ピンヒールでおどらせて

環流 虹向

文字の大きさ
14 / 15
Louis

Loading completed

しおりを挟む
「瞳。」

半個室の居酒屋が一気に静まるほど大きな声で謝り続ける私を呼んだ昂は自分のポケットに入れていたティッシュで私が落としたマスカラを拭き取ってくれる。

昂「俺は瞳に謝られることをされた覚えはない。だからそんなに自分を責めないでよ。」

瞳「…ずっとしてた。だからもう別れる。」

昂「瞳は俺を好きじゃなくなった?」

と、あの日の私のように昂は好きな気持ちがなくなってしまったのか聞いてきた。

その時、私は朧月みたいだった蕾を思い出し、今の気持ちを伝える。

瞳「ずっと好き。けど、元彼とずっと比べてた。」

昂「いい彼氏だったんだね。」

昂はちょっと悔しげに目を細めて涙袋に水を溜めてしまう。

けど、蕾を罵ったりしない初めての他人で私はまた昂の好きが増える。

昂「比べてていいよ。綺麗なものって簡単に頭から離れられないもんね。」

瞳「…だめ。」

昂「いいの。俺もそう。」

そう言って頬を優しく撫でてくれる昂の目を私はやっとまっすぐ見られる。

昂「俺は外の瞳も篭りな瞳も好き。どんなとこにいても目を輝かせて楽しんでくれる可愛い瞳が大好き。」

昂は私を過去から現実に引き戻すよう、頬を軽くつねって笑った。

昂「俺もたまに元彼と瞳を比べることがあるけど、瞳以上にいい彼女いたことない。」

瞳「それは絶対嘘…。」

昂「嘘じゃない。みんな金をむしるか見た目で決めるもんっ。」

と、自称イケメンと謳っている昂は自分の頬に人差し指を指してぶりっ子する。

昂「俺と一緒にいる時間を大切にしてくれる瞳とこれからも一緒にいたいって思ってるんだけど、瞳は嫌?」

昂はまた私の苦手な悲しそうな顔をして私の覚悟をつまみ捨てるように頬から指先を離した。

私は昂のおかげで正直になった自分の気持ちを素直に伝えることにした。

瞳「嫌。」

昂「…そっか。」

と、昂は残念そうに呟き、今日たくさん使った体を背もたれに預ける。

瞳「昂と別れるの嫌。」

昂「……そっちかよ。」

昂は私の口下手に笑い、嬉しそうな顔で店員さんにお会計をお願いした。


環流 虹向/ピンヒールでおどらせて
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

嘘をつく唇に優しいキスを

松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。 桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。 だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。 麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。 そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー

吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。 立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。 優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「結婚したらこっちのもんだ。 絶対に離婚届に判なんて押さないからな」 既婚マウントにキレて勢いで同期の紘希と結婚した純華。 まあ、悪い人ではないし、などと脳天気にかまえていたが。 紘希が我が社の御曹司だと知って、事態は一転! 純華の誰にも言えない事情で、紘希は絶対に結婚してはいけない相手だった。 離婚を申し出るが、紘希は取り合ってくれない。 それどころか紘希に溺愛され、惹かれていく。 このままでは紘希の弱点になる。 わかっているけれど……。 瑞木純華 みずきすみか 28 イベントデザイン部係長 姉御肌で面倒見がいいのが、長所であり弱点 おかげで、いつも多数の仕事を抱えがち 後輩女子からは慕われるが、男性とは縁がない 恋に関しては夢見がち × 矢崎紘希 やざきひろき 28 営業部課長 一般社員に擬態してるが、会長は母方の祖父で次期社長 サバサバした爽やかくん 実体は押しが強くて粘着質 秘密を抱えたまま、あなたを好きになっていいですか……?

処理中です...