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34 優しい目をして、簡単にさよならを言う彼
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昼下がりの、他には誰も居ないバス停で。
いつもに増して優しい目をしたフィニアスが、わたしにさよならを告げる。
「こんな状態なのに、ちょっと嬉しかった。
本当に……不謹慎だけど、金曜日からずっと楽しかったんだ。
バスに初めて乗って、料理も初めてしたし」
わたしも楽しかったよ、自家用車送迎が当然の王子様にバスの乗り方を教えて、2人で騒ぎながら食べる夕食は。
何でもない、普通のメニューなのに、貴方は美味しそうに平らげてくれるから、嬉しかった。
……わたしと居ると毎日が面白い、って言ってくれたでしょう?
わたしもひとりじゃない毎日がずっと続かないのは分かってたけど、今はまだ……
「……楽しかったんなら……それでいい。
それでいいでしょう?
このまま迷惑って? 今更だよ?
人の講義にまで付いてきて、絶対に逃がさない、って言ってたよ?
ここまで……二人三脚で、頑張って来たのに?」
「二人三脚は……違うね、俺は何も出来なくて、全部君に任せっきり。
……もっと簡単に思ってたんだ。
俺は見えなくなったけど、見える君が一緒に居てくれたら、直ぐに解決出来るだろうって。
だから、安易にロジャーを犯人だと決めつけた。
あいつを締め上げて、からくりを吐かせて、それで解決、俺は元に戻れて、君と手を取り合い、めでたしめでたし、ってね」
こんな時でも、彼の声は明るい。
ここまでわたしのペースを乱しておきながら、最後まで軽い調子でお別れするつもりだ、と……
わたしには、分かってしまった。
「だけど……ここまでにしよう?
逃亡した外れを追い掛けて、何処まで行く?
変身した外れを見つけるのに、何年掛かる?
……もうこれ以上、俺以外を巻き込んで、誰も危険な目には遇わせたくない。
特に君には……さっきはあんな……
あんな怖い思いをさせてしまった」
「ぜ、全然! 全然怖くなかったよ! 何言ってんの?」
「……」
わたしが怖がるところを見せてしまったから?
だからフィニアスは離れようとしてる?
「赤毛のベッキーは、わたしや叔母の能力の事、魔法庁には報告しないと言ってくれたのに?
その件は解決したじゃない!
マッカーシーが罰を与えられる事は無いんだから!
それを、まだ、気にしてるの?
頭を切り替えよう?
やっと次にするべき事も見つかって、何となく道筋が見えてきた気がしない?
明日にでも叔母を訪ねてみるから、頼むから!
助けてください、力を貸してください、って頼むから!
だから、まだ、まだだよ……まだ、ここで諦めるのは早いよ?」
いいぞ、いいぞ、話し出せば。
フィニアスに口を挟まれないように、一気に捲し立てれば、スムーズに言葉が出てくる。
良い調子だ、このまま彼を説得出来るんじゃ……
「……でも、君は帰らなきゃ。
史学部で首席を続けて、奨学金を来年ももぎ取らないといけないし、大行列をさばいてケーキだって売らないと。
兄上に叱られないように20時までには迷惑男を追い出して、休みの日には中央市場の売り切りで生き馬の目を抜く。
そんな日常に帰らなきゃ、駄目だよ。
俺に付き合って……一緒に居てくれるのは嬉しいけど、そんな事していたら、君は失うものが多過ぎる」
「……何、それ?
失うもの、って……」
今、ご家族に認識して貰えないフィニアスが素直に自宅に戻るとは思えない。
じゃあ、何処へ行く?
ひとりで、何処かに行こうとしてる?
もしかして、ひとりでメイトリクスを、探しに行こうとしてるの?
この胸には、さっきオル君が何気なく彼に言った言葉が残っている。
「師匠からの攻撃の盾になるつもりで、お姉さんに抱きついて、守ろうとしてるのは分かる」
わたしを守ろうとして、震えるわたしを抱き締めて、盾になろうとしてくれたフィニアスを思い出すと、胸の辺りが痛くなる。
ねぇ、フィニアス。
他に失うものが多くても、わたしは貴方を失いたくないよ。
だから、決めた。
わたしを貴方の恋人にして。
いつもに増して優しい目をしたフィニアスが、わたしにさよならを告げる。
「こんな状態なのに、ちょっと嬉しかった。
本当に……不謹慎だけど、金曜日からずっと楽しかったんだ。
バスに初めて乗って、料理も初めてしたし」
わたしも楽しかったよ、自家用車送迎が当然の王子様にバスの乗り方を教えて、2人で騒ぎながら食べる夕食は。
何でもない、普通のメニューなのに、貴方は美味しそうに平らげてくれるから、嬉しかった。
……わたしと居ると毎日が面白い、って言ってくれたでしょう?
わたしもひとりじゃない毎日がずっと続かないのは分かってたけど、今はまだ……
「……楽しかったんなら……それでいい。
それでいいでしょう?
このまま迷惑って? 今更だよ?
人の講義にまで付いてきて、絶対に逃がさない、って言ってたよ?
ここまで……二人三脚で、頑張って来たのに?」
「二人三脚は……違うね、俺は何も出来なくて、全部君に任せっきり。
……もっと簡単に思ってたんだ。
俺は見えなくなったけど、見える君が一緒に居てくれたら、直ぐに解決出来るだろうって。
だから、安易にロジャーを犯人だと決めつけた。
あいつを締め上げて、からくりを吐かせて、それで解決、俺は元に戻れて、君と手を取り合い、めでたしめでたし、ってね」
こんな時でも、彼の声は明るい。
ここまでわたしのペースを乱しておきながら、最後まで軽い調子でお別れするつもりだ、と……
わたしには、分かってしまった。
「だけど……ここまでにしよう?
逃亡した外れを追い掛けて、何処まで行く?
変身した外れを見つけるのに、何年掛かる?
……もうこれ以上、俺以外を巻き込んで、誰も危険な目には遇わせたくない。
特に君には……さっきはあんな……
あんな怖い思いをさせてしまった」
「ぜ、全然! 全然怖くなかったよ! 何言ってんの?」
「……」
わたしが怖がるところを見せてしまったから?
だからフィニアスは離れようとしてる?
「赤毛のベッキーは、わたしや叔母の能力の事、魔法庁には報告しないと言ってくれたのに?
その件は解決したじゃない!
マッカーシーが罰を与えられる事は無いんだから!
それを、まだ、気にしてるの?
頭を切り替えよう?
やっと次にするべき事も見つかって、何となく道筋が見えてきた気がしない?
明日にでも叔母を訪ねてみるから、頼むから!
助けてください、力を貸してください、って頼むから!
だから、まだ、まだだよ……まだ、ここで諦めるのは早いよ?」
いいぞ、いいぞ、話し出せば。
フィニアスに口を挟まれないように、一気に捲し立てれば、スムーズに言葉が出てくる。
良い調子だ、このまま彼を説得出来るんじゃ……
「……でも、君は帰らなきゃ。
史学部で首席を続けて、奨学金を来年ももぎ取らないといけないし、大行列をさばいてケーキだって売らないと。
兄上に叱られないように20時までには迷惑男を追い出して、休みの日には中央市場の売り切りで生き馬の目を抜く。
そんな日常に帰らなきゃ、駄目だよ。
俺に付き合って……一緒に居てくれるのは嬉しいけど、そんな事していたら、君は失うものが多過ぎる」
「……何、それ?
失うもの、って……」
今、ご家族に認識して貰えないフィニアスが素直に自宅に戻るとは思えない。
じゃあ、何処へ行く?
ひとりで、何処かに行こうとしてる?
もしかして、ひとりでメイトリクスを、探しに行こうとしてるの?
この胸には、さっきオル君が何気なく彼に言った言葉が残っている。
「師匠からの攻撃の盾になるつもりで、お姉さんに抱きついて、守ろうとしてるのは分かる」
わたしを守ろうとして、震えるわたしを抱き締めて、盾になろうとしてくれたフィニアスを思い出すと、胸の辺りが痛くなる。
ねぇ、フィニアス。
他に失うものが多くても、わたしは貴方を失いたくないよ。
だから、決めた。
わたしを貴方の恋人にして。
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