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21:ライム子爵への客人
付かず離れずの距離を保ち、アルバートと名乗る男性ともう一人の男性は言葉の通りライム子爵家の門の前で門番に馬を預け、自分たちはその場に断りをいれて座り込んだ。
動き出そうとする馬車に彼らと門番の話が聞こえてきた。
「カドリア王国から来たのですが、農地の改良について相談に乗って頂きたい事があるのです。ご挨拶だけでも構わないのですがお取次ぎ頂けませんか?」
「旦那様に問い合わせてみますが、先触れがないお客様とは会わない可能性もあります。それでも宜しければ」
「で、では、今日がダメでしたら何時なら?と先触れの代わりにはなりませんか?」
「そう言われましても…私達では返事は出来ません」
余りにも必死な様子に身を乗り出そうとする私をボンドが制する。
小さく首を横に振り、「NO」を示唆した。
他家の事なのだ。首を突っ込むのは宜しくない事は判っている。
だが、どうしてだろう。
私は彼らをエルドゥ様にあわせたほうがいい。そんな気がしたのだ。
「お嬢様、私は大大旦那様に御仕えし――」
「はいはい。判ってるわ。黙って座ってるわ」
「コホン。お判りであればよろしいのです」
動き出した馬車から彼らは直ぐに見えなくなった。
「アルバート。本当の名前だと思いますか?」
「さぁ。どうかしら。ただ普通は家名を名乗ると思わない?」
「合格点です。そう。名乗る際は先ず家名。なのに名前となれば怪しさしか御座いません。決して近づこうなんて思わないでくださいね」
しかし、馬車が玄関に付くとエルドゥ様が慌ただしく使用人に指示を出していた。
何事かと思えば、「待たせてはならない客人」だと彼らの事を告げたのだ。
御用は私ではなく彼らであれば、私とはもう会う事はないだろう。
私はエルドゥ様に挨拶を済ませ、カエラお姉様と甥っ子、姪っ子の元に向かった。
「よく来てくれたわ。ここに置いて行くにもどうかと言う物が沢山あるのよ」
各国を行商もするエルドゥ様は若い頃から各地の特産品を土産として買ってくる。
最初の数個は良いが数が増えれば置き場所にも困ると言う物。
そして何より困るのは誰かにあげようとしても貰い手がない事だ。
物で溢れ返った部屋をまだ幼い甥っ子や姪っ子は「探検」と称し荒らしていく。なので片付けが全然進まないため助っ人で呼ばれたのである。
自分の物であれば簡単に仕分けが出来るが、エルドゥ様はどれも行商の思い出があり棄てられないと言う。カエラお姉様は何でも捨てたがる性質なのだが、そこに夫婦の相違がある。
私はボンドと共に替えがないものは保留箱に詰めていく。これならば箱から出さない限り並べる手間も必要がない。箱に入ったままで1年を経過すればそのまま捨てればいいのだ。
1年経って用がなかったものはその先も用がない。
部屋の半分が片付き、あとはカエラお姉様で何とかできそうだと言うので私はボンドと茶を頂く。
そこに小躍りしながらエルドゥ様が飛び込んできた。
「エド、何なの?いい加減埃っぽいの。暴れないでくださる?」
「聞いてくれ!ユーグ商会にも直ぐに連絡を入れるがとてつもない契約が取れそうなんだ」
興奮しているエルドゥ様は「やった!」と天井を何度も仰ぎ見ながら両手を大きく広げた。
「ルディちゃんも聞いてくれよ!米の栽培で稲の紋枯病に悩まされてきたんだが、病気に強い稲の開発に資金援助を申し出てくれたんだ。農地も押さえてあると言うしこれから忙しくなるぞ!」
鼻から白い息が見えるんじゃないかと思うほどに興奮しているエルドゥ様。遂には「押さえている農地に引っ越しをする」とまで言い出してしまった。
するとそこに先程の彼らが現れた。
飛び跳ねるようにエルドゥ様が彼らと固い握手を交わし、ソファを勧める。
しかし、アルバートと名乗った男性は私の元にやって来て深く頭を下げた。
「先程はありがとうございました。馬は今、処置をしてもらっているそうで大変助かりました」
「いえ、あまりお役には立てず申し訳ないですわ」
エルドゥ様が少し首を傾げながら私に問う。
「知り合い?」
「いいえ、来る途中に馬の具合が悪くなったと。あまりお役には立てなかったのですが門までご一緒致しましたの」
「役に立たないなどとんでもない。朝からあの場所に2,3時間だったか。足止めとなり本当に困っていたんだ。感謝をしても仕切れない。だって止まってくれた馬車は貴女の馬車だけだったんだから」
ニコニコと笑顔を絶やさないアルバートさんにエルドゥ様は私に庭を案内してくれないかと頼んできた。勝手知ったるなんとやらではあるが、他家の庭。ましてエルドゥ様ですら居候なのだ。
「いいから行っておいで。気晴らしにもなるだろうから」
「気晴らし?」
エルドゥ様の言葉に反応したのはアルバートさんだ。
「余計な事は言わなくていいの!全く。男はデリカシーと言う物がないのがいけないわね」
固辞しようとしたが、スマートに差し出されたアルバートさんの手。
断るには気が引けてしまった。
「お願い出来ますか?」
「期待はされないでくださいね?」
「勿論と言いたいところですが、花を愛でるのも久しぶりなので燥ぐかも知れません」
差し出された手に手を重ねると、日頃から剣を握られているのか固く盛り上がった皮膚の感触がする。そんな手と似つかわしくない「燥ぐ」と言う言葉にギャップを感じ、私はクスリと笑ってしまったのだった。
動き出そうとする馬車に彼らと門番の話が聞こえてきた。
「カドリア王国から来たのですが、農地の改良について相談に乗って頂きたい事があるのです。ご挨拶だけでも構わないのですがお取次ぎ頂けませんか?」
「旦那様に問い合わせてみますが、先触れがないお客様とは会わない可能性もあります。それでも宜しければ」
「で、では、今日がダメでしたら何時なら?と先触れの代わりにはなりませんか?」
「そう言われましても…私達では返事は出来ません」
余りにも必死な様子に身を乗り出そうとする私をボンドが制する。
小さく首を横に振り、「NO」を示唆した。
他家の事なのだ。首を突っ込むのは宜しくない事は判っている。
だが、どうしてだろう。
私は彼らをエルドゥ様にあわせたほうがいい。そんな気がしたのだ。
「お嬢様、私は大大旦那様に御仕えし――」
「はいはい。判ってるわ。黙って座ってるわ」
「コホン。お判りであればよろしいのです」
動き出した馬車から彼らは直ぐに見えなくなった。
「アルバート。本当の名前だと思いますか?」
「さぁ。どうかしら。ただ普通は家名を名乗ると思わない?」
「合格点です。そう。名乗る際は先ず家名。なのに名前となれば怪しさしか御座いません。決して近づこうなんて思わないでくださいね」
しかし、馬車が玄関に付くとエルドゥ様が慌ただしく使用人に指示を出していた。
何事かと思えば、「待たせてはならない客人」だと彼らの事を告げたのだ。
御用は私ではなく彼らであれば、私とはもう会う事はないだろう。
私はエルドゥ様に挨拶を済ませ、カエラお姉様と甥っ子、姪っ子の元に向かった。
「よく来てくれたわ。ここに置いて行くにもどうかと言う物が沢山あるのよ」
各国を行商もするエルドゥ様は若い頃から各地の特産品を土産として買ってくる。
最初の数個は良いが数が増えれば置き場所にも困ると言う物。
そして何より困るのは誰かにあげようとしても貰い手がない事だ。
物で溢れ返った部屋をまだ幼い甥っ子や姪っ子は「探検」と称し荒らしていく。なので片付けが全然進まないため助っ人で呼ばれたのである。
自分の物であれば簡単に仕分けが出来るが、エルドゥ様はどれも行商の思い出があり棄てられないと言う。カエラお姉様は何でも捨てたがる性質なのだが、そこに夫婦の相違がある。
私はボンドと共に替えがないものは保留箱に詰めていく。これならば箱から出さない限り並べる手間も必要がない。箱に入ったままで1年を経過すればそのまま捨てればいいのだ。
1年経って用がなかったものはその先も用がない。
部屋の半分が片付き、あとはカエラお姉様で何とかできそうだと言うので私はボンドと茶を頂く。
そこに小躍りしながらエルドゥ様が飛び込んできた。
「エド、何なの?いい加減埃っぽいの。暴れないでくださる?」
「聞いてくれ!ユーグ商会にも直ぐに連絡を入れるがとてつもない契約が取れそうなんだ」
興奮しているエルドゥ様は「やった!」と天井を何度も仰ぎ見ながら両手を大きく広げた。
「ルディちゃんも聞いてくれよ!米の栽培で稲の紋枯病に悩まされてきたんだが、病気に強い稲の開発に資金援助を申し出てくれたんだ。農地も押さえてあると言うしこれから忙しくなるぞ!」
鼻から白い息が見えるんじゃないかと思うほどに興奮しているエルドゥ様。遂には「押さえている農地に引っ越しをする」とまで言い出してしまった。
するとそこに先程の彼らが現れた。
飛び跳ねるようにエルドゥ様が彼らと固い握手を交わし、ソファを勧める。
しかし、アルバートと名乗った男性は私の元にやって来て深く頭を下げた。
「先程はありがとうございました。馬は今、処置をしてもらっているそうで大変助かりました」
「いえ、あまりお役には立てず申し訳ないですわ」
エルドゥ様が少し首を傾げながら私に問う。
「知り合い?」
「いいえ、来る途中に馬の具合が悪くなったと。あまりお役には立てなかったのですが門までご一緒致しましたの」
「役に立たないなどとんでもない。朝からあの場所に2,3時間だったか。足止めとなり本当に困っていたんだ。感謝をしても仕切れない。だって止まってくれた馬車は貴女の馬車だけだったんだから」
ニコニコと笑顔を絶やさないアルバートさんにエルドゥ様は私に庭を案内してくれないかと頼んできた。勝手知ったるなんとやらではあるが、他家の庭。ましてエルドゥ様ですら居候なのだ。
「いいから行っておいで。気晴らしにもなるだろうから」
「気晴らし?」
エルドゥ様の言葉に反応したのはアルバートさんだ。
「余計な事は言わなくていいの!全く。男はデリカシーと言う物がないのがいけないわね」
固辞しようとしたが、スマートに差し出されたアルバートさんの手。
断るには気が引けてしまった。
「お願い出来ますか?」
「期待はされないでくださいね?」
「勿論と言いたいところですが、花を愛でるのも久しぶりなので燥ぐかも知れません」
差し出された手に手を重ねると、日頃から剣を握られているのか固く盛り上がった皮膚の感触がする。そんな手と似つかわしくない「燥ぐ」と言う言葉にギャップを感じ、私はクスリと笑ってしまったのだった。
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