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3 わたし meets 彼
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「その古い眼鏡、視力合ってないよ」なんてステラにからかわれて、わたしは立ち上がっていた。
いいよ、信じないなら、ここへヤツを連れてきてやる! って、わたしは燃えた。
カッと燃え上がったのだ……ペンデルトンとは知り合いでもないくせに。
「ダニエル、何処行くの?」
ステラに返事もせずに、急いでわたしはペンデルトンの後を追った。
……しつこいようだけど、知り合いでもないくせに、だ。
混んでる人波の中でも、ひときわ背が高い彼の姿を見失う事はない。
足が長いので歩みは早いが、小柄な(チビと言わない) わたしでも小走りでなら、直ぐに捕まえられるはず。
あくまで聞いた話では、選ばれし生まれのフィニアス・ペンデルトンは、意外な事に冷たい人間ではないらしい。
だったら、初対面のわたしが声を掛けても無視はしないだろう……多分。
一抹の不安はあるものの、そのまま彼を追いかけた。
自分でも、わたしは何してるんだろうと思いながら、だったけれど。
1度だって挨拶をした事も、話した事も無い男子学生を追いかけるなんて、我ながらどうかしてる。
恐らくわたしも明日からの連休で、少なからず浮かれていたのだと思う。
それに加えて。
さっきカフェテリアへ向かう途中でシーバス教授に会い、まだゼミ生でもないのに、秋の国外発掘調査に同行してもいいわよ、と御本人から声を掛けられた。
アイリーン・シーバス教授の教えを受けたくて、史学部を選んだわたしなので、今日はすこぶる気分が良い。
今日までレポート返却や学会提出論文の資料集め等、自ら手を挙げて教授に雑用のお手伝いを申し出て。
『わたしは役に立つ女です』とコツコツとアピールし続けてきた甲斐があった。
それを同じ学部のステラに自慢する前に、こんな事になってしまったけれど。
まぁ、シーバス調査隊の話はいつでも出来る。
今は取り敢えず、ペンデルトンだ。
早くステラの驚く顔が見たい。
そして反対に、言ってやろう。
「嘘でしょ、見えなかったの?信じられな~い」って。
……なんて、きっと言えないけど。
わたしは平和を守る女だから。
これから第3カフェテリアに向かう庶民の間をすり抜けて、王子様は軽やかに進むが、同じく庶民派のわたしと言えば、逆行する彼等に何度もぶつかりかけて
「ごめんなさい、通してください、すみません」と繰り返し謝りながら追いかけた。
そんな苦労を経て、ようやく西棟を出て中庭に向かうペンデルトンに追い付き、後ろから声を掛けた。
「はぁあペッ、ペ……ペンデルトンさん…… はぁ……」
日頃の運動不足が祟って息があがって、みっともない位にスムーズな声掛けにならなかったのは許して欲しい。
ここまで付いてきたのはわたしの勝手だけれど、本当に疲れた。
障害物を避けながらの早足なんて、わたしには無謀な話だと思い知らされる。
それにしても本当に不思議なのは、ここに来るまで、ペンデルトンに声を掛けて、付きまとう女学生達が居なかった事だ。
彼の周囲に、学内で選りすぐりの美女軍団、人呼んで『ペンデルトンガールズ』が1人も居ないなんて、どうなってるの?
幸いな事に、わたしのはっきりしない声掛けが届いたようで、彼が立ち止まって振り向く。
フィニアス・ペンデルトン。
ペンデルトングループの御曹司。
艶やかな黒髪に、輝く紺碧の瞳。
その目元涼しく、両の口角は楽しげに上向いて。
毎日臣下に囲まれて、いつもご機嫌な、正真正銘の麗しの王子様。
そんな彼が初めて、わたしを見た。
王族じゃないのに皆から王子と密かに呼ばれ、そのように振る舞っても、当然のように受け入れられている男。
そんな彼との初めての会話がこれだ。
「君には、俺……僕が見えるの?」
「は? この眼鏡で、ちゃんと見えてますけど?」
こいつも、わたしの眼鏡が視力と合っていない、とでも言いたいのか、と。
「は? 」なんて、刺々しい返しで初対面の王子に突っかかってしまった。
わたしは平和主義者のはずなのに。
いいよ、信じないなら、ここへヤツを連れてきてやる! って、わたしは燃えた。
カッと燃え上がったのだ……ペンデルトンとは知り合いでもないくせに。
「ダニエル、何処行くの?」
ステラに返事もせずに、急いでわたしはペンデルトンの後を追った。
……しつこいようだけど、知り合いでもないくせに、だ。
混んでる人波の中でも、ひときわ背が高い彼の姿を見失う事はない。
足が長いので歩みは早いが、小柄な(チビと言わない) わたしでも小走りでなら、直ぐに捕まえられるはず。
あくまで聞いた話では、選ばれし生まれのフィニアス・ペンデルトンは、意外な事に冷たい人間ではないらしい。
だったら、初対面のわたしが声を掛けても無視はしないだろう……多分。
一抹の不安はあるものの、そのまま彼を追いかけた。
自分でも、わたしは何してるんだろうと思いながら、だったけれど。
1度だって挨拶をした事も、話した事も無い男子学生を追いかけるなんて、我ながらどうかしてる。
恐らくわたしも明日からの連休で、少なからず浮かれていたのだと思う。
それに加えて。
さっきカフェテリアへ向かう途中でシーバス教授に会い、まだゼミ生でもないのに、秋の国外発掘調査に同行してもいいわよ、と御本人から声を掛けられた。
アイリーン・シーバス教授の教えを受けたくて、史学部を選んだわたしなので、今日はすこぶる気分が良い。
今日までレポート返却や学会提出論文の資料集め等、自ら手を挙げて教授に雑用のお手伝いを申し出て。
『わたしは役に立つ女です』とコツコツとアピールし続けてきた甲斐があった。
それを同じ学部のステラに自慢する前に、こんな事になってしまったけれど。
まぁ、シーバス調査隊の話はいつでも出来る。
今は取り敢えず、ペンデルトンだ。
早くステラの驚く顔が見たい。
そして反対に、言ってやろう。
「嘘でしょ、見えなかったの?信じられな~い」って。
……なんて、きっと言えないけど。
わたしは平和を守る女だから。
これから第3カフェテリアに向かう庶民の間をすり抜けて、王子様は軽やかに進むが、同じく庶民派のわたしと言えば、逆行する彼等に何度もぶつかりかけて
「ごめんなさい、通してください、すみません」と繰り返し謝りながら追いかけた。
そんな苦労を経て、ようやく西棟を出て中庭に向かうペンデルトンに追い付き、後ろから声を掛けた。
「はぁあペッ、ペ……ペンデルトンさん…… はぁ……」
日頃の運動不足が祟って息があがって、みっともない位にスムーズな声掛けにならなかったのは許して欲しい。
ここまで付いてきたのはわたしの勝手だけれど、本当に疲れた。
障害物を避けながらの早足なんて、わたしには無謀な話だと思い知らされる。
それにしても本当に不思議なのは、ここに来るまで、ペンデルトンに声を掛けて、付きまとう女学生達が居なかった事だ。
彼の周囲に、学内で選りすぐりの美女軍団、人呼んで『ペンデルトンガールズ』が1人も居ないなんて、どうなってるの?
幸いな事に、わたしのはっきりしない声掛けが届いたようで、彼が立ち止まって振り向く。
フィニアス・ペンデルトン。
ペンデルトングループの御曹司。
艶やかな黒髪に、輝く紺碧の瞳。
その目元涼しく、両の口角は楽しげに上向いて。
毎日臣下に囲まれて、いつもご機嫌な、正真正銘の麗しの王子様。
そんな彼が初めて、わたしを見た。
王族じゃないのに皆から王子と密かに呼ばれ、そのように振る舞っても、当然のように受け入れられている男。
そんな彼との初めての会話がこれだ。
「君には、俺……僕が見えるの?」
「は? この眼鏡で、ちゃんと見えてますけど?」
こいつも、わたしの眼鏡が視力と合っていない、とでも言いたいのか、と。
「は? 」なんて、刺々しい返しで初対面の王子に突っかかってしまった。
わたしは平和主義者のはずなのに。
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