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第42話

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「奥様が提示された、その前提を基に私は調査を開始致しました。
 先ずは、ローラが名乗ったフェルドンから当たることにして。
 伯爵様の実母メラニー・コーネルが平民のマイケル・フェルドンと再婚したことを、当時近所に住んでいた住民から聞き込みました。
 そして彼女がウィラードと言う男児を、連れていたこと。
 再婚後、暴漢に襲われフェルドン夫妻が亡くなったこと。
 天涯孤独となったウィラードを援助したのが前レイウッド伯爵であること。
 父親から援助金を届ける役目を仰せつかったのが、当時高等学院在学中だった伯爵様だったことが、判明しました」


 相変わらず、ここまで流れるように説明していたイアンはここで、一旦言葉を切った。



 ずいぶん省略した説明だが、これが正解だなと、ジャーヴィスは感心した。
 ここでスミスの名前を出せば、そんな平民の言うこと等云々をまたリチャードが喚き、無駄に時間を取られる。
 この3人さえ、確実に連れて帰れるなら。
 一刻も早く、ここから出たい。


「説明するのは、お前に任せた。
 俺は最初と最後だけ、でしゃばらせて貰うよ」


 レイウッドへ向かう馬車の中でイアンに伝えた。
 口の上手いイアンなら、リチャードが隠そうとしているバーナードとメラニーの離婚の理由も引き出せるだろう。
 それは本来ならスチュワートが居なくなったアダムス等、自分には全く関係無いことで、どうでもいい過去だ。

 しかしミリーにとってはスチュワートは過去ではない。
 だからイアンも、彼女の前でそれを明らかにさせたいのだ。



 そんな感じで、この場はイアンに丸投げすると決めたジャーヴィスの次の関心は、ユリアナをアダムスから連れ出す算段に移り。
 彼は内ポケットから小さな手帳を取り出して、イアンの説明に相槌を打つ振りをして。

 実際は別の事を、書き留めていた。
 そして、それを書き終えると急に立ち上がり。


「私は、少し席を外します」と言って、案内も無しに部屋を出て行った。
 誰もが彼に、声をかける間も与えずに。


 イアンの説明が再び始まるのを待っていたアダムスの3人は、唐突なジャーヴィスの行動に呆気に取られていたし、マリーは頼りになりそうなジャーヴィスが急に居なくなり可哀想な程に狼狽えて、今度はイアンの隣の席に移動した。


 別に打ち合わせもしていないが、突発的に動くジャーヴィスに慣れているイアンが驚くはずもなく。
 身を寄せるマリーから距離を取ると、再び注目を自分に集めようと、軽く手を叩いた。


 ミルドレッドと言えば、実は兄が常識からは少し外れてる人物だと薄々勘づき始めていたので、また……と思っただけだった。
 最短の手続きで、あのマリー・ギルモアを義妹にして、わたしを再婚から救ってくれた兄様だ。
 今度はこの家で何をする気なの、と。


 この時、ミルドレッドの頭の中には、サリー・グレイの存在は無かった。



     ◇◇◇



「では、続けます。
 この時、私達はひとつ気になる情報を入手しました。
 それはウィラードの左足が不自由だったと言う話です。
 本人曰く、生まれながらだと周囲には言っていたそうですが、これについて当時を知るアダムス子爵からご説明をいただけますと助かります」

「……」

「ウィラードが後継者じゃないのは、足が不自由だったから、ですよね?」

「……」

「生まれながらですから勿論本人のせいではなく、母親のせいでもない。
 それなのに、どうしてメラニーは離縁されてしまったんです?」


 名指しされても、相変わらずのリチャードに。
 辛抱が切れたのは、今まで父親に反抗等したことがないカールトンだった。


「いい加減に話したらどうなんです?
 貴方は肝心なことは何も話せない、ただ自分の都合で大声を出して、一族には家名で威圧するだけしか出来ない男なのか!」


 自分の父親に向かって、こんなに長く、強く。
 言葉を投げ付けるカールトンを見たのは、ミルドレッドもレナードも初めてだった。
 イアンからすれば、砂よりも脆い一枚岩が崩れ始めたのが見えた。



「あ、あのメラニーがっ、気が触れて!
 母上とスチュワートを殺そうとしたからだ!」


 息子からも責められたリチャードは、全てをメラニーのせいにすることにした。

 それでいい、あの時母グロリアもそうして、それを叫んで、それを押し通したのだから!


「あの出来損ないのウィラードを……
 産んだメラニーにはスチュワートは育てさせない……
 と決めた母上を、あの女は逆恨みして……」


 一生懸命に言葉を探しながら話すせいでたどたどしく、いつもより大きな声が出ないリチャードを、イアンは軽蔑の眼差しで見た。


 さすがにこの姿を見せて、それを信じる者は誰もいないだろう。

 ミルドレッドも、レナードも、カールトンも。
 そして、マリーさえもが、今だけは心を同じくしていた。

 この男は嘘を吐いている、と。


 ただひとり、ずっと表情が変わらないのは、膝に乗せたウィラードの娘メラニーを抱いているユリアナだけだ。
 彼女はリチャードの母グロリアと同じくバークレー家の出身だ。
 真相を知っているのかもしれない。


「では、殺そうとしてとは、どうやって?
 毒ですか? ナイフですか?」

「ち、違う!
 スチュワートを抱いた母上を、階段の上から突き落としたんだ!
 私はその現場を見たから、証言した!
 だが、母上は慰謝料無しで離縁で済ませてやった!
 出来損ないは絶対に高等学院には入学させないと、あの女の父親から一筆取って、それで勘弁してやったんだ!
 前当主夫人と次期当主の殺害をしようとした女をだぞ!」



 ここだけは事実だから、大きな声が出た。


 リチャードはいつものように、周囲を睥睨しようとしたが、皆が冷めた目で自分を見ていた。

 
 
 
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