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第31話 ダミー
2時間ほどで屋敷に戻ってきた夫人は馬車から降りる力も残っていなかった。
頼みの綱である私財はどうなったのかとリーム伯爵が駆け寄ると夫人は子供のように馬車の椅子に腰かけたまま声を上げて泣き出した。
「アァァー!どうぉしてぇぇ!!」
悔しさもあり、バシバシと叩く座面から書類が落ちるとリーム伯爵は鷲掴みにした。
その書面は売買ではなく、担保にしての借り入れで限度額いっぱいまで金を借りられていた。
絶望しかないリーム伯爵だったが、使用人たちもこのままでは帰れない。
「旦那様。いつまで待たせるんです?もう帰りたいんですけど」
「そうだ、そうだ!補填すると言ったじゃないか」
「俺たち何度も言いましたよね?鍵を付けてくれって!」
たとえそれが簡易なパドロックだったとしても人数分を壊す時間で誰がか気が付いたかもしれないが、後の祭りだ。
こうなれば最後に資産らしい資産を持つのはエレノアだけ。
よく考えればエレノアには幼い頃からかなり宝飾品を買い与えて来たし、なんなら夫人よりも高価な宝飾品を買ってきた。
(こうなったら嫌われても致し方ない)
リーム伯爵はエレノアの部屋に向かった。
「エレノア、開けなさい」
「嫌よ!私のものだもの!取って行く気でしょう?!」
「新しいのを買ってやるから」
「新しいのと持ってるのを一緒にしないで!」
エレノアは物欲が強くこれはこれ、あれはあれ、なので新しいものを買ってもらう事に対し、何かの補填なんて考えは微塵もない。形のある物は増えこそすれ減るなんてエレノアは考えてもいない。
唯一その法則が当てはまらないのは気持ちの補填。気持ちには実体がないからだ。
頑としてドアを開けないエレノアに苛立ったリーム伯爵はドアを思いきり蹴破った。
大きな音を立てて飛んでくる扉にエレノアの悲鳴が上がるが、部屋に入ったリーム伯爵は手当たり次第に金になりそうなものを袋に詰めていく。
「やめて!やめてよ!お父様!私の指輪っ!持っていかないで」
「五月蠅い!物乞いになるかも知れないんだぞ?これで凌げられれば今まで以上の生活になると言ってるのに何故判らない!このバカ娘ッ」
泣きじゃくり、縋るエレノアを突き飛ばしたリーム伯爵はクローゼットの中も、湯殿も全てひっくり返して宝飾品を袋詰めにすると買取店に急いだ。
「良いんですか?こんなに沢山」
「構わない。但し即金で頼む。足元を見るなよ?」
「当然です。しかし良い品を集めてますね。この4点セットなんて50万で買い取らせて頂きますよ」
「50万?もっと色を付けてくれないか」
「そうですねぇ。ベルベットの箱に入ってませんでした?箱があれば倍にはなるんですけどね。このテの宝飾品は現物と箱はセットのようなものなので」
「箱?箱も…判った。直ぐに持ってくる。査定を続けてくれ」
エレノアの部屋から持ってくる時に箱は邪魔だと全部中身だけを袋に詰めてしまった。まさか入れ物にも値が付くなんてリーム伯爵は思ってもみなかった。
急いで屋敷に戻るとめちゃくちゃになったエレノアの部屋から宝飾品が入っていたと思われる箱を片っ端から袋に詰め込み、買い取り店に戻って行った。
二度手間にはなったが、買取店の提示した金額はリーム伯爵も納得の金額となった。
「全部で2300万と85ハル。宜しいでしょうか」
「十分だ。早く金をくれ」
「えぇッとその前にこちらに署名を。あと買い取り金額が1千万を超えていますので貴族の方ですよね?貴族院発行の身分証明書若しくは印をお願いします」
「身分証明書?」
「えぇそうですよ。この時間だと貴族院はもう発行する部署が業務を終えているので印でもいいですよ」
リーム伯爵は困ってしまった。
頼みの綱である私財はどうなったのかとリーム伯爵が駆け寄ると夫人は子供のように馬車の椅子に腰かけたまま声を上げて泣き出した。
「アァァー!どうぉしてぇぇ!!」
悔しさもあり、バシバシと叩く座面から書類が落ちるとリーム伯爵は鷲掴みにした。
その書面は売買ではなく、担保にしての借り入れで限度額いっぱいまで金を借りられていた。
絶望しかないリーム伯爵だったが、使用人たちもこのままでは帰れない。
「旦那様。いつまで待たせるんです?もう帰りたいんですけど」
「そうだ、そうだ!補填すると言ったじゃないか」
「俺たち何度も言いましたよね?鍵を付けてくれって!」
たとえそれが簡易なパドロックだったとしても人数分を壊す時間で誰がか気が付いたかもしれないが、後の祭りだ。
こうなれば最後に資産らしい資産を持つのはエレノアだけ。
よく考えればエレノアには幼い頃からかなり宝飾品を買い与えて来たし、なんなら夫人よりも高価な宝飾品を買ってきた。
(こうなったら嫌われても致し方ない)
リーム伯爵はエレノアの部屋に向かった。
「エレノア、開けなさい」
「嫌よ!私のものだもの!取って行く気でしょう?!」
「新しいのを買ってやるから」
「新しいのと持ってるのを一緒にしないで!」
エレノアは物欲が強くこれはこれ、あれはあれ、なので新しいものを買ってもらう事に対し、何かの補填なんて考えは微塵もない。形のある物は増えこそすれ減るなんてエレノアは考えてもいない。
唯一その法則が当てはまらないのは気持ちの補填。気持ちには実体がないからだ。
頑としてドアを開けないエレノアに苛立ったリーム伯爵はドアを思いきり蹴破った。
大きな音を立てて飛んでくる扉にエレノアの悲鳴が上がるが、部屋に入ったリーム伯爵は手当たり次第に金になりそうなものを袋に詰めていく。
「やめて!やめてよ!お父様!私の指輪っ!持っていかないで」
「五月蠅い!物乞いになるかも知れないんだぞ?これで凌げられれば今まで以上の生活になると言ってるのに何故判らない!このバカ娘ッ」
泣きじゃくり、縋るエレノアを突き飛ばしたリーム伯爵はクローゼットの中も、湯殿も全てひっくり返して宝飾品を袋詰めにすると買取店に急いだ。
「良いんですか?こんなに沢山」
「構わない。但し即金で頼む。足元を見るなよ?」
「当然です。しかし良い品を集めてますね。この4点セットなんて50万で買い取らせて頂きますよ」
「50万?もっと色を付けてくれないか」
「そうですねぇ。ベルベットの箱に入ってませんでした?箱があれば倍にはなるんですけどね。このテの宝飾品は現物と箱はセットのようなものなので」
「箱?箱も…判った。直ぐに持ってくる。査定を続けてくれ」
エレノアの部屋から持ってくる時に箱は邪魔だと全部中身だけを袋に詰めてしまった。まさか入れ物にも値が付くなんてリーム伯爵は思ってもみなかった。
急いで屋敷に戻るとめちゃくちゃになったエレノアの部屋から宝飾品が入っていたと思われる箱を片っ端から袋に詰め込み、買い取り店に戻って行った。
二度手間にはなったが、買取店の提示した金額はリーム伯爵も納得の金額となった。
「全部で2300万と85ハル。宜しいでしょうか」
「十分だ。早く金をくれ」
「えぇッとその前にこちらに署名を。あと買い取り金額が1千万を超えていますので貴族の方ですよね?貴族院発行の身分証明書若しくは印をお願いします」
「身分証明書?」
「えぇそうですよ。この時間だと貴族院はもう発行する部署が業務を終えているので印でもいいですよ」
リーム伯爵は困ってしまった。
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