33 / 33
エピローグ
33
しおりを挟む……一年後。
「芽衣!」
「大雅、おはよう」
「おはよ。行こう」
「うん!」
自然と繋がれた手は、次第にぎゅっと指が絡まる。
お互いの熱ですぐに暑くなるけれど、絶対に離すことはしない。
「あれからちょうど一年か。早いな」
「そうだね。本当早いなあ」
ポニーテールが今日も爽やかな風に揺れた。
大雅の記憶が戻ってから、早いものでちょうど一年が経過していた。
大雅はあの時の言葉通り常に一緒にいてくれて、わたしをすぐ隣から支えてくれている。
結局大雅は嫌々ながらもわたしの勧めでカウンセリングを受けることになり、回数は減ったけど今も定期的に通ってくれている。
大雅の心の奥底に潜んでいるであろう後悔や罪悪感が少しでも薄れてくれると良いなと思っている。
奈子ちゃんにはあの後大雅が何度も話をしたらしく、いつのまにか大雅と奈子ちゃんの噂話は消えていた。
代わりに大雅は常にわたしの隣にいるようになったから、わたしたちの噂があっという間に広まってしまったくらいだ。
それまで一緒にいるどころか会話している姿を見た人なんてほとんどいなかったから、皆相当驚いていたらしい。
そんな学校生活では大雅と紫苑と透くんの助けもあり無事に修学旅行に行くことができたわたしは、クラスは違ったけれど四人で自由時間も一緒に過ごすことができた。
その後も三年生になってからは紫苑の勧めで友達も作ることに成功。
"本当はずっとお話ししてみたかったの!"
"仲良くなりたいなってずっと思ってたの。話しかけてくれてありがとう!"
"わたしとも友達になって!"
今まで後遺症のことがあるから積極的に話しかけたりはできなかったけれど、勇気を出してみれば周りは良い人ばかりで、皆わたしの手をぎゅっと握って改めて自己紹介してくれた。
少しずつではあるけれど、心を許せる相手が増えてさらに楽しい毎日を送っている。
もちろん、後遺症は治らないから大変なこともあるし、声だけじゃ言葉の真意が読み取れなくてもどかしい気持ちになることもある。
だけど皆わたしに話しかけてくる時はまず名乗るようにしてくれたり、何かあれば手で肩を叩いて呼んでくれたり。
会話の途中でも"笑っちゃう"とか、"それは怒るよ"とか、"ちょっと悲しいかな"とか、言葉で感情を教えてくれるため困ることも少ない。
あまり知れ渡っていない脳障害で、わたしもまだ完全に理解しているわけじゃないから人にこの障害の仕組みを説明するのは難しいけれど、皆が頑張って理解しようとしてくれているのがすごく嬉しい。
なによりあの二年間に比べれば、大雅と一緒にいられる今の生活が幸せすぎて、あまり後遺症のことは気にならない。
そんな生活を作り上げてくれている周りの皆には感謝しても仕切れない。
「今日は晴れてるから花火よく見えそうだね」
「あぁ。今年こそ、だな」
「うん。大雅とまた一緒に行けるなんて、本当夢みたい」
「ははっ、大袈裟だろ」
「そんなことないよ」
今日は、年に一度のあの花火大会の日だ。
去年泣きながらお互いの気持ちを確認したあの日が、今年もやってくる。
「あ、今日の夏期講習終わったらおばさんに着付けしてもらうから、一回着替えてから大雅ん家行くからね」
「あぁ。実は母さんが俺にも浴衣着ろって言って用意してるらしいんだよ」
「そうなの?」
「うん。だから着付け終わったらそのまま見に行こうぜ。空いてるうちにたこ焼きと芋食いたい」
「うん!楽しみ!」
あの高台はあれからさらに有名になってしまった。大雅は人混みが得意じゃないし、わたしも迷子になったら大雅を見つけられなくなってしまうためおそらくもう行くことはないと思うけれど。
近場でも綺麗に見られるところはたくさんあるし、大雅と二人で見られるならどこでも楽しいだろう。
二人で一緒にいるということが、わたしたちにとっては何よりも大切だから。
「芽衣」
「ん?」
「明日は夏期講習も無いし、どこか出かけるか」
「え、いいの?大雅受験勉強で忙しいのに」
進学希望のわたしたち。その中でも大雅は難関大学を受験しようとしているため、毎日勉強で忙しいのだ。
確かに最近デートもまともにできていなくて寂しいとは思っていたけど。
でも勉強の邪魔にはなりたくない。
そんなわたしの不安をかき消すように、手を握る力が少し強くなった。
「たまにはいいだろ。……ほら、今日でちょうど一年になる、わけだし」
照れ臭そうな声に、安心したら思わず笑みが溢れた。
「うん、そうだね。一年記念だもんね!」
「そんなはっきり言うなよ。恥ずかしいだろ」
「なんで?いいじゃん、一年記念日!大雅が覚えてくれてたなんて意外だったけど、嬉しい」
「覚えてるに決まってんだろ。もう芽衣に関することは、何一つ忘れないって決めてるんだから」
「ふふっ……嬉しい。ありがとう大雅」
大雅は、言葉通りどんなに些細なことでもわたしが言った言葉を覚えてくれていたり、わたし以上にわたしのことを覚えている。
「行きたいところあるか?」
「んー……。あ、じゃあ駅前のカフェに行かない?新作のケーキがおいしいって友達が言ってたの!」
「ん。わかった」
「あとね!隣町に新しいレジャースポットができたんだって!」
「じゃあそこも調べて行ってみるか」
「うん!あ、あとこの間テレビでやってたとこも行ってみたくて、って、大雅聞いてる?」
「聞いてる聞いてる」
声色で、大雅も笑っているのがわかる。
多分今この瞬間の会話も、大雅は忘れることなく記憶に留めておいてくれるのだろう。
もちろん、永久に覚えていることなんてできないことはわたしも大雅もわかっている。
だけど、大雅の気持ちが。すごく嬉しいんだ。
「じゃあそのためにも、今日の夏期講習頑張んないとな?」
「ちょっと現実思い出させないでよー、今日はわたしの苦手な数学と政経なんだから」
「ククッ……わかんないとこは教えてやるよ。だからがんばろーぜ」
「もう、ずるいんだから。でもありがと大雅。大好き!」
「んだよ急に。……俺も大好きだよ」
「ふふっ、わたしたちバカップルみたいだね」
「いいだろ、実際そうなんだから」
わたしと大雅はたくさんすれ違い、お互いを傷つけ合って生きてきた。
大雅がしたこと、わたしがしたこと。
この二年間のできごとは何も消えないし、無かったことにはできない。
お互いにたくさん傷ついて苦しんだ二年間だった。
だけど、その二年で確かに得たこともある。
たくさん泣いて、たくさん悩んだ分、これからは笑顔溢れる人生にしていきたい。
つらいこともたくさんあるだろう。また泣くこともあるだろう。
前が見えなくて、立ち止まってしまう日もあるだろう。
だけど、そのときは大雅が支えてくれるから。
常に隣に立ってくれてるから。
だから、わたしはもう大丈夫。
寂しくなんかないし、何も怖くない。
顔を見なくたって、今大雅が隣でとびきりの笑顔でいてくれているのがちゃんとわかってるから。
わたしは、今日も前に進むことができている。
それだけで、わたしは幸せだから。
大雅。今日もわたしの隣にいてくれてありがとう。
今日もわたしにたくさんの笑顔をくれてありがとう。
──いつかまた、キミと笑い合いたいから。
end
2
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。
冷徹公爵の誤解された花嫁
柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。
冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。
一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
私が行方不明の皇女です~生死を彷徨って帰国したら信じていた初恋の従者は婚約していました~
marumi
恋愛
「あら アルヴェイン公爵がドゥーカス令嬢をエスコートされていますわ」
「ご婚約されたと噂を聞きましたが、まさか本当だとは!」
私は五年前までこの国の皇女エリシアだった。
暗殺事件に巻き込まれ、幼なじみで初恋の相手だった従者――アルヴェイン公子と共に命からがら隣国、エルダールへ亡命した。
彼の「必ず迎えに来る」その言葉を信じて、隣国の地で彼を待ち続けた……。
それなのに……。
やっとの思いで帰国した帝国の華やかなパーティー会場で、一際目立っているのは、彼と、社交界の華と言われる令嬢だった――。
※校正にAIを使用していますが、自身で考案したオリジナル小説です。
※イメージが伝わればと思い、表紙画像をAI生成してみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる