所詮、愛を教えられない女ですから

cyaru

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第11話   従兄からの結婚祝い

婚約が正式に結ばれて以来、辺境の地にはウォレスに祝いだからと属国の大使やら王族がやって来る日が増えた。属国となった国は国力に乏しいからこそ礼儀を尽くす事で返ってくるメリットを良く知っている。

皇帝となればどのような式典であっても大規模な式典となるため、皇子や皇女であるうちに全員が結婚をする。そうすれば帝国なのに?と思われるくらい質素な式で済む。

勿論目的がある。表向きは質素倹約をモットーとしているように見えるため民衆のウケも良い。本音は違うところにある。その土地を治めることを任されている者が不在の間に何があるか判らないと言う事と、皇族入りをしてくる者達の必要以上な面割れをしないため。

ジャクリーンは比較的顔が売れている部類にはなるが、それでも王太子の婚約者であり公爵令嬢に過ぎず全員が顔を知っている訳ではない。

勿論護衛は何処かに潜んではいるものの自由に活動できるように目立ったお披露目はしない。そうする事で守られる事もあるし、相手がうっかり者の場合はまさか!の相手になるので、知られていない場合は格下の扱いを受けることにもなるが本音を溢しやすくもなる。

ウォレスとジャクリーンの結婚式も教会でひっそりと行わる予定になっていて出席者も僅か。どこの教会で行うかも発表はされていない。これも警備を少なくさせる意味もあるが、人が増えれば紛れ込むヤカラも多くなるので警戒しての事。


この日やって来たのは海の向こう、カスタード王国の王弟でラカント。
平民で魚の養殖業を生業とする妻を持つ変わった王弟だが、悩みの種だった火山の噴火で積もり積もった火山灰などを主産業として高品質なセラミックを売りにしている世界屈指の富める国でもあるカスタード王国。

なのに‥‥どさっと置かれた品は。

「とっても便利なんですよ」
「使い捨てか…肌に影響があるんじゃないのか?」
「それがですね。高分子吸収体‥あぁっとこれは企業秘密なんですけども、水分をがっちり掴んで離しません。濡れた感じもないので乳幼児の育児や介護をされる方から大好評!で、こちらの粉ミルク。これもお出掛けに便利と好評を頂いてます。液体ミルクを開発中なんですけども保管する容器の輸送中の温度!これが問題でしてね~」


王弟なのに!王族なのにまるで屋台でバナナやソーセージの試食をさせる売り子のような気安さで勧める紙おむつ。

王族とは思えない気安さは一夜にして莫大な資産を築いた国と言ってもいいので長い極貧時代で培った思い「気取っていても仕方ない」がモットーらしい。

しかし、まだ婚約中で子供もいないし介護が必要な者をウォレスは介護をした事が無いのでピンとこない。

「そんな殿下にはコレ!如何ですか!」
「な、なんだこれは!?」
「愛を語れ!バンバラバン号ザッツ改!サイドシートの揺れも極限まで押さえました。時速30キロまで出ますので遠くにお出掛けをするのに便利です」

サイドカー付きハイパーカブだった。

聞けば周辺に住まう民衆たちは「生涯一度の王都見物」だと言って王宮内も自由に出入りできる区画を観光していく。初代バンバラバン号はそんな王宮内に展示されていて今も仲睦まじい国王夫妻を取り持った乗り物として崇められている。

「だが、問題がある。燃料が我が帝国にはない」
「走らなくてもいいんです。2人がシートにそれぞれ座り愛を語りあう!そうしないとエンジン音で声が聞えませんから」

――ならベンチで良いんじゃないか?――

ウォレスがそう思うのは仕方がない。

「って、販促はここまでなんですけども、ジャクリーン様と婚約おめでとうございます」
「彼女を知っているのか?」
「えぇ。実はジャクリーン様とは面識がないのですが従兄のエヴァン様とは交流が御座います。そのエヴァン様からお声掛け頂きましてね。ジャクリーン様が帝国幸せに暮らせるようにと」
「そんなに親密な関係なのか?」
「会うのは数年に1度程度だったそうですけども、今回のご縁の経緯でエヴァン様がオコット公爵家を継ぐ事になりましたが、ジャクリーン様の事は気にかけておられましたので」


エヴァン、エヴァンと報告書を思い出してみれば、今回の騒動で玉突き式に公爵家を継ぐ事になり、手掛けていた事業、医療で使用する麻酔薬となる薬草の開発が止まった、いや廃止になっていた事を思い出した。

帝国内では「人類の大損失」として帝国で支援できないかと軍部からは声が上がっている。しかし未だに属国ではない国でもあり、属国だとしても1つの子爵家を支援する事は出来なかった。

それを内々であれ既に行っていたカスタード王国。
ウォレスは驚きを隠せなかった。

「国として支援するとなれば仰々しすぎないか?」
「そんな事はありません。麻酔は正しく使えば人類に大きな貢献をするもの。我がカスタードは火山の噴火が絶えません。熱風や噴石などで大火傷、大怪我を負った者の治療には必要不可欠なんです。なのでエヴァン様には支援をしていたんですけども大っぴらにしてしまうと…ほら、問題もあるでしょう?」

ジャクリーンの従兄であるエヴァンは父親こそオコット公爵家の出自だが現公爵の策略で公爵家からは籍を抜かれてしまい、身を寄せた母方の祖父が持つ子爵家を継いだ。

その際でも実家の公爵家からは「逃げた癖に」と非難囂囂ひなんごうごう

1日で進んだかどうかも判らない研究は毎日が失敗の連続。
それを海の向こうの国とは言えカスタード王国が支援しているとなれば兄の顔を潰すのは必須で公表する事はわざわざ妬みの種を蒔くに等しい。


「エヴァン様は公爵家を継いでもこの開発については国に報告するつもりはないようです。まぁ…過去にエヴァン様の父君の受けた仕打ちからすれば致し方ないでしょうね。カスタードが支援をして研究を続けるのならその権利はジャクリーン様に結婚祝いとして譲渡するそうですから、殿下、貴方の意向を伺いに来たのですよ」

ウォレスが調べさせても判らなかったのはそれだけ子爵家が相当に秘密を秘密としていたからに他ならない。知らなかったとしてもサジェス王国はとんでもないお宝をフイにした。

そしてとてつもない結婚祝いを引っ提げてジャクリーンが輿入れしてくる。

遠回しに、そしてボカしてはいるがラカントは「帝国と手を結んでもいい」と言っている。

「前向きに対応をする。すまないがジャクリーン嬢への贈り物なら私が勝手に判断していい訳ではないのでな」
「勿論。海を越えて来た甲斐のあるご返答に感謝を」

ラカントが「また来ます」と屋敷を去ったあと、ウォレスは盛大な溜息を吐いた。

「俺の嫁・・・凄すぎるんじゃ・・・」

下手をするとジャクリーンを娶るウォレスが次の皇帝に推されるかも知れない。
完全実力主義の帝国でウォレスが一番面倒臭いと思っていた皇帝の玉座。

「いや、あれはクッション性が良くない。要らないな…でも要るって言うかな」

ジャクリーンが「皇妃になりたい」というのなら、なってもいい。

取り敢えずは聞いてみようと手紙に書こうとしたが、届けられる保証が確実ではない手紙。ウォレスはジャクリーンがやって来た時まで今日の事は胸のうちに留める事としたのだった。
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