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第27話
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明日からは実際に動くとジャーヴィスは宣言した。
リチャード・アダムスが動く前に、こちらが有利になるカードを手に入れる短期決戦だと。
その有利なカードも、短期決戦の意味も良く分からなかったが、とにかくリチャードの鼻をあかすのなら賛成だ。
だから、今夜は3人で自分の考察を話そうと言うので、ミルドレッドも臆せずに話すことが出来た。
「今のアダムスは、とにかく本家の長男を優先します。
その次は次男。
ですからスチュワートの……死去後も領地の仕事とは関わっていないレナードが継ぐことを、誰からも反対がありませんでしたし、一族全員で彼を支えようとしていました。
これはどうしてなんでしょう?
エルネスト様が兄から後継者の座を奪ったのなら、一族繁栄の為なら子孫にも実力主義を全うするよう伝えるのではないかと、思うのですが」
「一族を巻き込んでの家督争いを、エルネスト自身は望んでいなかったのでは?」
ミルドレッドの問いに答えたのは、今度はイアンだった。
思わぬ意見にミルドレッドが驚いていると、ジャーヴィスがエルネストの名前の横に記された文字を指した。
「この黒十字勲章は戦争で武勲を上げた人物に下賜される名誉勲章だよ。
これはエルネストが2年戦争で出征して、当時の国王陛下から勲章を授かったことを表しているんだ」
「女性はご存じないかも知れませんが、我が国では貴族の後継者は参戦しません。
彼等も最後には戦いますが、普通は次男三男が出征することになります。
アダムスでは、同じ双子でもウィラードを領地に留めて、エルネストを戦場に送ったのです。
そして名誉なことに彼は武勲をあげて戻ってきた。
当然、領内でエルネストの人気は高まり……反対に出征しなかったウィラードは肩身が狭かったのではないでしょうか」
「兄弟とは言っても、ふたりは生まれたのが数分か数秒か、それくらいの違いで順番が決まっただけ。
それなのに弟の方が勲章を貰い、家名の価値を上げたのなら、彼を後継者にしようとする動きが出てきても仕方がない」
「……ウィラード様は国で決められたことに従っていただけなのに理不尽な……
でも結局、エルネスト様の方が勝った……」
ミルドレッドは複雑な顔をしていた。
夫のスチュワートは、エルネストの曾孫だ。
この時、エルネストが敗北していたら、スチュワートは生まれていない。
どうして、こんな3代も前のスチュワートの曽祖父達の話を延々とミルドレッドに、聞かせるのか。
素直なミルドレッドだからこそ黙って聞いているが、気の短い者になら、昔のこと等いい加減にしろと文句を言われただろう。
「普通ならこんなお家騒動を起こせば、下手すれば領地は没収される。
だが、王家は見逃してくれた。
それだけエルネストの2年戦争に於いての功績が素晴らしいものだったんだろう。
きっと、エルネストが後継者になる方が国にとって都合が良かったのだと思う。
だが、レイウッド領内はボロボロだった。
それで彼等は誓ったんだ、二度とこんな風に身内で戦わない。
その為に、一族の結束力を高めること、それから。
争いの元になりかねない、本家に生まれた双子はどちらかを処分すること」
「処分するって!
まさか、殺すとか?」
「いや多分……片方を生まれていなかったことにして、他家へ養子に出す、だと思いますよ」
フォローのつもりのイアンの言葉だが。
その言葉にも、ミルドレッドは強く反応した。
「生まれてなかったことに、ってどうやってですか!」
「届けを出さない。
元々新生児は亡くなりやすいので、誕生から1年が無事に過ぎてから届けを出す家も多いんだ。
貴族名鑑は情報の宝庫だとギャレットが教えてくれたとミリーに言っただろう?
あれは公正な情報が載っているからだ。
主観や忖度や、そんな余分なものは一切なく、ただ名前と生年と享年のデータが載っていて、伝記や家史のように、都合のいい脚色もない。
だが、やはり短所はあって。
それは届けられたものしか掲載しないと言うことだ」
「こんな昔の話をずっとしてきたのは、あの家に嫁いだ貴女には無関係な話ではないからです。
アダムス家は過去を、当主の妻である貴女に隠してきた。
もし貴女がレイウッド伯爵との間に双子を授かれば、その時初めて知らされる話だったと言うことですね」
「……」
ミルドレッドは相槌も打たずに、固い表情をしている。
イアンはスチュワートがどんな男だったのか知らないから、淡々と事実をミルドレッドに突き付ける。
「では、この先は、貴族名鑑から離れます。
これまで話してきたアダムスの歴史から考え得る仮定の話をしましょう。
私とジャーヴィス先輩は多分同じように、今回の一件を仮定しています。
恐らく、貴女のご主人は双子で、本家の次男です。
何らかの理由により兄ではなく、ご主人が後継者に選ばれた。
選ばれなかった方の長男は、母親のメラニーとレイウッドを離れ、王都で成長し、その後結婚して子供が生まれました。
それがメラニー・フェルドンです。
ご主人に生き写しなのは、父親と同じ顔をしているからでしょう」
リチャード・アダムスが動く前に、こちらが有利になるカードを手に入れる短期決戦だと。
その有利なカードも、短期決戦の意味も良く分からなかったが、とにかくリチャードの鼻をあかすのなら賛成だ。
だから、今夜は3人で自分の考察を話そうと言うので、ミルドレッドも臆せずに話すことが出来た。
「今のアダムスは、とにかく本家の長男を優先します。
その次は次男。
ですからスチュワートの……死去後も領地の仕事とは関わっていないレナードが継ぐことを、誰からも反対がありませんでしたし、一族全員で彼を支えようとしていました。
これはどうしてなんでしょう?
エルネスト様が兄から後継者の座を奪ったのなら、一族繁栄の為なら子孫にも実力主義を全うするよう伝えるのではないかと、思うのですが」
「一族を巻き込んでの家督争いを、エルネスト自身は望んでいなかったのでは?」
ミルドレッドの問いに答えたのは、今度はイアンだった。
思わぬ意見にミルドレッドが驚いていると、ジャーヴィスがエルネストの名前の横に記された文字を指した。
「この黒十字勲章は戦争で武勲を上げた人物に下賜される名誉勲章だよ。
これはエルネストが2年戦争で出征して、当時の国王陛下から勲章を授かったことを表しているんだ」
「女性はご存じないかも知れませんが、我が国では貴族の後継者は参戦しません。
彼等も最後には戦いますが、普通は次男三男が出征することになります。
アダムスでは、同じ双子でもウィラードを領地に留めて、エルネストを戦場に送ったのです。
そして名誉なことに彼は武勲をあげて戻ってきた。
当然、領内でエルネストの人気は高まり……反対に出征しなかったウィラードは肩身が狭かったのではないでしょうか」
「兄弟とは言っても、ふたりは生まれたのが数分か数秒か、それくらいの違いで順番が決まっただけ。
それなのに弟の方が勲章を貰い、家名の価値を上げたのなら、彼を後継者にしようとする動きが出てきても仕方がない」
「……ウィラード様は国で決められたことに従っていただけなのに理不尽な……
でも結局、エルネスト様の方が勝った……」
ミルドレッドは複雑な顔をしていた。
夫のスチュワートは、エルネストの曾孫だ。
この時、エルネストが敗北していたら、スチュワートは生まれていない。
どうして、こんな3代も前のスチュワートの曽祖父達の話を延々とミルドレッドに、聞かせるのか。
素直なミルドレッドだからこそ黙って聞いているが、気の短い者になら、昔のこと等いい加減にしろと文句を言われただろう。
「普通ならこんなお家騒動を起こせば、下手すれば領地は没収される。
だが、王家は見逃してくれた。
それだけエルネストの2年戦争に於いての功績が素晴らしいものだったんだろう。
きっと、エルネストが後継者になる方が国にとって都合が良かったのだと思う。
だが、レイウッド領内はボロボロだった。
それで彼等は誓ったんだ、二度とこんな風に身内で戦わない。
その為に、一族の結束力を高めること、それから。
争いの元になりかねない、本家に生まれた双子はどちらかを処分すること」
「処分するって!
まさか、殺すとか?」
「いや多分……片方を生まれていなかったことにして、他家へ養子に出す、だと思いますよ」
フォローのつもりのイアンの言葉だが。
その言葉にも、ミルドレッドは強く反応した。
「生まれてなかったことに、ってどうやってですか!」
「届けを出さない。
元々新生児は亡くなりやすいので、誕生から1年が無事に過ぎてから届けを出す家も多いんだ。
貴族名鑑は情報の宝庫だとギャレットが教えてくれたとミリーに言っただろう?
あれは公正な情報が載っているからだ。
主観や忖度や、そんな余分なものは一切なく、ただ名前と生年と享年のデータが載っていて、伝記や家史のように、都合のいい脚色もない。
だが、やはり短所はあって。
それは届けられたものしか掲載しないと言うことだ」
「こんな昔の話をずっとしてきたのは、あの家に嫁いだ貴女には無関係な話ではないからです。
アダムス家は過去を、当主の妻である貴女に隠してきた。
もし貴女がレイウッド伯爵との間に双子を授かれば、その時初めて知らされる話だったと言うことですね」
「……」
ミルドレッドは相槌も打たずに、固い表情をしている。
イアンはスチュワートがどんな男だったのか知らないから、淡々と事実をミルドレッドに突き付ける。
「では、この先は、貴族名鑑から離れます。
これまで話してきたアダムスの歴史から考え得る仮定の話をしましょう。
私とジャーヴィス先輩は多分同じように、今回の一件を仮定しています。
恐らく、貴女のご主人は双子で、本家の次男です。
何らかの理由により兄ではなく、ご主人が後継者に選ばれた。
選ばれなかった方の長男は、母親のメラニーとレイウッドを離れ、王都で成長し、その後結婚して子供が生まれました。
それがメラニー・フェルドンです。
ご主人に生き写しなのは、父親と同じ顔をしているからでしょう」
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