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第13.5話 部下Sは見た
しおりを挟む最年少幹部。見た目はモデルか何かでもしてそうな美男子やけど、中身は正真正銘のイカれ系。
いつからいたのか誰も知らない。カタギの家に生まれたのにどうしてこんなところにいるのかも分からない。
みんなが避けたがる危険度の高い仕事を進んで受けて、組長に謎に気に入られて、前代未聞のスピード出世をした男。
爺ちゃんの代からこの組にいる俺が、そんな男のストッパー役兼生贄として選ばれたのが数年前。初めて顔を合わせた日、「ヨロシク」と首を傾げて微笑む作り物みたいに綺麗な顔を見た瞬間すぐに思った。
爺さん連中の言うこと聞くの、やめようって。
俺、知っとんねん。ヤバい奴に限って、普段は優しくて穏やかな紳士的な面しとるって。
こんな人のこと裏切って敵に回すなんて、絶対にごめんである。
――なにかいいことがあったんやろな。
兄さんの様子を見て、そう根拠なく思った。
狭いアパートの壁に片足を立てて寄りかかり、スマホを弄っているだけで謎に絵になる男前。
母親の腹ん中でパーツ厳選して生まれてきたんか?偶然でこんな顔できる?って感じの美しいお顔立ち。
韓国でアイドルとか目指した方がいいと思う。絶対。
兄さんを見た後に、水垢のこびりついた鏡に映る自分を見てしまってめちゃくちゃに萎えた。せいぜい店でちょっと人気のあるホストAって感じやわ。痛んだアッシュグレーの髪を乱雑に拭う。
「すんません、兄さん。もう少しかかります」
「ん」
短い返事。最近の兄さんはずっとスマホに釘付けだった。
車の中はもちろん、仕事のふとした時間もスマホを見ている。
普通なら女でもできたんかな、と思うところだが、兄さんに限ってはそれがない。冗談やろってくらいモテるのに、どんな美女にも見向きもせんのやもんこの人。
理想がめちゃくちゃ高いんか、ちょっと代わった趣味でもあるんか。それとも既に好きな相手でもいるのか。……いや、兄さんに限ってそれはないな。
液晶をすいすい滑らかになぞる親指を目で追いかけた。イケメンって、親指だけ切り取ってもイケメンなのなんなんやろ。俺みたいなモブとは遺伝子レベルで違うんやろか。爪の形がもうすでにイケメンやもんな。
……一応勘違いされると困るので言っておくが、俺はノンケである。Dカップのおっぱいと、太ももの隙間を愛している。
だがそれはそれとして、兄さんはかっこいいのだ。
俺だけが行くとキャンキャン喧しい店の女の子たちが、この人を見るなりしおらしくモジモジし始める理由がよくわかる。俺だって未だに兄さんに見つめられるとモジモジしてしまうもん。いや、まじで。
「……なに、塩谷、俺に惚れた?」
俺の熱い視線に気づかれていたらしい。柔らかい笑顔を上げて言う兄さんに、ゾワリと体中の毛が逆立つ。やばいちょっと怒ってるわ。
まつ毛のばっさばさ生えた、垂れ目が柔和に歪んだ。一見、優しくて美しい笑顔なのに、ドロリと獲物を絡めとるような眼差しがこの人がどういう人かをよく表している。
「……すんません」
「あはは、何それ。答えになってないじゃん。仕事は済んだの? アイツは?」
俺の手にはめられたゴム手袋を見、浴室を見る。
この人は、乱暴な言葉遣いが大嫌いだ。俺たちに自分を『兄さん』と呼ばせるし、自身も自然体でさっぱりとした話し方をする。
気の良い普通の若者みたいな。
昔は、兄さんのそういう面だけを見て見くびった連中がよく痛い目に遭っていた。兄さんの言葉はちゃんと慎重に聞かなくちゃならない。
ちなみに今のは、「仕事は済ませて油売ってんだよな?」ってそういう意味。
「はい、終わりました。お待たせしてしまってすんません」
「ん、じゃあ、帰るか」
兄さんが壁を革靴で蹴って体を起こした拍子に、サラリとした髪の隙間からポロと何か小さなものが転がり落ちた。兄さんが最近ずっとつけっぱなしのワイヤレスイヤホンだ。
それをすばやく拾い上げ差し出す途中、手の中から漏れ出ている音が音楽やポッドキャストなんかじゃないことに気がついた。……あれ、これ。誰かの、生活音?
「……」
あ、やばい。これ、気づいちゃダメなやつや。
そう思った時にはもう遅い。イヤホンを差し出そうとした俺のごつい手を、兄さんの骨張った白い手がそっと、でも身じろぎもできないくらいの力で捕まえた。
「……そういえば塩谷さ、俺の部下になって何年になるっけ?」
囁くような低い声で兄さんが呟く。
「……4年目になります」
「もうそんなになるか。そっか。4年も俺の無茶振りに応えてくれてるわけだ。ありがとう」
「いえ、滅相もないです」
ギシギシと骨が軋む。これは下手なこと言ったら骨ぶち折られるな。手を捕まえられたまま、頭を下げた俺の髪を、兄さんのもう一方の手が耳にそっとかけた。首筋をほんのりかすめていった爪先に、後退りしそうになるのを何とか堪える。……あれ、骨折られるくらいじゃ済まんやつかも、これ。
「一つな、今まででいちばん大切なお願いがあるんだけど、塩谷また聞いてくれる?」
「……はい。自分にお任せください」
目の前にスマホが差し出される。
写真の中には男が二人。
「この子、俺の大事な子」
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