18 / 37
18 貴方のことでいっぱいになる◆◆シンシア
しおりを挟む
自分でも情けない心情を、初めて吐露した。
母にもスザナにも話せない心情を。
こんな想いを抱えていると知ったら、わたしに対して責任感の強い母とスザナは自分を責めてしまう。
「こんな話を聞かされても、お困りになるだけですね。
申し訳ございませんでした」
「……いえ、私共は定められた法に従ってのみ、頭を使える法律バカなので、お嬢様のお気持ちに解決法を提示出来ないのを歯痒く思うばかりです。
お力になれず、申し訳ございません」
「聞き流してくださいませとお願い致しました。
聞いていただけただけで、少し心が軽くなりました」
グレイソン先生が申し訳なさそうに眉を下げられた。
解決法を提示して欲しかったわけではないし、充分だ。
わたしはハミルトンだ。
貴族の家に生まれた一人娘。
この手から離れていくものにすがったりしない。
だけど……一番大切だったものを、自ら手離した。
わたしの手に残されたもの。
右手には特権と。
左手にはそれに伴う責任。
「……正直に申しまして、今回は法的には処罰出来ないと思います。
キャメロン卿が何を思っていたかは不明ですが、お嬢様や奥様に与えた心の傷はとても深いものです。
私は法律家として、何より人間として、とても許せる所業ではないと憤りを感じております。
サザーランド侯爵家のご次男に紳士を名乗る資格はない、と。
それだけは、お父上の侯爵閣下にも思い知っていただきたいと思っています」
キャメロンとの縁組がこんなことになるなんて。
グレイソン先生もきっと驚かれたはず。
先生には、婚約式でサインをする誓約書内容の相談もしていた。
夏休みに領地に戻る前に誓約書の下書きを拝見して、問題がなければ正式な書面にして、婚約披露までに侯爵閣下とキャメロン本人に目を通してもらう予定だった。
今日はこんな用件で、予定外で会うことになってしまった。
それなのに先生は破談になったわたしに対して、態度にも言葉にも。
そんな依頼は無かったかのように接してくださった。
それが本当にありがたくて、嬉しくて。
改めて御礼を言った。
しばらくして、またひとつ。
グレイソン先生が咳払いをされた。
「では……私からも資料には載せて貰いたくない話を。
お嬢様も聞き流していただけますか?」
「……先生の?
承知致しました。
わたしが聞いて良いのであれば、お話しくださいませ」
「私はシンシア様がハミルトン伯爵となられる日に、是非立ち会えたらと。
それを今から老後の楽しみのひとつにさせていただいているのですよ」
◇◇◇
目が覚めた時、まだ部屋の中は暗かった。
まだ夜は明けてなかった。
腕を出して眠ってしまったのか。
もうすぐ7月だというのに肩口から指先まで冷えていて、わたしは震えた。
エディの夢を見た。
ここ何年かは彼の。
エディとの日々の、あの頃の夢を見ることは無かったのに。
昨日グレイソン先生に、まだまだ弱い自分をさらけ出してしまったから、彼の夢を見てしまったんだろう。
わたし達は夢の中では笑っていたのに、実際のわたしは泣いていたのだろうか。
目の奥が痛む感覚があって、右手の人差し指と中指でそれぞれ右目の目尻と目頭を押すように触れると、指がじわりと濡れた。
それは、涙の名残だ。
こうして目覚めた後も、熱いものが込み上げてきて、わたしはブランケットを頭から被り……
胸を押さえて、ベッドの中で丸くなった。
身体中が軋んで
声にならない悲鳴をあげる
そうだ、ゆっくり深呼吸……
お昼間、気分が悪くなった時アドバイスしていただいたのを思い出した。
それで、少し落ち着いた。
── もう……誰にも恋なんてしない
彼との別れの日。
これからは、ふたりだけでは会わないと。
そうふたりで、決めた日。
今から考えると、幼くて。
わざわざ口に出して、誓いを立てるなんて。
許してね、エディ。
貴方以外のひとを好きになろうとしたの。
でも、駄目だった。
そのひとは違う女の子が好きだったみたい。
幼馴染みの女の子。
わたし達と同じだね。
ふたりは自覚なしの、初恋だったのかもね。
貴方はもうすぐ、この国から居なくなる。
その前に安心して貰いたかった。
わたしはもう大丈夫だと、幸せになるからと。
ああ、どうしよう。
また色々考え始めて、貴方のことでいっぱいになる。
やはり、わたしは。
もう誰にも恋なんてしない。
母にもスザナにも話せない心情を。
こんな想いを抱えていると知ったら、わたしに対して責任感の強い母とスザナは自分を責めてしまう。
「こんな話を聞かされても、お困りになるだけですね。
申し訳ございませんでした」
「……いえ、私共は定められた法に従ってのみ、頭を使える法律バカなので、お嬢様のお気持ちに解決法を提示出来ないのを歯痒く思うばかりです。
お力になれず、申し訳ございません」
「聞き流してくださいませとお願い致しました。
聞いていただけただけで、少し心が軽くなりました」
グレイソン先生が申し訳なさそうに眉を下げられた。
解決法を提示して欲しかったわけではないし、充分だ。
わたしはハミルトンだ。
貴族の家に生まれた一人娘。
この手から離れていくものにすがったりしない。
だけど……一番大切だったものを、自ら手離した。
わたしの手に残されたもの。
右手には特権と。
左手にはそれに伴う責任。
「……正直に申しまして、今回は法的には処罰出来ないと思います。
キャメロン卿が何を思っていたかは不明ですが、お嬢様や奥様に与えた心の傷はとても深いものです。
私は法律家として、何より人間として、とても許せる所業ではないと憤りを感じております。
サザーランド侯爵家のご次男に紳士を名乗る資格はない、と。
それだけは、お父上の侯爵閣下にも思い知っていただきたいと思っています」
キャメロンとの縁組がこんなことになるなんて。
グレイソン先生もきっと驚かれたはず。
先生には、婚約式でサインをする誓約書内容の相談もしていた。
夏休みに領地に戻る前に誓約書の下書きを拝見して、問題がなければ正式な書面にして、婚約披露までに侯爵閣下とキャメロン本人に目を通してもらう予定だった。
今日はこんな用件で、予定外で会うことになってしまった。
それなのに先生は破談になったわたしに対して、態度にも言葉にも。
そんな依頼は無かったかのように接してくださった。
それが本当にありがたくて、嬉しくて。
改めて御礼を言った。
しばらくして、またひとつ。
グレイソン先生が咳払いをされた。
「では……私からも資料には載せて貰いたくない話を。
お嬢様も聞き流していただけますか?」
「……先生の?
承知致しました。
わたしが聞いて良いのであれば、お話しくださいませ」
「私はシンシア様がハミルトン伯爵となられる日に、是非立ち会えたらと。
それを今から老後の楽しみのひとつにさせていただいているのですよ」
◇◇◇
目が覚めた時、まだ部屋の中は暗かった。
まだ夜は明けてなかった。
腕を出して眠ってしまったのか。
もうすぐ7月だというのに肩口から指先まで冷えていて、わたしは震えた。
エディの夢を見た。
ここ何年かは彼の。
エディとの日々の、あの頃の夢を見ることは無かったのに。
昨日グレイソン先生に、まだまだ弱い自分をさらけ出してしまったから、彼の夢を見てしまったんだろう。
わたし達は夢の中では笑っていたのに、実際のわたしは泣いていたのだろうか。
目の奥が痛む感覚があって、右手の人差し指と中指でそれぞれ右目の目尻と目頭を押すように触れると、指がじわりと濡れた。
それは、涙の名残だ。
こうして目覚めた後も、熱いものが込み上げてきて、わたしはブランケットを頭から被り……
胸を押さえて、ベッドの中で丸くなった。
身体中が軋んで
声にならない悲鳴をあげる
そうだ、ゆっくり深呼吸……
お昼間、気分が悪くなった時アドバイスしていただいたのを思い出した。
それで、少し落ち着いた。
── もう……誰にも恋なんてしない
彼との別れの日。
これからは、ふたりだけでは会わないと。
そうふたりで、決めた日。
今から考えると、幼くて。
わざわざ口に出して、誓いを立てるなんて。
許してね、エディ。
貴方以外のひとを好きになろうとしたの。
でも、駄目だった。
そのひとは違う女の子が好きだったみたい。
幼馴染みの女の子。
わたし達と同じだね。
ふたりは自覚なしの、初恋だったのかもね。
貴方はもうすぐ、この国から居なくなる。
その前に安心して貰いたかった。
わたしはもう大丈夫だと、幸せになるからと。
ああ、どうしよう。
また色々考え始めて、貴方のことでいっぱいになる。
やはり、わたしは。
もう誰にも恋なんてしない。
1,212
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて
ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」
お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。
綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。
今はもう、私に微笑みかける事はありません。
貴方の笑顔は別の方のもの。
私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。
私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。
ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか?
―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。
※ゆるゆる設定です。
※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」
※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした
ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。
彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。
そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。
しかし、公爵にもディアにも秘密があった。
その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。
※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています
※表紙画像はAIで作成したものです
(完結)婚約破棄から始まる真実の愛
青空一夏
恋愛
私は、幼い頃からの婚約者の公爵様から、『つまらない女性なのは罪だ。妹のアリッサ王女と婚約する』と言われた。私は、そんなにつまらない人間なのだろうか?お父様もお母様も、砂糖菓子のようなかわいい雰囲気のアリッサだけをかわいがる。
女王であったお婆さまのお気に入りだった私は、一年前にお婆さまが亡くなってから虐げられる日々をおくっていた。婚約者を奪われ、妹の代わりに隣国の老王に嫁がされる私はどうなってしまうの?
美しく聡明な王女が、両親や妹に酷い仕打ちを受けながらも、結局は一番幸せになっているという内容になる(予定です)
【1月18日完結】捨てたものに用なんかないでしょう?
風見ゆうみ
恋愛
血の繋がらない姉の代わりに嫁がされたリミアリアは、伯爵の爵位を持つ夫とは一度しか顔を合わせたことがない。
戦地に赴いている彼に代わって仕事をし、使用人や領民から信頼を得た頃、夫のエマオが愛人を連れて帰ってきた。
愛人はリミアリアの姉のフラワ。
フラワは昔から妹のリミアリアに嫌がらせをして楽しんでいた。
「俺にはフラワがいる。お前などいらん」
フラワに騙されたエマオは、リミアリアの話など一切聞かず、彼女を捨てフラワとの生活を始める。
捨てられる形となったリミアリアだが、こうなることは予想しており――。
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
私を運命の相手とプロポーズしておきながら、可哀そうな幼馴染の方が大切なのですね! 幼馴染と幸せにお過ごしください
迷い人
恋愛
王国の特殊爵位『フラワーズ』を頂いたその日。
アシャール王国でも美貌と名高いディディエ・オラール様から婚姻の申し込みを受けた。
断るに断れない状況での婚姻の申し込み。
仕事の邪魔はしないと言う約束のもと、私はその婚姻の申し出を承諾する。
優しい人。
貞節と名高い人。
一目惚れだと、運命の相手だと、彼は言った。
細やかな気遣いと、距離を保った愛情表現。
私も愛しております。
そう告げようとした日、彼は私にこうつげたのです。
「子を事故で亡くした幼馴染が、心をすり減らして戻ってきたんだ。 私はしばらく彼女についていてあげたい」
そう言って私の物を、つぎつぎ幼馴染に与えていく。
優しかったアナタは幻ですか?
どうぞ、幼馴染とお幸せに、請求書はそちらに回しておきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる