僕たちの物語

haruka

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僕たちの物語『転』

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僕たちの物語『転』
ここからが僕の物語

「駅前のカフェのパフェ美味しいらしいよ?いかない?」
そう催促してくる彼女の表情はワクワクしている……はずだ

僕はあれからずっとあのパスワードについてのヒントを探すため記憶をたどっていた
だが、人の記憶力にも限界は当然あるもので遡れば遡るほど彼女の表情を霧が隠す
鮮明に覚えていると思っていたものが崩れていく……
僕の中の彼女さえも時間という残酷な流れが消し去っていってしまう
彼女の表情、仕草、言葉でさえも
僕の記憶を改竄していくかのようにじんわりとじんわりと消えていく

ただ一つ、僕はただ一つだけ違和感を覚えている
それは、確かにあったはずの記憶、なのにその描写が僕の脳には記憶されていない、いや、そこだけが黒く塗りつぶされたかのような違和感

その前後ははっきりと記憶がある……
彼女が、初めて僕の前で弱さを見せた時、どうしたらいいのか、と聞いてきた時その後だ、その後の記憶がないのだ
そのおかげで僕はその記憶に気がつけた
それはまるで周囲に何も無いがために観測が可能になったブラックホールのように
その本来記憶があるはずの、あったはずの無の空間が僕に問いかける

『お前はその時何をしていたのか覚えているのか?』

とでも言うように、

まるで誰かに試されているかのような感覚に陥る
その記憶は僕にとって大事なものだ
何故か僕はそう思う
その記憶に思いを馳せる……
その時間が長ければ長いほど僕は狂おしいほど彼女を思う
彼女を呪うように、殺してしまうほどに思ってしまう
「なんで、なんでだ、なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで……なんで俺を残して消えたんだよ!ならいっそ、俺が!」

はっと気がつく
………彼女を殺したいと思っていた自分に

何も考えず外に飛び出す
無我夢中で走る
今考えていたことなんて忘れてしまいたかった

途中何度か人や物にぶつかった気がする
それでも僕は走る

何分間走ったのだろうか

息が切れる
体力の限界を迎え、倒れ込む
ここがどこなのか何も分からない
酸欠で視界がブラックアウトする
だいぶ時間がたっただろうか
ようやく視界が回復する
ここはどこだろうか、幸いにもスマホは持っていた
周りを見渡そうと……

「誰だ……お前は……」

いま、たった今気がついた
目の前に少年のような、、、いや子供ではない、直感的に思った
こいつは違う、人じゃない
人は、人の形をした異形に恐怖を抱くと言うがどうやらそうとは限らないらしい
こいつは確かに人の見た目をしている
だが、外見を、顔を、体型を、そいつを認識したと思った次の瞬間には存在が曖昧になる
周りの風景と同化するように、その周りの空間との境界線が消える、

「君は何を犠牲にしてくれるのかな」

そいつが放った一言はあまりにもおかしいのに、おかしいはずなのに、スっと僕の中に吸収される
違和感が無さすぎて、違和感がある

「お前は誰だ、」

「僕かい?僕の名前はね              だよ」

「ここに住んでる人の言葉で言うとー、確か…」

やつは続ける
俺はその言葉を気にすることが出来なかった

……なんて言った?こいつは今なんと言った?
聞き取れてはいた、はずだ……聞き取れたはずなのに何も無かったようにそれは記憶に残らない
この感覚には覚えがある、
確かにそこにあったものがまるで無かったことにされるこの感覚

一瞬にして理解する、
こいつが元凶なのだと

「おまえがっ……」

僕は直感的にそいつに掴みかかる

……はずだった
掴みかかるという行為は無駄に終わった
何故ならそいつには触れることが出来なかったからだ、
そいつに掴みかかろうとすると手が空を切る

僕が掴みかかろうとした相手は避ける素振りなんて見せなかった……
なのに、その人間ではないナニカには当たらない、いや、通り過ぎたと言った方が想像がつきやすいだろうか、僕の手は、体はそのナニカの体の部分をすり抜けていた

「……は?」

倒れそうになるのをギリギリで耐える

「急になんだよもー、怖いなぁ」

別に思ってもいないであろう言葉を奴は発する
奴の顔がにやける
酷く不気味な顔がこちらを向く

「あ~そうか、君はあの時の人の……ふふふっ」

間違いない、こいつは確実に何か知ってる

「……で、君は何を犠牲にしてくれるのかな」

フフフッと笑みを浮かべる
天使とも思えるその笑顔は神秘的で、酷く残酷なものだった

「何を犠牲にしたらいい、何を犠牲にしたら僕の知りたいことを教えてくれるんだ?」

うーんそうだなぁと、名前も知らぬモノが言う

「1番手っ取り早いのは、君の大切なもの、例えば……君のポケットの中のUSBメモリーとか、それから、スマホ?だったり、君自身の寿命とかかな」

わかりやすく、ありきたりなものを要求してくる

「そういえば俺はまだ名乗ってなかったよな、俺の名前はバアルってとこかな」

バアル……

「ソロモンの……」

聞こえるか聞こえないかギリギリの声でそう呟いた

「へぇ、知ってるんだ」

そいつは、バアルはニマニマと笑う
まるで存在が知られていることに興味を持つかのように……

「まぁ、なんと呼んでくれても構わないよ、ある人には神様、ある人には天使とも、そしてある人には悪魔とも呼ばれてる」

悪魔、僕から見たやつの印象はこれが一番近いだろう
なんていったって、やつは、ソロモン72柱の悪魔の中でも最強の名を冠しているのだから……
興味があって調べて見たことがある
ソロモン72柱
序列第1位  バアル
そいつは元は豊穣の神で、人に知恵を、一説によれば人を不可視にすることもできるようだ

「で、本題なんだが、願いは最初に言ってくれよ?そうしないと対等な駆け引きは出来ないからね」

願いはなんだ、知りたいことはなんだ、とバアルは問いかけてくる
僕は迷わず答える

「美華は、渡辺  美華はどこにいる」

「……やっぱりそうか、残念だが、それについては答えられない」

「どうして、」

「簡単に言えば君の願いと、他のやつの願いが相反しているからさ」

そうだ、僕は勘違いをしていた
願いを叶えてくれるのは僕だけだと思っていた…
当たり前だ、こいつに会って願いを叶えてもらったやつなんて何人も居るだろう

だが、僕は美華はどこにいるのか、そう聞いたのにそれに相反する願いを叶えた奴がいるということだ……

「誰だ、その願いを叶えたやつの名前を教えろ」

「……そうだな、寿命20日分か、そのUSBメモリーでどうだ?」

そうバアルは問いかけてくる

「わかった、だが、このUSBは渡せない、寿命でもいいんだよな?」

僕は即答する、たった20日だ、そう言い聞かせながら
バアルと名乗るそいつは、やはりニマニマと笑っている

「ではまずお前の寿命からもらおうか」

バアルの手が伸びてくる
その手は僕の体の中心、心臓部分の表面を真っ直ぐに捉える
それは皮膚に触れることはなくそのまま体内に入り込んでくる
とても気持ちがいいと言えるものじゃない
あるのはものすごい倦怠感、そして恐怖だ

何かを見つけたようにバアルは笑う
ここで動いては行けないという気持ちが僕を縛る
何故かそう感じた、
何かが持っていかれる感覚
バアルの手が僕の体内から取り出される
その瞬間目の前がブラックアウトする
さっきの酸欠の時のようなものでは無い
全ての感覚が消えて無くなるようなそんな感覚に襲われ地面にへたりこむ

手には……色が認識できないナニカがある
何色に見えるのか分からないその色はこの世の全ての色をかき混ぜ、その混ぜられた色が全て独立しているかのような矛盾の色
それをバアルは優しい手つきで持ち、それを口に含む……

「確かに寿命20日分受け取った」
「願いを叶えたやつの名は……」

訳が分からなかった、だってその名前は……

『渡辺  美華』僕の彼女の名前だったのだから

……僕はやっと本来の目的を思い出す

「もうひとつ叶えてもらいたい願いがある」

「なんだ?」

「このUSBのパスワードを教えてくれ」

「……ほう?……まぁ私には関係の無いことだが」

ボソリとバアルはつぶやく

「で、教えてくれるのか?教えてくれないのか?」

「いいだろう、教えてあげようじゃないか」

「寿命何日分だ?」

バアルは驚いたように目を見開いたと思ったらすぐにケタケタと笑い始める
ものすごく不気味だ、

「俺を笑わせるとはなかなか狂ってるな」
「それに免じて今回は寿命は取らないでやろう」

「そうか、でパスワードは?」

「……言ってもいいがおまえ、メモは取らなくていいのか?覚えられるならいいんだが……」

「……」

メモは一応取っておこう記憶力には自信があるんだが、先の一件がある用心に越したことはない

「パスワードは…………だ」

完全に盲点だった、彼女がまさか…………をパスワードにするとは思わなかった
僕はしっかりとそのパスワードをメモする
間違いはない

「もういいな、また願いがあればここに来るといい」

そう言ってバアルはヒラヒラと手を振りながら木々の間に消えていった

僕にはひとつの希望と、大きな謎が増えた



僕達の物語『転』[完]
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