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第53話 まさかのパチモン?
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「お仲間登場かと思いきや、勤務時間中にお前といちゃついてた女じゃないか。なるほどぅ?2人揃ってクビになったから仲良く職探しにこんなところまで来たってことか?ご苦労様だな。ここの雇い主も喜ぶさ。たった1860ルピでこき使える奴隷が2人も雁首揃えて来てくれたんだからさ」
ロバートは殴ったハーヴェスの事を知ってはいるが、名前までは知らないようだ、そして目の前に現れた自分の事を解ってない?その事がティニャには信じられなかった。
同時に父親に署名をさせた魔法書面はティニャが自身で手配し、購入をしたので本物であると自信を持って言えるが、ロバートに書面をさせた魔法書面はロバートの父親が用意したもの。
無料で「どうぞ」とついでなら書き損じた時のためにと役所で予備も貰える離縁届とは訳が違う。
ロバートの父から「これを使いなさい。書き方は解っているね?」と貰った時、決して安い価格ではないので数回固辞して、どうしてもというので使ったのだが…。
(あれ、偽物だったのかしら。でも…原本になる1枚目は消えたわ)
ここにロバートの父親は居ないので、本物か偽物かを問い質す事は出来ないが、殴られて口の中を切ったのか血が出ているハーヴェスにもう一度手を出されるのは我慢できない。
魔法書面でなかったとしても夫婦関係があの契約に基づいてのモノであることは揺るがないのでティニャはロバートと対峙する覚悟を決めた。
しかし…。
「私の事を知らないの?覚えてないの?」そうロバートに問おうとしたティニャだったが声が出ない。
(あれ?おかしいわね)
ロバートに向けて言葉を発しようとすると声が出ないのだ。
もしかして喉に、いや、体に突然異変が起きたか?と思いとなりのハリスンを見た。
「どうしよう、声が出ないの」
「出てますが?」
「あれ?本当だわ」
そう思い、再度ロバートに向けて言葉を発しようとしたがやっぱり声は出なかった。
「あ~。お嬢様。一切の干渉をしないって事で話す必要もありませんので魔法の効力で奴に向けて声が出ないのでは?」
「でも、一番最初の声は出たのよ?」
「それはお嬢様がここで騒いでいるのが誰なのか認識をしていなかったからでは?」
「臨機応変なのね」
「手紙と同じですよ。差出人が判らなかったら開封しちゃうこともあるでしょう?」
ハリスンの言葉に「なるほど」と改めて魔法書面の効力に感心するも、ロバートが「何をごちゃごちゃ言ってる!」ティニャに向かって言葉を発するのは止まらない。
それどころか…。
「いいか?俺の妻は今や国内でも指折りの富豪なんだ。こんな田舎にしか工房を持てないエセ商会とは違うんだよ。俺がこんな身なりをしているのも潜入調査ってやつだ。悪いんだが来週には俺の身なりを馬鹿にしたお前ら!!この区画は全部妻が買い占めるから1人残らず叩き出してやる!物乞いでもしやがれ!」
なんて大声で叫んでいる。
虎の威を借りる狐でもここまでは言わないだろうになんて残念な男なんだろうとティニャは遠い空の青を見て心を癒したくなった。
ロバートはロバートで、まさかここに仕事を探しに来ましたとは言えなくなり、どうせ屋敷に戻ればこんなところに二度と来ることはない。伯爵であるのは本当だしもし、文句を言いに来ても追い返せばいいだけ。
ティニャとは結婚初日の数分以後、会話どころか姿を見てもいないけれど金持ちであるのは本当だし、急成長している商会をもっているのも事実。本当にここが買われたら?と平民たちを脅すには丁度。追い出されなかったら恩情を賭けて貰ったんだと恩を感じるはず。
ティニャが「私の名前を勝手に使うな」と文句を言いに来くれば僥倖だ。そこで契約の見直しについて話が出来るし、なんならロバートからではなくティニャの方から話に来るんだから十分な契約違反だとマウントを取る事も出来る。そんな事を本気で思っていた。
「呆れるわ。なんでここで私の事を言うかな」
「それよりもあの物言いじゃ、この土地に建設する工房がどこの商会で誰が会頭なのかも知らないんでしょうね」
「知らないって罪ね。でも‥‥こっちを指さして話をしてるってことは…」
「残念と言いますか、既定路線と言いますか…。奴はお嬢様を認識してないって事ですね。ま、お嬢様はハーヴェスを。ここは私にお任せください」
「判った。頼んだわね」
ティニャはロバートが目の前にいるのをティニャだと認識していないのならそれでいい。ティニャ自身は話をする事は出来ないのでハーヴェスに駆け寄り近くにいた野次馬に「向こうに救護テントがあるから連れて行くのを手伝って」と声を掛けた。
そしてロバートの前には‥‥。
「警告はしたはずだが?」
ハリスンが立った。
ロバートは殴ったハーヴェスの事を知ってはいるが、名前までは知らないようだ、そして目の前に現れた自分の事を解ってない?その事がティニャには信じられなかった。
同時に父親に署名をさせた魔法書面はティニャが自身で手配し、購入をしたので本物であると自信を持って言えるが、ロバートに書面をさせた魔法書面はロバートの父親が用意したもの。
無料で「どうぞ」とついでなら書き損じた時のためにと役所で予備も貰える離縁届とは訳が違う。
ロバートの父から「これを使いなさい。書き方は解っているね?」と貰った時、決して安い価格ではないので数回固辞して、どうしてもというので使ったのだが…。
(あれ、偽物だったのかしら。でも…原本になる1枚目は消えたわ)
ここにロバートの父親は居ないので、本物か偽物かを問い質す事は出来ないが、殴られて口の中を切ったのか血が出ているハーヴェスにもう一度手を出されるのは我慢できない。
魔法書面でなかったとしても夫婦関係があの契約に基づいてのモノであることは揺るがないのでティニャはロバートと対峙する覚悟を決めた。
しかし…。
「私の事を知らないの?覚えてないの?」そうロバートに問おうとしたティニャだったが声が出ない。
(あれ?おかしいわね)
ロバートに向けて言葉を発しようとすると声が出ないのだ。
もしかして喉に、いや、体に突然異変が起きたか?と思いとなりのハリスンを見た。
「どうしよう、声が出ないの」
「出てますが?」
「あれ?本当だわ」
そう思い、再度ロバートに向けて言葉を発しようとしたがやっぱり声は出なかった。
「あ~。お嬢様。一切の干渉をしないって事で話す必要もありませんので魔法の効力で奴に向けて声が出ないのでは?」
「でも、一番最初の声は出たのよ?」
「それはお嬢様がここで騒いでいるのが誰なのか認識をしていなかったからでは?」
「臨機応変なのね」
「手紙と同じですよ。差出人が判らなかったら開封しちゃうこともあるでしょう?」
ハリスンの言葉に「なるほど」と改めて魔法書面の効力に感心するも、ロバートが「何をごちゃごちゃ言ってる!」ティニャに向かって言葉を発するのは止まらない。
それどころか…。
「いいか?俺の妻は今や国内でも指折りの富豪なんだ。こんな田舎にしか工房を持てないエセ商会とは違うんだよ。俺がこんな身なりをしているのも潜入調査ってやつだ。悪いんだが来週には俺の身なりを馬鹿にしたお前ら!!この区画は全部妻が買い占めるから1人残らず叩き出してやる!物乞いでもしやがれ!」
なんて大声で叫んでいる。
虎の威を借りる狐でもここまでは言わないだろうになんて残念な男なんだろうとティニャは遠い空の青を見て心を癒したくなった。
ロバートはロバートで、まさかここに仕事を探しに来ましたとは言えなくなり、どうせ屋敷に戻ればこんなところに二度と来ることはない。伯爵であるのは本当だしもし、文句を言いに来ても追い返せばいいだけ。
ティニャとは結婚初日の数分以後、会話どころか姿を見てもいないけれど金持ちであるのは本当だし、急成長している商会をもっているのも事実。本当にここが買われたら?と平民たちを脅すには丁度。追い出されなかったら恩情を賭けて貰ったんだと恩を感じるはず。
ティニャが「私の名前を勝手に使うな」と文句を言いに来くれば僥倖だ。そこで契約の見直しについて話が出来るし、なんならロバートからではなくティニャの方から話に来るんだから十分な契約違反だとマウントを取る事も出来る。そんな事を本気で思っていた。
「呆れるわ。なんでここで私の事を言うかな」
「それよりもあの物言いじゃ、この土地に建設する工房がどこの商会で誰が会頭なのかも知らないんでしょうね」
「知らないって罪ね。でも‥‥こっちを指さして話をしてるってことは…」
「残念と言いますか、既定路線と言いますか…。奴はお嬢様を認識してないって事ですね。ま、お嬢様はハーヴェスを。ここは私にお任せください」
「判った。頼んだわね」
ティニャはロバートが目の前にいるのをティニャだと認識していないのならそれでいい。ティニャ自身は話をする事は出来ないのでハーヴェスに駆け寄り近くにいた野次馬に「向こうに救護テントがあるから連れて行くのを手伝って」と声を掛けた。
そしてロバートの前には‥‥。
「警告はしたはずだが?」
ハリスンが立った。
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