白馬の王子様を探していたら現れたハイスペストーカー男に尽くされてる

チャトラン

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第7話 ストーカーの定義

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「……あれ、俺、なんかツヤツヤしてね?」

アパートの階段を降りた先。公共スペースの壁にかけられた小さな鏡を覗き込んで、思わず呟いた。

そういえばこの間、キャバ嬢のあの子が俺を見て変なことを言っていた気がする。
「シーナ、最近ビジュ良くない?」
またバカなこと言い始めたなと思ってその時は流したんだけど。あれ、確かに顔色がいいぞ。いつも通りの昼夜逆転生活を送ってるのに、なんだこれ。

時間のことなんて忘れて、ペタペタ顔を触る。
心当たりなんて一つしかなかった。
……もしかしなくても、俺、健康になってる? 
……ストーカーのおかげで??

ちょっと理解が追いつかないんだけど。
ストーキング対象を健康にするタイプのストーカーもストーカーってことでいいの?
ストーカーって、大量の写真を送りつけてきたり、私物を盗んだりするやつじゃないの?
スキンケア用品とか日用品とか食料品とか貢いでくるタイプの親切な不法侵入者はなんて呼べばいいの?

後ろに通り過ぎていくライトを目で追いかけながら、地下鉄の中で悶々と考える。だけど考えれば考えるほど分からなくなって、混乱にグルグル目を回しながら、バーへの暗い階段を降りることになった。

……やっぱり、時間は全然間に合いそうだ。
混乱したまま立ち止まって、スマホをポケットから取り出す。
この人のおかげで遅刻しなくてすんだわけだし。助けてもらったんだからお礼を言うべきなんじゃないの?……お礼? ストーカーに??、

《……ちょっと色々良く分かんないんだけど、とりあえず助かったからお礼言っとく。ありがとう》

すかさず既読がつく。

ポピン
『ストーカーにお礼なんか言っちゃダメだよ』

まともな返事が返ってきて余計に目が回る。
この人、俺よりまともなんじゃないの。

ポピン
『でもシーナからのありがとう嬉しかったからスクショした。あと3日は徹夜で仕事頑張れる』

ポピン
『……あ、返信は嬉しいけど歩きスマホは危ないからだめだよ』




「……この人本当に誰? なんの人??」

真面目に(?)社畜してるらしい情報が入ってきて、また混乱する。なんで俺のストーカーなんかになっちゃったの。やっぱりまともな人なんじゃ。その瞬間、脳裏を元カレの可哀想な写真がよぎった。
いや、まともな人はあんなことしないだろ。正気に戻れ俺。

ちなみに、その後アイツがどうなったのかは聞いていない。「山に埋めました」とか怖いこと言われても困るからだ。
……そんな可能性を考えているのに"まともな人"はないだろ。

ポピン
『仕事大変だと思うけどがんばってね。俺もシーナの可愛い寝息リピート再生しながらがんばる。あ、変な客に絡まれたら俺に言ってね』

「……」

暗い階段の壁にもたれかかって、メッセージを見下ろす。

コイツのやることとか、メッセージとかだけを見れば、コイツは俺のことが好きなストーカー男なんだろう。

だけど、そう単純に考えるには、どうも引っかかるのだ。
だって俺、貧乏だし。可愛げもないし。
そんな色々されても何も返せないし。
コイツになんの得もないし。
優しいストーカーに至れり尽くせりされるって、なんか俺に都合良すぎないか。
絶対何か裏がある。
心当たりもなくもないのだ。

「……太らせて食べるとか?」

それともどこかに売り捌かれるのかも。
そういえば、ゲイ風俗がどうのって言ってたな。
売値釣り上げる為にピカピカにされてんのかな。うわ、これが一番ありえるわ。汚いおっさんに掘られるのはさすがにごめんなんだけど、どうしよう。

「……、んー、まあいっか」

その時はその時だろ。

これが、俺の悪い癖だった。面倒くさくなるとすぐ考えることを放り出す。ぼんやり。なあなあ。生きてれば上等。生きていけなくなったら、まあ、もうそれでいいんじゃねえの。やれるだけやったし。そんな感じ。
こんなんだから、可愛げがないとか、覇気がないとか、あれこれ言われるのかもしれないけど、考えたって分からないものは分からないんだし。仕方がない。

《ストーカーさんも、仕事頑張って》

まあ、この人もすぐ飽きるだろう。
ほら俺、賞味期限短いから。
深掘りするような人間性もないし、性格も特別よくないし。
だから恋人とも続かないし、母さんにも捨てられるし。
綺麗なのはパッケージだけって感じの人間だから。
「イメージと違った」とか言って、すぐターゲットを切り替えるはずだ。
ストーカーって、そういう勝手な理想作り上げるの上手そうだし。

そんなことを考えて、スマホの明かりを落とした。
暗い液晶に、皆の言う通り、何考えてるのか分からない可愛げない顔が映っている。何考えてるのか分からないって言うか、何も考えてないんだよな、俺。
頬の一部がまだ少しだけ黒っぽいのを見て、確かにこんな顔してるんじゃ殴りたくなるのも仕方がない気がするな、と思った。

「……成仏してくれ」

……俺みたいなの好きになるやつが悪い。そういうことにしておこう。
スマホをポケットにしまいながら、店への階段をリズム良く駆け降りた。
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