【完結】まだ誰も知らない恋を始めよう

Mimi

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46 魔法士には負けたくないわたし

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 オルくんには見えていた。 
 フィンに掛けられた古代の黒魔法が単純なものじゃない、それは姿を消す事から始まって、時間が経過すると悪い方へ転がっていくだろう、って。  


「余程何重にも掛けたんだろね、見えない魔法、話せない魔法、触れない魔法……後はまだ分からないな」



 魔法学院の応接室で、ベッキーさんやフィンの前で彼が言った言葉を、兄に伝えた。


「多重魔法が掛けられていたのか……それはいずれ、フィニアスの命を奪うものまで?」

「そこまではっきりとは見えていないからこそ、オルくんはわたしに早くと急かしたんだと思うの」

「一応、フィニアスの前ではそれを口に出さない良心は持ち合わせていて、心を読み取れるお前にそれを教えたのか……
 だが急がないといけないのなら、ベッキーがそれを俺に伝えなかったのは何故だ?」
 
「ベッキーさんには教えていないんでしょう」

 あのオルくんなら、真っ直ぐな気性のベッキーさんには伝えないでしょうね。


「そんな大事な事を教えないって?
 それに、お前がそいつの心を読めたってことは、その悪ガキ、碌なもんじゃねぇな?」


 碌なもんじゃねぇオルくんの、人を舐めた笑いをわたしは思い出す。


「魔法学院創設以来の天才だの何だの持ち上げられて、いい気になってるんだな」

「わたしが見たところ、オルシアナス・ヴィオンって子供は、あのニール・コーリングとは方向性は違うけれど、いけ好かないクソガキで」

 乙女としては絶対に口にしてはいけない『クソ』をわたしが発したのを、兄が生真面目に睨むが、最近連発しているせいで、わたしには抵抗感無く使えるの。


「女の子がクソなんて言葉を……」

 成人済みのわたしに『女の子』はやめてほしいけど。


「でも、ニールよりマシなのは、本人が自覚してる事かな。
 彼は歪んだ正義感は振りかざさない」


 オルくんは自分の性格が悪い事を自覚している。
 そのうえで、わたしに対して意地悪と言うか、対抗心を燃やして、わざと心を読ませた。
 
 けれど、そこに嘘は無い。
 確かに、オルくんはフィンの命が危ないかも、とわたしに警告して、ノートの切れ端まで用意してくれたのだ。

 
 それを説明すると、兄がまたもや目頭を押さえた。
 イライラの頂点まで、後わずか。


「そんな物を盗んでまでして提供するくせに、自分は探索には協力しないのは、そのチビはどういうつもりなんだ?」


 これはわたしの想像でしか無いけれど。
 彼が周囲の大人を舐めてて、振り回すのを楽しんでいる様子に、思いつくものがある。
 
 
「わたし達の能力がどれ程のものなのか、確認したいんじゃないかな。
 魔力と比べてどちらが上か、その力量を見せてみろ、みたいな?
 意地は悪いけれど、フィンを見殺しにするつもりは無くて、最終的には解決出来るのは俺だ、と偉そうに出てくるはず」

 ベッキーさんは自分達には見張りがついていて、簡単には学院外には出られない、と言っていたけれど、絶対に出られないとは仰らなかった。 

 それに、あのオルくんなら。
 楽勝で見張りの目を掻い潜って、最後のいい場面で目の前に現れそうだ。


 それらを踏まえたうえで、兄とわたしが出した結論は、先ずは叔母に会い、話を聞いて貰い助けを請う、だ。
 しかし残念ながら、叔母に協力を拒否をされたら、その時点で父に連絡を取る事を兄は了承してくれた。

 もちろん、魔法庁にわたしの力がバレてしまうのは覚悟の上だ。
 けれど、フィンの命が掛かっている。
 父だって分かってくれる。
 正義の勇者は自己保身のために、他者を見捨てたりしないのだから。



「これ、アリア叔母さんに渡してくれるか」
 
 職員宿舎へ帰る兄から1通の封筒を渡された。

 わたしがケーキとお茶の用意をしている間、兄が自分の部屋に居たのは、手紙を書いていたのだろうか。
 

「あれから、ずっとご無沙汰していて。
 本来なら一緒に行って、俺も頭を下げるべきなんだが、今は休みが取れなくてな。
 よろしくお願い致します、と伝えて」

 


 兄から叔母宛の手紙を受け取り、今夜もわたしはお風呂に入った。
 約9年ぶりに会うアリア叔母様に失礼が無いように、今日も磨き立てる。 
 思い返せば、叔母は匂いに敏感な人だった。


 濡れたわたしの左手薬指には、あの指輪が光っている。

 その存在に気付いていたのに、敢えてなのか、兄はわたしに何も尋ねなかった。


 わたしの、いやマッカーシーの力で、何処までメイトリクスを追えるのかは分からない。

 けれど、絶対に簡単には白旗は揚げない。


 待ってろ、オルシニアス・ヴィオン。

 喰ってやる、と言って瞳を輝かせた君の目の前まで、外れを連れてきてやるから。

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