【完結】この胸に抱えたものは

Mimi

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第7話 レイノルド②

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失恋の痛みはいつもと同じはずなのに。
クラリスへの失恋からレイノルドはなかなか抜け出せなかった。
いつもとはどう違うのか。  


彼女とは付き合ってもいなかった。
ふたりの間には肉体関係も、口付けも、手を握る事さえも始まってはいなかった。
何よりふたりきりで会った事もない。
いつも、もうひとり誰かが居た。

それはアシュフォードだったり、彼女の父親のスローン侯爵だったりした。
文字通り何も始まってはいなかった。

それなのに失恋して。
クジラ王女の一件が片付いて、これから本腰を入れて口説くのだと張り切っていた。

季節は夏だ!恋の季節だ!
レイノルドの気持ちは最高潮!
だが、直ぐに急降下した。
学年末テストが終わり、一息ついて。
さてこれから、どう攻めようか。

そんな矢先に。
レイノルドは夏休み前の図書室で、その男に会った。
いや、それ以前に気が付いていた。
『あれの中身は男だな』と、アシュフォードと笑っていた彼女が、頬を染めていたのを見た時から。
とても大切なものの様に、男の名前を口にしたのを聞いた時から。
レイノルドは気が付いていたのだ。


この恋は始まる前から終わっていたと、いう事を。
気持ちを打ち明ける前から、聞いては貰えなかった。
だから、手に入れていなかった恋を失っても平気な筈だったのに。
これは……何だ?




彼女が今まで誰とも付き合ったことがないのは知っていた。

古くから続く名門なのに、何故かスローン侯爵家の嫡男と姉妹には婚約者が決まっていなかった。
それはどこの家門とも政略結婚するつもりがないからで、有力貴族と縁付いて、今まで以上の過分な力はつけたくないと、侯爵は考えているらしい。

過分な力は、王家からの不信を招く。
財務大臣として、自ら求めてはどことも繋がらず、どこにも気を遣わず。
それを第一としているから、王家の信頼も厚い。


だからこそ、こぞって皆が婚姻で繋がりを持ちたがった。
長女で年頃の彼女にも縁談は数多く持ち込まれているのに、丁寧にそれは突き返されていた。

それならば本人を口説こうとしても、デビューしたのに、彼女は夜会には現れない。
直接自分とは繋がりのない家門が催す、昼間の茶会にも参加しない。
学園の友人からの誘いにだけ、出席の返事を返す。
侯爵家の親族に紹介を頼んでも、面会にまで繋がらない。



皆は知らないからだ。
実体を知らないから、想像だけが先行している。
自分達だけは知っている。
本当の彼女、クラリス・スローンがどんな令嬢なのか。

深窓の令嬢。
なかなか会えない美少女。
成績優秀な才女。

だが、本当は……


『それで、私の報酬は?』

『私の望むモノを戴けるのなら、喜んで協力をさせていただきますわ』


母国の王子直々の頼みに、ふてぶてしく、そう答えるご令嬢だった。
その上、報酬は何なのかを尋ねたアシュが、
『俺との婚約とかは無理』と、釘を刺せば。

『あんたなんか、いらない』と、口に出さずに伝えてくる。

そんなところもいいと、レイノルドは思っていたのだ。



反対に第3王子のアシュはこれまで、女性にこんな扱いを受けたことがなくて、目を見開いていた。
見た目最高で、作り笑いが得意なアシュは、この時まで迫る女性達を軽くあしらっていたのに。
一風変わったクラリスにペースを乱されるようになる始まりがこの時だった。


 ◇◇◇


夏休みにトルラキアへ行くぞと、アシュフォードから言われた。
お前の母上には、絶対に内緒にしてくれと。

アシュフォードは友人で、乳兄弟で、多分将来的には主になる王子殿下だが。
何を血迷ったのか、春から初等部の子供に入れあげて、好きだの何だの言い出した困った王子様だ。

その子は夏休みに入るとすぐ、祖母とトルラキアへ旅行に行った。
それを追いかける、と言うことか。
正に血迷っている、その言葉がぴったりだと、熱く語る乳兄弟を呆れた目で見るレイノルドだった。

帰ってくるのを待てばいいのに、何でわざわざ行くかね?
そう聞きたいけれど、黙っていた。
取り敢えず、殿下の話は聞こうか。


クラリスから貰った妹からの絵葉書を手にして、『行くぞ』と力が入っているのはいい。
しかし、資金は?出国の段取りは?護衛は?
聞いても要領を得ない。
これだから、うちの王子様は……。


侍従のカランの協力無しでは始まらない事を教えて、もし予算がおりないのであれば、城下へ降りて算段をしてくる事を伝えた。
レイノルドの母、ムカつくマーシャル伯爵夫人を出し抜けるなら、どんな協力だって、カランはがんばるだろう。

『ありがとう!さすがはレイだ!打てば響く!』

満面の笑顔で言われて、これだから、うちの王子様はと、再び思った。
そんなに簡単に弱味を見せて、ひとに頼って、感謝して。
無意識にひとから善意を差し出されて、疑うことなく、それを受け取る。


歯痒く思う時も度々だが、この殿下の様な人間も王家に1人は必要かな、とも思う。
王太子殿下は腹黒だし、第2王子殿下は単純明快にまず自分を優先する。
第1王女殿下は早くどこかの国へ嫁に行って欲しいメスガキで、第4王子殿下はどう育つかまだわからない、ただの子供。

王城で王族人気アンケートを取ったら、うちの王子様はぶっちぎりの1位だろう。
うちの母上が組織票を大量に投入してしまうからだ。
レイノルドはアシュフォードの事となると、目の色が変わる母親を思うと、いつも同じ気分に襲われた。

『あんたの本当の息子は、俺だよ』と。

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