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第06話 夫婦に求められているもの
1週間後。
私兵を演じてくれていたトツ君とゲキ君には元の持ち場に復帰するようにと辞令が下りると同時に、金一封も手渡された。
「ウヒョ!良いんですか?1万2千ルピも入ってますよ?!」
「モチのローン!リーチ1発チートイドラドラ、跳満でピョーンよッ!」
思わぬ臨時収入の上、今日はこれで退勤。明日は遅番なのでパンプアップし放題!マッチョな2人は3歩歩いてポージング、2歩下がってポージングを取りながら帰って行った。
魅せるマッチョなトツ君とゲキ君と入れ替わりでやって来たのは、働くマッチョな大工たち。玄関からではなく、小道から逸れて庭に入り、テラスから「こんちゃー」とやって来た。
「ここで良いのかい?」
「えぇ。この廊下を塞いでほしいの」
「廊下を?玄関ホールに行けなくなっちまうぜ?」
大工の疑問も御尤も。
事業をしていると聞いたので、工事をしている間、テラス経由で部屋に入るのは仕方ないにしても立派な玄関、玄関ホールとあるのに何故塞いで行き来を出来なくするのか訳が判らない。
「いいの。いいの。大きなゴキブリが入ってきたりしそうだし事前に対策を講じるのは当然の事よ」
「ゴキブリ?掃除も行き届いている屋敷なのになぁ」
「今はね」
爵位をロバートに譲り、先代が出立して1週間。
そんな短期間で汚れていたら話にならないが、ティニャには数か月後が今から見えるようで「ウゲェ」と顔を顰めた。
「まぁ、俺らは賃さえもらえりゃ仕事はするけどよ。で?どう塞ぐんだ?」
「先ずは…」
ティニャは天井を指さした。
天井までは掃除が完璧とは言えないようで多少埃も見えるけれど問題ない。
「両側が壁の方がいいわ。だからホール側の天井の端から2つ目と3つ目の格子、格子に挟まれた天井板を丁寧に外してくださる?」
「外す?壊すんじゃなくて?」
「そう。外すの。原状回復が基本だから3年後には取り付けてもらうわ。保管はこっちでするから安心して。30cmほど天井に穴が開く格好になるからそこに壁の頂点が少し突き抜けるように壁を作って欲しいの」
「壁の両端はどうする?」
「2cmほど空かしてもらえる?傷が付かないように養生はしっかりとね」
「だが3年となると…色が変わっちまうよ?いいのかい?」
「ここを出る時にはハウスクリーニングをするし…むしろこの壁を境にくっきりと色の違いも出るから多少の事は誰も気が付かないと思うわ」
「でもよ?床。この絨毯の毛足の高さじゃ壁に潰されて元には戻らないと思うぜ」
ティニャは足元を見た。年季を感じさせる絨毯であるのは間違いないが故に、この先の事を考えると壁の向こうの絨毯が勿体ないなと思ってしまう。
が、それはロバートの管理範囲であってティニャの知った事ではない。
「壁を撤去した時に壁の下になる部分は床見切り代わりに高さのない框を設けるわ。さっきも言ったように色の違いがくっきりになると思うから框があればビフォーアフターにしか見えないと思うわ」
「了解だ。よぅし!皆、始めるぞ」
「うぃーっす」
玄関ホールに埃などが舞わないように麻で編んだシートを複数枚カーテンのように垂らし、工事が始まった。
使用人たちもロバートとティニャが結婚はしたけれど紙切れ結婚で夫婦としては行動をしない事は先代から伝えられていたので「ホントに紙切れ結婚なんだ?」と興味津々。
「小説みたいに次第に仲良くなるとかないんだぁ」
「現実は違うってことよ」
「そっかぁ」
使用人たちのお喋りをよそに天井の格子と天井板が取り外されると天井の内部の魔改造が始まった。
天井の内部、つまり天井裏と呼ばれる部分だが時折大きなゴキブリが出現すると伯父夫婦から聞いていたティニャは完全に入り口を塞ぐためにもう1枚厚さが24mmと超破格な板を取り付ける事にした。
さらにその板は「モエニク草」を煮だした汁に浸けおいて乾かしたもの。
立てかけた板を見たハリスンは「机の天板並みの厚さだな?」と1枚1枚確認しながらティニャに問うた。
「何でこんなものを?」
「先ず、この厚さになると体当たりしても肩が壊れるくらいで板はびくともしないこと。穴をあけようとしても時間が掛かるわね。防犯の為よ。で、モエニク草は火災発生時に延焼する時間を稼げるの」
「火災保険、掛けてますよ?家財保険も加入してますが?」
「火災保険は自分の家屋を補償するものよ。他家に延焼しても補償の対象外。こっちが火元の可能性よりアッチが火元の可能性があるから今から対策するのよ」
ハリスンは「うんうん」と納得し頷いた。
今は金があっても半年後、1年後にロバートが資産を保有している可能性は低い。
天井裏に板を取り付ける作業と廊下を塞ぐ壁の設置は同時進行。
ガガガ!!ドンドン!!カーンカーン!!
如何にも工事中です、そんな音と振動が屋敷を震わせ響き渡った。
「な、なんだ?なんだ?」
「きゃぁぁ。なんなの?床と壁が震えてるし天井から何か降ってくるぅ」
お楽しみ中で素っ裸のロバートとアリッサは動きを止めた。
ロバートはガウンだけを羽織ると廊下に飛び出て音の発生源を突き止めた。
「断りもなく!!何をしてるんだ?」
「へ?壁、作ってんスけど?」
「それは見れば判る!なんで壁を作ってるんだ!」
「依頼があったからっスけど?」
喚くロバートの目の前に職人の1人がティニャから預かった貼り紙を貼った立て看板@可動式を立てた。
【今、夫婦に求められているのは完全な分断】
「ここまでしなくても」
ロバートの呟きは工事の音に搔き消されたのだった。
私兵を演じてくれていたトツ君とゲキ君には元の持ち場に復帰するようにと辞令が下りると同時に、金一封も手渡された。
「ウヒョ!良いんですか?1万2千ルピも入ってますよ?!」
「モチのローン!リーチ1発チートイドラドラ、跳満でピョーンよッ!」
思わぬ臨時収入の上、今日はこれで退勤。明日は遅番なのでパンプアップし放題!マッチョな2人は3歩歩いてポージング、2歩下がってポージングを取りながら帰って行った。
魅せるマッチョなトツ君とゲキ君と入れ替わりでやって来たのは、働くマッチョな大工たち。玄関からではなく、小道から逸れて庭に入り、テラスから「こんちゃー」とやって来た。
「ここで良いのかい?」
「えぇ。この廊下を塞いでほしいの」
「廊下を?玄関ホールに行けなくなっちまうぜ?」
大工の疑問も御尤も。
事業をしていると聞いたので、工事をしている間、テラス経由で部屋に入るのは仕方ないにしても立派な玄関、玄関ホールとあるのに何故塞いで行き来を出来なくするのか訳が判らない。
「いいの。いいの。大きなゴキブリが入ってきたりしそうだし事前に対策を講じるのは当然の事よ」
「ゴキブリ?掃除も行き届いている屋敷なのになぁ」
「今はね」
爵位をロバートに譲り、先代が出立して1週間。
そんな短期間で汚れていたら話にならないが、ティニャには数か月後が今から見えるようで「ウゲェ」と顔を顰めた。
「まぁ、俺らは賃さえもらえりゃ仕事はするけどよ。で?どう塞ぐんだ?」
「先ずは…」
ティニャは天井を指さした。
天井までは掃除が完璧とは言えないようで多少埃も見えるけれど問題ない。
「両側が壁の方がいいわ。だからホール側の天井の端から2つ目と3つ目の格子、格子に挟まれた天井板を丁寧に外してくださる?」
「外す?壊すんじゃなくて?」
「そう。外すの。原状回復が基本だから3年後には取り付けてもらうわ。保管はこっちでするから安心して。30cmほど天井に穴が開く格好になるからそこに壁の頂点が少し突き抜けるように壁を作って欲しいの」
「壁の両端はどうする?」
「2cmほど空かしてもらえる?傷が付かないように養生はしっかりとね」
「だが3年となると…色が変わっちまうよ?いいのかい?」
「ここを出る時にはハウスクリーニングをするし…むしろこの壁を境にくっきりと色の違いも出るから多少の事は誰も気が付かないと思うわ」
「でもよ?床。この絨毯の毛足の高さじゃ壁に潰されて元には戻らないと思うぜ」
ティニャは足元を見た。年季を感じさせる絨毯であるのは間違いないが故に、この先の事を考えると壁の向こうの絨毯が勿体ないなと思ってしまう。
が、それはロバートの管理範囲であってティニャの知った事ではない。
「壁を撤去した時に壁の下になる部分は床見切り代わりに高さのない框を設けるわ。さっきも言ったように色の違いがくっきりになると思うから框があればビフォーアフターにしか見えないと思うわ」
「了解だ。よぅし!皆、始めるぞ」
「うぃーっす」
玄関ホールに埃などが舞わないように麻で編んだシートを複数枚カーテンのように垂らし、工事が始まった。
使用人たちもロバートとティニャが結婚はしたけれど紙切れ結婚で夫婦としては行動をしない事は先代から伝えられていたので「ホントに紙切れ結婚なんだ?」と興味津々。
「小説みたいに次第に仲良くなるとかないんだぁ」
「現実は違うってことよ」
「そっかぁ」
使用人たちのお喋りをよそに天井の格子と天井板が取り外されると天井の内部の魔改造が始まった。
天井の内部、つまり天井裏と呼ばれる部分だが時折大きなゴキブリが出現すると伯父夫婦から聞いていたティニャは完全に入り口を塞ぐためにもう1枚厚さが24mmと超破格な板を取り付ける事にした。
さらにその板は「モエニク草」を煮だした汁に浸けおいて乾かしたもの。
立てかけた板を見たハリスンは「机の天板並みの厚さだな?」と1枚1枚確認しながらティニャに問うた。
「何でこんなものを?」
「先ず、この厚さになると体当たりしても肩が壊れるくらいで板はびくともしないこと。穴をあけようとしても時間が掛かるわね。防犯の為よ。で、モエニク草は火災発生時に延焼する時間を稼げるの」
「火災保険、掛けてますよ?家財保険も加入してますが?」
「火災保険は自分の家屋を補償するものよ。他家に延焼しても補償の対象外。こっちが火元の可能性よりアッチが火元の可能性があるから今から対策するのよ」
ハリスンは「うんうん」と納得し頷いた。
今は金があっても半年後、1年後にロバートが資産を保有している可能性は低い。
天井裏に板を取り付ける作業と廊下を塞ぐ壁の設置は同時進行。
ガガガ!!ドンドン!!カーンカーン!!
如何にも工事中です、そんな音と振動が屋敷を震わせ響き渡った。
「な、なんだ?なんだ?」
「きゃぁぁ。なんなの?床と壁が震えてるし天井から何か降ってくるぅ」
お楽しみ中で素っ裸のロバートとアリッサは動きを止めた。
ロバートはガウンだけを羽織ると廊下に飛び出て音の発生源を突き止めた。
「断りもなく!!何をしてるんだ?」
「へ?壁、作ってんスけど?」
「それは見れば判る!なんで壁を作ってるんだ!」
「依頼があったからっスけど?」
喚くロバートの目の前に職人の1人がティニャから預かった貼り紙を貼った立て看板@可動式を立てた。
【今、夫婦に求められているのは完全な分断】
「ここまでしなくても」
ロバートの呟きは工事の音に搔き消されたのだった。
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