最後まで演じましょう

cyaru

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第44話  いいえ、副業です②―②

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街に空き店舗が1軒もないなんてあり得ない。
出来れば昔、出来合い物をなどを販売していた空き店舗が望ましい。

調理器具が無ければフライパンや鍋、日常で使っている大きさなので最初だけ持って行って置いておけばいい。

その店舗で道行く人の前で肉や魚を調理する。
肉や魚は街で販売をしているものを使う。出来れば精肉店や魚屋の近くにある店舗が望ましい。
同じものがこんなに簡単に美味しく作れるとなれば、そちらで食材を買い求めるからである。

「実演販売と言っても売るのは調味料です。焼いた肉、煮た魚は全部試食で食べて貰うんです」
「そんな事をしたら赤字になっちゃう」
「だからこそ!このスープ!飲んでみてください」

スタッフたちはスープの容器を手に取ると1口飲んだ。

「あ、味が…ショウガ味?」

全員がパンジーを見る。

「う、うん。今日から…あ、あの美味しくないって人は言って?いつもの――」
「美味しい!!もっと欲しいわ」
「私も絶対もう1杯飲みたくなるっ!」

スタッフの反応にアイリーは「うんうん」自分の手柄のように誇らしげに頷いた。

「そっか、アイリーさんはショウガを売ろうとしてるのね」

チッチッチ!アイリーはビシっと立てた指を小さく左右に振った。

「このスープはパンジーさんのうっかりから出来上がった至高の逸品です。ショウガを入れれば美味しくなるのは解ったと思うんですけども、ベースのスープも大事、じゃぁショウガ以外に何が入っている?どれくらいの割合で入ってる?となると同じ味はパンジーさんのお父様以外は再現出来ないんです」

「じゃぁどうするというの?」スタッフたちは首を傾げた。

「私は薬師です。ショウガの効能なども知っていますし他の植物なども知っています。薬って全員には同じ効果が同じように出ないんです。解熱薬にしてもあっという間に汗が噴き出て熱が下がる人もいれば、ゆっくり下がる人。解熱と言う効果が多くの人に見られるだけなんです。調味料もそれと同じ。多くの人に美味しいと思って貰えるものを調合します。調合したものを肉に振りかけて貰って焼く、魚を煮る、スープに混ぜて貰う、それだけでいつもと違う味を楽しんでもらうんです」

「なるほど。私たちはアイリーさんの調味料を使って肉を焼けばいいのね?」
「それを切り分けてその辺の人に食べて貰って、気に入ってもらったらこの調味料を使うだけって買って貰えばいいって事ね?」
「そう言う事です。調味料なら200人分でも1人が持てない量ではないので売る量を運べます。さらに”何が入ってるんだろう”って考えても直ぐに全ての材料は判らない配合にします。真似てくれればくれるほど売り上げも見込めます。だって1回分の梱包にしますから」

スタッフは「ほぅ!!」感嘆の声を上げたが、アイリーの構想はここで終わらない。

「でも、母の味とか家庭の味とかあるじゃないですか」
「うん。あるある。卵焼きとか何故か母さんが焼くと美味しいのよ」
「そう!その味を壊さないけど、ちょっとお手伝い。セージのみ、バジルのみ、って粉末も売るんです。肉を焼く時、使いますよね?」
「使う、使う!欠かせないもん」
「でも付け合わせのようなものは買い忘れちゃうこともあるし、ローリエの葉とか1枚でいいのに買う時は10枚。余っちゃいませんか?」
「そうなのよ!かと言って毎日は使わないから次に使う時はぱりぱりになって使えないの!」

アイリーも父親と交代、時に一緒に料理をしていた事を思い出した。
買い直せば済むけど買う時からこんなに要らない、アイリーは料理で余っても薬として使ったけれど、一般の人はそうではない。日頃から感じていたお悩みもこれで解消できると考えた。

粉末状にした物に抵抗があるなら、今まで通りの買い物をすればいいだけ。
消費者にも選択肢が出来るし、1回分の梱包でも薄味が良いなら2回分や2人分と分ければいい。


「単品も売ればかなり広くカバーできるわね」
「はい、そこでです。領地にある物を基本は使いますが街でローリエとかクレソンとか扱う店は気分悪いでしょうからその店からも徐々に買い取りを増やしたいと思います」
「共存って事ね?ライバル店だけどお得意さんになる?」
「そうです」
「なんだか、転職しちゃくなっちゃった。面白そうだし本職にしようかな」
「いいえ、副業です。あくまでも副業ですよ?」

アイリーの頼みをスタッフは全員が快く引き受けてくれた。
ジョージも薬を作るだけでなく、調味料にも技術が転用できることに目を丸くして驚いた。

確かにアイリーのプランはちょっとしたことだが…。

「無理はしないでくれよ?金は…何とかする」
「大丈夫です。これも恋人の内助の功!MAX夫人も舌を打ちます」
「それを言うなら舌を巻くだが…うん。打つかもな?」
「ですよね。えへへ♡‥‥ハッ!!」

ジョージと向き合ってぼそぼそと話していたが、気が付けばスタッフ全員の生温かい視線が向けられていた。

「あ、暑いな…」
「そうですね…鉄板の上でコンガリッチですね」

恥ずかしさから2人は真っ赤になってしまった。
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