"わたし"が死んで、"私"が生まれた日。

青花美来

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第一章

記憶喪失(1)

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─────
───


……長い、果てしなく長い夢を見ていたような気がする。

意識が浮上して、うっすらと目を開く。

思いの外ずっしりとした瞼の重さを感じながらも、数回瞬きした。

視界に入り込んできたのは、汚れひとつ無い真白な天井。

そしてツンと鼻に付く薬品の香りに、眉間に皺が寄ったのがわかる。


……病院?


そう理解するまでにどれくらいの時間を要したのだろう。

どうして病院に?

そう思いながら、かゆみを感じて目を擦ろうとする。

しかし腕を上げようとすると、ピリッとした電流のような激痛が走り。


「っ……」


声にならない声が漏れた。

そこで初めて、口元に何かが付けられていることに気がつく。

しかし痛みで手も動かせないため確かめることはできない。


どうにか視線だけを可能な限り下げると、見たこともない半透明の楕円形のものが見えた。


……何これ。酸素マスク?


呼吸をするたびに白く曇るソレ。その先には何か管が付いているようだ。

その管を辿って首を横に向けると、台にぶら下がった点滴、よくわからないけれどピコピコと動いている機械。それからドラマで見るような、心臓の動きを確かめる機械。心電図と言ったか。

初めて見たその実物。規則的に動いているのがわかる自分の心臓。

たくさんの機械に囲まれているのを、どこか他人事のように感じていた。

自分自身に何かが起こって、治療を受けて入院しているのだろう。

今わかったのは、それだけだった。

急に頭を使ったからだろうか、ズキンッとこめかみの辺りが痛む。

眉を顰めながらゆっくりと息を吐いてその痛みに耐えていると、少し離れたところから扉が開く音がした。


「失礼しまーす」


鈴の鳴るような、凛とした綺麗な声と共に視界に入ってきたのは、看護師の女性。二十代くらいだろうか、声と同じく凛としていてキリッとした顔の美人さん。

患者が目を覚ましたことになど全く気が付いていないのか、その看護師さんは機械の調子を見たり点滴の残量を確認したり、無言で仕事をしていた。

それを黙って見つめた。パソコンにデータを打ち込む音だけが、しばらく病室に響いていた。

そのうちどこかからの視線を感じたのだろうか、ふと看護師さんがこちらを向く。

そして視線が交わった瞬間、その目は大きく見開かれた。


「……桐ヶ谷さん?桐ヶ谷さん!?聞こえますか!?」


肩をトン、と叩いて呼びかけてきた声に、言葉の代わりに頷いて返事をすると看護師さんは慌ててナースコールを押した。


「桐ヶ谷さん、意識戻りました」


そう告げて、


「すぐに先生がいらっしゃるので、少し待っててくださいね」


ふわりと笑った後に忙しそうに動き始めた。

言葉通りすぐにやってきたお医者さんは、初老の男性医師。

"東海林"と記載されたネームが胸に掛かっていた。

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