【完結】まだ誰も知らない恋を始めよう

Mimi

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1 一般的な学生より……なわたし

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 時は、5月第2週の金曜日のランチタイム。
 場所は、午前の授業が終わり、お腹を空かせた連中でごった返している第3カフェテリア。
 外の天気は晴天、開かれた窓からは気持ちのいい風が緑と花の香りを運んでくる。
 

 週明けから、うちの大学独自のスプリング・ウィークが始まって5日間の休みに入る。
 土曜日と日曜日の、元々のお休みの週末を入れて、明日から合計9日間の連休を誰もが待ちわびていた。
 もちろん、わたしもそんな中の1人だ。
 周囲の皆も、ふわふわとどこか浮わついたような表情を見せていて、後は午後からの授業を受けるだけ。
 そんな気の抜けた雰囲気が辺りにただよう平和な昼休み。
 



「フィニアス・ペンデルトンが行方不明になったんだって」

「……」

 大学の同級生であるステラに言われて、どう返せば良いのか分からないわたしはただ頷くのみで、ランチに付いているサラダを食べている。


 フィニアス・ペンデルトンの噂をわたしに聞かせたのは、ステラ・ボーンズ。
 彼女は同じ史学部で、同じ教授に師事している、言わば戦友だ。
 よって、わたしの日常を把握しているはずのステラが、何故わたしとは全く関わりがない、あのペンデルトンの噂を知っているかと尋ねるのか訳が分からない。
 彼が有名人だから、単にランチタイムの話題に出しただけ、じゃないの?
 
 
 ステラの思惑がわからなくて、
「ペンデルトンが消えたのは、わたしには何の関係も無いけど?」と返事を返したいが、そうすれば角が立つような気もするから言わない。
 わたしは平和主義者なのだ。



「だからね、あのフィニアスが行方不明なんだって噂よ?
 本当に聞いてないのね?」 

「……うん?」

 あのペンデルトンが行方不明、の噂。
 それはもう聞いた。
 何度も繰り返すのは、相槌を打つ以外に何か言え、ってこと?
 しかし、今わたしの口内はレタスで占められて、これを食べ終わるまでは話せないんだよ。
 それが食事のマナーだもの。


 それにしたって、ステラがわたしの顔を凝視しているのはどうしてだろう?
 もしや、わたしがペンデルトンの行方不明に関与しているとでも疑って、反応を確認している?


「わたし、彼の行方不明には全然関与してないよ!」

 焦ってレタスを嚥下して、取り敢えず否定した。
 あぁ、まずいんじゃない?
 こんなに強く否定したら、ますます怪しく見えるのに。
 小説で名探偵に詰め寄られた真犯人がよくやる失敗だ。


 きっとこんな反応も、目の前のにわか探偵には疑わしく映っているのに違いない。
 これで『証拠はあるのか』等と開き直ったりしたら、わたしは犯人確定だ……ところが、名探偵ステラは可笑しそうに笑い出した。


「何言ってんのよ、当たり前じゃない。
 あなたとフィニアスに、何の関係も無いのは分かってるわよ。
 わたしはただ友達が少なくて情報に疎いダニエルにも、この噂が届いているのか、確認しただけ」

 ステラがおかしそうに笑っている。
 疑われていなかった……その事に、喜ぶべき?
 それとも、その『友達が少なくて情報に疎い』は、わたしを馬鹿にしてる?って聞き返すべき?


 ……まぁね、ステラが笑うのも、納得はしますけどね。
 何せ、フィニアス・ペンデルトンはわたしとは対局に居る。


 分かりやすく言えば、彼は一般的 (より貧乏な感じ) な苦学生であるわたしとは住む世界が違う、リッチな王子様だから。
 
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