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4.妹イザベラ (3)
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「勉強部屋に参りましょう」
護衛騎士のアルバートに追い詰められ、震える足で勉強部屋へ向かう。
抵抗したって、痩せ細ったフェレルでは鍛えられた体躯のアルバートには敵わない。抱えられ、連れて行かれて、抑えつけられ、抵抗しただけ鞭の回数が増える。なるべく痛くないように、早く終わるようにするには素直に従った方が身の為だ。
あの拘束器具は、背中以外は傷つけるなというヴァルグードの命令に従うため、万が一フェレルが逃げ回って背中以外に鞭を当てないように固定するためのものなのだが、本人は知らない。
背中を部屋に向け、両手首を拘束される。両手で真っ黒な鉄格子をギュッと掴み、振り下ろされる鞭の痛みに耐えた。
「いあ゛あ゛あ゛あ゛!」
「なんで大袈裟に痛がっているのかしら。自業自得じゃない」
「ごめ゛ん゛な゛ざい゛い゛い゛!」
「煩い。獣みたいに大声で威嚇して、穢らわしい。男ってみんな、怒鳴ればいいと思ってるのよね」
「痛゛い゛い゛、許゛じでえ゛え゛!」
「また大声出してる。反省が足りないわ、もっと強く鞭をやって」
「い゛あ゛だあ゛っ! 助゛げで! 義゛兄゛上゛え゛え゛え゛!!」
「汚いわね。こんなんで、なんで生きていられるのかしら。恥晒し! 死んじゃえ!」
「義゛兄゛上゛え゛! 痛゛い゛よ゛お゛お゛! 助゛げでえ゛え゛え゛!!」
王太子宮の塀の向こう、ヴァルグードに向かって助けてと泣きわめく。必死に叫べば、気づいて助けてくれるのではないかと淡い期待をして。鞭で叩かれるのは当然だといったヴァルグードが、助けに来てくれたことなんて一度もないけれど、唯一フェレルに味方してくれる義兄に縋り付いく。
必死に助けを求めて苦痛に泣き叫ぶフェレルの声は、確かにヴァルグードに届いていた。
フェレルは知らなかった。
塀の向こうは執務室の芝生の庭になっていて、ガゼボがあり、ヴァルグードはいつもそこで恍惚と聞いていたなんて。
塀には、フェレルの視線がそこに行かないよう、ポツポツと描かれた赤い薔薇に目が行くように視線誘導を施してある。その塀の一部、王子宮からは見えないが王太子宮からは見える仕掛けになっていて、オペラグラスを持ち出し、鞭打たれて痛がる姿をつぶさに観察していた。
鞭がしなってフェレルを叩く音、痛い、許してと泣き叫ぶ義弟。歌劇を鑑賞するかの如く、うっとりと聞き入り、歌手の姿をオペラグラスで見るように、苦悶に満ちたその表情や、痛がって体をくねらせる仕草を、楽しんでいた。
フェレルが義兄に助けを求める度、腹の底から歓喜した。
ヴァルグードの執念ともいえる、綿密に練られ作らせた鑑賞会場に、素直なフェレルは暗い緑色の塀にが描かれた鮮やかな真っ赤な薔薇を見つめたまま、まったく気づかない。義兄が義弟に執着する狂人だとは知らないフェレルは、絶対的な味方だと刷り込まれた言葉を信じて縋って泣く。
「もういいわ。今回はここまでにしてあげる」
飽き性なイザベラは、男の不快な叫び声にうんざりし、侍女たちと一緒に出て行った。
拘束が解かれ、一人になったフェレルは床にへたり込んでグズグズと泣いた。
「本を、読まなきゃ」
義兄に命令されたのだから、一日一冊読まないと、また鞭で叩かれる。
居間に戻り、背中の痛み耐えながら、卑猥な本を読み進めた。
昼食はないが、朝沢山食べたから腹は空いていない。
飲み水だけはいつでも飲めるようにと用意されていて、水差しからコップ一杯の水を飲んで昼食にした。
しばらくすると、腹が痛み始める。フェレルは食べ過ぎたせいで腹を下したと思っているが、ヴァルグードの命令で飲み水に下剤を入れられていたなんて知る由もない。
「うぅ……痛い……」
背中も腹も痛い。卑猥な本のせいで朝の痴態を思い出し、ペニスがムズムズする。
こんな目に合うのは、粗相をしてしまう自分のせい。痛くて、つらくて、苦しいのは、自分のせい。義兄の命令を素直に聞けたのなら、こんな目に合わなかった。どうして自分はなにも出来ないのかと、フェレルは不甲斐ない自分自身を呪う。
――恥晒し、死んじゃえ。
妹に言われた言葉が胸に刺さる。
「痛い……苦しい……つらい……死にたい……」
涙が止めどなく溢れて、文字が滲んで本が読めない。
だけれど、ヴァルグードは言った。勝手に死んではいけないと。
フェレルが死ねば、大好きな義兄が悲しむ。どんなにつらくて死にたくなっても、義兄のために生きていなければならない。
全部出しきったのか、元通りのぺたんこの腹に戻れば、腹痛は治まった。
なんとか読み終える頃には、風呂の時間になっていた。
侍女のダージにシリンジを渡され、「王太子殿下がいつ褥教育をしてくださるかもしれないので、中まで綺麗にすること」と言われた。
湯が染みて背中が痛むが、不潔であってはならないという教えに従い、腹の中まで綺麗にしてからベッドに入る。
朝は苦しいほど食べられたけれど、物心付いたときから夕食というものを食べたことはない。
なにも入っていない空っぽの腹を抱えて横になる。
読んだ本の内容と今朝の痴態を重ね、悶々と熱を帯びても収める術を持たず、ただひたすらに耐える。
「義兄上、助けて……助けてください……お願いします……」
天井に描かれたヴァルグードに似た神の絵に向かって懇願し、眠れずに朝を迎えた。
護衛騎士のアルバートに追い詰められ、震える足で勉強部屋へ向かう。
抵抗したって、痩せ細ったフェレルでは鍛えられた体躯のアルバートには敵わない。抱えられ、連れて行かれて、抑えつけられ、抵抗しただけ鞭の回数が増える。なるべく痛くないように、早く終わるようにするには素直に従った方が身の為だ。
あの拘束器具は、背中以外は傷つけるなというヴァルグードの命令に従うため、万が一フェレルが逃げ回って背中以外に鞭を当てないように固定するためのものなのだが、本人は知らない。
背中を部屋に向け、両手首を拘束される。両手で真っ黒な鉄格子をギュッと掴み、振り下ろされる鞭の痛みに耐えた。
「いあ゛あ゛あ゛あ゛!」
「なんで大袈裟に痛がっているのかしら。自業自得じゃない」
「ごめ゛ん゛な゛ざい゛い゛い゛!」
「煩い。獣みたいに大声で威嚇して、穢らわしい。男ってみんな、怒鳴ればいいと思ってるのよね」
「痛゛い゛い゛、許゛じでえ゛え゛!」
「また大声出してる。反省が足りないわ、もっと強く鞭をやって」
「い゛あ゛だあ゛っ! 助゛げで! 義゛兄゛上゛え゛え゛え゛!!」
「汚いわね。こんなんで、なんで生きていられるのかしら。恥晒し! 死んじゃえ!」
「義゛兄゛上゛え゛! 痛゛い゛よ゛お゛お゛! 助゛げでえ゛え゛え゛!!」
王太子宮の塀の向こう、ヴァルグードに向かって助けてと泣きわめく。必死に叫べば、気づいて助けてくれるのではないかと淡い期待をして。鞭で叩かれるのは当然だといったヴァルグードが、助けに来てくれたことなんて一度もないけれど、唯一フェレルに味方してくれる義兄に縋り付いく。
必死に助けを求めて苦痛に泣き叫ぶフェレルの声は、確かにヴァルグードに届いていた。
フェレルは知らなかった。
塀の向こうは執務室の芝生の庭になっていて、ガゼボがあり、ヴァルグードはいつもそこで恍惚と聞いていたなんて。
塀には、フェレルの視線がそこに行かないよう、ポツポツと描かれた赤い薔薇に目が行くように視線誘導を施してある。その塀の一部、王子宮からは見えないが王太子宮からは見える仕掛けになっていて、オペラグラスを持ち出し、鞭打たれて痛がる姿をつぶさに観察していた。
鞭がしなってフェレルを叩く音、痛い、許してと泣き叫ぶ義弟。歌劇を鑑賞するかの如く、うっとりと聞き入り、歌手の姿をオペラグラスで見るように、苦悶に満ちたその表情や、痛がって体をくねらせる仕草を、楽しんでいた。
フェレルが義兄に助けを求める度、腹の底から歓喜した。
ヴァルグードの執念ともいえる、綿密に練られ作らせた鑑賞会場に、素直なフェレルは暗い緑色の塀にが描かれた鮮やかな真っ赤な薔薇を見つめたまま、まったく気づかない。義兄が義弟に執着する狂人だとは知らないフェレルは、絶対的な味方だと刷り込まれた言葉を信じて縋って泣く。
「もういいわ。今回はここまでにしてあげる」
飽き性なイザベラは、男の不快な叫び声にうんざりし、侍女たちと一緒に出て行った。
拘束が解かれ、一人になったフェレルは床にへたり込んでグズグズと泣いた。
「本を、読まなきゃ」
義兄に命令されたのだから、一日一冊読まないと、また鞭で叩かれる。
居間に戻り、背中の痛み耐えながら、卑猥な本を読み進めた。
昼食はないが、朝沢山食べたから腹は空いていない。
飲み水だけはいつでも飲めるようにと用意されていて、水差しからコップ一杯の水を飲んで昼食にした。
しばらくすると、腹が痛み始める。フェレルは食べ過ぎたせいで腹を下したと思っているが、ヴァルグードの命令で飲み水に下剤を入れられていたなんて知る由もない。
「うぅ……痛い……」
背中も腹も痛い。卑猥な本のせいで朝の痴態を思い出し、ペニスがムズムズする。
こんな目に合うのは、粗相をしてしまう自分のせい。痛くて、つらくて、苦しいのは、自分のせい。義兄の命令を素直に聞けたのなら、こんな目に合わなかった。どうして自分はなにも出来ないのかと、フェレルは不甲斐ない自分自身を呪う。
――恥晒し、死んじゃえ。
妹に言われた言葉が胸に刺さる。
「痛い……苦しい……つらい……死にたい……」
涙が止めどなく溢れて、文字が滲んで本が読めない。
だけれど、ヴァルグードは言った。勝手に死んではいけないと。
フェレルが死ねば、大好きな義兄が悲しむ。どんなにつらくて死にたくなっても、義兄のために生きていなければならない。
全部出しきったのか、元通りのぺたんこの腹に戻れば、腹痛は治まった。
なんとか読み終える頃には、風呂の時間になっていた。
侍女のダージにシリンジを渡され、「王太子殿下がいつ褥教育をしてくださるかもしれないので、中まで綺麗にすること」と言われた。
湯が染みて背中が痛むが、不潔であってはならないという教えに従い、腹の中まで綺麗にしてからベッドに入る。
朝は苦しいほど食べられたけれど、物心付いたときから夕食というものを食べたことはない。
なにも入っていない空っぽの腹を抱えて横になる。
読んだ本の内容と今朝の痴態を重ね、悶々と熱を帯びても収める術を持たず、ただひたすらに耐える。
「義兄上、助けて……助けてください……お願いします……」
天井に描かれたヴァルグードに似た神の絵に向かって懇願し、眠れずに朝を迎えた。
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