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第19話 素直になればいいのに
週に一度の休日は休日であって休日ではない。
各地を回らなくていい日、ライネルはノコギリや鉈を手にして教会に植えられている植木の剪定を行っていた。休憩をする事も忘れて作業に没頭するのがいつものことだが、この日は違った。
何時まで経ってもシェイナが来ない。
すっかり日も暮れて使った道具を片付けて神父も休憩に使用する部屋に行くと見慣れた袋がテーブルの上に置かれていた。
「あの…エスラトさんはもう?」
「そうですね。1時間程前だったでしょうか」
「そう…ですか」
週に一度の楽しみが無くなったようで肩を落としたライネルに神父は袋から瓶に薬草を詰め替えながら教えてくれた。
「今日はシェイナさんではなく工房の職人さんが来られましてね」
「工房の?では彼女は病気?怪我?。。あ、他に用件が?」
「ご存じなかったのですか?」
「何をです?」
シェイナがチャールズに公衆の面前で求婚をされた日。ライネルは3つ離れた街まで出向いていた。教会に戻ってきたのは今日。日付が変わった真夜中の事だった。
「急いで帰らなくても代休にしますよ」と言われたのだが、自分は代休で休みを貰ってもシェイナが来る日とズレてしまっては意味がないと急いで自動車を走らせてもらった。
疲れ知らずの自動車と言っても燃費は決して良いとは言えず、燃料となる有鉛ガソリンを常備している休憩所の数も少ない。取り扱いには慎重さを求められるため何処にでも置いておけないのである。
「今日はもう営業は終わった」という有鉛ガソリンを置かせてもらっている小さな商店の閉じた扉を叩きまくって店主に無理を言って補給しながら戻って来たのだ。
「どうやら慰謝料で揉めている元婚約者に何かされたか、言われたか。詳しくは人伝になりますし、どこまでが本当か判らないので聞かなかったのですが、何かあったのは確かなようです。職人が当面は代理で薬草を持って来ると申しておりましたし」
神父も結構騒ぎにはなったので、噂くらいは聞いただろうと思っていたのだが、他人の噂には全く興味のないライネルは「何か話しているな」程度だったのだ。
神父は「一人娘なのでご両親も心配で外に出さないのでしょう」と言ったが、ライネルは激しく後悔した。
――どうして俺はそんな大事な時に遠い街まで行ってたんだ!――
それからはうっかり捕らえられて檻の中でウロウロするクマのようにライネルは部屋の中を行ったり来たり。
「心配ですか?」神父が問えば「そんなことは」と言いながらまたウロウロ。
堪り兼ねて「お使いをお願いします。出来れば急いで」とすっかり陽も落ちているのに神父に「エスラト家に届けてください」とお使いを頼まれてしまった。
「これは…なんです?」
「彼女に教えてもらったカモミールティーです。上手く出来たので」
そう言えば国にいた頃、家令が淹れてくれたとほんのり茶葉から香る匂いにライネルはホッとした気持ちになった。
家令はライネルに庭木の剪定をしながら色んなことを教えてくれた。
もっぱら「我慢の仕方」だったのだが、思い込んで突っ走ってしまうライネルは全てを失った後、随分と助けられた。
今も国に帰れば小さな屋敷となったが「留守番をして待っています」と家を守ってくれている。
茶葉の香りに家令を思い出しつつもライネルは支度を済ませると教会を飛び出して行った。
「心配だと素直になればいいのに」
神父は残りの茶葉を袋から瓶にまた詰め替え始めた。
各地を回らなくていい日、ライネルはノコギリや鉈を手にして教会に植えられている植木の剪定を行っていた。休憩をする事も忘れて作業に没頭するのがいつものことだが、この日は違った。
何時まで経ってもシェイナが来ない。
すっかり日も暮れて使った道具を片付けて神父も休憩に使用する部屋に行くと見慣れた袋がテーブルの上に置かれていた。
「あの…エスラトさんはもう?」
「そうですね。1時間程前だったでしょうか」
「そう…ですか」
週に一度の楽しみが無くなったようで肩を落としたライネルに神父は袋から瓶に薬草を詰め替えながら教えてくれた。
「今日はシェイナさんではなく工房の職人さんが来られましてね」
「工房の?では彼女は病気?怪我?。。あ、他に用件が?」
「ご存じなかったのですか?」
「何をです?」
シェイナがチャールズに公衆の面前で求婚をされた日。ライネルは3つ離れた街まで出向いていた。教会に戻ってきたのは今日。日付が変わった真夜中の事だった。
「急いで帰らなくても代休にしますよ」と言われたのだが、自分は代休で休みを貰ってもシェイナが来る日とズレてしまっては意味がないと急いで自動車を走らせてもらった。
疲れ知らずの自動車と言っても燃費は決して良いとは言えず、燃料となる有鉛ガソリンを常備している休憩所の数も少ない。取り扱いには慎重さを求められるため何処にでも置いておけないのである。
「今日はもう営業は終わった」という有鉛ガソリンを置かせてもらっている小さな商店の閉じた扉を叩きまくって店主に無理を言って補給しながら戻って来たのだ。
「どうやら慰謝料で揉めている元婚約者に何かされたか、言われたか。詳しくは人伝になりますし、どこまでが本当か判らないので聞かなかったのですが、何かあったのは確かなようです。職人が当面は代理で薬草を持って来ると申しておりましたし」
神父も結構騒ぎにはなったので、噂くらいは聞いただろうと思っていたのだが、他人の噂には全く興味のないライネルは「何か話しているな」程度だったのだ。
神父は「一人娘なのでご両親も心配で外に出さないのでしょう」と言ったが、ライネルは激しく後悔した。
――どうして俺はそんな大事な時に遠い街まで行ってたんだ!――
それからはうっかり捕らえられて檻の中でウロウロするクマのようにライネルは部屋の中を行ったり来たり。
「心配ですか?」神父が問えば「そんなことは」と言いながらまたウロウロ。
堪り兼ねて「お使いをお願いします。出来れば急いで」とすっかり陽も落ちているのに神父に「エスラト家に届けてください」とお使いを頼まれてしまった。
「これは…なんです?」
「彼女に教えてもらったカモミールティーです。上手く出来たので」
そう言えば国にいた頃、家令が淹れてくれたとほんのり茶葉から香る匂いにライネルはホッとした気持ちになった。
家令はライネルに庭木の剪定をしながら色んなことを教えてくれた。
もっぱら「我慢の仕方」だったのだが、思い込んで突っ走ってしまうライネルは全てを失った後、随分と助けられた。
今も国に帰れば小さな屋敷となったが「留守番をして待っています」と家を守ってくれている。
茶葉の香りに家令を思い出しつつもライネルは支度を済ませると教会を飛び出して行った。
「心配だと素直になればいいのに」
神父は残りの茶葉を袋から瓶にまた詰め替え始めた。
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