密かな企み~☆~お嬢様は静かに過ごしたい

cyaru

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第05話  渡りに船な結婚話

昼間だというのに窓を開けていると奇妙な雄叫びが聞こえる。時に遠吠えにも聞こえるがティニャは気にせずソファテーブルしかない部屋なので、床にクッションを置いて座り書類の山と格闘をしていた。

「やってもやっても終わらないわ。ハリスン。はい、これ」

赤いインクでチェックを終えた書類を隣で並んで書類と格闘する助手のハリスンにはい、はいと流していく。

「お嬢様、これもですか」
「そうよ」
「12ルピくらい良いじゃないですか」
「馬鹿言ってんじゃないわ。12ルピじゃ確かにパンも買えないけど、10回、100回と重なってみたらどれだけの損失になると思ってるの?こっちが損するのはまだいいけど、貰い過ぎな場合は信用問題よ?」
「解ってるんですけどぉ…お嬢様、細かいんだもん。私生活は大雑把な癖にぃ」
「後半は余計よ。口を縫い付けられたいの?」

ハリスンは手で口を覆ってブンブンと首を横に振った。

ティニャは17歳という若さだが、既に事業主でもある。
育ててくれた母の従兄は幼いころからいろいろと教えてくれた。

子供だからこそ相手が無防備になって知られては困る大人の汚い部分も見せてくれる。
賄賂であったり、虐めであったり、店の商品をくすねてみたり。

『いいかい?ティニャ。真似をしろと言ってるんじゃない。彼らの愚行がまかり通っている事をティニャがどう思うか。どうしたいか、どうすればいいのか。考えるんだよ』

そう言って末端であり、最前線の仕事を経験させてくれた。

14歳の時に、コツコツと貯めた金で始めたのは飲食店相手に下処理をした食材を卸す商会。

タケノコなどは掘った当日は直ぐに調理が出来るが、時間が経つとアク抜きが必要になる。
王都もだが副王都も人口は増加の一途を辿っていて、山を削り、田畑を埋めて住宅地にしたので当日採れのタケノコはほぼ手に入らない。

魚も鱗を取り、3枚に下ろしたり、ヒラキにしたりで塩に浸け水洗いの後に天日干し。

ジャガイモに限らず山芋や里芋も皮むきをしたり。

飲食店には直ぐ調理できる食材を配達する事業である。
これが意外に重宝されて1軒当たりの売り上げは1日1万ルピも無いけれど、今では副王都では飲食店の80%、貴族の家の厨房にも下処理済の食材を配達するようになっていたし、一般の平民にも買いに来てもらうスタイルになるが、下処理後で、これから調理をしてね?という食材を販売したら大当たりだった。


あるようで無かったサービス。
下処理はどこも手間がかかるだけ。その為に人を雇えば赤字になるし、かといって手を抜くことは出来ないし、下処理をする時間で他の事をしたいし。

幼いころから色々な商会に「小さなお手伝い」として出向いて小遣い程度の賃金で色んな商売の裏側を見てきたティニャはある主婦の言葉でこの商売をしようと決めた。

『お金払っても良いからやって欲しいけど、払える金額じゃ誰もやってくれないし』

なら、払う気はあるのだから払える金額まで単価を下げる努力をすればいいだけ。
飲食店相手にしている時は正直赤字で、今は完済したが未成年のティニャに金融商会も金を貸してくれず叔父夫婦に資金を借りた事もあったが、貴族の家に卸し始めると勤める使用人の口コミであっという間に広まり、ティニャと最初に雇い入れた5人ではとても手が回らず従業員を募集。

賃金として払える額も最低賃金だったし、支払いも日払いでその日の出来高となれば来てくれたのは貧民層の人間だけ。

彼らが仕事があるとないは大違いだし、出来高でも折角雇ってもらったんだからクビになってたまるかと皆が頑張ってくれたおかげで今は副王都で貧民層を中心にした従業員350人を抱える商会になった。

勿論売り上げが伸びると同時に賃金もUPし、募集をした時に鼻で笑った者達は地団太を踏んだ。

王都にも営業所を出したのが半年前。
この結婚をステールス伯爵に言われた頃で、ならばと出店を決意した。

それよりも前から王都への進出は考えていたけれど、王都出身の従業員でチームを作り番頭代わりのハリスンが指揮をとって小さな営業所をOPENさせた。

副王都ほどではないが「話を聞きたい」と声を掛けてくれる飲食店や貴族の家はティニャが王都に到着した日には300軒を超えている。

ロバートに養って貰う必要はないし、この屋敷を当面の事務所にも出来るので今まで借りていた事務所も解約し経費削減が出来た。
事業は邪魔されたくないし、離縁後に寄生されるのも真っ平ごめん。

父親を考えれば結婚に夢だのなんだのと持つ気にもなれないのでこの話はティニャにとっても渡りに船だった。

「そうそう。手配、してくれた?」
「あぁ、大工ですね。勿論。材料の手配が出来次第と言っていたので明日、明後日には工事になると思いますよ」
「そう。じゃぁダミー私兵のトツ君とゲキ君には持ち場に戻ってもらわなきゃね」
「僕が言っておきますよ。まさかあんな屈強なガタイの男2人が鶏肉の検品係とは誰も思わないでしょうね」
「しかも現物支給が良いなんて。王都って変わった人が多いわね」
「違いますよ。マッチョメンに鶏肉は必要不可欠なんです」
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