43 / 58
第42話
しおりを挟む
「奥様が提示された、その前提を基に私は調査を開始致しました。
先ずは、ローラが名乗ったフェルドンから当たることにして。
伯爵様の実母メラニー・コーネルが平民のマイケル・フェルドンと再婚したことを、当時近所に住んでいた住民から聞き込みました。
そして彼女がウィラードと言う男児を、連れていたこと。
再婚後、暴漢に襲われフェルドン夫妻が亡くなったこと。
天涯孤独となったウィラードを援助したのが前レイウッド伯爵であること。
父親から援助金を届ける役目を仰せつかったのが、当時高等学院在学中だった伯爵様だったことが、判明しました」
相変わらず、ここまで流れるように説明していたイアンはここで、一旦言葉を切った。
ずいぶん省略した説明だが、これが正解だなと、ジャーヴィスは感心した。
ここでスミスの名前を出せば、そんな平民の言うこと等云々をまたリチャードが喚き、無駄に時間を取られる。
この3人さえ、確実に連れて帰れるなら。
一刻も早く、ここから出たい。
「説明するのは、お前に任せた。
俺は最初と最後だけ、でしゃばらせて貰うよ」
レイウッドへ向かう馬車の中でイアンに伝えた。
口の上手いイアンなら、リチャードが隠そうとしているバーナードとメラニーの離婚の理由も引き出せるだろう。
それは本来ならスチュワートが居なくなったアダムス等、自分には全く関係無いことで、どうでもいい過去だ。
しかしミリーにとってはスチュワートは過去ではない。
だからイアンも、彼女の前でそれを明らかにさせたいのだ。
そんな感じで、この場はイアンに丸投げすると決めたジャーヴィスの次の関心は、ユリアナをアダムスから連れ出す算段に移り。
彼は内ポケットから小さな手帳を取り出して、イアンの説明に相槌を打つ振りをして。
実際は別の事を、書き留めていた。
そして、それを書き終えると急に立ち上がり。
「私は、少し席を外します」と言って、案内も無しに部屋を出て行った。
誰もが彼に、声をかける間も与えずに。
イアンの説明が再び始まるのを待っていたアダムスの3人は、唐突なジャーヴィスの行動に呆気に取られていたし、マリーは頼りになりそうなジャーヴィスが急に居なくなり可哀想な程に狼狽えて、今度はイアンの隣の席に移動した。
別に打ち合わせもしていないが、突発的に動くジャーヴィスに慣れているイアンが驚くはずもなく。
身を寄せるマリーから距離を取ると、再び注目を自分に集めようと、軽く手を叩いた。
ミルドレッドと言えば、実は兄が常識からは少し外れてる人物だと薄々勘づき始めていたので、また……と思っただけだった。
最短の手続きで、あのマリー・ギルモアを義妹にして、わたしを再婚から救ってくれた兄様だ。
今度はこの家で何をする気なの、と。
この時、ミルドレッドの頭の中には、サリー・グレイの存在は無かった。
◇◇◇
「では、続けます。
この時、私達はひとつ気になる情報を入手しました。
それはウィラードの左足が不自由だったと言う話です。
本人曰く、生まれながらだと周囲には言っていたそうですが、これについて当時を知るアダムス子爵からご説明をいただけますと助かります」
「……」
「ウィラードが後継者じゃないのは、足が不自由だったから、ですよね?」
「……」
「生まれながらですから勿論本人のせいではなく、母親のせいでもない。
それなのに、どうしてメラニーは離縁されてしまったんです?」
名指しされても、相変わらずのリチャードに。
辛抱が切れたのは、今まで父親に反抗等したことがないカールトンだった。
「いい加減に話したらどうなんです?
貴方は肝心なことは何も話せない、ただ自分の都合で大声を出して、一族には家名で威圧するだけしか出来ない男なのか!」
自分の父親に向かって、こんなに長く、強く。
言葉を投げ付けるカールトンを見たのは、ミルドレッドもレナードも初めてだった。
イアンからすれば、砂よりも脆い一枚岩が崩れ始めたのが見えた。
「あ、あのメラニーがっ、気が触れて!
母上とスチュワートを殺そうとしたからだ!」
息子からも責められたリチャードは、全てをメラニーのせいにすることにした。
それでいい、あの時母グロリアもそうして、それを叫んで、それを押し通したのだから!
「あの出来損ないのウィラードを……
産んだメラニーにはスチュワートは育てさせない……
と決めた母上を、あの女は逆恨みして……」
一生懸命に言葉を探しながら話すせいでたどたどしく、いつもより大きな声が出ないリチャードを、イアンは軽蔑の眼差しで見た。
さすがにこの姿を見せて、それを信じる者は誰もいないだろう。
ミルドレッドも、レナードも、カールトンも。
そして、マリーさえもが、今だけは心を同じくしていた。
この男は嘘を吐いている、と。
ただひとり、ずっと表情が変わらないのは、膝に乗せたウィラードの娘メラニーを抱いているユリアナだけだ。
彼女はリチャードの母グロリアと同じくバークレー家の出身だ。
真相を知っているのかもしれない。
「では、殺そうとしてとは、どうやって?
毒ですか? ナイフですか?」
「ち、違う!
スチュワートを抱いた母上を、階段の上から突き落としたんだ!
私はその現場を見たから、証言した!
だが、母上は慰謝料無しで離縁で済ませてやった!
出来損ないは絶対に高等学院には入学させないと、あの女の父親から一筆取って、それで勘弁してやったんだ!
前当主夫人と次期当主の殺害をしようとした女をだぞ!」
ここだけは事実だから、大きな声が出た。
リチャードはいつものように、周囲を睥睨しようとしたが、皆が冷めた目で自分を見ていた。
先ずは、ローラが名乗ったフェルドンから当たることにして。
伯爵様の実母メラニー・コーネルが平民のマイケル・フェルドンと再婚したことを、当時近所に住んでいた住民から聞き込みました。
そして彼女がウィラードと言う男児を、連れていたこと。
再婚後、暴漢に襲われフェルドン夫妻が亡くなったこと。
天涯孤独となったウィラードを援助したのが前レイウッド伯爵であること。
父親から援助金を届ける役目を仰せつかったのが、当時高等学院在学中だった伯爵様だったことが、判明しました」
相変わらず、ここまで流れるように説明していたイアンはここで、一旦言葉を切った。
ずいぶん省略した説明だが、これが正解だなと、ジャーヴィスは感心した。
ここでスミスの名前を出せば、そんな平民の言うこと等云々をまたリチャードが喚き、無駄に時間を取られる。
この3人さえ、確実に連れて帰れるなら。
一刻も早く、ここから出たい。
「説明するのは、お前に任せた。
俺は最初と最後だけ、でしゃばらせて貰うよ」
レイウッドへ向かう馬車の中でイアンに伝えた。
口の上手いイアンなら、リチャードが隠そうとしているバーナードとメラニーの離婚の理由も引き出せるだろう。
それは本来ならスチュワートが居なくなったアダムス等、自分には全く関係無いことで、どうでもいい過去だ。
しかしミリーにとってはスチュワートは過去ではない。
だからイアンも、彼女の前でそれを明らかにさせたいのだ。
そんな感じで、この場はイアンに丸投げすると決めたジャーヴィスの次の関心は、ユリアナをアダムスから連れ出す算段に移り。
彼は内ポケットから小さな手帳を取り出して、イアンの説明に相槌を打つ振りをして。
実際は別の事を、書き留めていた。
そして、それを書き終えると急に立ち上がり。
「私は、少し席を外します」と言って、案内も無しに部屋を出て行った。
誰もが彼に、声をかける間も与えずに。
イアンの説明が再び始まるのを待っていたアダムスの3人は、唐突なジャーヴィスの行動に呆気に取られていたし、マリーは頼りになりそうなジャーヴィスが急に居なくなり可哀想な程に狼狽えて、今度はイアンの隣の席に移動した。
別に打ち合わせもしていないが、突発的に動くジャーヴィスに慣れているイアンが驚くはずもなく。
身を寄せるマリーから距離を取ると、再び注目を自分に集めようと、軽く手を叩いた。
ミルドレッドと言えば、実は兄が常識からは少し外れてる人物だと薄々勘づき始めていたので、また……と思っただけだった。
最短の手続きで、あのマリー・ギルモアを義妹にして、わたしを再婚から救ってくれた兄様だ。
今度はこの家で何をする気なの、と。
この時、ミルドレッドの頭の中には、サリー・グレイの存在は無かった。
◇◇◇
「では、続けます。
この時、私達はひとつ気になる情報を入手しました。
それはウィラードの左足が不自由だったと言う話です。
本人曰く、生まれながらだと周囲には言っていたそうですが、これについて当時を知るアダムス子爵からご説明をいただけますと助かります」
「……」
「ウィラードが後継者じゃないのは、足が不自由だったから、ですよね?」
「……」
「生まれながらですから勿論本人のせいではなく、母親のせいでもない。
それなのに、どうしてメラニーは離縁されてしまったんです?」
名指しされても、相変わらずのリチャードに。
辛抱が切れたのは、今まで父親に反抗等したことがないカールトンだった。
「いい加減に話したらどうなんです?
貴方は肝心なことは何も話せない、ただ自分の都合で大声を出して、一族には家名で威圧するだけしか出来ない男なのか!」
自分の父親に向かって、こんなに長く、強く。
言葉を投げ付けるカールトンを見たのは、ミルドレッドもレナードも初めてだった。
イアンからすれば、砂よりも脆い一枚岩が崩れ始めたのが見えた。
「あ、あのメラニーがっ、気が触れて!
母上とスチュワートを殺そうとしたからだ!」
息子からも責められたリチャードは、全てをメラニーのせいにすることにした。
それでいい、あの時母グロリアもそうして、それを叫んで、それを押し通したのだから!
「あの出来損ないのウィラードを……
産んだメラニーにはスチュワートは育てさせない……
と決めた母上を、あの女は逆恨みして……」
一生懸命に言葉を探しながら話すせいでたどたどしく、いつもより大きな声が出ないリチャードを、イアンは軽蔑の眼差しで見た。
さすがにこの姿を見せて、それを信じる者は誰もいないだろう。
ミルドレッドも、レナードも、カールトンも。
そして、マリーさえもが、今だけは心を同じくしていた。
この男は嘘を吐いている、と。
ただひとり、ずっと表情が変わらないのは、膝に乗せたウィラードの娘メラニーを抱いているユリアナだけだ。
彼女はリチャードの母グロリアと同じくバークレー家の出身だ。
真相を知っているのかもしれない。
「では、殺そうとしてとは、どうやって?
毒ですか? ナイフですか?」
「ち、違う!
スチュワートを抱いた母上を、階段の上から突き落としたんだ!
私はその現場を見たから、証言した!
だが、母上は慰謝料無しで離縁で済ませてやった!
出来損ないは絶対に高等学院には入学させないと、あの女の父親から一筆取って、それで勘弁してやったんだ!
前当主夫人と次期当主の殺害をしようとした女をだぞ!」
ここだけは事実だから、大きな声が出た。
リチャードはいつものように、周囲を睥睨しようとしたが、皆が冷めた目で自分を見ていた。
466
あなたにおすすめの小説
壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~
志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。
政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。
社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。
ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。
ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。
一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。
リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。
ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。
そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。
王家までも巻き込んだその作戦とは……。
他サイトでも掲載中です。
コメントありがとうございます。
タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。
必ず完結させますので、よろしくお願いします。
お飾りな妻は何を思う
湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。
彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。
次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。
そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。
これ以上私の心をかき乱さないで下さい
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。
そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。
そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが
“君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない”
そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。
そこでユーリを待っていたのは…
死に戻り王妃はふたりの婚約者に愛される。
豆狸
恋愛
形だけの王妃だった私が死に戻ったのは魔術学院の一学年だったころ。
なんのために戻ったの? あの未来はどうやったら変わっていくの?
どうして王太子殿下の婚約者だった私が、大公殿下の婚約者に変わったの?
なろう様でも公開中です。
・1/21タイトル変更しました。旧『死に戻り王妃とふたりの婚約者』
【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて
ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」
お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。
綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。
今はもう、私に微笑みかける事はありません。
貴方の笑顔は別の方のもの。
私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。
私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。
ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか?
―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。
※ゆるゆる設定です。
※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」
※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド
行き場を失った恋の終わらせ方
当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」
自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。
避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。
しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……
恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。
※他のサイトにも重複投稿しています。
幼馴染と仲良くし過ぎている婚約者とは婚約破棄したい!
ルイス
恋愛
ダイダロス王国の侯爵令嬢であるエレナは、リグリット公爵令息と婚約をしていた。
同じ18歳ということで話も合い、仲睦まじいカップルだったが……。
そこに現れたリグリットの幼馴染の伯爵令嬢の存在。リグリットは幼馴染を優先し始める。
あまりにも度が過ぎるので、エレナは不満を口にするが……リグリットは今までの優しい彼からは豹変し、権力にものを言わせ、エレナを束縛し始めた。
「婚約破棄なんてしたら、どうなるか分かっているな?」
その時、エレナは分かってしまったのだ。リグリットは自分の侯爵令嬢の地位だけにしか興味がないことを……。
そんな彼女の前に現れたのは、幼馴染のヨハン王子殿下だった。エレナの状況を理解し、ヨハンは動いてくれることを約束してくれる。
正式な婚約破棄の申し出をするエレナに対し、激怒するリグリットだったが……。
あなただけが私を信じてくれたから
樹里
恋愛
王太子殿下の婚約者であるアリシア・トラヴィス侯爵令嬢は、茶会において王女殺害を企てたとして冤罪で投獄される。それは王太子殿下と恋仲であるアリシアの妹が彼女を排除するために計画した犯行だと思われた。
一方、自分を信じてくれるシメオン・バーナード卿の調査の甲斐もなく、アリシアは結局そのまま断罪されてしまう。
しかし彼女が次に目を覚ますと、茶会の日に戻っていた。その日を境に、冤罪をかけられ、断罪されるたびに茶会前に回帰するようになってしまった。
処刑を免れようとそのたびに違った行動を起こしてきたアリシアが、最後に下した決断は。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる