婚約破棄になったのは貴方が最愛を選んだからです。

cyaru

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VOL.7  エマとレオン

時は少し戻り、サシャリィが去ったルーベス侯爵家でエマは心が躍った。


自身の立ち位置は判り過ぎるほどに理解はしていた。
母親と結婚をしたジェームズが養子縁組をしてくれない限りエマは貴族にはなれない。
エマはそう考えていた。

エマの母親は「しっかり勉強をして皆に認められるようになれば養子に迎えてくれる」とエマに言った。





そもそもで、ジェームズはエマの母親を娶る際にエマの母親が平民であったために貴族籍を捨てたのだ。姉妹弟で仲が良かったため、レジーナとアンジーはジェームズを案じ手を貸してきた。

もし、サシャリィの母親であるレジーナがアガントス伯爵と結婚をしていなければ、アンジーの子供やエマが学園に通えるという奇跡は起きなかった。

アンジーはレジーナがアガントス伯爵家に嫁いだ後、ジェームズとどちらが実家を継ぐか話し合いをした。人との付き合いが苦手なジェームズは領地を統括し、アンジーが女当主となり婿を取った。

その時点ではジェームズもまだ貴族だったのだが、結婚をしたいと思ったのがエマの母親だった。

レジーナは弟のジェームズが結婚をした事で平民となったが、それを負い目に思わないようにとアンジーに領主としての役目を続けさせるように手配をした。


平民になったジェームズは気にするなとエマの母親に言ったが、自分と結婚をしたせいでと負担に感じたエマの母親はせめてエマには真っ当に、曲がった道に行かぬようにと厳しく躾けた。

エマが進学できる年齢になった時、アンジーはレジーナに話をした。

学園は平民でも金さえ払えば通う事は出来る。
但し、何かあった時の為に保証人として貴族が2家以上の保険が必要になる。

レジーナはアガントス伯爵家の教えを守って一族ではないが縁のあった子供だからとエマを学園に通わせる事にしたのだ。




王都にやってきたエマは厳しく躾けられており、自主的に何かをするような娘ではなかった。だが親元を離れ開放感もあったのだろう。1年もすると学友たちと騎士団の見学に出向くようになった。

そこで出会ったのがレオンだった。


騎士達の中で一番美丈夫で、立場も侯爵家嫡男。
雲の上の存在だと思っていたが、レオンの方からエマに話しかけてきた。

当時のレオンは毎日日替わりで色々な令嬢と夜な夜な遊びまわる恋多き騎士。争奪戦も激しかったがレオンがエマを特別にしてくれることにエマは舞い上がってしまい純潔も捧げた。

レオンとの子供を2回授かったがレオンは「子供を産むならもう会えない」と言い、エマはアンジーにはとても相談が出来ず友人から金を借りて授かった子供を堕胎した。

そこまではレオンもエマの事は安価に性的な処理をする女性の中の1人だとしか思っていなかったが、ある日エマに胸がときめいた。

何度か面識も体の関係もあるが、一目惚れに近いものだった。

体調が悪いのに酒を飲み吐いたレオンの後始末をエマが行った。
吐瀉物を受け止め、その日は貸し宿でレオンの世話を甲斐甲斐しく行うエマにレオンは心を奪われた。


「もう帰らないと。叔母様が心配をするから」
「もう少しだけ一緒に居てくれないか」
「うん。判った。少しだけね。でも明日の朝は出来るだけ早く来るから」


会えば性欲処理のために体だけを求めてきたレオンだったがエマはそんな事は求めずに貸し宿でただレオンの側に付いて世話をした。


吐瀉物で汚れた衣類を部屋の外に出て井戸で洗い、部屋の中に丁寧に干す。そんな後姿を見てレオンは「こういうのが幸せなんだろうな」と独り言ちた。


「エマとの子供。可愛いだろうな」


何の気のないレオンの一言にエマは驚いた。

――貴方の子供は2回も堕胎しているのに何を言うの?――

残念な事にレオンのそんな非道な振る舞いを受けたのはエマだけではない。レオンにしてみれば月に数回は訴え出てくる令嬢がいて日常茶飯事に近かった。

表沙汰にならなかったのはその令嬢達も相手をしたのがレオンだけではなく「あわよくば」を狙ってレオンに打ち明けただけだから。つまりはエマと体の関係がある事は認識していてもその後に起こった事象については、いちいち覚えているような事でもないという事だ。


「レオンには婚約者がいるのよね…卒業したらもう会えなくなるわ」

エマは寝台で体が繋がったまま欲望を体内に受け止めレオンの胸に倒れ掛かった。まだ荒い息のままレオンはエマを抱きしめ、体を反転させるといじらしいエマにまた欲望が頭をもたげまた腰を振り始めた。

何度目かの精を吐き出した後、レオンはエマにプロポーズをした。


「結婚してくれないか。エマしか考えられないんだ」
「無理よ‥‥レオンには婚約者がいるし…」
「婚約は解消してもらう。サシャリィもその程度の潔さは持ってるはずだ」
「え・・・サシャリィって…アガントス伯爵家の?」
「そうだが?」


エマは初めてその時にレオンの婚約者がアガントス伯爵家のサシャリィである事を知った。同時に今の立場を考えると背筋が寒くなる。

こんな関係がバレてしまえば必死に具合が悪い時も叔母に隠し通してきたのに学園は退学させられて田舎に送り返されてしまう。また母親の厳しい躾けを受ける毎日に戻ってしまう事が怖かった。

その他大勢に紛れているから、今もレオンの特定の相手がエマだとは誰にもバレてはいない。レオンも行っている事に背徳感は感じるのか特定の令嬢に咎が及ばないように体を繋げるのはここ1年エマだけだとしても、八方美人のような振る舞いは続けていた。

エマはアガントス伯爵家のサシャリィは会合で遠目に見た事があっても話をした事はない。アガントス伯爵家が開催する食事会の末席にアンジーとその家族と出席するだけだ。

アンジーですら末席で主催者と言えど全員と挨拶をするわけではないアガントス伯爵。
所謂本家筋のサシャリィとは全てにおいて距離があり過ぎたのだ。


エマはレオンに1つ嘘を吐いた。


「実は…サシャリィとは従姉妹同士なの」
「嘘だろ?!」
「本当よ。サシャリィの母親と私の父親は姉弟なの」
「本当なのか‥‥参ったな…」


嘘を吐いたのは算段があったからに過ぎない。
学園の成績はよく言えば上の下、悪く言っても中の上。これだけの成績を残せばジェームズも養子縁組をしてくれるだろうから、娘になるのは間違いがない。

ジェームズの娘として養子縁組をしてもらえればエマ自身にも貴族籍が出来る。
エマはジェームズに未だに2人の姉から支援があるのはジェームズには貴族籍があるからだと考え、それが単に姉妹弟愛から来るものだとの考えに及びもしなかった。



サシャリィに婚約の解消を告げるレオンの言葉を噛み締める。
去って行くサシャリィの背中に「奪ったわけじゃないの」と心で声を掛けた。

サシャリィには申し訳ないと思いながらも、レオンに選ばれた事で侯爵夫人となる事が現実味を帯びてきた。記憶の片隅にしかない酒を飲んで母を殴る男の元から大出世じゃないかと自分を褒め称えた。


「後で迎えに行く。両親に彼女の事とエマの事を話して許しを貰って‥‥花束を持って迎えに行くよ」

陽の当たるテラスでエマはレオンに強く抱きしめられ、レオンの腕の温かさを感じながらエマは帰路を急いだのだった。
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