転生先は王子様の元婚約者候補というifモブでした

cyaru

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第32話   読むのは空気ではない

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サンドリヨンの部屋。

シャルロットは部屋が1階なので窓から外にでて逃げようか。
そう思ったが窓の外を見て諦めた。

サンドリヨンは、庭を自由に散歩できるが数人の使用人が必ず同行する。そして自由の中にも制限があり外周近くに掘ってある賊避けの幅2mほどの水路まで来るとその先は壁があるだけなので行く意味もないが引き返さなければならない。

そして窓の外だ。
掃き出し窓はなく、部屋から庭に出るには窓だが腰までの高さを乗り越えなくてはならない。窓の外を覗き込めば見える範囲で木の根元などに紐を括りつけ、その紐に木の板を2枚セットで何組もぶら下げていた。

足がうっかり紐に引っ掛かれば木の板がガチャガチャと音をさせるので使用人が飛んでくる。サンドリヨンも何度か窓から逃げ出そうとしたらしいが猫でも引っ掛かるくらいの間隔で縦横無尽に紐が張り巡らされているので人間の足でここを抜けるのは無理。

当然その度に見つかって捕まってしまった。

サ「あの枝にね、ロープでも引っかけてと思ったけどロープがないの。だから・・・えへへ」

ごそごそと寝台の隅っこに押し込んだシーツを引っ張り出してきたが、そのシーツは引き裂かれて何カ所か結び目があった。シーツを裂いてロープ状にしサンドリヨンも逃げようとしたその残骸だった。

サ「全然木に引っ掛かってくれないの。それに・・・あはっ。結び目も解けちゃうのよ」

体重がかかると結んだ部分が引っ張られてするりと解けてしまう。強固に結ぼうとすれば長さが足りなくなる。ロープの代わりにもならなかったのだ。


サ「ジョルジュが来たら相談してみるわね」
シ「あなたは?あなたは逃げないの?」
サ「逃げたいけど…今は囚われのお姫様を逃がすのが先。私はそのうち・・・チャンスが来るわ」
シ「そんな・・・だってあなたはヒロ―――」

ヒロインなのにと言いかけてシャルロットは言葉を飲んだ。サンドリヨンはヒロインでも何でもない。普通の女の子なのだ。何より現状を望んでも居らず逃げたいなんていうヒロインがいるはずがない。

シ「ジョルジュさんは信頼できる人なの?」
サ「さぁ‥判らない」
シ「判らないって…」
サ「だって偉い人なんて解らないじゃない。でも信頼は別として信用はしてるの。だって私、ジョルジュのおかげでこの本も、この本も!読む事が出来るようになったの。嘘を言う人じゃないのは確かね。とっても良い人よ」


シャルロットはテオドールからジョルジュの事は聞いていない。テオドールも不要な情報だとシャルロットには伝えていなかった。ただ伝えていてもジョルジュが王太子妃のめいによりサンドリヨンの元にいるとなればシャルロットはジョルジュを信用する事はない。

婚約者候補として王家とは関りがあったが、内部の詳細まで知っている訳ではない。シャルロットには「王家」というだけでチャミングとなんら大差ないとしか思わず警戒しただろう。

サ「もうすぐジョルジュが来ると思うわ。3,4日に1度、本の差し入れと話し相手になるために来てくれるの」

サンドリヨンの言葉の通りジョルジュはやって来た。シャルロットは「いきなりだと驚くだろうから」と寝台の隅にしゃがみ込んで身を隠した。


「サンドリヨン様、変わりは御座いませんか?」
「無い…と、言いたいけど」

――うわっ!いきなりバラすのやめて!!――

サンドリヨンには王族や高位貴族のような裏の裏を読んでそのまた裏を読むなんて技術は必要がない。あっさりとジョルジュにシャルロットの存在を明かした。

「何かあるんですか?」
「お姫様を助けたのよ。探検をしていたら財宝じゃなくお姫様を見つけたの」

ここで「はい、それは私です」と出ていくのは気が引ける。
自分の事をお姫様だと思った事はないし、「姫」呼びをされた事もない。そこまで高飛車で図々しくもないと自負している。

トテテと隠れている場所まで歩いて来たサンドリヨンはシャルロットの腕をトントン。2回軽く叩いて得意満面にジョルジュに「お姫様でーす!」と紹介する。

「言っておくけど、チャミングには秘密だからね?」釘をさすもの忘れない。

――あのぅ…そのチャミングの部下なんじゃないのぉ??――


シャルロットはサンドリヨンの天然ぶりに泣きそうだった。
悪気が全くないのはよく判るが、折角あの部屋から出られたのにもう捕まってしまう。
サンドリヨンにはそこまで考えが及ばない事に立ち上がる気力も失ってしまった。

しかしジョルジュの反応はシャルロットからすると意外なものだった。

「あなたは・・・アベルジェ公爵家のご息女?!」
「はい…すみません。私がアベルジェ公爵家の娘です」


シャルロットの脳内には向こうの世界で何度か特番で放送していたピンクの衣装に紫のハラマキをした「変〇おじさん」が独特の調子をつけて「へん〇おじさん♪へん〇おじさん」・・・駆け抜けていく。

気分はもう俎板の鯉。どうにでもしてくれー!!である。

しかし、またまたジョルジュの返しはシャルロットからすれば意外なものだった。

「テオドール殿が探していますよ。こぉんな顔して」

ジョルジュは指先を目尻に当てるとキュっと吊り上げて見せた。相当にテオドールが怒り狂っている事を示していた。

――そうよねぇ…無理矢理お父様の所に行けって追い払ったし怒ってるわよね――

あの時、テオドールがあと30分、いや15分でもいれば状況はこうなっていなかっただろう。テオドールはいつもやって来るけれど、あの時はクロードと約束があるのに何故かシャルロットの側に居たがったのだ。

テオドールは怒ってるだろうな、そうだよねと1人ウンウンと考えるシャルロットにジョルジュはちょっと笑って答えた。


「私がコンタクトを取りますね」
「え?視力悪くないですし…落としてませんし‥」
「は?」

――ハッ!!そっちのコンタクトじゃなかった!――

「良かったわね。テオドールって貴女の恋人?」
「恋人ってわけじゃ‥‥婚約者っていうか…」
「婚約者?!きゃぁ♡読んだの!読んだのよ!婚約者を探して森の中で見つけるお話!待ってて、読ませてあげる!」

サンドリヨンは空気を読まない。読む必要もない。読むのは本なのである。
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