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第23話 昨日と今日で情報過多
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ルフィード伯爵と2人で朝食ならぬ昼食かと思っていたらグレイクはもう到着していた。
「よく眠れたかい?」
「はい…まぁ…」
「眠れたも何も。さっきまで熟睡でしたよ」
「それは良かった」
――お父様!ばらさないで!――
人は環境に感化されるというけれど、ルフィード伯爵は貧乏暮らしとなり肉体労働も余儀なくされてからは平民の従業員たちも仲良くやっていた。
気取った話し方をしたところで、周囲に壁を作るだけなので郷に入っては郷に従えとばかりに周囲に合わせる。お人好しで「この人大丈夫?」と思う事もあるが、周囲に馴染む、それがルフィード伯爵の処世術でもあった。
グレイクはファウスティーナの腰を下ろした椅子の隣にくると、その場で片膝をついた。
「何を聞いても不安だと思う。でもこれだけは信じて欲しい」
「何を信じろと仰るのです?」
「あなた達親子に幸せに暮らして欲しい。そう考えているという事を」
グレイクの目をじっと真っ直ぐに見返すファウスティーナだったが、その後のグレイクの話には母音しか口からでなくなってしまった。
ルフィード伯爵はファウスティーナが来るまでに話を聞いていたのか、頷くだけとなった。
「まず、マガリン王国を出ます。行き先はシュガバータ王国。国籍を取得するためにファウスティーナ嬢。貴女を私の妻とします」
「えっ?!」
「シュガバータ王国の法で国籍を取得できる唯一の方法になります。国民となればどんな状況で入国となったとしても国が守ってくれます。勿論、俺、いや私も命を賭して守ります」
「あ…。あ…えぇっ?!」
「身分としては申し訳ないのですが爵位などは持っていないので平民になりますが、2人を養うだけの金はあります。2人が住まう家もあります。安心してください」
「うぇっ?!」
ファウスティーナはルフィード伯爵とグレイクを交互にみるものの、頷くだけのルフィード伯爵は役に立ちそうにない。
グレイクの事は嫌いではないが、今までに感じなかった不信感もある。
こうするのが最善策であり、決まってしまっているらしいと頭では解っても理解が追いつかない。
「昨日も今日も頭の中が大騒動だと思う。3年だけ辛抱してくれないだろうか。3年経てば離縁も出来る。その時君は19歳だ。シュガバータ王国で新しい伴侶を見つけて幸せになる事も十分にできる年齢だ。周りにも何も言わせないようにする。離縁をしても生活の面倒はみるから何も心配しなくていい」
あぅあぅと口をはくはくするだけのファウスティーナだったが、グレイクは片膝をついた姿勢から両ひざをつき、「ルフィード伯爵」名を呼ぶとそのまま頭を下げた。
「グ、グレイク君。頭をあげてくれ」
「いいえ。お2人揃ったので‥‥謝罪をしたいと」
「謝罪?何の?謝られるような事は――」
「しているんです。謝って済む事ではありません。謝罪と言っても自己満足に過ぎませんが」
顔をあげたグレイクは、ルフィード伯爵とファウスティーナを見て小さく息を吐く。
「ご子息ニコライ殿の件です」
「ニコライの?」
「はい。お気づきだと思いますが、私の仕事は…諜報員です」
「ちょ、チョ、諜報員ッ?!…あ、そうじゃないかなと思ってはいたが…(きょろきょろ)良いのかい?言ってしまっても」
「ダメですね。あはは」
「あははじゃなくて。誰かに聞かれたら!」
「ここには仲間は来ていません。それに仲間にも伝える事は話をしていますので」
国に連れて行くと決めた時、グレイクは全てを打ち明ける覚悟を決めた。
諜報員である事も、ニコライの処刑についてその原因を作った事の一旦は自分にある事も全て。機密にもあたることだが、自分たちの遂行する計画で目の前の2人は家族を失った。そして立場も奪われてしまった。
グレイクは2人には知る権利、いや義務があると考えたのだ。
全てを言い終わった時、ルフィード伯爵は「そうですか」とだけ言って窓の外を見た。
顔はあげているもののグレイクはファウスティーナを見る事が出来なかった。
兄の仇とも言える男の妻にならねばならない。マガリン王国に残った方がマシだと言われてもおかしくなかった。
「お兄様は…なるべくしてなっただけです…グレイクさんが責任を感じる事はないかと。だけど…嘘を吐いてたのは‥‥嫌でした」
絞り出すような声にグレイクは「申し訳ございませんでした」もう一度頭を下げた。
「ファティ。仕方がないよ。諜報員とはそういうものだ」
「でもっ!嘘までつかなくてもいいじゃない!」
「そうだ。だから彼は全てを話してくれたんだ。騙し通す事だって出来たと思うよ」
「嫌なの!何処までが本当で何処からが嘘なのか!判らないんだもの!」
「だとしても彼は私達を命懸けで助けてくれた。嘘は確かに良くない事だが全部が嘘じゃない」
「そうよ!だから嫌なの!嘘を吐くなら突き通してよ!騙されたままの方がずっと良かった!」
キッ!ファウスティーナがグレイクを睨んだ。
「もういい。ちょっと1人にして!」
ファウスティーナは先ほどまでいた部屋に戻ると閉じた扉を背に座り込んだ。
胸の中がもやもやするし、頭の中は昨日と今日で情報過多。
悔しいのか、哀しいのか、情けないのかもごちゃごちゃになってしまい、握った手で何度も床を叩いた。
「よく眠れたかい?」
「はい…まぁ…」
「眠れたも何も。さっきまで熟睡でしたよ」
「それは良かった」
――お父様!ばらさないで!――
人は環境に感化されるというけれど、ルフィード伯爵は貧乏暮らしとなり肉体労働も余儀なくされてからは平民の従業員たちも仲良くやっていた。
気取った話し方をしたところで、周囲に壁を作るだけなので郷に入っては郷に従えとばかりに周囲に合わせる。お人好しで「この人大丈夫?」と思う事もあるが、周囲に馴染む、それがルフィード伯爵の処世術でもあった。
グレイクはファウスティーナの腰を下ろした椅子の隣にくると、その場で片膝をついた。
「何を聞いても不安だと思う。でもこれだけは信じて欲しい」
「何を信じろと仰るのです?」
「あなた達親子に幸せに暮らして欲しい。そう考えているという事を」
グレイクの目をじっと真っ直ぐに見返すファウスティーナだったが、その後のグレイクの話には母音しか口からでなくなってしまった。
ルフィード伯爵はファウスティーナが来るまでに話を聞いていたのか、頷くだけとなった。
「まず、マガリン王国を出ます。行き先はシュガバータ王国。国籍を取得するためにファウスティーナ嬢。貴女を私の妻とします」
「えっ?!」
「シュガバータ王国の法で国籍を取得できる唯一の方法になります。国民となればどんな状況で入国となったとしても国が守ってくれます。勿論、俺、いや私も命を賭して守ります」
「あ…。あ…えぇっ?!」
「身分としては申し訳ないのですが爵位などは持っていないので平民になりますが、2人を養うだけの金はあります。2人が住まう家もあります。安心してください」
「うぇっ?!」
ファウスティーナはルフィード伯爵とグレイクを交互にみるものの、頷くだけのルフィード伯爵は役に立ちそうにない。
グレイクの事は嫌いではないが、今までに感じなかった不信感もある。
こうするのが最善策であり、決まってしまっているらしいと頭では解っても理解が追いつかない。
「昨日も今日も頭の中が大騒動だと思う。3年だけ辛抱してくれないだろうか。3年経てば離縁も出来る。その時君は19歳だ。シュガバータ王国で新しい伴侶を見つけて幸せになる事も十分にできる年齢だ。周りにも何も言わせないようにする。離縁をしても生活の面倒はみるから何も心配しなくていい」
あぅあぅと口をはくはくするだけのファウスティーナだったが、グレイクは片膝をついた姿勢から両ひざをつき、「ルフィード伯爵」名を呼ぶとそのまま頭を下げた。
「グ、グレイク君。頭をあげてくれ」
「いいえ。お2人揃ったので‥‥謝罪をしたいと」
「謝罪?何の?謝られるような事は――」
「しているんです。謝って済む事ではありません。謝罪と言っても自己満足に過ぎませんが」
顔をあげたグレイクは、ルフィード伯爵とファウスティーナを見て小さく息を吐く。
「ご子息ニコライ殿の件です」
「ニコライの?」
「はい。お気づきだと思いますが、私の仕事は…諜報員です」
「ちょ、チョ、諜報員ッ?!…あ、そうじゃないかなと思ってはいたが…(きょろきょろ)良いのかい?言ってしまっても」
「ダメですね。あはは」
「あははじゃなくて。誰かに聞かれたら!」
「ここには仲間は来ていません。それに仲間にも伝える事は話をしていますので」
国に連れて行くと決めた時、グレイクは全てを打ち明ける覚悟を決めた。
諜報員である事も、ニコライの処刑についてその原因を作った事の一旦は自分にある事も全て。機密にもあたることだが、自分たちの遂行する計画で目の前の2人は家族を失った。そして立場も奪われてしまった。
グレイクは2人には知る権利、いや義務があると考えたのだ。
全てを言い終わった時、ルフィード伯爵は「そうですか」とだけ言って窓の外を見た。
顔はあげているもののグレイクはファウスティーナを見る事が出来なかった。
兄の仇とも言える男の妻にならねばならない。マガリン王国に残った方がマシだと言われてもおかしくなかった。
「お兄様は…なるべくしてなっただけです…グレイクさんが責任を感じる事はないかと。だけど…嘘を吐いてたのは‥‥嫌でした」
絞り出すような声にグレイクは「申し訳ございませんでした」もう一度頭を下げた。
「ファティ。仕方がないよ。諜報員とはそういうものだ」
「でもっ!嘘までつかなくてもいいじゃない!」
「そうだ。だから彼は全てを話してくれたんだ。騙し通す事だって出来たと思うよ」
「嫌なの!何処までが本当で何処からが嘘なのか!判らないんだもの!」
「だとしても彼は私達を命懸けで助けてくれた。嘘は確かに良くない事だが全部が嘘じゃない」
「そうよ!だから嫌なの!嘘を吐くなら突き通してよ!騙されたままの方がずっと良かった!」
キッ!ファウスティーナがグレイクを睨んだ。
「もういい。ちょっと1人にして!」
ファウスティーナは先ほどまでいた部屋に戻ると閉じた扉を背に座り込んだ。
胸の中がもやもやするし、頭の中は昨日と今日で情報過多。
悔しいのか、哀しいのか、情けないのかもごちゃごちゃになってしまい、握った手で何度も床を叩いた。
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