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2人だけの時間
しおりを挟む2人はソファに腰を下ろす。
「………。お前の家は山奥にある古びた外観の屋敷と偵察部隊から報告を受けていたが、まさか空中にあったとはな。」
2人きりの静かな空間の沈黙を破るかのように陛下は彼女に問いかける。
「えぇ。カモフラージュのために山頂に古びた屋敷の設置と住所登録をしておいたけれど、そこへすら誰も辿り着けなかったようね。」
彼女は陛下の方に顔を向け話しかける。
2人きりだけの空間に時はゆっくりと流れてゆく。
「…そうか。」
陛下は生活しなれた城を後にし、新境地である彼女と2人だけの空間にいる。
やや気持ちが落ち着かない様子であったが、平常心を保ちただひたすらと真っ直ぐを見つめている。
彼女もまた誰かを家に呼び入れたことはないため、陛下がリラックスできるようにと森にいるかのような風の音や鳥の囀りなどの音のBGMを魔法でかける。
「私のことはあまり貴方に話すことはできないけれど、貴方のことを教えてほしいわ。」
彼女は緊張を解すかのように優しく問いかける。
「あぁ。それは構わないが、退屈な話になるぞ。」
陛下ははにかみ笑いを浮かべながら、ここへ来て初めて彼女の方を見る。
「えぇ。知りたいわ。」
「俺は知っての通り3000年程生きてきた。もう自分が生まれた頃の記憶はないくらいに遠い昔の話だ。国が戦により焼け野原となったり、時には自然災害に見舞われたりと歴史の変化は見せるが、この国を最前線で護り抜いて来たつもりだ。上級兵士たちは500.600年程で死期を迎える中で、俺だけは底知れぬ魔力により今も衰えぬ世界頂点の国王であり続けている。それは今も変わることはない。」
陛下は自信に満ち溢れた口調で彼女に語りかける。
「1人で国や世界を引っ張っていくことはとても凄いことよ。あなたが居なくなってしまったら、この世界では魔力争いの抗争が起きかねないわね。」
この世界で絶対的な魔力を持つ国王陛下の存在が3000年程の歴史を経て、今の下界での世界平和が訪れているのは間違いないこどである。
「あぁ。だから俺はこれから先も絶対王政を護り、国民や同盟国、ひいては全世界を統率していくつもりだ。」
陛下は真っ直ぐとした目で彼女を見つめて本音を語る。
「すごい使命感ね。本当にあなたは国王に相応しい器の持ち主だと思う。」
彼女は素直に陛下の功績や基質を尊敬し敬意を示す。
「まぁお前の存在を知ってからは、神と同等とまで感じていた己の魔力を思い返す機会となった訳だが。」
陛下は良くも悪くも、彼女の魔力を自分より上であると認めている。
「いいえ。私のは授かった魔力。貴方のは磨き上げられた魔力。自分自身で磨き上げて来た素晴らしい力だと思うわ。」
彼女は陛下としての威厳や自信を肯定し、これからのウィリス国の行末に対して安心という答えを導き出していた。
「今のこの時間は3000年という長い時からすると、一瞬の出来事のように感じてしまう時が来るかも知れないわね。」
凛々しくもどこか儚げの陛下を彼女は微笑みながら見つめる。
「あぁ。そうかもな。」
陛下は苦笑いをしながら今後の長く続くであろう未来を考えながら俯く。
彼女は魔法でテーブルの上にティーカップに注いだ紅茶と茶菓子を出して陛下に振舞う。
そして魚料理をするべくキッチンを魔法でセッティングする。
「だが、ルビーといる今が本当の自分でいれる。国王としてではなく、1人の者として存在している。本当に感謝している。」
陛下の普段の冷徹さはどこへもなく、素直な気持ちを、喉の奥から言葉を絞り出すかのように話す。
「それは私の方よ。本当にありがとう。」
国王陛下としての使命。
神子としての使命。
平行線で進むべき未来がそこにはある。
お互いがお互いの力を認め合い、光と陰で支え合う関係。
そこに自身たちの個人的な感情を持ち合わせてはいけないことは、2人が1番よくわかっていることであった。
光と陰が交わる時、それは無を意味する。
世界の秩序が神の使いに寄って乱れることは、世界の物語の終わりを意味するのである。
そのため魔界では、禁忌を犯した神子は消滅させられる決まりがあるのだ。
「明日はどうするつもりだ?」
彼女は呑気に水槽から成仏させワープさせた魚を2匹、キッチンで焼いている。
「明日のことは明日考えましょう。はい。どうぞ。」
魔法で大皿の上に焼いた魚を移動させ、料理を振舞う。
彼女は最後の晩餐になるかもしれないという気持ちと、陛下に対する想いを胸にしまいこみ気丈に振る舞う。
「俺は無力だ。すまない。」
明日には彼女がこの世から居なくなるのではという不安に駆られながら、陛下は重い顔持ちとなる。
「無力じゃないわ。一緒にいてくれて心強いと思ってる。もし明日が最期になったとしても後悔なんてない。だから今日という日を2人きりで楽しみましょう。」
「あぁ。」
陛下は自分の無力さを痛感しつつも、未知の世界である魔界という存在をこの地上よりも遥かに大きい世界であるというイメージを抱いていた。
2人はたわいもない話をしながら朝が来るまで語り明かした。
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