一なつの恋

環流 虹向

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22:00

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俺は夢衣を自分のベッドに寝かせ、しっかり眠りについたことを確認してから奏たちが待つ玄関に向かう。

一「お待たせ。」

海斗「無理しなくてもいいぞ?」

一「俺がしたいからする。」

将「医者もなんともないって言ってたしな。」

奏「まあ、抑えめで。」

明「俺が呑んであげる。」

そんなに心配しなくてもいいのにと思っていると、音己ねぇが2階の吹き抜け部分から顔を出す。

音己「朝までには戻れよ。」

奏「夜のうちに戻るよ。」

音己ねぇはパクパクと手を振り、俺たちを見送ってくれた。

みんなが俺の体を気遣い荷物を持ってくれるので俺は手ぶらのまま、将がランニング中に見つけてくれたひらけた野原に到着する。

俺たちは何も敷かずに草はらに酒とつまみを広げ、持ってきたランプたちを中央に置く。

海斗「星月夜に乾杯。」

「「「「乾杯!」」」」

5人でいると必ず海斗が乾杯の音頭を取り、知らない単語を俺たちに教えてくれる。

三日月よりも細くて消えてしまいそうな月を俺が不思議そうに見上げていると、海斗は良く晴れて星の光が月のように明るいという意味があると教えてくれた。

確かに星の光だけでも周りの木々は光沢を持って俺たちを静かに照らしてるなと思っていると、将が担いできた天体望遠鏡を奏がランプの灯りが届かない遠くでセットし終わり、明が数本の酒が入った袋を持って1番に覗きに行く。

2人はレンズ越しから見える星や月を楽しむが、俺はその場に寝転がり少し手を伸ばせば届きそうな星を眺める。

…この夜空を姐さんとも見たかったな。

けれど、この瞬間の空は今日しかなくてこの場にいない姐さんと一緒にこの星月夜を感じられないなんて嫌だなと思い、俺は携帯を取り出した。

そして、この星空を写真に納めてあの日のように写真を送ろうとするけれど、一番星しかうまく映ってくれないし空は真っ暗闇で今の俺と姐さんみたいだ。

海斗「写真、うまく撮れないよな。」

一「こんなにたくさん星はあるのに一番星しか映らない。」

海斗「どんなに精巧な機械でも本物には敵わないよな。」

そう言って海斗は愛子ちゃんと電話をしてくると言って、俺たちの側から少し離れたところで日課の電話を始める。

俺も姐さんに電話したいけど、メッセージの返信は今も来ないから電話しても嫌がられるだけだろう。

俺がため息をつき寝転がりながら酒を呑んでいると、将がさきいかを俺の目の前に差し出してきた。

将「疲れたか?」

一「想ひゲロした。」

俺は将が差し出したさきいかを口で掴み、食べる。

将「しすぎると空っぽになるぞ。」

と、将は俺の隣に寝そべり瓶ビールを器用に呑む。

その将のすぼんだ口元で明とのことを思い出してしまった。

一「…来週合コンあるけど、良さげな奴いる?」

俺は自分の頭から2人の出来事を忘れようとするために、話を振る。

将「写真と文字列だけじゃ、俺は決めきれないな。」

一「そっか。」

将「みんな可愛いし綺麗だけど、腹ん中で何思ってるのかは目を見ないと分からないしな。」

一「目で分かるか…?」

将「俺のばあちゃんは『人の目を見れば全部分かる』って言ってた。潤んだ目も、乾いた目も、くすんだ目も、その奥の揺れる瞳孔が心の動きって教えてくれた。」

心理学者のばあちゃんだったのか?と思ったけれど、そんなこと音己ねぇが読んでた本を興味本位で借りた時には書いていなかった。

一「そんなことあるか?」

将「俺も始めは分からなかったけど、ばあちゃんが模範演技してくれる目は全部当たってた。だから変な奴に落とされず済むんだ。」

将はそう言って笑い飛ばしたけど、全ての心が分かってしまうその原理は将をたくさん傷つけてしまったんじゃないかなと俺は思ってしまった。

将「俺はまっすぐと見てくれるお前らが好き。」

と、将は少し照れ臭そうに笑いながら俺にしか聞こえないように言った。

一「俺たちはブレないよ。」

将「うん。好きだから明のファーストキス奪っちまったんだ。」

一「…え?」

俺は急にカミングアウトした将に驚く。

将「俺、2人が電話してるとこ聞いてたんだ。なんて言ってくれたのかは知らないけど、誤魔化してくれてありがとう。」

将は起き上がって俺に頭を下げる。
俺はその事実に驚き、体を起こした。

一「…慰めちゅー?」

将「って、明が思ってるならそう言う事にしておこう。」

将は新しい酒を開けて俺の手元にある缶に軽くぶつけて呑んだ。

一「なんで?」

俺は将が寂しそうな顔をしてるのがどうしても気になり、聞いてしまう。

将「そうしないとお前らと一緒にいられないから。」

将は広角だけを上げて、俺の背後にいる明を見つめるような目つきをする。

将「一方的な愛は重いらしい。だから俺は止めとく。」

一「…もやつかない?」

将「相手が自分自身の事を想わない限り、ただのおのぼりさんになる。」

一「それでもいいって思ったりしない?」

将「俺はその勇気はないな。」

俺の目を見ながら将は笑顔でそう言った。

笑ってるはずの将だったけど、俺には泣いてるように見えてしまい思わず抱きつく。

将「酔ったか?」

一「酔いどれひと、爆誕。」

俺の腕の中にいる大きいはずの将は、とても小さく感じる。
俺はいなくならないように全身を使って元の将を呼び戻す。

一「なう友じゃなくてズッ友な。」

将「…古っ。」

一「ズッ友な!」

俺は将の耳元で大声で叫ぶ。 

けれど将は動じずに俺の背中を優しく叩きながら1口酒を飲み、

「もちろんだ。」

と、笑顔で答えてくれた。

俺はその笑顔で元どおりになった将をもう1度抱きしめる。

明「俺たちもズッ友ぅ!」

奏「マブマブだぁ…!」

俺が将の温もりを感じていると、後ろから声量がバグってる奏と明の声が聞こえ、振り向くと2人してスト缶を持っていた。

俺たちは急いで酔った2人の元に駆け寄る。

将「弱いくせにスト缶呑むなよ。」

明「フレッちゅレモンが呑みたいのぉー♡」

奏「ぴゅあ♡ぴゅあ♡ぴぃいちっ!どんと、すとっぷ、うおっかぁああ!」

「「…ひどいな。」」

俺は将と声を合わせて2人の酔った姿に呆れる。

すると2人の声を聞きつけたのか、海斗が焦った様子で愛子ちゃんとの電話を止めて駆け寄ってきた。

海斗「なんでスト缶入ってるんだ?」

将「俺と一で呑もうとしてたやつ2人に呑まれた。」

一「奏に俺の呑まれた。」

海斗「だから片手で収まらない度数の酒はやめろって言っただろ?」

海斗は俺たちに呆れてため息をつきながら、2人が持ってる酒を取ろうとするが2人は馬鹿力で離してくれない。

一「奏、ちょっとちょうだい。」

奏「やだ。ねぇちゃんしかあげないっ。」

奏は酔うと極度のシスコンになるからだいぶ面倒臭い。

俺は少し貰う体で酒を取ろうとしたが、奏は俺の手をすり抜けてまた1口呑んだ。

奏「ねぇ…?ねぇねはどこいったのぉ?」

一「別荘で先に寝てるって言ってただろ。」

奏「わぁあああんっ!ねぇたんと一緒に寝るんだぁっ…!」

明「俺も寝るぅ!」

奏「俺だけなのっ!」

と、奏はおもちゃコーナー目の前にして駄々をこねる子どものように地べたで体をばたつかせる。
しかも片手に持ってる酒にはおかまいなしなので、びちゃびちゃと地面と奏を濡らしていく。

海斗「せっかく風呂入ったのにベタベタだ。」

将「今日は特にひどいな。呑みすぎだ。」

一「いっそのこと、音己ねぇと一緒に寝かせたほうが落ち着きそう。」

3人で奏のいつも以上の酔いに驚いていると、明は1人歩き出して新しい酒のプルタブを開け始める。

一「そっち呑むのか?」

俺は体のでかい2人に奏のお守りを任せて明の飲酒を止めようと駆け寄る。

明「シャンぽんファイト!」

と、明は両手に持っていた缶の飲み口を親指で押さえて振り始める。

一「やめ…」

俺が酒を取ろうとすると、いつもより俊敏な動きで明の手は俺の頭上に行きすぐさま俺は炭酸まみれになる。

明「梅宮じゃぽん!ゆうしょおぉぉぉっ!」

明はそう叫び、缶を投げ捨て少し足をふらつかせながら草原を駆け出す。

俺はしみる目を取り払うように拭って、この無秩序空間をつまみにしながら酒を呑むことにした。

奏は音己ねぇへずっと愛を叫ぶし、明は星が照らす自分の薄い影を追いかけて楽しんでいるのを2人はなんとかしようとするけど無理そうだ。

一「疲れさせて寝たら帰ろう。」

「「…そうだな。」」

2人は疲れた様子で奏と明を見守りながら俺と一緒に酒を呑み始める。

俺は体のベタつきに少し苛立ちを感じながらも、みんながこの夜を楽しんでいる様子を見て心を和ませた。




→ 天体観測
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