〜蛇苺〜年下幼馴染に溺愛され過ぎて、何故か僕自身がストーカーになってしまいました。

鱗。

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第一章『無意識の衝動』

第六話『会いたい』

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実家から生活を完全に引き払った訳じゃなかったので、引っ越し作業は簡単に済み。集めてみれば、僕の私物は、大振りなボストンバッグ一つに収まるくらいの量しか、その家の中に点在していなかった。僕が、あっさりと引っ越し準備を終わらせると、先生は、苦笑いの様な、失笑にも近い様な声をふと溢してから、『お前って、そういう奴だよな』と、胸の引き出しにずっと仕舞い込んでいた様な感想を、ひっそりと漏らした。


自分が、どんな人間かは、自分自身が一番理解していると思っていたけれど。先生の話を聞いて、それはもしかしたら、思い込みに近いのかもしれないな、とぼんやりと思った。そう言えば、僕の世界一の理解者だ、と決め技の様に口にしていた幼馴染なんかもいたっけ。親友の郁真は、自分の最大の理解者はお前、と言ってはくれるけれど、自分が僕の最大の理解者だとは一度も口にしたりしない。けれど、じゃあ、その差って、なんだろう。


恋人と、友達と。その明確な違いって、なんだろう。理解度だろうか。性愛だろうか。でも、その全てを携えた、SEXだけする単なる知り合いもいる。


なら、これって、全部一つに纏めちゃいたいと思う気持ちがある僕は。全部ばらばらだと、なんだか面倒臭いとか考えてしまう僕は、単なる欲張りなんだろうか。


友達が少ないから。
恋人がいた経験が足りないから。
そんな風に自堕落に思ってしまうのかな。


ああ、でも、そうか。そんな、一粒で全部済んじゃう人が、ずっと側にいてくれたから。恋人よりも近く、友達よりも深く、ずっとずっと側にいたから。だから、未だになって、こんなにも。
寂しくて、寂しくて、堪らないのかな。


「会いたい」


 克樹。


「あいたい」


胸が、ずっと、血だらけなんだ。あの日、僕と君が、さよならした日。お前に心臓を撃ち抜かれてから、胸から流れる血が、全然止まらないんだ。痛くて、いつだって生乾きで、直ぐに血が噴いて、誰かの肌が無いと落ち着かないのに、心の中には君しかいないから。僕は、君以外を、本当の意味で受け入れた事はなかった。


身体も、心も、全部まだ、君だけの物で。恋人だった人にも、触れはしても、絶対に触れさせはしなかった。先生のカウンセリングを受けたり、先生のお子さんと、家族みたいな関わりを築いて、克樹から離れても大丈夫な様に、自立心を育てたり、克樹の事を考えない時間を無理矢理じゃなく作れる様になっても。本当の意味で君が僕の心の中から、出て行ってくれた事はなかった。だから、僕がいま、このまま死んでしまうほどの孤独を抱えているのは、その時々にしてきた僕の決断が、恋人と僕との間に決定的な溝を作ってしまったからなのかもしれない。


だとしたら、僕は、この先ずっと、独りぼっちで生きていくのだろうな。


どん、という、背中に走った衝撃。次の瞬間、燃える様な、熱い、鋭い痛みが走って。通行人の女性が、きゃあ、と叫び声を上げたのが、遠くに聴こえた。その声につられて、状況を把握しようと、辛うじて後ろを振り向こうとした瞬間。


『あいしてる』


そんな、低い、憎悪すら滲ませる籠った声が、まるで、獣の咆哮や唸り声の様に、僕の耳を劈いた。背中に走る痛みがどんどん強くなっていく一方で、霞んでいく意識。遠く朧げになっていく、朦朧とした意識の中で、その獣が、二人の男性らしき影に取り押さえられているのが、見えた気がした。


最後にした触れるだけのキスの感触が残る唇で呟いた、『僕を忘れて、幸せになって下さい』と言う声は、先生の胸には、全く届いていなかったんだ、と切なくなって。


どうして、僕は、大切な人をいつも傷付ける事しか出来ないんだろうと。ならせめて、孤独を生きる事こそが、唯一の救いの道なのかなと、指の先から冷えていく身体を抱えて、一人、そう思った、瞬間。


『瑠衣君』


声が。


『ねぇ、ってば』


きこえる。

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