戦場の悪魔将校の妻は今日も微笑む

cyaru

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VOL:2  計画の練り直し

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シンシアが17歳、レティシアが14歳の時にそれぞれ婚約者が出来た。

正確にはブレキ伯爵家が嫡男ウィンストンの妻にとシンシアを指名してきたため、姉に婚約者が出来て妹のレティシアに婚約者がいないのは可哀想だと金にモノを言わせてフォン公爵家の3男ケインとレティシアを婚約させた。


ウィンストンは近衛騎士団に所属する騎士で、誰もが思わず二度見してしまうような美丈夫。すらりと背も高く夜会ではファーストダンスの後に踊って貰おうとウィンストンが「客」として参加する夜会の招待状は争奪戦になるほどだったが、婚約者がいなかったのはブレキ伯爵家が極貧貴族だったからである。

「恋愛と結婚は別」世の令嬢達は世間をよく見ている。

美丈夫なウィンストンとのダンスは令嬢にとって独身時代のよき思い出作りだった。


レティシアの婚約者であるケインは公爵家という肩書が無ければパッとしない男で、体形も父親に似てずんぐりむっくり。ケインに婚約者がいなかったのはひとえに「重度のマザコン」が知れ渡っていたからでもある。ただ腐っても公爵家。特にケインは公爵夫妻が40代になってから出来た子供と言う事もあり、ただただ甘やかされて育っていて、ケインが頼めば船でも別荘でもポンと買い与えていた。

ケインが結婚すれば嫡男に家督を譲り、ケイン夫婦と共に暮らす事を明言していた公爵夫妻。

「金のある3男と結婚してもジジババ付きなんて絶対に嫌」こちらも世の令嬢は世間をよく見ていた。デヴュタント前だとは言っても同年代の令嬢との茶会は良く出席をしていたレティシア。


正直な気持ちとして、相手がケインだと聞いた時は心底がっかりした。
噂話は本当で、2人で庭でも見ておいでという声にケインは明らかな「ガッカリ感」を表した。


「ケイン様、参りましょう?」
「いいんだけどさぁ」

渋々と歩き出したケインだったが、突然足を止めた。


「43番目」
「43番?その数字は何なのです?」
「君のことさ、僕の婚約者になりたいって言ってきた令嬢の43番目。ママが僕を産んだ年齢と同じだから君でいいや」
「は?」
「頭悪いの?結婚相手は君で我慢してやるって言ってるんだよ」

――我慢?何の事?こっちがアンタで我慢してやるんだから!――


ビキビキとこめかみが音を立てるレティシアを嘲笑うかのようにケインは「さも!」とばかりに続けた。


「結婚しても気楽に過ごしていいよ。欲しいものは何でも買えばいいし、観たい歌劇があれば席の手配もする。君に望む事は不貞など余計な揉め事の原因を作るような事はしない事と、僕のする事に口出しはしない事。守れるなら制約の多い王家のお姫様なんかよりずっと贅沢な暮らしが出来る」

「口出しするなって事は貴方は他の女性と不適切な関係になっても知らんぷりをしろと言う事?」

「女性?アハハ。これだから頭の悪い令嬢は嫌いなんだよ」

「頭が悪いですって?なんて酷い事言うの!」

「酷いことを言ってるのは君だよ?僕が下賤な女どもと何かあるなんて想像しているからこその言葉なんだろう?それこそまさに頭の悪い発想だよ。尤も?そんな事ばかり考えているから真っ先に口から言葉が飛び出すんだろうけどね」

「な、なによ…」

「教えてあげるよ、僕にとって女性と言うのは母上だけだ。後はネズミであろうと蝙蝠であろうとメスはメス。僕は崇高な人間だ。判る?生まれた場所からして選ばれた側なんだよ。動物を愛玩する事はあっても交尾する事はない。口出しをするなと言うのはまさに今の君のような頭の悪い女が次に言いだしそうな「お義母様が酷いの」「ねぇ、私とどっちが大事なの?」なんていうくだらない論争をしたくないから先に言っておくだけさ」

「くだらない論争って!!」

「くだらないよ。君と母上どっちが大事かなんて母上に決まってるだろう?母上が僕を産んでくれたんだから。妻は替えが利くけど母親の替えは利かないからね。結婚したら兄上に爵位を譲って父上、母上と一緒に住むんだ。母上の機嫌を悪くするような言動にはくれぐれも注意をする事だ。命は誰だって1つしかないからね。大事にしたかったら素直に従う事だよ」


そう言うとケインはまだ「2人で散策していらっしゃい」と送り出されて10分も経っていないのに両親が待つテーブルのある方向に向かって歩き出した。

レティシアに出来る事は思いっきり舌を出してケインの背中に「べぇぇぇだ!」っとする事だけだった。



★~★

レティシアは見た目で明らかに劣っているケインとの顔合わせの後、両親に聞いた。


「私もお姉様のお相手のような方が良かったなぁ」
「何を言ってるの。これで我が家も安泰なのよ?」
「そうだ。後はレティが20歳になってケイン君が婿入りをするのを待つだけだ」
「え?そんな事言ってなかったわよ?ケイン様が結婚したらお義兄様に家督を譲ってケイン様と公爵様と奥様が一緒に住むって言ってたわよ?」
「そんなバカな。じゃぁ誰がエバブ伯爵家を継ぐんだ?!」
「そんな事知らないわよ。ねぇ…私、もっとイケメンな人がいいっ。ブサイクな癖に偉そうな俺様気どり!私、あんな人やだぁ~」


エバブ伯爵は頭を抱えた。3男であれば通常は婿養子に出すものだ。
だからスペアとなる可能性のある次男より3男を探し、運よく大物である公爵家のケインとの縁を結んだと言うのにこれではただ「ババ」を引かされただけだ。


――まさかまだ親離れしていないのと言うのは本当だったのか?――
――ん?親離れ?一緒に住むって事は子離れもしていないのか?――


エバブ伯爵は計画の練り直しを余儀なくされた。
貴族にとって子女は「駒」でしかない。
ちらりとレティシアを見れば頬を膨らませてご機嫌斜め。

ふむ。考え込んだエバブ伯爵。
幸いにしてレティシアは「賢くない」ため扱いやすい・・・。
エバブ伯爵はパッと閃くと薄っすらと笑みを浮かべてレティシアの頭を撫でた。


「そうだね。でも今更ケイン君を嫌だと言いだせば大変な事になる。判るね?」
「そ、それは判るけど…」
「見た目が嫌なら目を閉じていればいい。そうすればなんだって買ってもらえるんだ」
「でもなぁ…目を閉じてればッて…口も臭いんだよ?」
「彼の方を視ずに宝石を見ていればいいんだよ。頃合いを見てちゃんと相手を見つけてあげるよ」
「やった!約束よ。お父様っ」


父の言葉にレティシアは飛び上がって喜んだ。
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