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第58話 走り出したら止まらないぜ
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ロバートはロープを張って区切られている区間に入ろうとしたが、直ぐに衛兵がやってきて羽交い絞めにされ、前に行くことは出来なかった。
「ここは王宮だぞ?騒ぎを起こすつもりか」
「違う!平民が紛れ込んでいるんだ!」
「平民だ?お前の連れている女も平民ではないのか」
そう言われてロバートは動きを止めた。
(どうしてアリッサが平民だって衛兵が知ってるんだ?)
その理由は簡単でアリッサがロバートと付き合いだす前に住んでいた家のご近所さんで男爵家の子息が衛兵。アリッサの事を知っていただけだった。
最悪な事にその衛兵はアリッサに「伯爵家の付き人になったのか?」と話しかけた。
「違うわ。私、もうすぐ伯爵家の本当の奥様になるの。その前に子供も生まれちゃうけど。えへっ」
本来ロバートが向かう廊下に進んでいた貴族も、話しかけた衛兵も聞こえた声に驚いて動きを止めた。
「アリッサ、えぇーっと。何かが前後してないか?もう伯爵夫人なんだろ?で、子供だろ?」
衛兵も予想していなかった答えなのでアリッサが言い間違ったんだろう。そう思い問い直した。
「違うわよ?ロバートはまだ離縁してないの。奥さんとはぜーんぜん会ってなくてぇ。今ロバートと2人でお屋敷に住んでるのよ?いいでしょ~。貴族のお屋敷ってすっごく広いんだから。今度遊びに来てよ。この子は結婚前に付き合ってた時に出来ちゃってたみたい。遊びに来るなら産んだ後にしてね?あはっ♡」
禁断のワードがふんだんに盛り込まれていて、怒り出す夫人や眩暈がしたのかふらつく夫人もいる。ロバートはこの場で気を飛ばしたかったが久しぶりに顔なじみに会ったことでアリッサは気分も良くなったのか、それともティニャと思わしき女性はもう案内をされて目の前から消えたからか。
到着した貴族が向かっている廊下に走り出してしまった。
今度こそ本気でマズイと感じたロバートは追いかけたのだが、着ている服がお仕着せで履いている靴も布の靴。腹は大きくても城の中なんて初めてなアリッサは廊下に出ると手摺柵の切れ目から中庭に出て向かいの廊下に走る。
向かいの廊下は来賓だったり王族が使用するので、ロバートは真っ青になり衛兵と一緒にアリッサを追いかけた。
☆~☆
「緊張しないの。うん。緊張しない。ハーヴェス、手の平に指で渦巻を書いて食べると緊張がほぐれるそうよ。但し、いつもとは逆にグルグルーって」
「大丈夫ですよ。ティさんの方が緊張してるじゃないですか」
「そ、そうかな。いつも通りだと思うんだけど…あ~どうしよう。なんだかムズムズする」
「緊張しているからでしょうね。そんな時は溜息を吐き出すと良いですよ」
「溜息?嫌よ。すっごく嫌そうとか、迷惑なんだけどなって見られちゃうわ」
「馬車の中は私だけなのでそんな事思いませんよ」
そんな事をしながら王宮に到着し、馬車を降りた2人は係員に先導されて廊下を歩いた。
馬車が停車する場は停車すればステップを付けたり、降りた後は外したり。
ざわざわしていたのもあるし、なんだかんだでハーヴェスも緊張をしていたので「この先で失敗は許されない」とガチガチ。2人にはロバートの声もアリッサの声も聞こえていなかった。
係員に先導され、廊下を歩いているとボンチーケ伯爵夫人と第4王女と出くわした。
王女は衛兵を下げさせ、ティニャとハーヴェスに「こっちへ」と呼ぶ。
ティニャとハーヴェスはカーテシーと臣下の礼を取った。
「王女殿下におかれましては―――」
「いいのよ。今日は表彰者が主役。ボンチーケ伯爵からは来るたびに聞かされていてよ?」
「私の事をですか?」
「えぇ。貴女と、彼のこと。それに予算の問題で毎年棚上げだったり先送りだった孤児院の支援もやっと動き出したわ。今日は2人にとっておきの贈り物も用意したの。楽しみにしていてね」
「勿体ないお言葉で御座います。それにまだまだ勉強中ですし贈り物を頂けるほどには」
「あなた達が受け取ってくれなかったら私もお兄様も困るわ。ねぇ?夫人?」
「そうですね。王女殿下、かなり陛下に無理も言いましたものね?」
「それは内緒!もぅ!夫人ったら!」
ハリスンやディンゴから聞いてはいたが、どんどん贈り物をされるのが怖くなってきたハーヴェスは苦笑い。
と、そこに…。
庭から植え込みの間を縫うようにお仕着せを着て派手目の化粧をした1人の妊婦が現れた。
「あー!こんなところにいたっ!ちょっと、アンタね。話があるのよ!」
それはアリッサで事もあろうか庭から廊下に上がると王女を突き飛ばし、ティニャに迫ってきた。
「ここは王宮だぞ?騒ぎを起こすつもりか」
「違う!平民が紛れ込んでいるんだ!」
「平民だ?お前の連れている女も平民ではないのか」
そう言われてロバートは動きを止めた。
(どうしてアリッサが平民だって衛兵が知ってるんだ?)
その理由は簡単でアリッサがロバートと付き合いだす前に住んでいた家のご近所さんで男爵家の子息が衛兵。アリッサの事を知っていただけだった。
最悪な事にその衛兵はアリッサに「伯爵家の付き人になったのか?」と話しかけた。
「違うわ。私、もうすぐ伯爵家の本当の奥様になるの。その前に子供も生まれちゃうけど。えへっ」
本来ロバートが向かう廊下に進んでいた貴族も、話しかけた衛兵も聞こえた声に驚いて動きを止めた。
「アリッサ、えぇーっと。何かが前後してないか?もう伯爵夫人なんだろ?で、子供だろ?」
衛兵も予想していなかった答えなのでアリッサが言い間違ったんだろう。そう思い問い直した。
「違うわよ?ロバートはまだ離縁してないの。奥さんとはぜーんぜん会ってなくてぇ。今ロバートと2人でお屋敷に住んでるのよ?いいでしょ~。貴族のお屋敷ってすっごく広いんだから。今度遊びに来てよ。この子は結婚前に付き合ってた時に出来ちゃってたみたい。遊びに来るなら産んだ後にしてね?あはっ♡」
禁断のワードがふんだんに盛り込まれていて、怒り出す夫人や眩暈がしたのかふらつく夫人もいる。ロバートはこの場で気を飛ばしたかったが久しぶりに顔なじみに会ったことでアリッサは気分も良くなったのか、それともティニャと思わしき女性はもう案内をされて目の前から消えたからか。
到着した貴族が向かっている廊下に走り出してしまった。
今度こそ本気でマズイと感じたロバートは追いかけたのだが、着ている服がお仕着せで履いている靴も布の靴。腹は大きくても城の中なんて初めてなアリッサは廊下に出ると手摺柵の切れ目から中庭に出て向かいの廊下に走る。
向かいの廊下は来賓だったり王族が使用するので、ロバートは真っ青になり衛兵と一緒にアリッサを追いかけた。
☆~☆
「緊張しないの。うん。緊張しない。ハーヴェス、手の平に指で渦巻を書いて食べると緊張がほぐれるそうよ。但し、いつもとは逆にグルグルーって」
「大丈夫ですよ。ティさんの方が緊張してるじゃないですか」
「そ、そうかな。いつも通りだと思うんだけど…あ~どうしよう。なんだかムズムズする」
「緊張しているからでしょうね。そんな時は溜息を吐き出すと良いですよ」
「溜息?嫌よ。すっごく嫌そうとか、迷惑なんだけどなって見られちゃうわ」
「馬車の中は私だけなのでそんな事思いませんよ」
そんな事をしながら王宮に到着し、馬車を降りた2人は係員に先導されて廊下を歩いた。
馬車が停車する場は停車すればステップを付けたり、降りた後は外したり。
ざわざわしていたのもあるし、なんだかんだでハーヴェスも緊張をしていたので「この先で失敗は許されない」とガチガチ。2人にはロバートの声もアリッサの声も聞こえていなかった。
係員に先導され、廊下を歩いているとボンチーケ伯爵夫人と第4王女と出くわした。
王女は衛兵を下げさせ、ティニャとハーヴェスに「こっちへ」と呼ぶ。
ティニャとハーヴェスはカーテシーと臣下の礼を取った。
「王女殿下におかれましては―――」
「いいのよ。今日は表彰者が主役。ボンチーケ伯爵からは来るたびに聞かされていてよ?」
「私の事をですか?」
「えぇ。貴女と、彼のこと。それに予算の問題で毎年棚上げだったり先送りだった孤児院の支援もやっと動き出したわ。今日は2人にとっておきの贈り物も用意したの。楽しみにしていてね」
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「そうですね。王女殿下、かなり陛下に無理も言いましたものね?」
「それは内緒!もぅ!夫人ったら!」
ハリスンやディンゴから聞いてはいたが、どんどん贈り物をされるのが怖くなってきたハーヴェスは苦笑い。
と、そこに…。
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