密かな企み~☆~お嬢様は静かに過ごしたい

cyaru

文字の大きさ
53 / 63

第53話  まさかのパチモン?

しおりを挟む
「お仲間登場かと思いきや、勤務時間中にお前といちゃついてた女じゃないか。なるほどぅ?2人揃ってクビになったから仲良く職探しにこんなところまで来たってことか?ご苦労様だな。ここの雇い主も喜ぶさ。たった1860ルピでこき使える奴隷が2人も雁首揃えて来てくれたんだからさ」

ロバートは殴ったハーヴェスの事を知ってはいるが、名前までは知らないようだ、そして目の前に現れた自分ティニャの事を解ってない?その事がティニャには信じられなかった。

同時に父親に署名をさせた魔法書面はティニャが自身で手配し、購入をしたので本物であると自信を持って言えるが、ロバートに書面をさせた魔法書面はロバートの父親が用意したもの。

無料で「どうぞ」とついでなら書き損じた時のためにと役所で予備も貰える離縁届とは訳が違う。
ロバートの父から「これを使いなさい。書き方は解っているね?」と貰った時、決して安い価格ではないので数回固辞して、どうしてもというので使ったのだが…。

(あれ、偽物だったのかしら。でも…原本になる1枚目は消えたわ)

ここにロバートの父親は居ないので、本物か偽物かを問い質す事は出来ないが、殴られて口の中を切ったのか血が出ているハーヴェスにもう一度手を出されるのは我慢できない。

魔法書面でなかったとしても夫婦関係があの契約に基づいてのモノであることは揺るがないのでティニャはロバートと対峙する覚悟を決めた。

しかし…。

「私の事を知らないの?覚えてないの?」そうロバートに問おうとしたティニャだったが声が出ない。

(あれ?おかしいわね)

ロバートに向けて言葉を発しようとすると声が出ないのだ。
もしかして喉に、いや、体に突然異変が起きたか?と思いとなりのハリスンを見た。

「どうしよう、声が出ないの」
「出てますが?」
「あれ?本当だわ」

そう思い、再度ロバートに向けて言葉を発しようとしたがやっぱり声は出なかった。

「あ~。お嬢様。一切の干渉をしないって事で話す必要もありませんので魔法の効力で奴に向けて声が出ないのでは?」
「でも、一番最初の声は出たのよ?」
「それはお嬢様がここで騒いでいるのが誰なのか認識をしていなかったからでは?」
「臨機応変なのね」
「手紙と同じですよ。差出人が判らなかったら開封しちゃうこともあるでしょう?」

ハリスンの言葉に「なるほど」と改めて魔法書面の効力に感心するも、ロバートが「何をごちゃごちゃ言ってる!」ティニャに向かって言葉を発するのは止まらない。

それどころか…。

「いいか?俺の妻は今や国内でも指折りの富豪なんだ。こんな田舎にしか工房を持てないエセ商会とは違うんだよ。俺がこんな身なりをしているのも潜入調査ってやつだ。悪いんだが来週には俺の身なりを馬鹿にしたお前ら!!この区画は全部妻が買い占めるから1人残らず叩き出してやる!物乞いでもしやがれ!」

なんて大声で叫んでいる。
虎の威を借りる狐でもここまでは言わないだろうになんて残念な男なんだろうとティニャは遠い空の青を見て心を癒したくなった。

ロバートはロバートで、まさかここに仕事を探しに来ましたとは言えなくなり、どうせ屋敷に戻ればこんなところに二度と来ることはない。伯爵であるのは本当だしもし、文句を言いに来ても追い返せばいいだけ。

ティニャとは結婚初日の数分以後、会話どころか姿を見てもいないけれど金持ちであるのは本当だし、急成長している商会をもっているのも事実。本当にここが買われたら?と平民たちを脅すには丁度。追い出されなかったら恩情を賭けて貰ったんだと恩を感じるはず。

ティニャが「私の名前を勝手に使うな」と文句を言いに来くれば僥倖だ。そこで契約の見直しについて話が出来るし、なんならロバートからではなくティニャの方から話に来るんだから十分な契約違反だとマウントを取る事も出来る。そんな事を本気で思っていた。


「呆れるわ。なんでここで私の事を言うかな」
「それよりもあの物言いじゃ、この土地に建設する工房がどこの商会で誰が会頭なのかも知らないんでしょうね」
「知らないって罪ね。でも‥‥こっちを指さして話をしてるってことは…」
「残念と言いますか、既定路線と言いますか…。奴はお嬢様を認識してないって事ですね。ま、お嬢様はハーヴェスを。ここは私にお任せください」
「判った。頼んだわね」


ティニャはロバートが目の前にいるのをティニャだと認識していないのならそれでいい。ティニャ自身は話をする事は出来ないのでハーヴェスに駆け寄り近くにいた野次馬に「向こうに救護テントがあるから連れて行くのを手伝って」と声を掛けた。

そしてロバートの前には‥‥。

「警告はしたはずだが?」

ハリスンが立った。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

私は愛する人と結婚できなくなったのに、あなたが結婚できると思うの?

あんど もあ
ファンタジー
妹の画策で、第一王子との婚約を解消することになったレイア。 理由は姉への嫌がらせだとしても、妹は王子の結婚を妨害したのだ。 レイアは妹への処罰を伝える。 「あなたも婚約解消しなさい」

年上令嬢の三歳差は致命傷になりかねない...婚約者が侍女と駆け落ちしまして。

恋せよ恋
恋愛
婚約者が、侍女と駆け落ちした。 知らせを受けた瞬間、胸の奥がひやりと冷えたが—— 涙は出なかった。 十八歳のアナベル伯爵令嬢は、静かにティーカップを置いた。 元々愛情などなかった婚約だ。 裏切られた悔しさより、ただ呆れが勝っていた。 だが、新たに結ばれた婚約は......。 彼の名はオーランド。元婚約者アルバートの弟で、 学院一の美形と噂される少年だった。 三歳年下の彼に胸の奥がふわりと揺れる。 その後、駆け落ちしたはずのアルバートが戻ってきて言い放った。 「やり直したいんだ。……アナベル、俺を許してくれ」 自分の都合で裏切り、勝手に戻ってくる男。 そして、誰より一途で誠実に愛を告げる年下の弟君。 アナベルの答えは決まっていた。 わたしの婚約者は——あなたよ。 “おばさん”と笑われても構わない。 この恋は、誰にも譲らない。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 いいね❤️励みになります!ありがとうございます!

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

【コミカライズ・取り下げ予定】契約通りに脇役を演じていましたが

曽根原ツタ
恋愛
公爵令嬢ロゼは、優秀な妹の引き立て役だった。周囲は妹ばかりを優先し、ロゼは妹の命令に従わされて辛い日々を過ごしていた。 そんなとき、大公から縁談を持ちかけられる。妹の引き立て役から解放されたロゼは、幸せになっていく。一方の妹は、破滅の道をたどっていき……? 脇役だと思っていたら妹と立場が逆転する話。

なぜ、虐げてはいけないのですか?

碧井 汐桜香
恋愛
男爵令嬢を虐げた罪で、婚約者である第一王子に投獄された公爵令嬢。 処刑前日の彼女の獄中記。 そして、それぞれ関係者目線のお話

処理中です...