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第39話 それでも父親?!
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トレッドの実家に両親に強制的に連れていかれて4日目。
「チョロいもんだぜ。ユーミル、お前もなかなか人を見る目ってのがあるじゃないか」
「う、うん」
「ダリム伯爵家から使いはまだ来ねぇのか?」
「それがまだなの。何をぐずぐずしてるのかしらね」
「チッ。時間稼ぎしてユーミルが孕んでないかを確認しようって魂胆か…」
クチャクチャと口の中に放り込んだ食べ物を咀嚼する音をさせるし、咀嚼しながら話すのでその辺にいろいろと飛んでくるし。
父親と一緒に食事をすると食欲が失せてしまうユーミルは手に持ったパンには被害が無いようにと少しづつ千切りながら口に放り込んだ。
「仕方ねぇな」
父親の言葉にユーミルは僅かな期待をした。
妊娠などしていないのだから、嘘は3、4か月でバレてしまう。
トレッドの祖母は頭の固い人とトレッドも言っていたし、アイリーは言及しなかったが「祖母」とワードを口にしただけで緊張しているのが見て判った。
家が、家名が、先祖がと口にする人は面倒でしかない。
頭はガッチガチに凝り固まっていて自論への批判的な意見は一切受け付けない。例えそれが批判ではなく祖母が間違っているとしても、自分の意見に異を唱える者には容赦なく口撃をしてくる。
トレッドの事をイイナと思ったことはあったけれど、財産はそこそこあっても面倒な老害付き。実権を祖母が握っているので結婚をしても下手をすればあと20年は自由に遊ぶことも買い物もできない。
20年ならユーミルもアイリーも40歳近くになってしまう。
ユーミルの思う女性のゴールデンタイムを修道女のように生きるのはごめんだ。
何より男爵家。今は本心を知ってしまい清廉潔白を装ったクズだと思っているが知らなかった時は心でケチと叫んでも倹約家と言い換えていたし、ユーミルなりに気を使っていた。
今となっては「ちょっと(色々と)やり過ぎた」感は否めないけれど、それでも嫌なら嫌と言ってくれれば生涯で使い切れない資産を持っているんだからユーミルだってもっといい女を装ったのに。
だがその縁談も実は父親がゴネにゴネて振り払っても走っても頭の上を飛び回るユスリカの蚊柱のように男爵家に纏わりついた産物に過ぎなかった。
クチャクチャと口に放り込んだパンを朝からワインで流し込む父を見ると目が合った。
(仕方ないって事は諦めてくれるのかしら)
ユーミルの僅かな期待はいとも簡単に断ち切られた。
「ユーミル、月のものが終わったばかりだろ。今が良い時期だ。誰でもいい。数打ちゃ当たるって言うじゃねぇか。3、4日はいろんな男と寝て種を貰ってこい。いいか?絶対に孕むんだ。2、3か月なら誤魔化しも出来るだろ。それと毛色の似た奴にしとけよ?」
(出来るわけないでしょう?!)
「それでも父親なの?!娘なのよ?私はお父様の娘なのよ?!」
「それがどうした。最高の縁談をブチ壊したバカ娘に、ランクは落ちるが次の嫁ぎ先も用意してやろうって崇高な親心も判んねぇのか?お前のせいで男爵家に金も払わなきゃいけねぇんだ。ウチには叩いたって埃もねぇんだからダリム伯爵家から金を引っ張るしかねぇだろう!そのくらい飯を食うより当たり前に考えろ。馬鹿が」
頼みの綱と思って母親を見たら目も合わせてくれず、ナフキンで口元を吹くとユーミルのいる方向だけを見た。
「なら、数日は食事の用意も不要ね。帰っては来られないでしょうし」
「お母様っ!お母様まで私にそんな事を言うの?!」
「何を言ってるの。今までは自分から率先してそうしてたじゃない。公認してあげたのにどうしてキレてるの?頭がおかしいんじゃないの?」
ユーミルは手にしていたパンを落としてしまった。
殺伐とした空気になった食事室に存在感を消していた兄の声が聞こえた。
「御馳走様。俺、暫く仕事で帰れないから」
ユーミルの兄は朝食を終えるとそれだけを言い残し、席を立った。
男爵家が縁切りを言って来て兄は家族の誰とも口を利かなくなった。一方的に「おはよう」「御馳走様」「おやすみ」など単発の言葉を口にするだけで誰に向かって言ってるのでもない。
怒ってるな~と思ったのでユーミルは話しかけることも出来なかったが食事室を出て行く兄を追いかけようにも父親に「いいか?よく聞け」と着席を求められ椅子に座り直すしか術が無かった。
「チョロいもんだぜ。ユーミル、お前もなかなか人を見る目ってのがあるじゃないか」
「う、うん」
「ダリム伯爵家から使いはまだ来ねぇのか?」
「それがまだなの。何をぐずぐずしてるのかしらね」
「チッ。時間稼ぎしてユーミルが孕んでないかを確認しようって魂胆か…」
クチャクチャと口の中に放り込んだ食べ物を咀嚼する音をさせるし、咀嚼しながら話すのでその辺にいろいろと飛んでくるし。
父親と一緒に食事をすると食欲が失せてしまうユーミルは手に持ったパンには被害が無いようにと少しづつ千切りながら口に放り込んだ。
「仕方ねぇな」
父親の言葉にユーミルは僅かな期待をした。
妊娠などしていないのだから、嘘は3、4か月でバレてしまう。
トレッドの祖母は頭の固い人とトレッドも言っていたし、アイリーは言及しなかったが「祖母」とワードを口にしただけで緊張しているのが見て判った。
家が、家名が、先祖がと口にする人は面倒でしかない。
頭はガッチガチに凝り固まっていて自論への批判的な意見は一切受け付けない。例えそれが批判ではなく祖母が間違っているとしても、自分の意見に異を唱える者には容赦なく口撃をしてくる。
トレッドの事をイイナと思ったことはあったけれど、財産はそこそこあっても面倒な老害付き。実権を祖母が握っているので結婚をしても下手をすればあと20年は自由に遊ぶことも買い物もできない。
20年ならユーミルもアイリーも40歳近くになってしまう。
ユーミルの思う女性のゴールデンタイムを修道女のように生きるのはごめんだ。
何より男爵家。今は本心を知ってしまい清廉潔白を装ったクズだと思っているが知らなかった時は心でケチと叫んでも倹約家と言い換えていたし、ユーミルなりに気を使っていた。
今となっては「ちょっと(色々と)やり過ぎた」感は否めないけれど、それでも嫌なら嫌と言ってくれれば生涯で使い切れない資産を持っているんだからユーミルだってもっといい女を装ったのに。
だがその縁談も実は父親がゴネにゴネて振り払っても走っても頭の上を飛び回るユスリカの蚊柱のように男爵家に纏わりついた産物に過ぎなかった。
クチャクチャと口に放り込んだパンを朝からワインで流し込む父を見ると目が合った。
(仕方ないって事は諦めてくれるのかしら)
ユーミルの僅かな期待はいとも簡単に断ち切られた。
「ユーミル、月のものが終わったばかりだろ。今が良い時期だ。誰でもいい。数打ちゃ当たるって言うじゃねぇか。3、4日はいろんな男と寝て種を貰ってこい。いいか?絶対に孕むんだ。2、3か月なら誤魔化しも出来るだろ。それと毛色の似た奴にしとけよ?」
(出来るわけないでしょう?!)
「それでも父親なの?!娘なのよ?私はお父様の娘なのよ?!」
「それがどうした。最高の縁談をブチ壊したバカ娘に、ランクは落ちるが次の嫁ぎ先も用意してやろうって崇高な親心も判んねぇのか?お前のせいで男爵家に金も払わなきゃいけねぇんだ。ウチには叩いたって埃もねぇんだからダリム伯爵家から金を引っ張るしかねぇだろう!そのくらい飯を食うより当たり前に考えろ。馬鹿が」
頼みの綱と思って母親を見たら目も合わせてくれず、ナフキンで口元を吹くとユーミルのいる方向だけを見た。
「なら、数日は食事の用意も不要ね。帰っては来られないでしょうし」
「お母様っ!お母様まで私にそんな事を言うの?!」
「何を言ってるの。今までは自分から率先してそうしてたじゃない。公認してあげたのにどうしてキレてるの?頭がおかしいんじゃないの?」
ユーミルは手にしていたパンを落としてしまった。
殺伐とした空気になった食事室に存在感を消していた兄の声が聞こえた。
「御馳走様。俺、暫く仕事で帰れないから」
ユーミルの兄は朝食を終えるとそれだけを言い残し、席を立った。
男爵家が縁切りを言って来て兄は家族の誰とも口を利かなくなった。一方的に「おはよう」「御馳走様」「おやすみ」など単発の言葉を口にするだけで誰に向かって言ってるのでもない。
怒ってるな~と思ったのでユーミルは話しかけることも出来なかったが食事室を出て行く兄を追いかけようにも父親に「いいか?よく聞け」と着席を求められ椅子に座り直すしか術が無かった。
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