13 / 27
閑話休題 ラカントの誰得情報
しおりを挟む
「本日はよろしくお願いいたします」
いきなりの勤務になれば戸惑う事もあるだろうと顔合わせも兼ねてミケネ侯爵夫妻はリシェルを連れてキジネ公爵家を訪れた。今日の仕事としては大まかな流れをキジネ公爵家の使用人に説明を受けるのみ。
使用人なのにお客様扱いをされる最初で最後の日となる。
リシェルがキジネ公爵家の使用人と共に屋敷の案内で各部屋を回っていると、廊下の向こうからラカントが歩いて来た。
「あれ?新しい使用人さんかい?」
「ラカント様、こちらは数日後よりミケネ侯爵家からこちらに出向となるリシェルです」
「リシェル・ボスクです。よろしくお願いいたします」
侯爵家の侍女ともなれば夫人に付いて夜会に出席する事もある。勿論ダンスなどを踊る訳でなくあくまでも夫人の付き人としての参加だが、カーテシーは叩きこまれる。
リシェルはラカントに対し、丁寧にカーテシーを取った。
「これは丁寧に。ラカント・エリスリトール・カスタードです。キジネ公爵家ではただの居候ですから気負いする事無くお願いしますね」
短い会話だったが、ラカントは「んにゃ?」と、何かを感じ取った。
直感なのか第六感なのか。リシェルの振る舞いには何の問題もないが何となく「焦げ目」を感じたのだ。
リシェルと別れてから一緒に歩いていたキジネ公爵家の執事に問いかけた。
「さっきの女性って幾つくらい…っと女性の年齢は失礼になるかな」
「左様でございますね。当てずっぽうでも失礼ですが知っている事で要らぬ疑いは持たれたくありませんので、何かの折にラカント様が聞かれては如何でしょう」
「やっぱり自分で聞かなきゃダメかな」
「えぇ。殊更女性の年齢については他人の口からは言えません」
ラカントも判っていた。
触れてならないのは万国共通で女性の年齢である。
間違ってしまうと明日がないのは女性の名前である。
――デリケートDEセンシティブ。女性は大事にしないと――
ごそごそと胸から懐中時計を取り出すとパチン!蓋を開けた。
ビバ!金があるって素晴らしい!
それまでは手慰みのお絵描きでしかなかった肖像画。金にモノを言わせて「ピックチャァ」という本人を鏡に映したようにその姿を紙に焼きつけたメープルにキスを落とす。
「奥様ですか?」
執事の問いにラカントははにかんだ。
「兄上がお妃様を娶ればね。今はまだ婚約者なんだ。幾つだと思う?」
ヘヘン!得意げにラカントはメープルの「ピックチャァ」を執事に見せた。
取り敢えず女性の年齢は見た目からマイナス5,6歳を言っておけば及第点。
「28・・・30手前ですかね」
「残念っ!メイちゃんはね、34歳なんだよ」
――すみません。本当は45歳くらいかと思いました――
執事は心で「セェェーッフ!」っと両手を広げたが、調子に乗ったラカントは誰得情報を執事に聞かせた。
「メイちゃんはね。カスタードは海に溶岩が流れ込む事もあって海水温が少し高いんだよ。それを利用してブリって魚の養殖業をしてるんだ。餌の時間になるとね、こんな大きな桶から柄杓で豪快に餌を撒くんだ。バチャバチャバチャー!ってブリが競ってメイちゃんの餌に食いつくんだよ」
「は、はぁ…それは壮観そうですね」
「でしょ?腕力も強くてね。力こぶなんて僕の倍以上が盛り上がるんだよ。くっきりと筋肉の線が出るから僕はいつもキレてるね!土台が違うよ!って声を掛けさせてもらってるんだ。あ、言っておくけど魅せる筋肉ではあるんだけど働く筋肉でもあるんだよ?血管がこう・・・筋肉に添うようになっててね(ウットリ)」
「えぇっと…すみません。ラカント様って22歳?でしたっけ」
「やだなぁ。21歳だよ。ついでに兄上も21歳。ママ違いって奴だよ」
「そこまでは聞いていません」
「でね?お腹もシックスパックって言うの?綺麗に割れてるんだよ。3人も子供を産んでるのに凄いよね」
「え?ラカント様のお子様ですか?」
「まっさかぁ!一番上の子は16歳だよ?幾ら僕が王子だからって4、5歳で子作りは出来ないよ。でさぁメイちゃんって謙虚でさ、交際1年の記念日に何が欲しい?って聞いたらなんて言ったと思う?」
「まぁ、指輪ですかね」
「ブッブー!残念。ゴム長靴が欲しいって言ったんだよ。だから取り寄せられるだけ色違いのサイズ違いで送ったら2500足になってね。置き場所がないって叱られちゃった」
「でしょうね…色違いはまだしもサイズ違いを贈る意味が解せませんけど」
執事はカスタード王国がここ3年ほどで過去が消し飛ぶほどの超経済大国になったのを知っている。
嬉しそうに隣で「メイちゃん情報」を聞かせてくれるラカントだが、結構貧乏性で着ている上着も何カ所か継接ぎされている事も知っている。
いまいち金の使い方がズレているのも知っているが、大恋愛の末に射止めた恋人が13歳も年上の子持ちだとは知らなかった。
――王子様になると奥が深いな――
執事は知らなかったことがもう1つある。
その後2時間も「メイちゃん情報」を聞かされる運命にあった事を。
いきなりの勤務になれば戸惑う事もあるだろうと顔合わせも兼ねてミケネ侯爵夫妻はリシェルを連れてキジネ公爵家を訪れた。今日の仕事としては大まかな流れをキジネ公爵家の使用人に説明を受けるのみ。
使用人なのにお客様扱いをされる最初で最後の日となる。
リシェルがキジネ公爵家の使用人と共に屋敷の案内で各部屋を回っていると、廊下の向こうからラカントが歩いて来た。
「あれ?新しい使用人さんかい?」
「ラカント様、こちらは数日後よりミケネ侯爵家からこちらに出向となるリシェルです」
「リシェル・ボスクです。よろしくお願いいたします」
侯爵家の侍女ともなれば夫人に付いて夜会に出席する事もある。勿論ダンスなどを踊る訳でなくあくまでも夫人の付き人としての参加だが、カーテシーは叩きこまれる。
リシェルはラカントに対し、丁寧にカーテシーを取った。
「これは丁寧に。ラカント・エリスリトール・カスタードです。キジネ公爵家ではただの居候ですから気負いする事無くお願いしますね」
短い会話だったが、ラカントは「んにゃ?」と、何かを感じ取った。
直感なのか第六感なのか。リシェルの振る舞いには何の問題もないが何となく「焦げ目」を感じたのだ。
リシェルと別れてから一緒に歩いていたキジネ公爵家の執事に問いかけた。
「さっきの女性って幾つくらい…っと女性の年齢は失礼になるかな」
「左様でございますね。当てずっぽうでも失礼ですが知っている事で要らぬ疑いは持たれたくありませんので、何かの折にラカント様が聞かれては如何でしょう」
「やっぱり自分で聞かなきゃダメかな」
「えぇ。殊更女性の年齢については他人の口からは言えません」
ラカントも判っていた。
触れてならないのは万国共通で女性の年齢である。
間違ってしまうと明日がないのは女性の名前である。
――デリケートDEセンシティブ。女性は大事にしないと――
ごそごそと胸から懐中時計を取り出すとパチン!蓋を開けた。
ビバ!金があるって素晴らしい!
それまでは手慰みのお絵描きでしかなかった肖像画。金にモノを言わせて「ピックチャァ」という本人を鏡に映したようにその姿を紙に焼きつけたメープルにキスを落とす。
「奥様ですか?」
執事の問いにラカントははにかんだ。
「兄上がお妃様を娶ればね。今はまだ婚約者なんだ。幾つだと思う?」
ヘヘン!得意げにラカントはメープルの「ピックチャァ」を執事に見せた。
取り敢えず女性の年齢は見た目からマイナス5,6歳を言っておけば及第点。
「28・・・30手前ですかね」
「残念っ!メイちゃんはね、34歳なんだよ」
――すみません。本当は45歳くらいかと思いました――
執事は心で「セェェーッフ!」っと両手を広げたが、調子に乗ったラカントは誰得情報を執事に聞かせた。
「メイちゃんはね。カスタードは海に溶岩が流れ込む事もあって海水温が少し高いんだよ。それを利用してブリって魚の養殖業をしてるんだ。餌の時間になるとね、こんな大きな桶から柄杓で豪快に餌を撒くんだ。バチャバチャバチャー!ってブリが競ってメイちゃんの餌に食いつくんだよ」
「は、はぁ…それは壮観そうですね」
「でしょ?腕力も強くてね。力こぶなんて僕の倍以上が盛り上がるんだよ。くっきりと筋肉の線が出るから僕はいつもキレてるね!土台が違うよ!って声を掛けさせてもらってるんだ。あ、言っておくけど魅せる筋肉ではあるんだけど働く筋肉でもあるんだよ?血管がこう・・・筋肉に添うようになっててね(ウットリ)」
「えぇっと…すみません。ラカント様って22歳?でしたっけ」
「やだなぁ。21歳だよ。ついでに兄上も21歳。ママ違いって奴だよ」
「そこまでは聞いていません」
「でね?お腹もシックスパックって言うの?綺麗に割れてるんだよ。3人も子供を産んでるのに凄いよね」
「え?ラカント様のお子様ですか?」
「まっさかぁ!一番上の子は16歳だよ?幾ら僕が王子だからって4、5歳で子作りは出来ないよ。でさぁメイちゃんって謙虚でさ、交際1年の記念日に何が欲しい?って聞いたらなんて言ったと思う?」
「まぁ、指輪ですかね」
「ブッブー!残念。ゴム長靴が欲しいって言ったんだよ。だから取り寄せられるだけ色違いのサイズ違いで送ったら2500足になってね。置き場所がないって叱られちゃった」
「でしょうね…色違いはまだしもサイズ違いを贈る意味が解せませんけど」
執事はカスタード王国がここ3年ほどで過去が消し飛ぶほどの超経済大国になったのを知っている。
嬉しそうに隣で「メイちゃん情報」を聞かせてくれるラカントだが、結構貧乏性で着ている上着も何カ所か継接ぎされている事も知っている。
いまいち金の使い方がズレているのも知っているが、大恋愛の末に射止めた恋人が13歳も年上の子持ちだとは知らなかった。
――王子様になると奥が深いな――
執事は知らなかったことがもう1つある。
その後2時間も「メイちゃん情報」を聞かされる運命にあった事を。
63
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
婚約破棄から50年後
あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。
そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。
あなたが捨てた花冠と后の愛
小鳥遊 れいら
恋愛
幼き頃から皇后になるために育てられた公爵令嬢のリリィは婚約者であるレオナルド皇太子と相思相愛であった。
順調に愛を育み合った2人は結婚したが、なかなか子宝に恵まれなかった。。。
そんなある日、隣国から王女であるルチア様が側妃として嫁いでくることを相談なしに伝えられる。
リリィは強引に話をしてくるレオナルドに嫌悪感を抱くようになる。追い打ちをかけるような出来事が起き、愛ではなく未来の皇后として国を守っていくことに自分の人生をかけることをしていく。
そのためにリリィが取った行動とは何なのか。
リリィの心が離れてしまったレオナルドはどうしていくのか。
2人の未来はいかに···
蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
彼女の離縁とその波紋
豆狸
恋愛
夫にとって魅力的なのは、今も昔も恋人のあの女性なのでしょう。こうして私が悩んでいる間もふたりは楽しく笑い合っているのかと思うと、胸にぽっかりと穴が開いたような気持ちになりました。
※子どもに関するセンシティブな内容があります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる