25 / 32
第25話 何も知らない
無難にやり過ごそうとしたが、呼びつけた事そのものが寝た子を起こすことになってしまった国王は顔面蒼白。
「もう宜しいか?」
ブロワ伯爵の声に国王はうんうんと頷き「エドワードだけ残れ」と言うのが精一杯。
イリーナとブロワ伯爵が部屋から出て行くと、閉じられた扉の奥からは何やら激しい物音と怒声が聞こえてきたがもう一度中に入る気にはなれない。
そのまま廊下を歩き、馬車に乗り込むと帰って行った。
「この馬鹿垂れが!どういうつもりだ!!」
「伯父上!違うんです!」
「何が違うのだ!ただの冗談で市井に貼り紙をしてお前の相手を見繕うはずもないだろう!」
「貼り紙?何のことです?」
「そんな事も知らんのか!このっ!お前の頭の中にはどんな花が咲いているんだッ!」
エドワードは知らなかった。そもそもで知ろうともしていないのだから市井で自分の相手探しの貼り紙がされている事は全く知らなかったのだ。
国王の前で「400人と面談」と言われて、「あの8時間とかいうやつ?」と朧げに聞いたイリーナの言葉と擦り合わせていたくらいだ。
「貴様、まさかとは思うが離縁などと口走ったのは初夜ではあるまいな?」
つかつかとエドワードの前にやってきて、グッと国王に胸倉を掴みあげられてエドワードは冷や汗が足元に水溜まりを作りそうになる。
「あ、あの…そうなんです」
「ばっ、ばっ、ばかもっ‥‥はぐっ!!」
「陛下!!」
従者が駆け寄ってきて、一気に興奮し頭に血が上った国王がふらついた体を支えた。
体を支えられて国王が別室に連れて行かれるとエドワードには残った従者から冷たい視線が向けられた。
――視線が氷の矢のように突き刺さるって本当だな――
視線なのに痛いのだ。
それよりもエドワードの胸が痛むのは初夜の不用意な言葉でここまでイリーナを怒らせてしまっている事だ。
――挽回しないと!でも面談って、どうして誰も教えてくれなかったんだ――
公爵家の使用人は誰もそんな事を言わなかったし、家令のスペドーも執事のクロバーも匂わせるような事すら言っていなかった。
その答えはエドワードがモテンスキ公爵家に戻ると簡単に答えが出た。
家令のスペドーは言った。
「新しい恋を探すために色々と催されていたではありませんか。奥様の行為に名をつけるとすれば内助の功でしょうか」
執事のクロバーは言った。
「旦那様から市井の動向を報告せよ、とは言われておりませんが?」
確かにそうだった。
エドワードはモテンスキ公爵家の事業が上手くいけば良いので市井で何が流行っているとか興味はなかったし、社交も闇雲に令嬢を呼んで開催をしただけ。
相手は見つからない上に、話しかけて来る者は事業参入を目論む者ばかり。そうでないものは勝手なお喋りに興じたりしていただけ。情報収集の場ですらなかったのだ。
「ブロワ伯爵家に行ってくる」
「何故です?」
「イリーナの誤解を解かないと」
――誤解はしてないと思いますが?――
エドワードがイリーナの事を慕い始め、心に熱い炎が灯った事など誰も知らない。エドワードも誰にも言ってない。しいて言えばここ最近エドワードの様子がおかしかっただけ。
「誤解を解くのであればお部屋に行かれれば如何です?伯爵の誤解を解くのも必要でしょうが、先ずは奥様とお話をされてみては?」
「え?屋敷にいるのか?」
「えぇ。旦那様より半刻ほど早くお戻りになっておられますが?」
「部屋に行く!えぇーっと…花、そうだな手ぶらではダメだ。庭の花は何が咲いてる?」
恋愛小説に書いてあったのだ。
大きな花束をプレゼントすると喧嘩をしていても令嬢が許してくれる描写があった。
それまでのエドワードなら本当にどうでもいい事なので知ることもなかった事柄だが、必要だ!と振れてしまったので内容をよく覚えている。
文字だけの小説なので何の花までは書かれていなかったが、兎に角花が必要!そう思ったのに家令スペドーの返事はエドワードの要求を満たしてはくれないものだった。
「花ですか?えぇーっと今は咲いていませんね」
「何故だ?母上は真冬でも楽しめるように花を植えるように指示していたはずだ」
「されてましたね。ですがあれだけ庭で茶会を開けばどうなるか。想像されなかったのですか?」
家令スペドーは呆れ顔でエドワードに問いかけた。
庭は、ほぼ連日開かれた茶会で踏み荒らされた上に、断りもなく乱暴に千切って持ち帰られたり、中には不浄に行くのが面倒だからと咲いている花の中に屈んで用を足すものもいて、ほとんどが植え替えとなってしまった。
モテンスキ公爵家の庭は年中花が楽しめると言われていたのに、過去50年に渡って初めて花のない事態となっていた。
家令スペドーもエドワードには容赦がない。
「旦那様。仮に咲いている花があったとして、奥様の好きな花、ダメな花をご存じなのですか?」
「え?」
「花は見るには心も癒され、贈られれば喜ぶ方も多いのですが好みも御座いますし、万人受けする訳ではありませんよ。薔薇や百合に限らず花粉が御座いますからアレルギーを持つ方もいるのです。仮に奥様が花粉アレルギーなら大変な事になりますよ?ちなみに花でなくてもお好きな食事だったり菓子はご存じで?」
――私はイリーナの事を何も知らないのだ――
ブロワ家に菓子を貰いに行くと言っていたが菓子にも種類がある。
本当に何もイリーナの事を何も知らないまま突っ走ろうとしていた自分に気が付き、エドワードはどうすべきかと考えた。
考えたが纏まらないままイリーナの部屋に向かった。
「もう宜しいか?」
ブロワ伯爵の声に国王はうんうんと頷き「エドワードだけ残れ」と言うのが精一杯。
イリーナとブロワ伯爵が部屋から出て行くと、閉じられた扉の奥からは何やら激しい物音と怒声が聞こえてきたがもう一度中に入る気にはなれない。
そのまま廊下を歩き、馬車に乗り込むと帰って行った。
「この馬鹿垂れが!どういうつもりだ!!」
「伯父上!違うんです!」
「何が違うのだ!ただの冗談で市井に貼り紙をしてお前の相手を見繕うはずもないだろう!」
「貼り紙?何のことです?」
「そんな事も知らんのか!このっ!お前の頭の中にはどんな花が咲いているんだッ!」
エドワードは知らなかった。そもそもで知ろうともしていないのだから市井で自分の相手探しの貼り紙がされている事は全く知らなかったのだ。
国王の前で「400人と面談」と言われて、「あの8時間とかいうやつ?」と朧げに聞いたイリーナの言葉と擦り合わせていたくらいだ。
「貴様、まさかとは思うが離縁などと口走ったのは初夜ではあるまいな?」
つかつかとエドワードの前にやってきて、グッと国王に胸倉を掴みあげられてエドワードは冷や汗が足元に水溜まりを作りそうになる。
「あ、あの…そうなんです」
「ばっ、ばっ、ばかもっ‥‥はぐっ!!」
「陛下!!」
従者が駆け寄ってきて、一気に興奮し頭に血が上った国王がふらついた体を支えた。
体を支えられて国王が別室に連れて行かれるとエドワードには残った従者から冷たい視線が向けられた。
――視線が氷の矢のように突き刺さるって本当だな――
視線なのに痛いのだ。
それよりもエドワードの胸が痛むのは初夜の不用意な言葉でここまでイリーナを怒らせてしまっている事だ。
――挽回しないと!でも面談って、どうして誰も教えてくれなかったんだ――
公爵家の使用人は誰もそんな事を言わなかったし、家令のスペドーも執事のクロバーも匂わせるような事すら言っていなかった。
その答えはエドワードがモテンスキ公爵家に戻ると簡単に答えが出た。
家令のスペドーは言った。
「新しい恋を探すために色々と催されていたではありませんか。奥様の行為に名をつけるとすれば内助の功でしょうか」
執事のクロバーは言った。
「旦那様から市井の動向を報告せよ、とは言われておりませんが?」
確かにそうだった。
エドワードはモテンスキ公爵家の事業が上手くいけば良いので市井で何が流行っているとか興味はなかったし、社交も闇雲に令嬢を呼んで開催をしただけ。
相手は見つからない上に、話しかけて来る者は事業参入を目論む者ばかり。そうでないものは勝手なお喋りに興じたりしていただけ。情報収集の場ですらなかったのだ。
「ブロワ伯爵家に行ってくる」
「何故です?」
「イリーナの誤解を解かないと」
――誤解はしてないと思いますが?――
エドワードがイリーナの事を慕い始め、心に熱い炎が灯った事など誰も知らない。エドワードも誰にも言ってない。しいて言えばここ最近エドワードの様子がおかしかっただけ。
「誤解を解くのであればお部屋に行かれれば如何です?伯爵の誤解を解くのも必要でしょうが、先ずは奥様とお話をされてみては?」
「え?屋敷にいるのか?」
「えぇ。旦那様より半刻ほど早くお戻りになっておられますが?」
「部屋に行く!えぇーっと…花、そうだな手ぶらではダメだ。庭の花は何が咲いてる?」
恋愛小説に書いてあったのだ。
大きな花束をプレゼントすると喧嘩をしていても令嬢が許してくれる描写があった。
それまでのエドワードなら本当にどうでもいい事なので知ることもなかった事柄だが、必要だ!と振れてしまったので内容をよく覚えている。
文字だけの小説なので何の花までは書かれていなかったが、兎に角花が必要!そう思ったのに家令スペドーの返事はエドワードの要求を満たしてはくれないものだった。
「花ですか?えぇーっと今は咲いていませんね」
「何故だ?母上は真冬でも楽しめるように花を植えるように指示していたはずだ」
「されてましたね。ですがあれだけ庭で茶会を開けばどうなるか。想像されなかったのですか?」
家令スペドーは呆れ顔でエドワードに問いかけた。
庭は、ほぼ連日開かれた茶会で踏み荒らされた上に、断りもなく乱暴に千切って持ち帰られたり、中には不浄に行くのが面倒だからと咲いている花の中に屈んで用を足すものもいて、ほとんどが植え替えとなってしまった。
モテンスキ公爵家の庭は年中花が楽しめると言われていたのに、過去50年に渡って初めて花のない事態となっていた。
家令スペドーもエドワードには容赦がない。
「旦那様。仮に咲いている花があったとして、奥様の好きな花、ダメな花をご存じなのですか?」
「え?」
「花は見るには心も癒され、贈られれば喜ぶ方も多いのですが好みも御座いますし、万人受けする訳ではありませんよ。薔薇や百合に限らず花粉が御座いますからアレルギーを持つ方もいるのです。仮に奥様が花粉アレルギーなら大変な事になりますよ?ちなみに花でなくてもお好きな食事だったり菓子はご存じで?」
――私はイリーナの事を何も知らないのだ――
ブロワ家に菓子を貰いに行くと言っていたが菓子にも種類がある。
本当に何もイリーナの事を何も知らないまま突っ走ろうとしていた自分に気が付き、エドワードはどうすべきかと考えた。
考えたが纏まらないままイリーナの部屋に向かった。
あなたにおすすめの小説
居場所を失った令嬢と結婚することになった男の葛藤
しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢ロレーヌは悪女扱いされて婚約破棄された。
父親は怒り、修道院に入れようとする。
そんな彼女を助けてほしいと妻を亡くした28歳の子爵ドリューに声がかかった。
学園も退学させられた、まだ16歳の令嬢との結婚。
ロレーヌとの初夜を少し先に見送ったせいで彼女に触れたくなるドリューのお話です。
最後に一つだけ。あなたの未来を壊す方法を教えてあげる
椿谷あずる
恋愛
婚約者カインの口から、一方的に別れを告げられたルーミア。
その隣では、彼が庇う女、アメリが怯える素振りを見せながら、こっそりと勝者の微笑みを浮かべていた。
──ああ、なるほど。私は、最初から負ける役だったのね。
全てを悟ったルーミアは、静かに微笑み、淡々と婚約破棄を受け入れる。
だが、その背中を向ける間際、彼女はふと立ち止まり、振り返った。
「……ねえ、最後に一つだけ。教えてあげるわ」
その一言が、すべての運命を覆すとも知らずに。
裏切られた彼女は、微笑みながらすべてを奪い返す──これは、華麗なる逆転劇の始まり。
そう言うと思ってた
mios
恋愛
公爵令息のアランは馬鹿ではない。ちゃんとわかっていた。自分が夢中になっているアナスタシアが自分をそれほど好きでないことも、自分の婚約者であるカリナが自分を愛していることも。
※いつものように視点がバラバラします。
忙しい男
菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。
「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」
「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」
すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。
※ハッピーエンドです
かなりやきもきさせてしまうと思います。
どうか温かい目でみてやってくださいね。
※本編完結しました(2019/07/15)
スピンオフ &番外編
【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19)
改稿 (2020/01/01)
本編のみカクヨムさんでも公開しました。
地獄の業火に焚べるのは……
緑谷めい
恋愛
伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。
やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。
※ 全5話完結予定
死ぬまでに叶えたい十の願い
木風
恋愛
「あなたを妻として、愛することはない。おそらく、生涯抱くこともないだろう」
三年間の白い結婚——捨て置かれた王太子妃エリアーナに、側妃が『死の呪い』をかけ余命一年を宣告する。
離縁を願うも拒否され、代わりに「死ぬまでに十の願いを叶えて」と契約する——
二人きりの外出、星空、海…ささやかな願いが王太子の心をほどいていく。