白馬の王子様を探していたら現れたハイスペストーカー男に尽くされてる

チャトラン

文字の大きさ
15 / 35

第13.5話 部下Sは見た

しおりを挟む


最年少幹部。見た目はモデルか何かでもしてそうな美男子やけど、中身は正真正銘のイカれ系。
いつからいたのか誰も知らない。カタギの家に生まれたのにどうしてこんなところにいるのかも分からない。
みんなが避けたがる危険度の高い仕事を進んで受けて、組長に謎に気に入られて、前代未聞のスピード出世をした男。

爺ちゃんの代からこの組にいる俺が、そんな男のストッパー役兼生贄として選ばれたのが数年前。初めて顔を合わせた日、「ヨロシク」と首を傾げて微笑む作り物みたいに綺麗な顔を見た瞬間すぐに思った。
爺さん連中の言うこと聞くの、やめようって。
俺、知っとんねん。ヤバい奴に限って、普段は優しくて穏やかな紳士的な面しとるって。
こんな人のこと裏切って敵に回すなんて、絶対にごめんである。








――なにかいいことがあったんやろな。

兄さんの様子を見て、そう根拠なく思った。

狭いアパートの壁に片足を立てて寄りかかり、スマホを弄っているだけで謎に絵になる男前。
母親の腹ん中でパーツ厳選して生まれてきたんか?偶然でこんな顔できる?って感じの美しいお顔立ち。
韓国でアイドルとか目指した方がいいと思う。絶対。

兄さんを見た後に、水垢のこびりついた鏡に映る自分を見てしまってめちゃくちゃに萎えた。せいぜい店でちょっと人気のあるホストAって感じやわ。痛んだアッシュグレーの髪を乱雑に拭う。

「すんません、兄さん。もう少しかかります」

「ん」

短い返事。最近の兄さんはずっとスマホに釘付けだった。
車の中はもちろん、仕事のふとした時間もスマホを見ている。
普通なら女でもできたんかな、と思うところだが、兄さんに限ってはそれがない。冗談やろってくらいモテるのに、どんな美女にも見向きもせんのやもんこの人。
理想がめちゃくちゃ高いんか、ちょっと代わった趣味でもあるんか。それとも既に好きな相手でもいるのか。……いや、兄さんに限ってそれはないな。

液晶をすいすい滑らかになぞる親指を目で追いかけた。イケメンって、親指だけ切り取ってもイケメンなのなんなんやろ。俺みたいなモブとは遺伝子レベルで違うんやろか。爪の形がもうすでにイケメンやもんな。

……一応勘違いされると困るので言っておくが、俺はノンケである。Dカップのおっぱいと、太ももの隙間を愛している。

だがそれはそれとして、兄さんはかっこいいのだ。
俺だけが行くとキャンキャン喧しい店の女の子たちが、この人を見るなりしおらしくモジモジし始める理由がよくわかる。俺だって未だに兄さんに見つめられるとモジモジしてしまうもん。いや、まじで。

「……なに、塩谷、俺に惚れた?」

俺の熱い視線に気づかれていたらしい。柔らかい笑顔を上げて言う兄さんに、ゾワリと体中の毛が逆立つ。やばいちょっと怒ってるわ。
まつ毛のばっさばさ生えた、垂れ目が柔和に歪んだ。一見、優しくて美しい笑顔なのに、ドロリと獲物を絡めとるような眼差しがこの人がどういう人かをよく表している。

「……すんません」

「あはは、何それ。答えになってないじゃん。仕事は済んだの? アイツは?」

俺の手にはめられたゴム手袋を見、浴室を見る。
この人は、乱暴な言葉遣いが大嫌いだ。俺たちに自分を『兄さん』と呼ばせるし、自身も自然体でさっぱりとした話し方をする。
気の良い普通の若者みたいな。

昔は、兄さんのそういう面だけを見て見くびった連中がよく痛い目に遭っていた。兄さんの言葉はちゃんと慎重に聞かなくちゃならない。
ちなみに今のは、「仕事は済ませて油売ってんだよな?」ってそういう意味。

「はい、終わりました。お待たせしてしまってすんません」

「ん、じゃあ、帰るか」

兄さんが壁を革靴で蹴って体を起こした拍子に、サラリとした髪の隙間からポロと何か小さなものが転がり落ちた。兄さんが最近ずっとつけっぱなしのワイヤレスイヤホンだ。
それをすばやく拾い上げ差し出す途中、手の中から漏れ出ている音が音楽やポッドキャストなんかじゃないことに気がついた。……あれ、これ。誰かの、生活音?

「……」

あ、やばい。これ、気づいちゃダメなやつや。
そう思った時にはもう遅い。イヤホンを差し出そうとした俺のごつい手を、兄さんの骨張った白い手がそっと、でも身じろぎもできないくらいの力で捕まえた。

「……そういえば塩谷さ、俺の部下になって何年になるっけ?」

囁くような低い声で兄さんが呟く。

「……4年目になります」

「もうそんなになるか。そっか。4年も俺の無茶振りに応えてくれてるわけだ。ありがとう」

「いえ、滅相もないです」

ギシギシと骨が軋む。これは下手なこと言ったら骨ぶち折られるな。手を捕まえられたまま、頭を下げた俺の髪を、兄さんのもう一方の手が耳にそっとかけた。首筋をほんのりかすめていった爪先に、後退りしそうになるのを何とか堪える。……あれ、骨折られるくらいじゃ済まんやつかも、これ。

「一つな、今まででいちばん大切なお願いがあるんだけど、塩谷また聞いてくれる?」

「……はい。自分にお任せください」

目の前にスマホが差し出される。
写真の中には男が二人。

「この子、俺の大事な子」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

弟がガチ勢すぎて愛が重い~魔王の座をささげられたんだけど、どうしたらいい?~

マツヲ。
BL
久しぶりに会った弟は、現魔王の長兄への謀反を企てた張本人だった。 王家を恨む弟の気持ちを知る主人公は死を覚悟するものの、なぜかその弟は王の座を捧げてきて……。 というヤンデレ弟×良識派の兄の話が読みたくて書いたものです。 この先はきっと弟にめっちゃ執着されて、おいしく食われるにちがいない。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

【完結】逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。抱かれたら身代わりがばれてしまうので初夜は断固拒否します!

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
隣国の国王キリアン(アルファ)に嫁がされたオメガの王子リュカ。 しかし実は、結婚から逃げ出した双子の弟セラの身代わりなのです… 本当の花嫁じゃないとばれたら大変! だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだんキリアンに惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜

たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話

処理中です...