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秘密基地
しおりを挟む空を突き進み風を切りぬける高速移動に、陛下は測りきれぬ程の彼女の魔力を感じる。
彼女は時折振り返り、陛下がついて来ていることを確認しながら突き進んでゆく。
この国の1番高い山。
猛獣が沢山彷徨う、別名死の山ー。
その山の頂上まで、2人は一気に登り上がる。
頂上の空は霧に覆われており、視界がとても悪かった。
空中浮遊したまま進行を停止し、陛下の方に視線を送る。
「こんな所に住んでいるのか。」
陛下は、死の山を上から見下ろしながら、彼女に問いかける。
「フフッ。この山は私の家に辿り着くための、目印みたいなものよ。私の家は、この更に上にある秘密基地。この霧がかった一見空に見える風景は、高度な結界魔法がかけてあるの。あなた程の魔力があれば容易に破壊できるかもしれないけど、この国の上級兵士レベルでも到底この結界を解くことはできないわ。」
彼女は不敵な笑みを浮かべる。
彼女の住処を兵士たちがいくら探しても見つけ出せなかった訳に、陛下は納得する。
彼女は片手を空に向けて上げ、陛下の方を見る。
「ここへ入るのは、あなたが初めてよ。」
そう言って、結界を魔力で破壊する。
クリスタルの様にキラキラと輝く結界の破片は、ウロコが剥がれるかの様に広範囲の空一面部分から剥がれ落ちてゆく。
陛下は全く動じていない様な態度を見せながらも、彼女の住処を知ることに対し、内から溢れる嬉しさが胸の鼓動を高鳴らせていた。
空模様であった結界が破れると、空中には巨大な陸地が現れた。
「この上が私のお家。あなたをエスコートするわ。」
彼女は陛下に向けて、手を差し出す。
陛下も迷わず手を差し出し、彼女の手をとる。
「この国は知り尽くしていると思っていたが、予想外だ。」
陛下は仏頂面をしながらも、新天地を案内される興奮が内面より湧き上がる。
彼女は陛下の手を引きながら、山の更に上へと、浮遊しながら登って行く。
空に浮かぶ陸地の高さまで登り詰めた所で、彼女はまた周りを覆いかぶせる結界魔法を放つ。
「これで外からは誰にも気づかれないわ。」
彼女はそう言って陛下に微笑みかける。
陸地へと足をつけた陛下は、今まで見たことのない異世界のような空間に驚く。
魔力の結晶が光り輝く空間。
魔力を封じ込めたクリスタルや、妖精や動く植物など、その空間はキラキラと輝いていた。
そして、奥に聳え立つ大きく真っ白に発光している館。
その光景は、約3000年もの間に見てきた世界の中で、1番衝撃を受けた光景であった。
「やけに眩しいな。」
陛下は目を細めながら、あたりを見渡す。
彼女は陛下の手を離して、先にある白い館を指差す。
「落ち着かないでしょう?私のお家の中に案内するわね。」
陛下は軽く頷き、館へと続く、動く七色の光線が散りばめられた道を黙々と歩いて行く。
彼女が腕にかけて持っていた、魚屋で買った魚2匹が入ったビニール袋に、妖精が近づき粉魔法をかける。
袋に入っていた魚は生命を再び宿し、袋の中でジタバタと動き始める。
「あら。これから食べてしまうのに。お魚さん、ごめんなさいね。」
彼女は袋の中を覗き込みながら、魚に向かって声をかける。
「なっ…。ここでは、生命を蘇えさせる事ができるのか?」
陛下は驚きを隠せず、彼女に向かって問いかける。
「えぇ。この空間は、あの世へと誘うパイプ役みたいな場所。もちろん再生できない程の無法者たちは、死霊の神へと生贄に捧げたりと、後世への影響はあるけれど、多くの生物は後世での受け入れの順番待ちへと、魂を成仏させ生命だけを宿されて送られていくの。」
「………。」
「理解し難いわよね。安心して。生きている者は魂を抜かれたりはしないわ。それに、この魚だって食べる前に、魂を成仏させて宿した生命は引き抜き、後世にきちんと送るから。」
「ハハッ…。情報量多すぎだろ。」
陛下は珍しく、子供の様な笑みを見せながら、【国王】という位を忘れ去って、純粋無垢な好奇心溢れる感情に浸っていた。
彼女が魔法で館の大きな扉を開けると、中央エントランスには大きなガラス張りの天井をも突き破り、空へと続く筒が現れる。
その筒の中では、緑色や青色といった光の影が、グルグルと交差しながら散りばめられていた。
「ここが私のお家。神子の使命をこなす場所。」
広々とした空間に、実験室のような物品が起き連なっている。
陛下は建物内を見渡しながら、苦笑いを浮かべる。
「これじゃあ、ゆっくりもできねぇな。」
「フフッ。この奥にある部屋だけが、私のプライベート空間よ。」
右横にある大きな何も入っていない水槽に、魚を入れて泳がせてから、陛下を奥の部屋へと連れて行く。
奥の部屋の扉を開けると、広く何も置かれていない真っ白な空間が広がっていた。
「何にもねぇな。」
案内されるままに部屋の中に入るが、扉を閉めた瞬間に、部屋の中央にデジタル映像が映し出される。
「この部屋は、気分によって内装をカスタマイズできるの。今日はそうねぇ…落ち着きのあるモダンなお部屋にしようかしら。」
彼女がそう発すると、デジタル映像が切り替わり、モダン風のいくつかの種類の部屋の映像が空中に映し出される。
「あなたはどんなお部屋が好みかしら?」
「ん…?そんなこと、考えたこともないな。」
陛下は映像を眺めながら、考え込む。
国王服を見に纏った佇まいとは不釣り合いな、物件探しをしているかの様な光景に、彼女はクスッと陛下に対して人間味を感じる。
「これでいい。」
陛下は、上品で落ち着きのある木材で施された内装を選択する。
部屋の内装は、一瞬にして陛下が選択をした内装へと切り替わる。
「ほう。すごいな。」
陛下は呆気に取られながらも、少し安堵した様子で合皮で作られた横長のソファーへと腰掛けた。
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