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VOL:08 チケットが2枚
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フィリップは2枚の紙をひらひらと手に取って揺らした。
アリッサがフィリップの腕を掴んで外に出たのはいいが、血相を変えて支配人が2人を呼び止めた。
「お客様、お待ちください!!」
「なんだ?」
「こちら…こちらを!!」
支配人が差し出したのは歌劇の公演チケットだった。しかも少し値の張るペアシート。
なんでもオープン以来このカフェ自慢の珈琲を注文した客が5000人を超えたのだと言う。
「5000人目がお連れになった女性でしたので。お会計の時に渡せればよかったのですが給仕が思っていた以上のチップに驚いてしまいまして。お渡し願えればと」
その時にもらったのはチケットだけではない。
大きな花束と次回利用時に半額になる割引券も手渡された。
さらに支配人は花束を渡す時に、店内に響き渡るような大声で「珈琲ご注文5000人目様で御座います!」と叫ぶものだから注目まで浴びてしまった。
フィリップは思う。
きっと父親が殴るという手段に出たのは、その時に記念品を貰ったのはフィリップとアリッサなので2人がカフェを利用したのだと勘違いをした者から話を聞いたからだろうと。
「ちゃんと話を聞けば、カフェに行ったのは僕とシャロット。そこにアリッサが同席しただけと判るのに」
僅かな情報だけで勝手な決めつけをした挙句に暴力に及んだ父。
同じように「今度はもう看過できない」といつもより強く婚約解消を言い渡したシャロットの父、パルプ伯爵もバカなんじゃないか?と1人、嘲笑した。
「僕がシャロットを手放すわけないだろうに」
シャロットと結婚をすればシャロットはパルプ伯爵家は継がずとも子会社を任されるのだ。パルプ伯爵家は新事業も開拓をしていて大当たりとまで行かずとも2、3年で展開した事業では成果を残し中堅よりも少し上の位置をキープしている。
順風満帆な未来がそこにあった。
つくづく自分を捨ててくれたアリッサには大感謝だ。
だからこそ、アリッサと友達の関係を続けている。
【お前とは生きるフェーズが違うんだよ】
と知らしめることでアリッサの絶望が見たい。
「アハハ、ハハハハ」
フィリップの笑い声が響く部屋にノックの音が聞こえた。
「なんだ?」
「坊ちゃま。ルーカスで御座います」
「入れ」
ルーカスはフィリップ専属の執事だ。50代後半で元々は父親のモース伯爵が若い頃に講師をしていたのだが、そのまま雇い入れてモース伯爵の執事をしていたが、シャロットとの婚約が結ばれた時からフィリップの専属執事になった。
「ヘロド男爵家のご息女からこちらを預かりました」
「なんだ?」
少々厚みのある封筒を受け取り、ペーパーナイフで封を切ると1枚目、2枚目に目を通してフィリップはバサリとそのままゴミ箱に突っ込んだ。
「馬鹿じゃないのか?なんで僕が母上の持ち物を融通しなきゃいけないんだよ」
「奥様の?」
「あぁ。貴族の家への採用面接に着ていく服を貸せだなんて。他人をあてにするのもいい加減にして欲しいね」
手紙はアリッサからで、フィリップの言葉通りの内容。
子爵家の夜会だけではなく、アリッサは多方面に良い顔をして頼まれれば「いいわよ」と安請け合いをしてしまっていた。勿論衣類に限らず靴や当日の身支度までシャロットをあてにしての約束をしていた。
そんな衣類も小物も貸衣裳屋に行けば借りる事は出来るし、髪結いも髪結い師の元に行けば揺って貰える。
アリッサから直々に「私を頼って」と言われた者もいるだろうし、人伝に聞いてアリッサに頼んだ者もいるだろう。
「そもそもで自腹を切らずに他人に頼る時点でそんな使用人を雇う家なんてないって気が付かないものかね?」
「左様でございますな。ところでそちらのチケットは?」
「あぁそうだ。シャロットに先触れを出してくれ。2週間後に観劇に行こうと」
「え?…いやしかし、パルプ伯爵家からは婚約の解消のお話が御座いますが?」
「関係ない。僕はモース家を継ぐ訳じゃないし、シャロットだってパルプ家を継ぐ訳じゃない。家を出る身なんだから都合よくそこに家の婚約だとか別の問題を一緒にする方が間違ってるのさ」
渋い顔をする執事に言い放つとフィリップはチケットをまたひらひらさせて鼻歌まで歌い始めた。
ゴミ箱に捨てたアリッサからの手紙。
読まずに捨ててしまった部分に「フィリップの名を借りてパルプ伯爵家にもお願いをする」とある事も気が付かずに。
★~★
すみません。
この回が16時10分に公開になるはずだったんですけども1つ前から予約してた部分が明日の日付になってました<(_ _)>
アリッサがフィリップの腕を掴んで外に出たのはいいが、血相を変えて支配人が2人を呼び止めた。
「お客様、お待ちください!!」
「なんだ?」
「こちら…こちらを!!」
支配人が差し出したのは歌劇の公演チケットだった。しかも少し値の張るペアシート。
なんでもオープン以来このカフェ自慢の珈琲を注文した客が5000人を超えたのだと言う。
「5000人目がお連れになった女性でしたので。お会計の時に渡せればよかったのですが給仕が思っていた以上のチップに驚いてしまいまして。お渡し願えればと」
その時にもらったのはチケットだけではない。
大きな花束と次回利用時に半額になる割引券も手渡された。
さらに支配人は花束を渡す時に、店内に響き渡るような大声で「珈琲ご注文5000人目様で御座います!」と叫ぶものだから注目まで浴びてしまった。
フィリップは思う。
きっと父親が殴るという手段に出たのは、その時に記念品を貰ったのはフィリップとアリッサなので2人がカフェを利用したのだと勘違いをした者から話を聞いたからだろうと。
「ちゃんと話を聞けば、カフェに行ったのは僕とシャロット。そこにアリッサが同席しただけと判るのに」
僅かな情報だけで勝手な決めつけをした挙句に暴力に及んだ父。
同じように「今度はもう看過できない」といつもより強く婚約解消を言い渡したシャロットの父、パルプ伯爵もバカなんじゃないか?と1人、嘲笑した。
「僕がシャロットを手放すわけないだろうに」
シャロットと結婚をすればシャロットはパルプ伯爵家は継がずとも子会社を任されるのだ。パルプ伯爵家は新事業も開拓をしていて大当たりとまで行かずとも2、3年で展開した事業では成果を残し中堅よりも少し上の位置をキープしている。
順風満帆な未来がそこにあった。
つくづく自分を捨ててくれたアリッサには大感謝だ。
だからこそ、アリッサと友達の関係を続けている。
【お前とは生きるフェーズが違うんだよ】
と知らしめることでアリッサの絶望が見たい。
「アハハ、ハハハハ」
フィリップの笑い声が響く部屋にノックの音が聞こえた。
「なんだ?」
「坊ちゃま。ルーカスで御座います」
「入れ」
ルーカスはフィリップ専属の執事だ。50代後半で元々は父親のモース伯爵が若い頃に講師をしていたのだが、そのまま雇い入れてモース伯爵の執事をしていたが、シャロットとの婚約が結ばれた時からフィリップの専属執事になった。
「ヘロド男爵家のご息女からこちらを預かりました」
「なんだ?」
少々厚みのある封筒を受け取り、ペーパーナイフで封を切ると1枚目、2枚目に目を通してフィリップはバサリとそのままゴミ箱に突っ込んだ。
「馬鹿じゃないのか?なんで僕が母上の持ち物を融通しなきゃいけないんだよ」
「奥様の?」
「あぁ。貴族の家への採用面接に着ていく服を貸せだなんて。他人をあてにするのもいい加減にして欲しいね」
手紙はアリッサからで、フィリップの言葉通りの内容。
子爵家の夜会だけではなく、アリッサは多方面に良い顔をして頼まれれば「いいわよ」と安請け合いをしてしまっていた。勿論衣類に限らず靴や当日の身支度までシャロットをあてにしての約束をしていた。
そんな衣類も小物も貸衣裳屋に行けば借りる事は出来るし、髪結いも髪結い師の元に行けば揺って貰える。
アリッサから直々に「私を頼って」と言われた者もいるだろうし、人伝に聞いてアリッサに頼んだ者もいるだろう。
「そもそもで自腹を切らずに他人に頼る時点でそんな使用人を雇う家なんてないって気が付かないものかね?」
「左様でございますな。ところでそちらのチケットは?」
「あぁそうだ。シャロットに先触れを出してくれ。2週間後に観劇に行こうと」
「え?…いやしかし、パルプ伯爵家からは婚約の解消のお話が御座いますが?」
「関係ない。僕はモース家を継ぐ訳じゃないし、シャロットだってパルプ家を継ぐ訳じゃない。家を出る身なんだから都合よくそこに家の婚約だとか別の問題を一緒にする方が間違ってるのさ」
渋い顔をする執事に言い放つとフィリップはチケットをまたひらひらさせて鼻歌まで歌い始めた。
ゴミ箱に捨てたアリッサからの手紙。
読まずに捨ててしまった部分に「フィリップの名を借りてパルプ伯爵家にもお願いをする」とある事も気が付かずに。
★~★
すみません。
この回が16時10分に公開になるはずだったんですけども1つ前から予約してた部分が明日の日付になってました<(_ _)>
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