5 / 63
第05話 渡りに船な結婚話
昼間だというのに窓を開けていると奇妙な雄叫びが聞こえる。時に遠吠えにも聞こえるがティニャは気にせずソファテーブルしかない部屋なので、床にクッションを置いて座り書類の山と格闘をしていた。
「やってもやっても終わらないわ。ハリスン。はい、これ」
赤いインクでチェックを終えた書類を隣で並んで書類と格闘する助手のハリスンにはい、はいと流していく。
「お嬢様、これもですか」
「そうよ」
「12ルピくらい良いじゃないですか」
「馬鹿言ってんじゃないわ。12ルピじゃ確かにパンも買えないけど、10回、100回と重なってみたらどれだけの損失になると思ってるの?こっちが損するのはまだいいけど、貰い過ぎな場合は信用問題よ?」
「解ってるんですけどぉ…お嬢様、細かいんだもん。私生活は大雑把な癖にぃ」
「後半は余計よ。口を縫い付けられたいの?」
ハリスンは手で口を覆ってブンブンと首を横に振った。
ティニャは17歳という若さだが、既に事業主でもある。
育ててくれた母の従兄は幼いころからいろいろと教えてくれた。
子供だからこそ相手が無防備になって知られては困る大人の汚い部分も見せてくれる。
賄賂であったり、虐めであったり、店の商品をくすねてみたり。
『いいかい?ティニャ。真似をしろと言ってるんじゃない。彼らの愚行がまかり通っている事をティニャがどう思うか。どうしたいか、どうすればいいのか。考えるんだよ』
そう言って末端であり、最前線の仕事を経験させてくれた。
14歳の時に、コツコツと貯めた金で始めたのは飲食店相手に下処理をした食材を卸す商会。
タケノコなどは掘った当日は直ぐに調理が出来るが、時間が経つとアク抜きが必要になる。
王都もだが副王都も人口は増加の一途を辿っていて、山を削り、田畑を埋めて住宅地にしたので当日採れのタケノコはほぼ手に入らない。
魚も鱗を取り、3枚に下ろしたり、ヒラキにしたりで塩に浸け水洗いの後に天日干し。
ジャガイモに限らず山芋や里芋も皮むきをしたり。
飲食店には直ぐ調理できる食材を配達する事業である。
これが意外に重宝されて1軒当たりの売り上げは1日1万ルピも無いけれど、今では副王都では飲食店の80%、貴族の家の厨房にも下処理済の食材を配達するようになっていたし、一般の平民にも買いに来てもらうスタイルになるが、下処理後で、これから調理をしてね?という食材を販売したら大当たりだった。
あるようで無かったサービス。
下処理はどこも手間がかかるだけ。その為に人を雇えば赤字になるし、かといって手を抜くことは出来ないし、下処理をする時間で他の事をしたいし。
幼いころから色々な商会に「小さなお手伝い」として出向いて小遣い程度の賃金で色んな商売の裏側を見てきたティニャはある主婦の言葉でこの商売をしようと決めた。
『お金払っても良いからやって欲しいけど、払える金額じゃ誰もやってくれないし』
なら、払う気はあるのだから払える金額まで単価を下げる努力をすればいいだけ。
飲食店相手にしている時は正直赤字で、今は完済したが未成年のティニャに金融商会も金を貸してくれず叔父夫婦に資金を借りた事もあったが、貴族の家に卸し始めると勤める使用人の口コミであっという間に広まり、ティニャと最初に雇い入れた5人ではとても手が回らず従業員を募集。
賃金として払える額も最低賃金だったし、支払いも日払いでその日の出来高となれば来てくれたのは貧民層の人間だけ。
彼らが仕事があるとないは大違いだし、出来高でも折角雇ってもらったんだからクビになってたまるかと皆が頑張ってくれたおかげで今は副王都で貧民層を中心にした従業員350人を抱える商会になった。
勿論売り上げが伸びると同時に賃金もUPし、募集をした時に鼻で笑った者達は地団太を踏んだ。
王都にも営業所を出したのが半年前。
この結婚をステールス伯爵に言われた頃で、ならばと出店を決意した。
それよりも前から王都への進出は考えていたけれど、王都出身の従業員でチームを作り番頭代わりのハリスンが指揮をとって小さな営業所をOPENさせた。
副王都ほどではないが「話を聞きたい」と声を掛けてくれる飲食店や貴族の家はティニャが王都に到着した日には300軒を超えている。
ロバートに養って貰う必要はないし、この屋敷を当面の事務所にも出来るので今まで借りていた事務所も解約し経費削減が出来た。
事業は邪魔されたくないし、離縁後に寄生されるのも真っ平ごめん。
父親を考えれば結婚に夢だのなんだのと持つ気にもなれないのでこの話はティニャにとっても渡りに船だった。
「そうそう。手配、してくれた?」
「あぁ、大工ですね。勿論。材料の手配が出来次第と言っていたので明日、明後日には工事になると思いますよ」
「そう。じゃぁダミー私兵のトツ君とゲキ君には持ち場に戻ってもらわなきゃね」
「僕が言っておきますよ。まさかあんな屈強なガタイの男2人が鶏肉の検品係とは誰も思わないでしょうね」
「しかも現物支給が良いなんて。王都って変わった人が多いわね」
「違いますよ。マッチョメンに鶏肉は必要不可欠なんです」
「やってもやっても終わらないわ。ハリスン。はい、これ」
赤いインクでチェックを終えた書類を隣で並んで書類と格闘する助手のハリスンにはい、はいと流していく。
「お嬢様、これもですか」
「そうよ」
「12ルピくらい良いじゃないですか」
「馬鹿言ってんじゃないわ。12ルピじゃ確かにパンも買えないけど、10回、100回と重なってみたらどれだけの損失になると思ってるの?こっちが損するのはまだいいけど、貰い過ぎな場合は信用問題よ?」
「解ってるんですけどぉ…お嬢様、細かいんだもん。私生活は大雑把な癖にぃ」
「後半は余計よ。口を縫い付けられたいの?」
ハリスンは手で口を覆ってブンブンと首を横に振った。
ティニャは17歳という若さだが、既に事業主でもある。
育ててくれた母の従兄は幼いころからいろいろと教えてくれた。
子供だからこそ相手が無防備になって知られては困る大人の汚い部分も見せてくれる。
賄賂であったり、虐めであったり、店の商品をくすねてみたり。
『いいかい?ティニャ。真似をしろと言ってるんじゃない。彼らの愚行がまかり通っている事をティニャがどう思うか。どうしたいか、どうすればいいのか。考えるんだよ』
そう言って末端であり、最前線の仕事を経験させてくれた。
14歳の時に、コツコツと貯めた金で始めたのは飲食店相手に下処理をした食材を卸す商会。
タケノコなどは掘った当日は直ぐに調理が出来るが、時間が経つとアク抜きが必要になる。
王都もだが副王都も人口は増加の一途を辿っていて、山を削り、田畑を埋めて住宅地にしたので当日採れのタケノコはほぼ手に入らない。
魚も鱗を取り、3枚に下ろしたり、ヒラキにしたりで塩に浸け水洗いの後に天日干し。
ジャガイモに限らず山芋や里芋も皮むきをしたり。
飲食店には直ぐ調理できる食材を配達する事業である。
これが意外に重宝されて1軒当たりの売り上げは1日1万ルピも無いけれど、今では副王都では飲食店の80%、貴族の家の厨房にも下処理済の食材を配達するようになっていたし、一般の平民にも買いに来てもらうスタイルになるが、下処理後で、これから調理をしてね?という食材を販売したら大当たりだった。
あるようで無かったサービス。
下処理はどこも手間がかかるだけ。その為に人を雇えば赤字になるし、かといって手を抜くことは出来ないし、下処理をする時間で他の事をしたいし。
幼いころから色々な商会に「小さなお手伝い」として出向いて小遣い程度の賃金で色んな商売の裏側を見てきたティニャはある主婦の言葉でこの商売をしようと決めた。
『お金払っても良いからやって欲しいけど、払える金額じゃ誰もやってくれないし』
なら、払う気はあるのだから払える金額まで単価を下げる努力をすればいいだけ。
飲食店相手にしている時は正直赤字で、今は完済したが未成年のティニャに金融商会も金を貸してくれず叔父夫婦に資金を借りた事もあったが、貴族の家に卸し始めると勤める使用人の口コミであっという間に広まり、ティニャと最初に雇い入れた5人ではとても手が回らず従業員を募集。
賃金として払える額も最低賃金だったし、支払いも日払いでその日の出来高となれば来てくれたのは貧民層の人間だけ。
彼らが仕事があるとないは大違いだし、出来高でも折角雇ってもらったんだからクビになってたまるかと皆が頑張ってくれたおかげで今は副王都で貧民層を中心にした従業員350人を抱える商会になった。
勿論売り上げが伸びると同時に賃金もUPし、募集をした時に鼻で笑った者達は地団太を踏んだ。
王都にも営業所を出したのが半年前。
この結婚をステールス伯爵に言われた頃で、ならばと出店を決意した。
それよりも前から王都への進出は考えていたけれど、王都出身の従業員でチームを作り番頭代わりのハリスンが指揮をとって小さな営業所をOPENさせた。
副王都ほどではないが「話を聞きたい」と声を掛けてくれる飲食店や貴族の家はティニャが王都に到着した日には300軒を超えている。
ロバートに養って貰う必要はないし、この屋敷を当面の事務所にも出来るので今まで借りていた事務所も解約し経費削減が出来た。
事業は邪魔されたくないし、離縁後に寄生されるのも真っ平ごめん。
父親を考えれば結婚に夢だのなんだのと持つ気にもなれないのでこの話はティニャにとっても渡りに船だった。
「そうそう。手配、してくれた?」
「あぁ、大工ですね。勿論。材料の手配が出来次第と言っていたので明日、明後日には工事になると思いますよ」
「そう。じゃぁダミー私兵のトツ君とゲキ君には持ち場に戻ってもらわなきゃね」
「僕が言っておきますよ。まさかあんな屈強なガタイの男2人が鶏肉の検品係とは誰も思わないでしょうね」
「しかも現物支給が良いなんて。王都って変わった人が多いわね」
「違いますよ。マッチョメンに鶏肉は必要不可欠なんです」
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。
ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。
ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。
対面した婚約者は、
「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」
……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。
「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」
今の私はあなたを愛していません。
気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。
☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。
☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)
婚約者は妹のような幼馴染みを何より大切にしているので、お飾り妻予定な令嬢は幸せになることを諦めた……はずでした。
待鳥園子
恋愛
伯爵令嬢アイリーンの婚約者であるセシルの隣には『妹のような幼馴染み』愛らしい容姿のデイジーが居て、身分差で結婚出来ない二人が結ばれるためのお飾り妻にされてしまうことが耐えられなかった。
そして、二人がふざけて婚姻届を書いている光景を見て、アイリーンは自分の我慢が限界に達そうとしているのを感じていた……のだけど!?
文句を言わない婚約者は、俺の愛する幼馴染みを許していなかった【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
幼馴染を優先しても、婚約者アウローラは何も言わない。だから、これからも幼馴染みとイチャイチャできる──
侯爵令息トリスタンは、そんな甘い幻想を信じていた。
だが婿入りした瞬間、彼の“軽んじた態度”はすべて清算される。
アウローラは冷徹に、トリスタンの傲慢と欲望を1つずつ暴き、労働と屈辱を与える。
そして最後に残ったのは、誰にも必要とされない現実だけ。
「どうして……俺は、こんなにも愚かだったんだ」
これは愛を勘違いし、身分を過信し、自分の価値を見誤った男の終焉を描くダークドラマ。
⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。過激ざまぁタグあります。
4/1「エステルに対する殺意」の内容を一部変更しました。
「君が一人で勝手に苦労を背負い込んでいるだけだろう? 僕はそんなこと、頼んでいない」~健気に献身する私に、無神経で残酷な言葉を放つ夫の末路~
水上
恋愛
私は今日も工房の奥で、事業のため、そして何より夫の髪の健康を守るために、特製ヘアオイルを徹夜で調合していた。
しかし翌日、目の下に隈を作った私に対し、夫は完璧な美貌で現れ、「たかが草の汁を煮詰めるくらいで、そんなに悲壮な顔をされては困るよ」と冷たく言い放つ。
私は戸棚の奥にある特製ヘアオイルの小瓶を見つめ、「この瓶が空になるまでに彼が変わらなければ、私はこの家を出よう」と密かに決意する。
ある日、毎日の献身で疲労が蓄積して、私は倒れてしまう。
そして、目覚めた私に夫が放ったのは「君が一人で勝手に苦労を背負い込んでいるだけだろう? 僕はそんなこと、頼んでいない」という無神経で残酷な言葉だった。
カウントダウンは終焉を迎えた。
そして、それは私の成功と、夫の転落の始まりを告げる合図だった……。