21 / 34
第20話 オズヴァルドのお悩み解決
しおりを挟む
オズヴァルドは一旦はドアをノックしルフィード家となった部屋を訪れようとした。しかし部屋から聞こえてくる声に息は荒くなり、本当に扉の向こうにいるのはファウスティーナなのだろうかと思うと自信が持てなくなった。
暫く会えてもいないのに弾んだ声を出すファウスティーナが信じられなかった。
――俺はこんなに苦しいのに何故笑っていられるんだ?――
だから一旦引いて、出直したのだ。
夕食が終わった後なら元婚約者でもあるし、少しくらいなら2人きりで話がしたいと言えば出て来てくれるだろうと考えた。
手土産はあった方が良かっただろうかと思いながらファウスティーナの住まう部屋があるアパートメントの前まで来て部屋を見上げた時、目的の部屋の前に信じられないものを見た。
5人の男と思われる人間。手には鞘から抜いた短剣。目元だけを残し頭部をすっぽりと隠した姿で1人は廊下を走って階段に逃げ、4人は3階という高さから柵を飛び越えて階下に飛び降りた。
あっという間に近所の住民が扉を開けて様子を伺い騒ぎだす。
柵を超えて飛び降りた事で足を挫いたのか、前転をして植え込みに転がり込んだ者がいた。
植え込みから出てきたのは男で「なんだ?なんだ?何かあったのか?」まるで知らぬふりをして声をあげ、少し足を引きながらオズヴァルドから少し離れた場所を去って行った。
オズヴァルドはその男を知っていた。
屋敷で厩舎の清掃を担当している男だ。
家を継ぐ事は決まっていても「まだその時期じゃない」と教えてもらえなかったが友人達からは「家の為に汚い仕事をする使用人」を抱えている家が存在する事は聞かされていた。
汚い仕事とはどぶを掃除したり、汚物層を洗ったりと言う物理で汚いものではなく発覚すれば犯罪。そんな仕事を家の為に行う人間の事でオズヴァルドはたかが子爵家に過ぎないラーベ家にそんな人間がいたとは思わなかった。
住民の「強盗が押し入ろうとしたみたい」「怖いわ。誰か憲兵を呼んでよ」そんな会話に怖くなってその場を逃げ出してしまった。
屋敷に戻り、自室で寝台の掛布に包まって目の前で起こった事を思い出すと体の震えが止まらない。練習生として騎士団には入団はしたけれど実際の凶悪犯を見てオズヴァルドは恐怖に慄いた。
「あんなの無理、無理、無理。絶対無理」
男達が踏み込む前に訪れなくて良かったと掛布に包まって手を祈りの形に組み合わせ、神に心からの感謝を捧げた。
そして押し入った男達がラーベ子爵家の使用人で、偶然とはいえその場で憲兵に身柄を拘束されれば仲間だと思われてしまう。実際に憲兵を呼んだかどうかは解らないが、憲兵が来る前に屋敷に戻れた事にも感謝した。
やっと体の震えも止まり、気持ちも落ち着いてくると今度は父への怒りがこみ上げる。
「ファティをくれるんじゃなかったのか?あれじゃ殺してしまったかも知れないじゃないか。いや、殺すつもりだったのか?ならあの言葉は何だったんだ!」
沸々と胸の底から沸き上がる父への怒りにオズヴァルドは一睡も出来なかった。
そして早朝、念のためにと散歩の振りをして厩舎に行くと昨日の男が足を庇うような歩き方で馬の敷藁を集めていた。
――やっぱり、こいつだったんだ――
ここで男を問い詰めようかと思ったが止めた。逃げた男は全部で5人。残りの4人は屋敷の中にいるどの使用人なのか判らない。うっかり口にしてしまって自分も口封じをされてはたまらない。
父親のラーベ子爵は「後継はお前だ」とオズヴァルドには告げているが、その代わりにベアトリスを妻としファウスティーナを「愛人として囲っても構わない」と条件を付けるような事を言った。
オズヴァルドが気に入らないのはファウスティーナを愛人とすれば良いという人として扱わないような発言ではなく、まるで玩具を与えれば言う事を聞く駄々っ子のように自分を扱った事だ。
家の事や自分の立場しか考えていない父親は、間者のような仕事をする人間の事をオズヴァルドが知っている、しかもその場を見てしまったと知れば息子であろうと消すだろうと考えた。
――どうすればいいんだ――
このままでは父に愛しいファウスティーナが殺められてしまう。
が、言い方1つでこちらにも矛先が向く。
部屋に戻り、混乱する頭でオズヴァルドは懸命に考えた。
「そうか!ベアトリスと結婚すればいいんだ」
簡単な事じゃないかとオズヴァルドは父親に怯えてしまった自分を笑い飛ばした。
ベアトリスと結婚をし、家督を継ぐ。
両親を追い出し、実権を握る。同居となれば父の事だから何時までも実権を手放さないのは目に見えている。完全に引退したのだと隠居させる必要があるが近くにいれば口を出す。なので子爵領に住まいを移して貰えばいいのだと結論を出した。
家督を継げばあの間者たちを使うのは自分。恐れる事など何もない。
1つ悩みが解決をすると、どんどんオズヴァルドには良案が思い浮かぶ。
ベアトリスは結婚をすれば不貞行為は許さないと言ったが、自分は好き勝手に今まで遊んでいるのだ。こちらまで強制される謂れはないが、受け入れたふりをするのも面白い。
よくよく考えればレンダール家も利用すればいいのだ。
持参金で終わりなどと言わずに金は引っ張れるだけ引っ張りたい。
娘が嫁いできたのだから、出せるものは出して貰う。その為にはベアトリスは子供が産めないと諦めている風でもあるので妊娠しやすいといわれる民間療法をふんだんに取り入れて、抱いてやればいい。
子供が出来ればそちらにかかりきりになるだろうし、適度な回数の夫婦関係を持てば文句を言う事もない。
そしてファウスティーナの事はコソコソせずにベアトリスにも認めさせる。
「魔法使い」として側に置けばいいのだ。
「ファティはどうするかな。泣いて懇願するかな…フフッ。ファティがいけないんだ。こんなに離れて会えない期間が長いのに楽しそうにするから。可愛さ余って憎さ100倍だよ。厳しい愛の躾が必要だよね」
オズヴァルドは目を閉じ、自分の手により躾と言う名の調教を受けるファウスティーナを思い浮かべる。
事務的な言葉しか掛けず、常に側に置く。しかし触れる事もない。
そうすればベアトリスも文句を言えるはずもない。
不安で泣き出しそうなファウスティーナを想像するとオズヴァルドはゾクゾクした。
「愛の形と言うのは必ずしも喜びだけで現わされるものじゃないんだ。ファティ。究極の愛の形は純愛。それも手を伸ばせばそこにいるのに触れる事すら出来ない本物の純愛だ。心と心で1つになるんだよ…クックック…アッハッハ」
★~★
この後10分後に公開時間のお知らせとしてイリュージョンコーナーが出現しまぁす。\(^▽^)/
暫く会えてもいないのに弾んだ声を出すファウスティーナが信じられなかった。
――俺はこんなに苦しいのに何故笑っていられるんだ?――
だから一旦引いて、出直したのだ。
夕食が終わった後なら元婚約者でもあるし、少しくらいなら2人きりで話がしたいと言えば出て来てくれるだろうと考えた。
手土産はあった方が良かっただろうかと思いながらファウスティーナの住まう部屋があるアパートメントの前まで来て部屋を見上げた時、目的の部屋の前に信じられないものを見た。
5人の男と思われる人間。手には鞘から抜いた短剣。目元だけを残し頭部をすっぽりと隠した姿で1人は廊下を走って階段に逃げ、4人は3階という高さから柵を飛び越えて階下に飛び降りた。
あっという間に近所の住民が扉を開けて様子を伺い騒ぎだす。
柵を超えて飛び降りた事で足を挫いたのか、前転をして植え込みに転がり込んだ者がいた。
植え込みから出てきたのは男で「なんだ?なんだ?何かあったのか?」まるで知らぬふりをして声をあげ、少し足を引きながらオズヴァルドから少し離れた場所を去って行った。
オズヴァルドはその男を知っていた。
屋敷で厩舎の清掃を担当している男だ。
家を継ぐ事は決まっていても「まだその時期じゃない」と教えてもらえなかったが友人達からは「家の為に汚い仕事をする使用人」を抱えている家が存在する事は聞かされていた。
汚い仕事とはどぶを掃除したり、汚物層を洗ったりと言う物理で汚いものではなく発覚すれば犯罪。そんな仕事を家の為に行う人間の事でオズヴァルドはたかが子爵家に過ぎないラーベ家にそんな人間がいたとは思わなかった。
住民の「強盗が押し入ろうとしたみたい」「怖いわ。誰か憲兵を呼んでよ」そんな会話に怖くなってその場を逃げ出してしまった。
屋敷に戻り、自室で寝台の掛布に包まって目の前で起こった事を思い出すと体の震えが止まらない。練習生として騎士団には入団はしたけれど実際の凶悪犯を見てオズヴァルドは恐怖に慄いた。
「あんなの無理、無理、無理。絶対無理」
男達が踏み込む前に訪れなくて良かったと掛布に包まって手を祈りの形に組み合わせ、神に心からの感謝を捧げた。
そして押し入った男達がラーベ子爵家の使用人で、偶然とはいえその場で憲兵に身柄を拘束されれば仲間だと思われてしまう。実際に憲兵を呼んだかどうかは解らないが、憲兵が来る前に屋敷に戻れた事にも感謝した。
やっと体の震えも止まり、気持ちも落ち着いてくると今度は父への怒りがこみ上げる。
「ファティをくれるんじゃなかったのか?あれじゃ殺してしまったかも知れないじゃないか。いや、殺すつもりだったのか?ならあの言葉は何だったんだ!」
沸々と胸の底から沸き上がる父への怒りにオズヴァルドは一睡も出来なかった。
そして早朝、念のためにと散歩の振りをして厩舎に行くと昨日の男が足を庇うような歩き方で馬の敷藁を集めていた。
――やっぱり、こいつだったんだ――
ここで男を問い詰めようかと思ったが止めた。逃げた男は全部で5人。残りの4人は屋敷の中にいるどの使用人なのか判らない。うっかり口にしてしまって自分も口封じをされてはたまらない。
父親のラーベ子爵は「後継はお前だ」とオズヴァルドには告げているが、その代わりにベアトリスを妻としファウスティーナを「愛人として囲っても構わない」と条件を付けるような事を言った。
オズヴァルドが気に入らないのはファウスティーナを愛人とすれば良いという人として扱わないような発言ではなく、まるで玩具を与えれば言う事を聞く駄々っ子のように自分を扱った事だ。
家の事や自分の立場しか考えていない父親は、間者のような仕事をする人間の事をオズヴァルドが知っている、しかもその場を見てしまったと知れば息子であろうと消すだろうと考えた。
――どうすればいいんだ――
このままでは父に愛しいファウスティーナが殺められてしまう。
が、言い方1つでこちらにも矛先が向く。
部屋に戻り、混乱する頭でオズヴァルドは懸命に考えた。
「そうか!ベアトリスと結婚すればいいんだ」
簡単な事じゃないかとオズヴァルドは父親に怯えてしまった自分を笑い飛ばした。
ベアトリスと結婚をし、家督を継ぐ。
両親を追い出し、実権を握る。同居となれば父の事だから何時までも実権を手放さないのは目に見えている。完全に引退したのだと隠居させる必要があるが近くにいれば口を出す。なので子爵領に住まいを移して貰えばいいのだと結論を出した。
家督を継げばあの間者たちを使うのは自分。恐れる事など何もない。
1つ悩みが解決をすると、どんどんオズヴァルドには良案が思い浮かぶ。
ベアトリスは結婚をすれば不貞行為は許さないと言ったが、自分は好き勝手に今まで遊んでいるのだ。こちらまで強制される謂れはないが、受け入れたふりをするのも面白い。
よくよく考えればレンダール家も利用すればいいのだ。
持参金で終わりなどと言わずに金は引っ張れるだけ引っ張りたい。
娘が嫁いできたのだから、出せるものは出して貰う。その為にはベアトリスは子供が産めないと諦めている風でもあるので妊娠しやすいといわれる民間療法をふんだんに取り入れて、抱いてやればいい。
子供が出来ればそちらにかかりきりになるだろうし、適度な回数の夫婦関係を持てば文句を言う事もない。
そしてファウスティーナの事はコソコソせずにベアトリスにも認めさせる。
「魔法使い」として側に置けばいいのだ。
「ファティはどうするかな。泣いて懇願するかな…フフッ。ファティがいけないんだ。こんなに離れて会えない期間が長いのに楽しそうにするから。可愛さ余って憎さ100倍だよ。厳しい愛の躾が必要だよね」
オズヴァルドは目を閉じ、自分の手により躾と言う名の調教を受けるファウスティーナを思い浮かべる。
事務的な言葉しか掛けず、常に側に置く。しかし触れる事もない。
そうすればベアトリスも文句を言えるはずもない。
不安で泣き出しそうなファウスティーナを想像するとオズヴァルドはゾクゾクした。
「愛の形と言うのは必ずしも喜びだけで現わされるものじゃないんだ。ファティ。究極の愛の形は純愛。それも手を伸ばせばそこにいるのに触れる事すら出来ない本物の純愛だ。心と心で1つになるんだよ…クックック…アッハッハ」
★~★
この後10分後に公開時間のお知らせとしてイリュージョンコーナーが出現しまぁす。\(^▽^)/
162
あなたにおすすめの小説
【完結】好きでもない私とは婚約解消してください
里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。
そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。
婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。
皇后マルティナの復讐が幕を開ける時[完]
風龍佳乃
恋愛
マルティナには初恋の人がいたが
王命により皇太子の元に嫁ぎ
無能と言われた夫を支えていた
ある日突然
皇帝になった夫が自分の元婚約者令嬢を
第2夫人迎えたのだった
マルティナは初恋の人である
第2皇子であった彼を新皇帝にするべく
動き出したのだった
マルティナは時間をかけながら
じっくりと王家を牛耳り
自分を蔑ろにした夫に三行半を突き付け
理想の人生を作り上げていく
失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた
しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。
すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。
早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。
この案に王太子の返事は?
王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。
私の夫は妹の元婚約者
彼方
恋愛
私の夫ミラーは、かつて妹マリッサの婚約者だった。
そんなミラーとの日々は穏やかで、幸せなもののはずだった。
けれどマリッサは、どこか意味ありげな態度で私に言葉を投げかけてくる。
「ミラーさんには、もっと活発な女性の方が合うんじゃない?」
挑発ともとれるその言動に、心がざわつく。けれど私も負けていられない。
最近、彼女が婚約者以外の男性と一緒にいたことをそっと伝えると、マリッサは少しだけ表情を揺らした。
それでもお互い、最後には笑顔を見せ合った。
まるで何もなかったかのように。
婚約者は…やはり愚かであった
しゃーりん
恋愛
私、公爵令嬢アリーシャと公爵令息ジョシュアは6歳から婚約している。
素直すぎて疑うことを知らないジョシュアを子供のころから心配し、世話を焼いてきた。
そんなジョシュアがアリーシャの側を離れようとしている。愚かな人物の入れ知恵かな?
結婚が近くなった学園卒業の半年前から怪しい行動をするようになった婚約者を見限るお話です。
聞き分けよくしていたら婚約者が妹にばかり構うので、困らせてみることにした
今川幸乃
恋愛
カレン・ブライスとクライン・ガスターはどちらも公爵家の生まれで政略結婚のために婚約したが、お互い愛し合っていた……はずだった。
二人は貴族が通う学園の同級生で、クラスメイトたちにもその仲の良さは知られていた。
しかし、昨年クラインの妹、レイラが貴族が学園に入学してから状況が変わった。
元々人のいいところがあるクラインは、甘えがちな妹にばかり構う。
そのたびにカレンは聞き分けよく我慢せざるをえなかった。
が、ある日クラインがレイラのためにデートをすっぽかしてからカレンは決心する。
このまま聞き分けのいい婚約者をしていたところで状況は悪くなるだけだ、と。
※ざまぁというよりは改心系です。
※4/5【レイラ視点】【リーアム視点】の間に、入れ忘れていた【女友達視点】の話を追加しました。申し訳ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる