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第28話 食えない王太子
レブレス王国が無理な事を条件に出したのにも意味があった。関税や通行税を必要以上に下げ過ぎた。ウェルシェスは単なる窓口であり、レブレス王国としてもうまい具合にウェルシェスの提示するところで首を縦に振ってきたのだが、流石に下げ過ぎとレブレス王国内で問題になった。
それだけウェルシェスの交渉術が長けていたと言えなくもない。
若さ故なのか、重鎮であれば「お互い様」と避けて通る事案も痛いところに平気で切り込んでくるのでいつもレブレス王国の使者は押されっぱなしで主導権はウェルシェス率いるマルスグレット王国が握ってしまっていたのである。
あの夕食会の翌日の会合では関税、通行税を先ずは一気に25%まで引き上げる案を出すことになっていた。当然拒否される事を前提としての数字である。
そこからマルスグレット王国に恩を着せるようにして下げ交渉に応じ、最終的に12%を飲ませようと考えていた。
が、ライラがやらかしてくれたのだ。その上、ライラを処分するかと思えば処分されたのはウェルシェス。聞いた時はレブレス王国の人間も大層驚いたものだ。
宗教が絡めば強気に出られるので国交断絶というカードを切ったのだ。
その上で探せるはずがないとして、ウェルシェスがいないのならと関税を25%まで引き上げる案を飲ませようと考えていた。
レブレス王国もライラが重鎮を怒らせてくれた事には正直、笑いが止まらなかった。
「殿下、私はもう側妃ではないので国同士が行う事に発言をする権利は御座いません。しかし25%となれば単純に価格の4分の1が上乗せになります。輸送を考えれば3分の1、いえ半分の税を価格に上乗せせねば商人も利益が無くなります。現在の水準は確かに低いのですが25%は…」
「うん。あんまりな数字だと解っているよ」
「でしたら…そうですね。せめて15%か12%で手を打って頂けませんか。これはマルスグレット王国の1国民としての言葉ですので、聞き流して頂いても構いませんけれど」
王太子はニヤリと笑う。
――うっ。何か考えているわね?本当に鼻持ちならないんだから――
レブレス王国の王太子はズルいのだ。尤もそれが交渉術でもあるので如何に相手に弱みを見せず、逆に握るかが勝負でもある。
「聞いたよ。ハネース王国に薬草を卸したそうじゃないか」
「えぇ、その時に叔母からこの件を聞きましたので。知っていたのに知らないふりとは。殿下もお人が悪いですわ」
「ウェリーが嘘を言うとは思ってないよ。ただね…取引には使えるかなって思ってさ」
「なんでしょう?」
「これはウェリーよりもタビュレン子爵、君の方が適任かな?」
「え?私ですか?!」
突然話を振られたベールジアンはまさか矛先が向くとは思っておらず、ずっと王太子を睨んでしまっていた。
「タビュレン子爵領ではキョウチクトウが自生しているんじゃないのか?」
「キョウチクトウですか?」
「知ってるじゃないか。そうだよ」
「あるにはありますが…あれは毒なので…」
「うん。毒だね。でも使い方を間違わなければ薬になる。ただ大陸のほとんどの地域では絶滅種でね。どうだろう。交換条件にキョウチクトウを回してくれないか?それで15%までこちらは譲歩するが?」
ベールジアンは悩んだ。キョウチクトウは有毒な植物で花も枝も根も全てが猛毒。大昔、アーレキザンドル大王の小隊がキョウチクトウの枝を使って串焼きを作り、食して全滅という故事も有名である。厄介な植物で燃やしてしまったその煙ですら有毒なのでうっかりと焼却することも出来ない。
領地でも見つけたら出来るだけ触れないようにしているが、あんなものを欲しがる目の前の王太子の趣味を疑う。
「平和利用してくださるという確約があれば…。人や生き物を殺すためには使って欲しくないので」
「研究だよ。細かい事は気にしなくていいよ」
「気にします!先ほども言ったように毒ですから」
「毒を以て毒を制すとも言うだろう?研究をしない事には始まらない。でもどこを探してもキョウチクトウは見つからない。だ・け・ど、タビュレン子爵領にはある。そしてキョウチクトウを回してくれればこちらも誠意を見せる事が出来る。元側妃ウェルシェスは無関係。これはタビュレン子爵とレブレス王国との取引だ。それだけで君は英雄だよ?だってレブレス王国を引かせることが出来るんだから」
「殿下!こんなことに夫を巻き込まないでくださいませ!!」
「え?夫?結婚したの?!あら~おめでとう」
まさかベールジアンが巻き込まれるとは思ってみなかったウェルシェスは声を荒げた。
タビュレン子爵領に自生するキョウチクトウを知っているのに結婚と思われても仕方のない生活を知らなかったとは言わせない。間違いなく知っていて取引をしようとしているのだ。ウェルシェスはそれが許せなかった。
しかし、ベールジアンは「解りました」と答えた。
「ただし、平和利用に特化してください。これは譲れません。正直、私には関税も何も関係ありません。妻の憂いとなるような取引はしたくない。それだけです。飲めないのであれば税率は100%でも500%でもご自由に」
ベールジアンも賭けだった。
百戦錬磨の王太子には心のうちまで読まれている、そんな気もしたがキョウチクトウを欲しがっているのだけは紛れもない事実だと読んだ。
「あははっ。よし。契約成立だ。ウェリーには散々泣かされたから結婚祝いに税率は15%にしておくよ」
もしかすると税率の引き上げも事実だっただろうが、本当の目的はキョウチクトウ?そんな気もした。しかしそこまで深読みをさせてくれる相手ではない。
ここが引きどころ、落としどころだとお互い手を打ったのだった。
それだけウェルシェスの交渉術が長けていたと言えなくもない。
若さ故なのか、重鎮であれば「お互い様」と避けて通る事案も痛いところに平気で切り込んでくるのでいつもレブレス王国の使者は押されっぱなしで主導権はウェルシェス率いるマルスグレット王国が握ってしまっていたのである。
あの夕食会の翌日の会合では関税、通行税を先ずは一気に25%まで引き上げる案を出すことになっていた。当然拒否される事を前提としての数字である。
そこからマルスグレット王国に恩を着せるようにして下げ交渉に応じ、最終的に12%を飲ませようと考えていた。
が、ライラがやらかしてくれたのだ。その上、ライラを処分するかと思えば処分されたのはウェルシェス。聞いた時はレブレス王国の人間も大層驚いたものだ。
宗教が絡めば強気に出られるので国交断絶というカードを切ったのだ。
その上で探せるはずがないとして、ウェルシェスがいないのならと関税を25%まで引き上げる案を飲ませようと考えていた。
レブレス王国もライラが重鎮を怒らせてくれた事には正直、笑いが止まらなかった。
「殿下、私はもう側妃ではないので国同士が行う事に発言をする権利は御座いません。しかし25%となれば単純に価格の4分の1が上乗せになります。輸送を考えれば3分の1、いえ半分の税を価格に上乗せせねば商人も利益が無くなります。現在の水準は確かに低いのですが25%は…」
「うん。あんまりな数字だと解っているよ」
「でしたら…そうですね。せめて15%か12%で手を打って頂けませんか。これはマルスグレット王国の1国民としての言葉ですので、聞き流して頂いても構いませんけれど」
王太子はニヤリと笑う。
――うっ。何か考えているわね?本当に鼻持ちならないんだから――
レブレス王国の王太子はズルいのだ。尤もそれが交渉術でもあるので如何に相手に弱みを見せず、逆に握るかが勝負でもある。
「聞いたよ。ハネース王国に薬草を卸したそうじゃないか」
「えぇ、その時に叔母からこの件を聞きましたので。知っていたのに知らないふりとは。殿下もお人が悪いですわ」
「ウェリーが嘘を言うとは思ってないよ。ただね…取引には使えるかなって思ってさ」
「なんでしょう?」
「これはウェリーよりもタビュレン子爵、君の方が適任かな?」
「え?私ですか?!」
突然話を振られたベールジアンはまさか矛先が向くとは思っておらず、ずっと王太子を睨んでしまっていた。
「タビュレン子爵領ではキョウチクトウが自生しているんじゃないのか?」
「キョウチクトウですか?」
「知ってるじゃないか。そうだよ」
「あるにはありますが…あれは毒なので…」
「うん。毒だね。でも使い方を間違わなければ薬になる。ただ大陸のほとんどの地域では絶滅種でね。どうだろう。交換条件にキョウチクトウを回してくれないか?それで15%までこちらは譲歩するが?」
ベールジアンは悩んだ。キョウチクトウは有毒な植物で花も枝も根も全てが猛毒。大昔、アーレキザンドル大王の小隊がキョウチクトウの枝を使って串焼きを作り、食して全滅という故事も有名である。厄介な植物で燃やしてしまったその煙ですら有毒なのでうっかりと焼却することも出来ない。
領地でも見つけたら出来るだけ触れないようにしているが、あんなものを欲しがる目の前の王太子の趣味を疑う。
「平和利用してくださるという確約があれば…。人や生き物を殺すためには使って欲しくないので」
「研究だよ。細かい事は気にしなくていいよ」
「気にします!先ほども言ったように毒ですから」
「毒を以て毒を制すとも言うだろう?研究をしない事には始まらない。でもどこを探してもキョウチクトウは見つからない。だ・け・ど、タビュレン子爵領にはある。そしてキョウチクトウを回してくれればこちらも誠意を見せる事が出来る。元側妃ウェルシェスは無関係。これはタビュレン子爵とレブレス王国との取引だ。それだけで君は英雄だよ?だってレブレス王国を引かせることが出来るんだから」
「殿下!こんなことに夫を巻き込まないでくださいませ!!」
「え?夫?結婚したの?!あら~おめでとう」
まさかベールジアンが巻き込まれるとは思ってみなかったウェルシェスは声を荒げた。
タビュレン子爵領に自生するキョウチクトウを知っているのに結婚と思われても仕方のない生活を知らなかったとは言わせない。間違いなく知っていて取引をしようとしているのだ。ウェルシェスはそれが許せなかった。
しかし、ベールジアンは「解りました」と答えた。
「ただし、平和利用に特化してください。これは譲れません。正直、私には関税も何も関係ありません。妻の憂いとなるような取引はしたくない。それだけです。飲めないのであれば税率は100%でも500%でもご自由に」
ベールジアンも賭けだった。
百戦錬磨の王太子には心のうちまで読まれている、そんな気もしたがキョウチクトウを欲しがっているのだけは紛れもない事実だと読んだ。
「あははっ。よし。契約成立だ。ウェリーには散々泣かされたから結婚祝いに税率は15%にしておくよ」
もしかすると税率の引き上げも事実だっただろうが、本当の目的はキョウチクトウ?そんな気もした。しかしそこまで深読みをさせてくれる相手ではない。
ここが引きどころ、落としどころだとお互い手を打ったのだった。
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