47 / 66
46 魔法士には負けたくないわたし
しおりを挟む
オルくんには見えていた。
フィンに掛けられた古代の黒魔法が単純なものじゃない、それは姿を消す事から始まって、時間が経過すると悪い方へ転がっていくだろう、って。
「余程何重にも掛けたんだろね、見えない魔法、話せない魔法、触れない魔法……後はまだ分からないな」
魔法学院の応接室で、ベッキーさんやフィンの前で彼が言った言葉を、兄に伝えた。
「多重魔法が掛けられていたのか……それはいずれ、フィニアスの命を奪うものまで?」
「そこまではっきりとは見えていないからこそ、オルくんはわたしに早くと急かしたんだと思うの」
「一応、フィニアスの前ではそれを口に出さない良心は持ち合わせていて、心を読み取れるお前にそれを教えたのか……
だが急がないといけないのなら、ベッキーがそれを俺に伝えなかったのは何故だ?」
「ベッキーさんには教えていないんでしょう」
あのオルくんなら、真っ直ぐな気性のベッキーさんには伝えないでしょうね。
「そんな大事な事を教えないって?
それに、お前がそいつの心を読めたってことは、その悪ガキ、碌なもんじゃねぇな?」
碌なもんじゃねぇオルくんの、人を舐めた笑いをわたしは思い出す。
「魔法学院創設以来の天才だの何だの持ち上げられて、いい気になってるんだな」
「わたしが見たところ、オルシアナス・ヴィオンって子供は、あのニール・コーリングとは方向性は違うけれど、いけ好かないクソガキで」
乙女としては絶対に口にしてはいけない『クソ』をわたしが発したのを、兄が生真面目に睨むが、最近連発しているせいで、わたしには抵抗感無く使えるの。
「女の子がクソなんて言葉を……」
成人済みのわたしに『女の子』はやめてほしいけど。
「でも、ニールよりマシなのは、本人が自覚してる事かな。
彼は歪んだ正義感は振りかざさない」
オルくんは自分の性格が悪い事を自覚している。
そのうえで、わたしに対して意地悪と言うか、対抗心を燃やして、わざと心を読ませた。
けれど、そこに嘘は無い。
確かに、オルくんはフィンの命が危ないかも、とわたしに警告して、ノートの切れ端まで用意してくれたのだ。
それを説明すると、兄がまたもや目頭を押さえた。
イライラの頂点まで、後わずか。
「そんな物を盗んでまでして提供するくせに、自分は探索には協力しないのは、そのチビはどういうつもりなんだ?」
これはわたしの想像でしか無いけれど。
彼が周囲の大人を舐めてて、振り回すのを楽しんでいる様子に、思いつくものがある。
「わたし達の能力がどれ程のものなのか、確認したいんじゃないかな。
魔力と比べてどちらが上か、その力量を見せてみろ、みたいな?
意地は悪いけれど、フィンを見殺しにするつもりは無くて、最終的には解決出来るのは俺だ、と偉そうに出てくるはず」
ベッキーさんは自分達には見張りがついていて、簡単には学院外には出られない、と言っていたけれど、絶対に出られないとは仰らなかった。
それに、あのオルくんなら。
楽勝で見張りの目を掻い潜って、最後のいい場面で目の前に現れそうだ。
それらを踏まえたうえで、兄とわたしが出した結論は、先ずは叔母に会い、話を聞いて貰い助けを請う、だ。
しかし残念ながら、叔母に協力を拒否をされたら、その時点で父に連絡を取る事を兄は了承してくれた。
もちろん、魔法庁にわたしの力がバレてしまうのは覚悟の上だ。
けれど、フィンの命が掛かっている。
父だって分かってくれる。
正義の勇者は自己保身のために、他者を見捨てたりしないのだから。
「これ、アリア叔母さんに渡してくれるか」
職員宿舎へ帰る兄から1通の封筒を渡された。
わたしがケーキとお茶の用意をしている間、兄が自分の部屋に居たのは、手紙を書いていたのだろうか。
「あれから、ずっとご無沙汰していて。
本来なら一緒に行って、俺も頭を下げるべきなんだが、今は休みが取れなくてな。
よろしくお願い致します、と伝えて」
兄から叔母宛の手紙を受け取り、今夜もわたしはお風呂に入った。
約9年ぶりに会うアリア叔母様に失礼が無いように、今日も磨き立てる。
思い返せば、叔母は匂いに敏感な人だった。
濡れたわたしの左手薬指には、あの指輪が光っている。
その存在に気付いていたのに、敢えてなのか、兄はわたしに何も尋ねなかった。
わたしの、いやマッカーシーの力で、何処までメイトリクスを追えるのかは分からない。
けれど、絶対に簡単には白旗は揚げない。
待ってろ、オルシニアス・ヴィオン。
喰ってやる、と言って瞳を輝かせた君の目の前まで、外れを連れてきてやるから。
フィンに掛けられた古代の黒魔法が単純なものじゃない、それは姿を消す事から始まって、時間が経過すると悪い方へ転がっていくだろう、って。
「余程何重にも掛けたんだろね、見えない魔法、話せない魔法、触れない魔法……後はまだ分からないな」
魔法学院の応接室で、ベッキーさんやフィンの前で彼が言った言葉を、兄に伝えた。
「多重魔法が掛けられていたのか……それはいずれ、フィニアスの命を奪うものまで?」
「そこまではっきりとは見えていないからこそ、オルくんはわたしに早くと急かしたんだと思うの」
「一応、フィニアスの前ではそれを口に出さない良心は持ち合わせていて、心を読み取れるお前にそれを教えたのか……
だが急がないといけないのなら、ベッキーがそれを俺に伝えなかったのは何故だ?」
「ベッキーさんには教えていないんでしょう」
あのオルくんなら、真っ直ぐな気性のベッキーさんには伝えないでしょうね。
「そんな大事な事を教えないって?
それに、お前がそいつの心を読めたってことは、その悪ガキ、碌なもんじゃねぇな?」
碌なもんじゃねぇオルくんの、人を舐めた笑いをわたしは思い出す。
「魔法学院創設以来の天才だの何だの持ち上げられて、いい気になってるんだな」
「わたしが見たところ、オルシアナス・ヴィオンって子供は、あのニール・コーリングとは方向性は違うけれど、いけ好かないクソガキで」
乙女としては絶対に口にしてはいけない『クソ』をわたしが発したのを、兄が生真面目に睨むが、最近連発しているせいで、わたしには抵抗感無く使えるの。
「女の子がクソなんて言葉を……」
成人済みのわたしに『女の子』はやめてほしいけど。
「でも、ニールよりマシなのは、本人が自覚してる事かな。
彼は歪んだ正義感は振りかざさない」
オルくんは自分の性格が悪い事を自覚している。
そのうえで、わたしに対して意地悪と言うか、対抗心を燃やして、わざと心を読ませた。
けれど、そこに嘘は無い。
確かに、オルくんはフィンの命が危ないかも、とわたしに警告して、ノートの切れ端まで用意してくれたのだ。
それを説明すると、兄がまたもや目頭を押さえた。
イライラの頂点まで、後わずか。
「そんな物を盗んでまでして提供するくせに、自分は探索には協力しないのは、そのチビはどういうつもりなんだ?」
これはわたしの想像でしか無いけれど。
彼が周囲の大人を舐めてて、振り回すのを楽しんでいる様子に、思いつくものがある。
「わたし達の能力がどれ程のものなのか、確認したいんじゃないかな。
魔力と比べてどちらが上か、その力量を見せてみろ、みたいな?
意地は悪いけれど、フィンを見殺しにするつもりは無くて、最終的には解決出来るのは俺だ、と偉そうに出てくるはず」
ベッキーさんは自分達には見張りがついていて、簡単には学院外には出られない、と言っていたけれど、絶対に出られないとは仰らなかった。
それに、あのオルくんなら。
楽勝で見張りの目を掻い潜って、最後のいい場面で目の前に現れそうだ。
それらを踏まえたうえで、兄とわたしが出した結論は、先ずは叔母に会い、話を聞いて貰い助けを請う、だ。
しかし残念ながら、叔母に協力を拒否をされたら、その時点で父に連絡を取る事を兄は了承してくれた。
もちろん、魔法庁にわたしの力がバレてしまうのは覚悟の上だ。
けれど、フィンの命が掛かっている。
父だって分かってくれる。
正義の勇者は自己保身のために、他者を見捨てたりしないのだから。
「これ、アリア叔母さんに渡してくれるか」
職員宿舎へ帰る兄から1通の封筒を渡された。
わたしがケーキとお茶の用意をしている間、兄が自分の部屋に居たのは、手紙を書いていたのだろうか。
「あれから、ずっとご無沙汰していて。
本来なら一緒に行って、俺も頭を下げるべきなんだが、今は休みが取れなくてな。
よろしくお願い致します、と伝えて」
兄から叔母宛の手紙を受け取り、今夜もわたしはお風呂に入った。
約9年ぶりに会うアリア叔母様に失礼が無いように、今日も磨き立てる。
思い返せば、叔母は匂いに敏感な人だった。
濡れたわたしの左手薬指には、あの指輪が光っている。
その存在に気付いていたのに、敢えてなのか、兄はわたしに何も尋ねなかった。
わたしの、いやマッカーシーの力で、何処までメイトリクスを追えるのかは分からない。
けれど、絶対に簡単には白旗は揚げない。
待ってろ、オルシニアス・ヴィオン。
喰ってやる、と言って瞳を輝かせた君の目の前まで、外れを連れてきてやるから。
52
あなたにおすすめの小説
真夏のリベリオン〜極道娘は御曹司の猛愛を振り切り、愛しの双子を守り抜く〜
専業プウタ
恋愛
極道一家の一人娘として生まれた冬城真夏はガソリンスタンドで働くライ君に恋をしていた。しかし、二十五歳の誕生日に京極組の跡取り清一郎とお見合いさせられる。真夏はお見合いから逃げ出し、想い人のライ君に告白し二人は結ばれる。堅気の男とのささやかな幸せを目指した真夏をあざ笑うように明かされるライ君の正体。ラブと策略が交錯する中、お腹に宿った命を守る為に真夏は戦う。
【完結】伯爵の愛は狂い咲く
白雨 音
恋愛
十八歳になったアリシアは、兄の友人男爵子息のエリックに告白され、婚約した。
実家の商家を手伝い、友人にも恵まれ、アリシアの人生は充実し、順風満帆だった。
だが、町のカーニバルの夜、それを脅かす出来事が起こった。
仮面の男が「見つけた、エリーズ!」と、アリシアに熱く口付けたのだ!
そこから、アリシアの運命の歯車は狂い始めていく。
両親からエリックとの婚約を解消し、年の離れた伯爵に嫁ぐ様に勧められてしまう。
「結婚は愛した人とします!」と抗うアリシアだが、運命は彼女を嘲笑い、
その渦に巻き込んでいくのだった…
アリシアを恋人の生まれ変わりと信じる伯爵の執愛。
異世界恋愛、短編:本編(アリシア視点)前日譚(ユーグ視点)
《完結しました》
怖がりの女領主は守られたい
月山 歩
恋愛
両親を急に無くして女領主になった私は、私と結婚すると領土と男爵位、財産を得られるからと、悪い男達にいつも攫われそうになり、護衛に守られながら、逃げる毎日だ。そんなある時、強い騎士と戦略を立てるのが得意な男達と出会い、本当に好きな人がわかり結婚する。
ゆるめなお話です。
モブの私がなぜかヒロインを押し退けて王太子殿下に選ばれました
みゅー
恋愛
その国では婚約者候補を集め、その中から王太子殿下が自分の婚約者を選ぶ。
ケイトは自分がそんな乙女ゲームの世界に、転生してしまったことを知った。
だが、ケイトはそのゲームには登場しておらず、気にせずそのままその世界で自分の身の丈にあった普通の生活をするつもりでいた。だが、ある日宮廷から使者が訪れ、婚約者候補となってしまい……
そんなお話です。
置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを
青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ
学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。
お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。
お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。
レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。
でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。
お相手は隣国の王女アレキサンドラ。
アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。
バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。
バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。
せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました
【完結】嘘も恋も、甘くて苦い毒だった
綾取
恋愛
伯爵令嬢エリシアは、幼いころに出会った優しい王子様との再会を夢見て、名門学園へと入学する。
しかし待ち受けていたのは、冷たくなった彼──レオンハルトと、策略を巡らせる令嬢メリッサ。
周囲に広がる噂、揺れる友情、すれ違う想い。
エリシアは、信じていた人たちから少しずつ距離を置かれていく。
ただ一人、彼女を信じて寄り添ったのは、親友リリィ。
貴族の学園は、恋と野心が交錯する舞台。
甘い言葉の裏に、罠と裏切りが潜んでいた。
奪われたのは心か、未来か、それとも──名前のない毒。
【完結】あなたを忘れたい
やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。
そんな時、不幸が訪れる。
■□■
【毎日更新】毎日8時と18時更新です。
【完結保証】最終話まで書き終えています。
最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)
隠された第四皇女
山田ランチ
恋愛
ギルベアト帝国。
帝国では忌み嫌われる魔女達が集う娼館で働くウィノラは、魔女の中でも稀有な癒やしの力を持っていた。ある時、皇宮から内密に呼び出しがかかり、赴いた先に居たのは三度目の出産で今にも命尽きそうな第二側妃のリナだった。しかし癒やしの力を使って助けたリナからは何故か拒絶されてしまう。逃げるように皇宮を出る途中、ライナーという貴族男性に助けてもらう。それから3年後、とある命令を受けてウィノラは再び皇宮に赴く事になる。
皇帝の命令で魔女を捕らえる動きが活発になっていく中、エミル王国との戦争が勃発。そしてウィノラが娼館に隠された秘密が明らかとなっていく。
ヒュー娼館の人々
ウィノラ(娼館で育った第四皇女)
アデリータ(女将、ウィノラの育ての親)
マイノ(アデリータの弟で護衛長)
ディアンヌ、ロラ(娼婦)
デルマ、イリーゼ(高級娼婦)
皇宮の人々
ライナー・フックス(公爵家嫡男)
バラード・クラウゼ(伯爵、ライナーの友人、デルマの恋人)
ルシャード・ツーファール(ギルベアト皇帝)
ガリオン・ツーファール(第一皇子、アイテル軍団の第一師団団長)
リーヴィス・ツーファール(第三皇子、騎士団所属)
オーティス・ツーファール(第四皇子、幻の皇女の弟)
エデル・ツーファール(第五皇子、幻の皇女の弟)
セリア・エミル(第二皇女、現エミル王国王妃)
ローデリカ・ツーファール(第三皇女、ガリオンの妹、死亡)
幻の皇女(第四皇女、死産?)
アナイス・ツーファール(第五皇女、ライナーの婚約者候補)
ロタリオ(ライナーの従者)
ウィリアム(伯爵家三男、アイテル軍団の第一師団副団長)
レナード・ハーン(子爵令息)
リナ(第二側妃、幻の皇女の母。魔女)
ローザ(リナの侍女、魔女)
※フェッチ
力ある魔女の力が具現化したもの。その形は様々で魔女の性格や能力によって変化する。生き物のように視えていても力が形を成したもの。魔女が死亡、もしくは能力を失った時点で消滅する。
ある程度の力がある者達にしかフェッチは視えず、それ以外では気配や感覚でのみ感じる者もいる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる