売れ残り同士、結婚します!

青花美来

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「じゃあ、彼と全然会えてないんだ?」


道端で冬馬に助けてもらってから早一週間が経過した金曜の仕事終わり。

私は由紀乃と一緒にいつもの居酒屋に飲みにきていた。

冬馬とはあれ以来まともに会えておらず、寂しさが募っている。


「そうなの。会いたいけど仕事で忙しいの知ってるからわがまま言えないし」

「んー、恋人に会いたいっていうのはわがままじゃないと思うけどなあ」

「……そうかな?」

「うん。しずくが"会いたい"って言えば彼氏さん、喜ぶと思うけどなあ。むしろ夜中でも会いにきてくれそう」


ふふ、と笑う由紀乃の言葉に、そうなのかなあと悩みながらジョッキに入ったビールを飲む。


「だって、しずくがもし彼から"会いたい"って言われたらどうする?」

「そんなの、いくらでも時間作って会いに行く」

「仕事が忙しい時に言われたら、迷惑だって思う?」

「思わない。むしろ私も会いたいから頑張れると思う」

「でしょ?だからきっと彼も同じように思ってるよ」

「そっか……」


確かにそう考えると、冬馬ならどんなに忙しくても時間を作ってくれそうだなと思ってしまう。

でもそれに甘えすぎるのも……でも会いたいし……。

たった四文字を言葉にすることが、私にとってはすごく難しく思えてしまう。


「悩んでないで、とりあえず今日寝る前に"会いたい"って連絡してみれば?それからのことは返事が来てから考えればいいんだし。もしかしたら相手も同じように悩んでるかもしれないよ?」


嬉しそうな由紀乃に頷く。


「……そうだね。送ってみようかな」


思ってることはちゃんと言葉にしないと伝わらない。


今日の夜、送ってみよう。


そう決意した私とは反対に、由紀乃は最近同棲生活を無事にスタートさせた。


「同棲生活はどんな感じ?」

「んー、まだ始まったばっかりでなんとも。一緒に暮らすとお互いの価値観が浮き彫りになってくるから、それ擦り合わせるのに今頑張ってる」

「結婚するならそこは重要だもんね」

「うん」

「でも由紀乃、最近笑顔が増えたよね。いつも楽しそう」

「そうかな?まぁ、やること増えて大変だけどね。でも毎日お弁当箱出してくる時にね、"おいしかったよ"って言ってくれるの。それは結構嬉しいかな」

「えー、素敵。作り甲斐があるね」

「うん」


彼との新生活を根掘り葉掘り聞いて楽しんでいると、


「────え、嘘だろ?」


と、急に男性の大きな声が聞こえた。


「バッカ!声がでかい」


……あれ、なんかどこかで聞いたことあるような……。


「悪い悪い。でも茅ヶ崎にだろ?──じゃねーの?」


茅ヶ崎?


「それがマジなんだって!────だったんだよ」

「だって今まで────しなかっただろ。────でもずっと────」

「あぁ。でも確かに────だよ。────でさぁ」


なんだろう、聞き取れなくてもやもやする。


「しずく?どうしたの?」

「……うん、ちょっと」


由紀乃が目の前で怪訝な顔をしている。

賑やかな大衆居酒屋だからか、そこら中から笑い声や大きな話し声が聞こえていてかき消されてしまう。

けれど、聞き覚えのある声と、"茅ヶ崎"という名前。

盗み聞きなんて、悪いことをしているのはわかっている。


でも、どこで聞いたんだっけ……?


思い出せなくてもやもやしていると、さらに後ろから聞こえた声に目を見開く。


「山田の見間違いとかじゃねぇの?」

「違うんだって!」


……そうだ、ついこの間会った、冬馬の同僚の山田さんだ。


「だって茅ヶ崎だろ?アイツに婚約者ねぇ……」


肩が跳ねる。

私と冬馬の話をしているんだ。

冬馬のことを知っているということは、もう一人の男性も同じ事務所の職員なのだろうか。


「しずく、もしかしてあっちにいる二人組が話してることって」


声を顰める由紀乃に、私も顔を寄せて囁く。



「……うん、多分私と冬馬のこと」

「なるほどね。よく聞こえないけどなーんか雰囲気的にいいものではなさそうだね」

「うん……」

「店変える?」

「ううん、いいよ。ありがとう」


山田さんもまさか私がここにいるなんて思っていないだろう。私だってびっくりした。

ちょうど私は二人に背を向けて座っているため山田さんにはバレていないよう。

由紀乃が見るに、男性二人が楽しそうに盛り上がっているらしい。

声が大きくなったり小さくなったり周りにかき消されたりして内容はよく聞き取れないものの、いくつか聞こえた話から推測するに、二人はどうやら冬馬に婚約者ができたことに心底驚いているらしい。
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