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36 甘ちゃん気質が抜けない俺
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俺の恋人のふりをする、とダニエルが言い出した。
『愛があるから、彼女だけが俺が見える』ことにするからだけど……
それを理由にしたら、母辺りは
「わたしだってフィンに愛があるのに、どうして見えないの!」なんてややこしい事を言い出すのではないか、と考えてしまった。
だけど、それも一瞬だった。
せっかくダニエルが『恋人』として、両親に自己紹介してくれるのなら、俺は余計なことを言うのは止めた。
さっきまで、もうここから先はダニエルには迷惑をかけられないと思い、自力では何も出来ない俺なんかは何処かへ行ってしまった方がいいな、と彼女にさよならを言ったのに。
彼女の方から、自宅に戻れるように両親に事情を話すと言われて、単純な俺でも少し複雑だったけど、それに乗らせて貰うことにした。
男のくせに、直ぐに考えが変わる奴だと自分でも呆れるけど……
基本的に俺は人に頼る甘ちゃん気質が抜けない。
言い訳になるが、ダニエルから
「貴方は自宅に戻って、魔法庁が外れを捕縛するのを待ってて」と言われ。
そうか、ここで俺が何処かへ消えるより、その方がダニエルも以前の生活に早く戻れるのだと気付いた。
この週末をダニエルと過ごして分かったのは、ダニエル・マッカーシーとは、彼女本人が思うよりも繊細で、心優しい女性だということだ。
魔法学院で赤毛のベッキーに脅された時、彼女は俺を少しも責めなかった。
王家に逆心あり、みたいに言われても、
「貴方のせいじゃない、わたしが馬鹿だったせい」なんて言うし、聞いているこちらが辛くて切なくなるような事を、計算せずに言うひとなんだ。
そんな彼女に、これ以上の迷惑を掛けるのは心苦しかったから、俺は離れなくてはと思ったけど、よく考えたら、そんなことをしたら。
気遣いをする彼女は俺を探してしまうかもしれないことに気が付いた。
俺のために要らない心配をさせるくらいなら、素直に自宅へ戻った方が迷惑を掛けずに済む。
そう考えて……俺は指輪を、ダニエルの左手薬指に嵌め直した。
「……俺の恋人になってくれるのなら」
これはあくまでも嘘だと分かっているけど、俺は。
俺は自分を取り戻せたら、これを本当にしたい。
「ずっと、こっちに嵌めてて欲しい。
それと、もう1つお願いがある。
フィニアスじゃなくて、恋人なんだからフィンと呼んでくれないと」
「う、うん、了解しました、フィン……」
俺のあの『御礼のお金』でのヤラカシから、彼女は俺をフィンと呼んでくれなくなった。
それは、もう友達じゃない、と引かれたのだとずっと感じていて。
この機会に呼び名を戻して欲しいとお願いするのは、図々し過ぎるか?
だけど、絶対に俺は……いつか嘘を本当にさせてみせるよ。
◇◇◇
俺の家は、ホテルペンデルトンの敷地内にある。
便宜上ホテルは本館、自宅は別館と呼ばれている。
ホテル自慢の庭園から小型移動車で小さな森を抜けて、の先にあるのだが、昔はよくホテルの別棟に間違えられて、散歩中のお客様が訪れた。
それで、曽祖父の時代に森の中程にある湖畔の東屋から『ここから先は私有地につき立入禁止』の立て札を立てたのだが、それでも好奇心にかられた侵入者は居る。
今では、家の周りを頑丈な壁と門扉でぐるりと囲い、警備員も正門横に常駐させている。
「この門扉……もだけど。
門柱の上には、同じ大理石の鷲が止まってるし、ここからでも女神が水瓶を抱えてる噴水が見えてる。
屋敷と言うより、まるで宮殿だね……」
左右から鷲が見下ろす正門前に、ホテルの庭園から徒歩で来た俺とダニエルは立って、中を覗き込んだ。
まるで宮殿だと感想を言って、ダニエルが笑う。
「森を抜けてきたお客様がよく来るから、こんなに外見がゴツくなっただけで、家の内は普通だから」
「……普通ね、なるほど」
あまり信じて無さそうにダニエルが言うので、俺の方こそ笑うしかない。
警備員のビリー・ジョンソンが俺達2人に気付いて、詰所からこちらに向かって歩いてきた。
「今日の警備はジョンソンだ」
「了解」
俺がビリーの姓を教えると、ダニエルが小さな声で返事をした。
「困ります、お客様。
こちらは個人の邸宅となっております。
立て札をご覧になられましたか?」
「こんにちは、ジョンソンさん。
わたくしはマッカーシーと申します。
事前のお約束はいただいていませんが、奥様にお目通りをお願いいたします」
そう言ってダニエルは、初対面のビリーの名前を呼び、にっこり笑った。
『愛があるから、彼女だけが俺が見える』ことにするからだけど……
それを理由にしたら、母辺りは
「わたしだってフィンに愛があるのに、どうして見えないの!」なんてややこしい事を言い出すのではないか、と考えてしまった。
だけど、それも一瞬だった。
せっかくダニエルが『恋人』として、両親に自己紹介してくれるのなら、俺は余計なことを言うのは止めた。
さっきまで、もうここから先はダニエルには迷惑をかけられないと思い、自力では何も出来ない俺なんかは何処かへ行ってしまった方がいいな、と彼女にさよならを言ったのに。
彼女の方から、自宅に戻れるように両親に事情を話すと言われて、単純な俺でも少し複雑だったけど、それに乗らせて貰うことにした。
男のくせに、直ぐに考えが変わる奴だと自分でも呆れるけど……
基本的に俺は人に頼る甘ちゃん気質が抜けない。
言い訳になるが、ダニエルから
「貴方は自宅に戻って、魔法庁が外れを捕縛するのを待ってて」と言われ。
そうか、ここで俺が何処かへ消えるより、その方がダニエルも以前の生活に早く戻れるのだと気付いた。
この週末をダニエルと過ごして分かったのは、ダニエル・マッカーシーとは、彼女本人が思うよりも繊細で、心優しい女性だということだ。
魔法学院で赤毛のベッキーに脅された時、彼女は俺を少しも責めなかった。
王家に逆心あり、みたいに言われても、
「貴方のせいじゃない、わたしが馬鹿だったせい」なんて言うし、聞いているこちらが辛くて切なくなるような事を、計算せずに言うひとなんだ。
そんな彼女に、これ以上の迷惑を掛けるのは心苦しかったから、俺は離れなくてはと思ったけど、よく考えたら、そんなことをしたら。
気遣いをする彼女は俺を探してしまうかもしれないことに気が付いた。
俺のために要らない心配をさせるくらいなら、素直に自宅へ戻った方が迷惑を掛けずに済む。
そう考えて……俺は指輪を、ダニエルの左手薬指に嵌め直した。
「……俺の恋人になってくれるのなら」
これはあくまでも嘘だと分かっているけど、俺は。
俺は自分を取り戻せたら、これを本当にしたい。
「ずっと、こっちに嵌めてて欲しい。
それと、もう1つお願いがある。
フィニアスじゃなくて、恋人なんだからフィンと呼んでくれないと」
「う、うん、了解しました、フィン……」
俺のあの『御礼のお金』でのヤラカシから、彼女は俺をフィンと呼んでくれなくなった。
それは、もう友達じゃない、と引かれたのだとずっと感じていて。
この機会に呼び名を戻して欲しいとお願いするのは、図々し過ぎるか?
だけど、絶対に俺は……いつか嘘を本当にさせてみせるよ。
◇◇◇
俺の家は、ホテルペンデルトンの敷地内にある。
便宜上ホテルは本館、自宅は別館と呼ばれている。
ホテル自慢の庭園から小型移動車で小さな森を抜けて、の先にあるのだが、昔はよくホテルの別棟に間違えられて、散歩中のお客様が訪れた。
それで、曽祖父の時代に森の中程にある湖畔の東屋から『ここから先は私有地につき立入禁止』の立て札を立てたのだが、それでも好奇心にかられた侵入者は居る。
今では、家の周りを頑丈な壁と門扉でぐるりと囲い、警備員も正門横に常駐させている。
「この門扉……もだけど。
門柱の上には、同じ大理石の鷲が止まってるし、ここからでも女神が水瓶を抱えてる噴水が見えてる。
屋敷と言うより、まるで宮殿だね……」
左右から鷲が見下ろす正門前に、ホテルの庭園から徒歩で来た俺とダニエルは立って、中を覗き込んだ。
まるで宮殿だと感想を言って、ダニエルが笑う。
「森を抜けてきたお客様がよく来るから、こんなに外見がゴツくなっただけで、家の内は普通だから」
「……普通ね、なるほど」
あまり信じて無さそうにダニエルが言うので、俺の方こそ笑うしかない。
警備員のビリー・ジョンソンが俺達2人に気付いて、詰所からこちらに向かって歩いてきた。
「今日の警備はジョンソンだ」
「了解」
俺がビリーの姓を教えると、ダニエルが小さな声で返事をした。
「困ります、お客様。
こちらは個人の邸宅となっております。
立て札をご覧になられましたか?」
「こんにちは、ジョンソンさん。
わたくしはマッカーシーと申します。
事前のお約束はいただいていませんが、奥様にお目通りをお願いいたします」
そう言ってダニエルは、初対面のビリーの名前を呼び、にっこり笑った。
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