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同僚の橋本先生と一緒に会話しながら門の鍵を開けて園の中に入っていく。
ここは都内の閑静な住宅地の端、最寄り駅からは徒歩十分の立地にある認定こども園、【にじいろ保育園】だ。
元々この土地に昔からある保育園だったものの、そこに幼稚園の機能を追加した、いわゆる"保育園型"で児童福祉施設としての位置付けがされた認定こども園で、生後六ヶ月~就学前までの子どもたちをお預かりしている。
正式名称は【認定こども園:にじいろ保育園】と少々ややこしく、普段は今まで通り【にじいろ保育園】で通っているし、保護者の多くもそう呼んでいる。
築年数が古く老朽化が問題視されていた園舎も三年前に建て替えられ、木の温もりが柔らかな開放感あふれる二階建ての新しい園舎と、シンボルのツリーハウスが目を引く広い園庭が自慢。
未満児クラス以外はお部屋の壁を無くして開閉自由な仕切りにしたことにより、縦割り保育で異年齢との交流も積極的。
子ども一人一人の個性に寄り添い、遊びが中心ののびのびとした保育を行なっている。
そんなにじいろ保育園で働く私は、気が付けばすでに社会人十年目を超えており、一度転職を経験しているとは言え離職率の高い保育の世界では立派な中堅となってしまった。
ここ、にじいろ保育園で働く保育士は、早番、中番、遅番のシフト制で勤務しており、登園する園児の数にもよるけれど月に二回ほど土曜保育が回ってくる。
ご両親の仕事の都合により、朝早い子は開園時間の七時と同時に登園してくるため、早番の保育士は毎朝時間との勝負だ。
出勤してしまえば仕事が忙しいから他のことなんて考えている余裕も暇もなくなる。
それが今の私にはとても都合が良かった。
今日も急いでタイムカードを切り、掃除に向かう同僚たちを見送った私は職員室で充電されているタブレットを手に取り電源ボタンを長押しした。
保護者からのお休みやお迎え変更の連絡などは大体専用アプリを通してこのタブレットに送られてくる。
今日は私は玄関で園児たちを迎える役割を担っていた。
タブレットを持ちながら移動している間に続々と送られてくる情報。それを整理し、園の玄関に置かれているホワイトボードに名前を書き写す。
そうしているうちにあっという間に七時になり、
「おあよーごじゃいましゅ!」
扉が開くと同時に今日一番最初の元気な声が聞こえてきた。
「ゆめちゃんおはよう。ゆめちゃん、元気にご挨拶できたねぇ」
「うん!」
「おはようございます」
「お母さん、おはようございます」
二歳児クラスのゆめちゃんとそのお母さんが登園してきて、後ろからも続々と園児が扉をくぐってくる。
「おはようございまーす」
「あ、しずくせんせーおはよー」
「おはようございます。なごみちゃんおはよう」
「しずくせんせーおはよーございまーす」
「ひなたくんおはよう」
「おはようございますしずく先生」
「おはようございます」
「しずく先生、これ先月の延長料金です。遅くなってすみません」
「あ、ありがとうございます!」
「しずく先生、これ先日保育園でお借りした洋服です。ありがとうございました」
「あぁ、いえいえ、こちらこそありがとうございます」
園児と保護者一人一人に笑顔で挨拶をし、保護者の方からの提出物や返却物を受け取り、お子さんについての心配事なども聞きつつ、砂で汚れた玄関を掃き掃除しなから電話対応もして出勤してくる保育士や各お部屋で待機している先生方への申し送りもして。
目まぐるしいほどに忙しい時間を送ること、きっかり二時間半。
時計を見ると、すでに九時半の登園完了時間になっていた。
一息吐く間も無く、軽く玄関の掃き掃除を行なった後にタブレットを持って職員室へ向かい、朝礼をしてから担任を受け取っているひまわり組へのお部屋へ向かった。
私は今年、数あるクラスの中でも一番大きな年長さんクラスのひまわり組の担任をしている。
厳密に言えば昨年度からの持ち上がりで、園児も保護者もほとんどが見慣れているから新鮮味はあまり無いものの、子どもたちも慣れてくれているからか充実した毎日を送っている。
ここは都内の閑静な住宅地の端、最寄り駅からは徒歩十分の立地にある認定こども園、【にじいろ保育園】だ。
元々この土地に昔からある保育園だったものの、そこに幼稚園の機能を追加した、いわゆる"保育園型"で児童福祉施設としての位置付けがされた認定こども園で、生後六ヶ月~就学前までの子どもたちをお預かりしている。
正式名称は【認定こども園:にじいろ保育園】と少々ややこしく、普段は今まで通り【にじいろ保育園】で通っているし、保護者の多くもそう呼んでいる。
築年数が古く老朽化が問題視されていた園舎も三年前に建て替えられ、木の温もりが柔らかな開放感あふれる二階建ての新しい園舎と、シンボルのツリーハウスが目を引く広い園庭が自慢。
未満児クラス以外はお部屋の壁を無くして開閉自由な仕切りにしたことにより、縦割り保育で異年齢との交流も積極的。
子ども一人一人の個性に寄り添い、遊びが中心ののびのびとした保育を行なっている。
そんなにじいろ保育園で働く私は、気が付けばすでに社会人十年目を超えており、一度転職を経験しているとは言え離職率の高い保育の世界では立派な中堅となってしまった。
ここ、にじいろ保育園で働く保育士は、早番、中番、遅番のシフト制で勤務しており、登園する園児の数にもよるけれど月に二回ほど土曜保育が回ってくる。
ご両親の仕事の都合により、朝早い子は開園時間の七時と同時に登園してくるため、早番の保育士は毎朝時間との勝負だ。
出勤してしまえば仕事が忙しいから他のことなんて考えている余裕も暇もなくなる。
それが今の私にはとても都合が良かった。
今日も急いでタイムカードを切り、掃除に向かう同僚たちを見送った私は職員室で充電されているタブレットを手に取り電源ボタンを長押しした。
保護者からのお休みやお迎え変更の連絡などは大体専用アプリを通してこのタブレットに送られてくる。
今日は私は玄関で園児たちを迎える役割を担っていた。
タブレットを持ちながら移動している間に続々と送られてくる情報。それを整理し、園の玄関に置かれているホワイトボードに名前を書き写す。
そうしているうちにあっという間に七時になり、
「おあよーごじゃいましゅ!」
扉が開くと同時に今日一番最初の元気な声が聞こえてきた。
「ゆめちゃんおはよう。ゆめちゃん、元気にご挨拶できたねぇ」
「うん!」
「おはようございます」
「お母さん、おはようございます」
二歳児クラスのゆめちゃんとそのお母さんが登園してきて、後ろからも続々と園児が扉をくぐってくる。
「おはようございまーす」
「あ、しずくせんせーおはよー」
「おはようございます。なごみちゃんおはよう」
「しずくせんせーおはよーございまーす」
「ひなたくんおはよう」
「おはようございますしずく先生」
「おはようございます」
「しずく先生、これ先月の延長料金です。遅くなってすみません」
「あ、ありがとうございます!」
「しずく先生、これ先日保育園でお借りした洋服です。ありがとうございました」
「あぁ、いえいえ、こちらこそありがとうございます」
園児と保護者一人一人に笑顔で挨拶をし、保護者の方からの提出物や返却物を受け取り、お子さんについての心配事なども聞きつつ、砂で汚れた玄関を掃き掃除しなから電話対応もして出勤してくる保育士や各お部屋で待機している先生方への申し送りもして。
目まぐるしいほどに忙しい時間を送ること、きっかり二時間半。
時計を見ると、すでに九時半の登園完了時間になっていた。
一息吐く間も無く、軽く玄関の掃き掃除を行なった後にタブレットを持って職員室へ向かい、朝礼をしてから担任を受け取っているひまわり組へのお部屋へ向かった。
私は今年、数あるクラスの中でも一番大きな年長さんクラスのひまわり組の担任をしている。
厳密に言えば昨年度からの持ち上がりで、園児も保護者もほとんどが見慣れているから新鮮味はあまり無いものの、子どもたちも慣れてくれているからか充実した毎日を送っている。
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