【完結】この悲しみも。……きっといつかは消える

Mimi

文字の大きさ
28 / 58

第27話

しおりを挟む
 明日からは実際に動くとジャーヴィスは宣言した。
 リチャード・アダムスが動く前に、こちらが有利になるカードを手に入れる短期決戦だと。


 その有利なカードも、短期決戦の意味も良く分からなかったが、とにかくリチャードの鼻をあかすのなら賛成だ。
 だから、今夜は3人で自分の考察を話そうと言うので、ミルドレッドも臆せずに話すことが出来た。


「今のアダムスは、とにかく本家の長男を優先します。
 その次は次男。
 ですからスチュワートの……死去後も領地の仕事とは関わっていないレナードが継ぐことを、誰からも反対がありませんでしたし、一族全員で彼を支えようとしていました。
 これはどうしてなんでしょう?
 エルネスト様が兄から後継者の座を奪ったのなら、一族繁栄の為なら子孫にも実力主義を全うするよう伝えるのではないかと、思うのですが」

「一族を巻き込んでの家督争いを、エルネスト自身は望んでいなかったのでは?」


 ミルドレッドの問いに答えたのは、今度はイアンだった。
 思わぬ意見にミルドレッドが驚いていると、ジャーヴィスがエルネストの名前の横に記された文字を指した。


「この黒十字勲章は戦争で武勲を上げた人物に下賜される名誉勲章だよ。
 これはエルネストが2年戦争で出征して、当時の国王陛下から勲章を授かったことを表しているんだ」

「女性はご存じないかも知れませんが、我が国では貴族の後継者は参戦しません。
 彼等も最後には戦いますが、普通は次男三男が出征することになります。
 アダムスでは、同じ双子でもウィラードを領地に留めて、エルネストを戦場に送ったのです。
 そして名誉なことに彼は武勲をあげて戻ってきた。
 当然、領内でエルネストの人気は高まり……反対に出征しなかったウィラードは肩身が狭かったのではないでしょうか」

「兄弟とは言っても、ふたりは生まれたのが数分か数秒か、それくらいの違いで順番が決まっただけ。
 それなのに弟の方が勲章を貰い、家名の価値を上げたのなら、彼を後継者にしようとする動きが出てきても仕方がない」

「……ウィラード様は国で決められたことに従っていただけなのに理不尽な……
 でも結局、エルネスト様の方が勝った……」


 ミルドレッドは複雑な顔をしていた。
 夫のスチュワートは、エルネストの曾孫だ。
 この時、エルネストが敗北していたら、スチュワートは生まれていない。


 どうして、こんな3代も前のスチュワートの曽祖父達の話を延々とミルドレッドに、聞かせるのか。
 素直なミルドレッドだからこそ黙って聞いているが、気の短い者になら、昔のこと等いい加減にしろと文句を言われただろう。


「普通ならこんなお家騒動を起こせば、下手すれば領地は没収される。
 だが、王家は見逃してくれた。
 それだけエルネストの2年戦争に於いての功績が素晴らしいものだったんだろう。
 きっと、エルネストが後継者になる方が国にとって都合が良かったのだと思う。
 だが、レイウッド領内はボロボロだった。
 それで彼等は誓ったんだ、二度とこんな風に身内で戦わない。
 その為に、一族の結束力を高めること、それから。
 争いの元になりかねない、本家に生まれた双子はどちらかを処分すること」

「処分するって!
 まさか、殺すとか?」

「いや多分……片方を生まれていなかったことにして、他家へ養子に出す、だと思いますよ」


 フォローのつもりのイアンの言葉だが。
 その言葉にも、ミルドレッドは強く反応した。


「生まれてなかったことに、ってどうやってですか!」

「届けを出さない。
 元々新生児は亡くなりやすいので、誕生から1年が無事に過ぎてから届けを出す家も多いんだ。
 貴族名鑑は情報の宝庫だとギャレットが教えてくれたとミリーに言っただろう?
 あれは公正な情報が載っているからだ。
 主観や忖度や、そんな余分なものは一切なく、ただ名前と生年と享年のデータが載っていて、伝記や家史のように、都合のいい脚色もない。
 だが、やはり短所はあって。
 それは届けられたものしか掲載しないと言うことだ」

「こんな昔の話をずっとしてきたのは、あの家に嫁いだ貴女には無関係な話ではないからです。
 アダムス家は過去を、当主の妻である貴女に隠してきた。
 もし貴女がレイウッド伯爵との間に双子を授かれば、その時初めて知らされる話だったと言うことですね」

「……」


 ミルドレッドは相槌も打たずに、固い表情をしている。
 イアンはスチュワートがどんな男だったのか知らないから、淡々と事実をミルドレッドに突き付ける。



「では、この先は、貴族名鑑から離れます。
 これまで話してきたアダムスの歴史から考え得る仮定の話をしましょう。
 私とジャーヴィス先輩は多分同じように、今回の一件を仮定しています。
 恐らく、貴女のご主人は双子で、本家の次男です。
 何らかの理由により兄ではなく、ご主人が後継者に選ばれた。
 選ばれなかった方の長男は、母親のメラニーとレイウッドを離れ、王都で成長し、その後結婚して子供が生まれました。
 それがメラニー・フェルドンです。
 ご主人に生き写しなのは、父親と同じ顔をしているからでしょう」


 
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~

志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。 政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。 社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。 ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。 ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。 一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。 リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。 ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。 そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。 王家までも巻き込んだその作戦とは……。 他サイトでも掲載中です。 コメントありがとうございます。 タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。 必ず完結させますので、よろしくお願いします。

お飾りな妻は何を思う

湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。 彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。 次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。 そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

死に戻り王妃はふたりの婚約者に愛される。

豆狸
恋愛
形だけの王妃だった私が死に戻ったのは魔術学院の一学年だったころ。 なんのために戻ったの? あの未来はどうやったら変わっていくの? どうして王太子殿下の婚約者だった私が、大公殿下の婚約者に変わったの? なろう様でも公開中です。 ・1/21タイトル変更しました。旧『死に戻り王妃とふたりの婚約者』

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて

ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」 お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。 綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。 今はもう、私に微笑みかける事はありません。 貴方の笑顔は別の方のもの。 私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。 私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。 ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか? ―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。 ※ゆるゆる設定です。 ※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」 ※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

幼馴染と仲良くし過ぎている婚約者とは婚約破棄したい!

ルイス
恋愛
ダイダロス王国の侯爵令嬢であるエレナは、リグリット公爵令息と婚約をしていた。 同じ18歳ということで話も合い、仲睦まじいカップルだったが……。 そこに現れたリグリットの幼馴染の伯爵令嬢の存在。リグリットは幼馴染を優先し始める。 あまりにも度が過ぎるので、エレナは不満を口にするが……リグリットは今までの優しい彼からは豹変し、権力にものを言わせ、エレナを束縛し始めた。 「婚約破棄なんてしたら、どうなるか分かっているな?」 その時、エレナは分かってしまったのだ。リグリットは自分の侯爵令嬢の地位だけにしか興味がないことを……。 そんな彼女の前に現れたのは、幼馴染のヨハン王子殿下だった。エレナの状況を理解し、ヨハンは動いてくれることを約束してくれる。 正式な婚約破棄の申し出をするエレナに対し、激怒するリグリットだったが……。

あなただけが私を信じてくれたから

樹里
恋愛
王太子殿下の婚約者であるアリシア・トラヴィス侯爵令嬢は、茶会において王女殺害を企てたとして冤罪で投獄される。それは王太子殿下と恋仲であるアリシアの妹が彼女を排除するために計画した犯行だと思われた。 一方、自分を信じてくれるシメオン・バーナード卿の調査の甲斐もなく、アリシアは結局そのまま断罪されてしまう。 しかし彼女が次に目を覚ますと、茶会の日に戻っていた。その日を境に、冤罪をかけられ、断罪されるたびに茶会前に回帰するようになってしまった。 処刑を免れようとそのたびに違った行動を起こしてきたアリシアが、最後に下した決断は。

処理中です...