破賢の魔術師

うめき うめ

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1巻webおまけ(ツララ視点)

地下倉庫(ツララ視点)

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   タヒトが騎士団長ルーカスを負かし、今日の催しは終了。
 私達は帰宅の途につく……はずだったのだけれど、ルーデン王がそれを阻んだ。

 「タヒト・デイエ、ルーカスに勝ったその実力を見込んで頼みがある」

 ルーデン王は眉根をひそめるタヒトの前に立ち、そう切り出した。


 王曰く、謎のモンスターが城の地下倉庫に住み着いてしまい、対処に困っているというのだ。
 この世界では見覚えの無いそのモンスターは、私達を召喚した際に誤って共に召喚された可能性があるという。
 何度か捕まえようと兵士を送り込んだが、相手は体が小さい上にかなり素早いモンスターの様で、暗く狭い倉庫内ではとてもその動きを捉えきれず、そればかりか手酷い反撃を受けて帰って来たとのこと。
 タヒトにはその正体不明のモンスターを退治して欲しい……という話だった。

 「同じ世界から来たお主等であればそのモンスターについての見識もあるやもしれぬ……どうだ、頼まれてくれないか?」

 タヒトはあからさまに嫌そうな顔をしている。
 ルーカスと戦った後から彼は苛立っている様だった。試合中に何かあったのかしら?
 例えそうでなくても無理は無いかもしれない。城に招いておいて突然ルーカスの様な強者と戦いを強いられ、その上モンスター退治とあっては……国から貰った褒美――100万マーク――も霞んでしまう、割の合わない働きだ。

 「お断りします」

 タヒトが頭を下げ、この話はお終い。
 今度こそ城を出る――ことは無かった。踵を返そうとした私達へルーデン王が一言、こう言ったのだ。
 
 「見事、モンスターを退治したあかつきには500万マークの報酬を出そう」


☆☆☆ 


 そうして今、私達はルーデン城の地下倉庫へと向かっている。
 石造りの迷宮の様な地下通路を、等間隔に並んだランプの光と兵士の先導を頼りに進む。
 かなり歩いた気がするけれど、並んで歩く隣の男に疲れた様子は見られなかった。

 「現金なのね」

 タヒトは気まずそうに振り向いた。

 「……まずかった?」
 「別に。何か勝算があるの?」
 「勝算という程ではないけど……よくよく考えてみると、俺達の世界にモンスターなんていないだろ?見た事のある動物……悪くて猛獣……それも話を聞く限りはそんなに大きな奴じゃない」
 「だから大した相手ではない、と?」
 「そういうこと」

 一理ある。
 確かに彼が言う通り、私達の世界から召喚された生物であれば、それ程の危険はないかもしれない。
 けれどルーデン王はこうも言っていた。

 「兵士達は皆、何かに貫かれた様な傷を負っていた」

 鎧を着込んだ兵を貫くモノ……それは一体何だろう。
 猛獣の牙や爪でそれが可能とは到底思えない。
 本当にそれは猛獣なのだろうか。


 そもそも、そのモンスターは本当に私達の世界から召喚されたのかという疑問もある。
 ルーデン王の言葉を信じない訳ではないけれども、偶々たまたま私達が召喚されたタイミングで現れただけでその確証はどこにもない。
 もし、万が一そのモンスターが想定外の何か――例えば別の世界から呼び込んだ怪物――であった場合の事を考えると……やはり危険に思えた。


 引き返した方が良いかもしれない……そう言おうとしてタヒトと目が合った。

 「不安なら引き返しても良いよ?」
 「まさか。余計なお世話」

 反射的に言い返してしまった。
 なんて間の悪い人。


 
☆☆☆ 
 

 ――ガゴッ

 錆びた鉄扉の施錠が外され、かび臭い空気が漂い始める。
 薄暗い地下倉庫に光が僅かに差し込み、室内がほの見えた。
 剣や槍、弓といった武器と甲冑が並べられている。
 鉄扉へと目を戻すと、消えかかった文字で「第三騎士団」と書かれてあった。
 どうやらここは第三騎士団用の装備保管庫らしい。

 「私はこれで……」

 そう言って案内役の兵士が去っていく。
 来た時よりも随分と速足なのは気のせいかしら。
 

 開かれた倉庫の前で私達は立ち尽くす。
 無闇に中へ入るのは躊躇ためらわれた。
 思った以上に暗く、物が溢れているその場所では、どこから攻撃を受けるか予想出来ないと思ったからだ。
 
 
 逡巡する私をよそに、タヒトが前に出た。
 
 「『有給』」

 彼の杖から光が放たれる。
 光は私の目の前の古びた石床へ一直線へ伸び、吸い込まれる様に消えた。
 一拍おいて、その場所から青の光がとぐろを巻きながら立ち上り、人の形を成していく。
 足から腰、胴、手……そして頭。 
 やがて光が消えた時、そこに立っていたのはもう一人のタヒトだった。

 「これは……あなたのコピー?」
 「そんなとこ。こいつを盾にして進もう」
 「ふうん……」

 自分を複製する魔法……やはり彼の扱う魔法はおかしい。
 その無茶苦茶加減に呆れつつも、関心は目の前の「二人目のタヒト」だ。

 顔や、背丈、服装等の外見はほぼ同じ。そっくりね。
 違いは武器を持っていないことと……本物よりもやや気の抜けた表情ということかしら。それにしても人形の様な作り物という感じも無い。しっかりとした生命の鼓動を感じる。
 しばらく眺めていると、瞬きや呼吸をしているのが見て取れた。 

 ……なにこれ面白い。触れてみたい。

 思った瞬間には手が伸びて、その頬をつねっていた。

 「痛っ!?」
 「痛いの?」
 「いや、痛くないけど……反射的に」
 「わかるわ」
 「……何が?」
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