録、コメントください!
【完結】男装して会いに行ったら婚約破棄されていたので、近衛として地味に復讐したいと思います。
銀杏鹿
恋愛
次期皇后のアイリスは、婚約者である王に会うついでに驚かせようと、男に変装し近衛として近づく。
しかし、王が自分以外の者と結婚しようとしていると知り、怒りに震えた彼女は、男装を解かないまま、復讐しようと考える。
しかし、男装が完璧過ぎたのか、王の意中の相手やら、王弟殿下やら、その従者に目をつけられてしまい……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる