戦闘狂と呼ばれる男に嫁ぎたくなくて逃げたはずなのに何故か溺愛されている奥様になっていた

cyaru

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第06話  どうしてそんなに賢いんだ

その頃、リーム家ではキャサリンが居なくなったことで大騒ぎになっていた。

「探せ!探すんだ!来週にはマッスル家から迎えが来るんだぞ?いません、逃げましたなんて言える訳がない!支度金も半分はもう支払われているんだ。返せと言われても返す金が何処にあるんだ!」

屋敷の外は勿論の事、外に逃げたと見せかけて敷地内に潜んでいるのでは?と庭の木を切り倒す勢いで庭を探し、壁の板も外して家の中を調べるもキャサリンの姿はない。

壁の時計の針の位置を見て刻一刻と迫る迎えのやってくる日が近づいてくることにリーム伯爵は息をするのもようようになった。

「あなた、大丈夫?誰か!お医者様を!」
「医者なんかいい!医者を呼ぶ暇があるならキャサリンを探すんだ!」
「もう。慌てないで」
「慌てずにいられるものか!お前はよくそんな暢気に構えていられるな」
「そりゃそうですわ。あの子がいなくなったところでどうってことありませんもの」

夫人の言葉にリーム伯爵は鳩が豆鉄砲を食ったような顔になった。
既に支払われている支度金の事を考えれば落ち着いていられるはずがない。経営に何の問題も無かったとしても使い込んだ金は行き交う人にまで頭を下げて回っても用意できる額ではないと言うのに。

落ち着き払った夫人は優雅に茶を飲み、リーム伯爵に「まぁ、お座りなさいな」とソファにいざなった。


実のところ夫人はキャサリンが逃げ出すかもしれない事は想定済みだったし、貴族の娘が1人街に飛び出したところで生き抜けるはずもない。なんなら人買いに攫われようが野垂れ死にしようがどうでも良かった。

政略結婚で仕方がないとは言え、愛する男が他の女に産ませた子供だと思うと苛立って仕方がなかった。

(私の幸せを邪魔するんじゃないわよ!)

悪阻を理由に先妻を領地に追いやることを提案したのも長期間に渡り夫婦としての実態がなければ離縁の理由になると聞いたから夫にそっとレクチャーした。

予定に反し長い日数が必要になったのは、ビッグマウスなくせに小心者の夫が領地で先妻が不自由を理由に実家に知らせでもすれば面倒なことになると領地に送った初年は毎月かなりの額を送金していたからだ。

事実を知ってからは帳簿の額はそのままに実際送金する額は年々減らして最後は20分の1までにした。

先妻の実家からは何度も「妹が金を貸してくれと言ってきている」と抗議を受けたが帳簿を見せた。

『散財が過ぎるのはその妹だ』

先妻の実家は中堅よりも少し下位の子爵家で調べようにも伝手も金もない。食い扶持を減らし家に金を齎すのが娘の役目で出戻られては堪らないと考えたのか何も言って来なくなった。

夫宛に使用人への給金も払えないと何度も手紙が来たが読ませる必要もないので暖炉にくべた。

デビュタントの年齢になると先妻の子であろうがリーム伯爵の子供であることも間違いない。家のために嫁がせねばと王都に呼ぶことになったが、年齢の見合う子息になんてもったいない話。

夫人は率先して高齢者で妻と言う名の介護人を探している家を訪ね歩き、最初の婚約を取り付けてきた。相手が直前になって急逝したのは大誤算だったが、目の届くところで使用人以上にこき使い、日々襤褸雑巾のようにくたびれていくキャサリンの姿を見るのは心地よかった。

心配なのは美しき殺戮魔と呼ばれる恐ろしい男でも実の娘のエリアナよりも格上に嫁ぐのが腹立たしくて堪らなかった。

だから「どうせすぐに剣の錆となる。何を食べても一緒」と、キャサリンが日々無理やりに口の中に捻じ込まれるパンも泥のついた靴で踏みつけてペシャンコにしたし、沸騰させる前の井戸水を飲ませるよう指示した。

「どうしてそんなに落ち着いていられるんだ」
「もう、困った人。よく考えてみて?何のためにあの子をずっと領地に留め置いたのよ」
「なんのためって…」

君が呼び寄せるのを嫌がったからだとリーム伯爵は答えようと思ったが、それよりも先に夫人がネタ晴らしをした。

「王都に来て2年。社交もさせず基本は屋敷の中。外に出る時も使用人と寸分ない装い。誰があの子を伯爵令嬢だと認識できると思って?」
「それは…そうだが。とどのつまり…何が言いたいんだ?」
「本人かどうかなんて、貴方と私が ”この子がキャサリン” と言い張ればキャサリンなのよ。だってあの女はもう亡くなってるし、当時を知る使用人は1人もいない。さらには何の素養もない娘だと先手を打って相手は了承したのよ?」

何事もなくさも当然に言う夫人をリーム伯爵は恐ろしく思いながらも、行き当たる答えに顔を綻ばせた。

「つまり、身寄りのない使用人をキャサリンだと迎えに引き渡してもバレない?」
「ふふっ。でも使用人は止めておいたほうがいいわ。怯んで実は…と言い出しかねないもの」
「ならどうするんだ」
「実は年齢の見合う子、あたりは付けてあるの。ずっと探していた娘はお前だと言い含めて直ぐにでも引き取ればその子も実の親は貴族だったのだと勝手に思い込んでくれるわ」
「ジョアンナ…素晴らしいよ!」
「だから探さなくていいの。探すのは孤児のキャサリンよ」

ゲキを飛ばすことで熱くなり、胸のボタンもはだけたままのリーム伯爵の胸に夫人は指をクネクネと走らせれば色んな意味でリーム伯爵の頬はさらに赤くなった。

これで万事上手くいく。支度金も返さなくていいどころか伝えている年齢に見合う女を用意すれば残りの支度金も手に入る。

「あぁ、ジョアンナ。君はどうしてそんなにも賢いんだ。愛しているよ」

リーム伯爵は夫人を抱きしめ、体を少し離すと額にキスを落とし早速夫人とともに既に見つけてあると言う孤児の元に向かった。
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