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外面イケメン
しおりを挟む浮気者兄ちゃんの美味しいチーズケーキをあと少しで食べ終わる頃、
「あれ?圭一郎だ。」
圭一郎が走ってこちらへ向かってくる姿が見えた。
「直樹!何してるの??家に帰ったんじゃないの?」
「うん。帰ってる途中で、にっ」
『に』まで言ったところで、急に兄ちゃんに腕を引かれて後ろから抱え込まれる。
ちょっと!兄ちゃん何してるんだよ!
「君は誰かな?僕の直樹に何の用?」
はっ?兄ちゃん!その言い方!!ほら!圭一郎がビックリしてるから!!!
圭一郎は兄ちゃんに会った事ないから顔を知らない。しかも全然似てないし。
俺は喋ろうとするけど、兄ちゃんの腕に邪魔されて喋れない。
あー。圭一郎怒ってるじゃんか!
「あなたこそ、直樹とどういう関係なんですか!」
兄弟!兄弟だよ!!
「直樹との関係?・・・一緒に寝たりする関係だよ。」
は!!??だーかーらー言い方!!!
違う!違う!!圭一郎!違うから!!!そっちの寝るじゃないから!!!
兄ちゃんの顔を見上げると、「直樹に嫌われたくない」って言ってた情けない顔は消え去り、キリッとした外面用のイケメンに変わっていた。
腕の力が強くて抜け出せない。
「な、直樹は俺のです。あなたには絶対に渡しません!」
あら、カッコイイ!
って惚れ直してる場合じゃないんだよ!!
「ふーん。でも直樹は俺から離れられないよ。」
そりゃ兄弟だからなっ!
もうこれ以上はヤバイと感じて力の限りを振り絞り、何とか外面イケメンの腕から逃れた。
「待って!待って!違う違うから!!圭一郎!!こいつ、兄ちゃんだから!!兄弟!兄ちゃん!!」
「え?・・・お兄さん?」
「そー!兄ちゃんの行動も、圭一郎の発言も、色々ヤバイから!」
「・・・あっ。」
圭一郎、何処ら辺がヤバかったか気付いたか!
すると外面イケメンが笑い出した。
「ごめんごめん!つい揶揄いたくなった。」
「浮気してフラれたくせに人を揶揄うな。」
「直樹ひどい。兄ちゃんこれでも傷心なんだぞ。」
「自業自得だろ!」
圭一郎はポカンとしている。まぁ、そうだよな。ビックリするよな。ごめん、こんな兄ちゃんで。
兄ちゃんが圭一郎に向き直す。
「ねえ直樹。この子だろ?ケーキの相手。」
え?何故それを・・・。
「僕の可愛い弟がさ、一生懸命ケーキを作ったんだよね。バレンタインに渡したいって言って。」
ポカンとしていた圭一郎は、今は驚きの表情に変わっている。
「それなのにさ、さっき偶然会ったら「渡せなかった」って言って凄く落ち込んでいたんだ。」
「え・・・直樹・・・」
「そんな落ち込んだ姿を見ちゃったらさ、虐めたくもなっちゃうよね。その落ち込ませた相手をさっ。」
ん?兄ちゃん、最初から分かってたって事か??
外面イケメン、意外と鋭いんだなっ!
「まっ!でも今の感じだと、大丈夫そうだね!」
「な、なぁ兄ちゃん。俺と圭一郎はどんな関係だと思ってる?」
「恋人だろ?」
・・・!!
すると、圭一郎がカバンを置き、姿勢を正す。
「直樹君とお付き合いさせていただいています。野田圭一郎です。」
「野田圭一郎君か。直樹の事頼んだよ。ほら、直樹って女の子より可愛いだろ?男が惚れるくらい。僕の友達も何人か惚れたからね。」
「え?あ、はい。」
「だから僕は、付き合うなら直樹を守れるような男じゃないとダメだと思ってたんだよ。」
兄ちゃんの言っている事も、大概意味が分からないけどさ、それってさ・・・
「それにさ、こんな可愛い顔してたら女の子は横に立ちたくないよね!だから彼女は出来ないって思ってた。」
「実際に学校でも女子からそう言われています。」
「やっぱりか。だから直樹を頼むよ。」
「はい。ありがとうございます。」
この話の流れだとさ、俺と圭一郎の関係を普通に受け入れてくれてるように聞こえるんだけど。
隠しきれないところまでは来てるけど・・・
兄ちゃんは・・・認めてくれる・・・のか?
「な、なぁ兄ちゃん?俺は男だよ?圭一郎も男なんだぞ?何とも思わないのか?・・・今の話の流れだと、兄ちゃんは認めてくれるって勘違いしそうだよ?」
「直樹、兄ちゃんの行ってる大学は海外との繋がりも強くてね、学科も沢山あって、本当に色々な人が居るんだよ。高校とは全然違う世界だ。そんな中で、男だとか女だとか、そんな小さな枠に囚われてたら自由な発想も出てこない。」
兄ちゃんの話は、高校生の俺にはまだ分からない世界の感覚の話だ。
「自分の好きな人が自分を好いてくれているなんて、それだけで芸術だよ。」
兄ちゃんの独特な表現は、やっぱり難しいけど、この人が兄で良かったと心から感じた。
「げ、芸術だと思うなら・・・浮気すんなよ。」
照れ隠しに言った俺の言葉に「それは言わないでぇー」と抱きついてきた兄ちゃんは、外面イケメンではなく、俺の大好きな兄ちゃんの顔だった。
「それじゃ、俺は帰るよ。直樹は圭一郎君とゆっくりしておいで。母さんには俺から適当に言っておくから。」
「うん。ありがとう兄ちゃん。」
「ありがとうございます。」
「じゃあね」と言って公園を出て行く兄の背中は、とても大人に見えた。
「圭一郎。ごめんな、うちの兄ちゃんが。」
「いや、素敵なお兄さんだな。」
「うん。」
・・・。
「今日さ、親の帰りが遅いんだけど・・・うち来る?」
「うん。」
そして、二人で圭一郎の家に向かった。
後日、兄ちゃんに、何で圭一郎が恋人だってすぐに分かったのかを聞くと、「圭一郎君が走って来た時の目が、浮気現場に乗り込んできた元カノの目と同じだったよ。」と教えてくれた。
・・・・・・・・・。
兄ちゃん、もう浮気はするなよ。
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