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第一章
第九話
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大学デビューという言葉がある。でも、それは大学での最初の印象を他者に向けて決定付ける為の行為であって、人間関係の第一歩をいかにして失敗させないかという目論見のもと行われるのがセオリーだ。俺の様に、最初にあった印象を途中から改変させるような人間は然程いない。いたとしても、垢抜けたというよりは遊んできましたね、を体現するような人間ばかりで、この大学内という狭いコミュニティの中で、イメージの変革をする作業を俺以上にコツコツと続けてきた様な人間は見かけた事はなかった。
けれど、それでも、周囲の俺に対する態度は明らかに一変した。最初は、髪を切り、コンタクトレンズを着用し、服装を女性客からプレゼントされたハイブランドで固めるという分かりやすい変化に対しての反応が大部分を占めていたけれど、それが落ち着きを見せ始めると、次第に俺の内面に対しても言及する人間が増えていった。
『明るくなったね』
『見違えたね』
『こんなに話しやすい人だとは思わなかった』
それがどれほど分かりやすい段階を踏んだ変化だったことか。俺はその掌返しのオンパレードに、すっかりと呆れ返ってしまった。俺が前髪を落とす前まで、俺の名前どころか存在すら把握していなかった女子達は色めき立ち、学年を問わずして俺の元に押し掛けてくるようになった。
自分にどれほど自信があるのか分からないけれど、ミスコン経験者などもその中には含まれていて、彼女を作るつもりはないという俺の意思すら尊重せずに、次から次へと連絡先を渡してきたり、告白をしてくる様になった。人の話を聞こうとしない人間は、そもそも眼中に無い。それを本当の意味で理解してくれる女性は恐らく、この大学にはいないのだろう。
キャストとして働くようになってからというもの、女性の扱いは男性を相手する以上に得意な分野となった。当たらず触らず、やんわりと秋波を躱す手管も仕入れ済みだ。俺は出来るだけ角が立たないように、そして、彼女達のプライドを傷付けないように気を付けながら、連絡先を交換するのを断り、告白を躱し続けた。
友人と勝手に名乗り始め、俺に纏わりついて甘い蜜を吸おうとしてくる男連中もいた。見え透いた甘い言葉を用いては、合コンにサークルにと、俺を外の世界に積極的に連れ出そうとした。お零れに預かろうという魂胆が見え見えのその誘いには終始げんなりとしたけれど、それでも、本当の意味で俺と友達になりたいと思ってくれる人間も中にはいて。そいつらと連んで飲みに行く日なんかは、いままで友人関係が希薄で経験が無かったというのもあって、それなりに楽しかった。
何故か一方的な恨みを向けられることもあった。それも、男女問わずに。俺がお前達に何をしたというのかと頭を抱えることも度々あったけれど、これだけの人格に渡るまでの急激な改変をして、良い意味でも悪い意味でも目立つ存在になってしまったのだから、俺に対する見方に悪意が混じってしまってもおかしくはないなと、ある程度その結果を納得しつつ受け入れていた。
それに、他人が俺に対する態度をどう変換させるかというシュミレーションを繰り返し脳内で行うことにより、これくらいの過敏反応があるだろうという目算も予め立てていたから、実際に目の前にいる人間の反応を見たところで気構えがまるで違った。けれど、初めましてに近い存在でしかない有象無象がどれだけ俺に対する態度を軟化させ、近寄り、おべっかを使うようになったところで、そこに興味や関心は一度として向くことはなかった。俺の中にある、ただ一つの関心事。一度たりともブレる事なく、心の中心に在り続ける、唯一の存在。
宮ノ内 悠人さん。俺は貴方の関心が欲しいのです。まだ貴方自身が忙しくて、図書館にて逢瀬する時間は取れていませんが、俺の姿形の変化には気がついてくれていましたよね。夏休み明けにあった最初の授業の時、あれ、と驚いた表情を浮かべてから、手で鋏のジェスチャーをしてくれた貴方のその気遣いに、俺は胸を打たれました。
以前に比べて変わった俺を見て、貴方はどう思いましたか?俺はそれが知りたくて堪らない。貴方が俺に対して寄せてくれる好意的な感情の全てが眩しく感じられてなりません。
たった一ヶ月間会わないうちに、こんなにも貴方への慕情が募っていただなんて、知りませんでした。会わない時間が愛を育てる。貴方に出逢うまで、そんな言葉、実しやかだと思っていました。本当なんですね。本当に、愛とは勝手に育っていくものなんですね。
水も肥料も与えていないに、地に深々と根を張る、どっしりとした立派な幹の桜の樹が、俺の心の中でその枝葉を惜しみなく揺らしています。季節はもう秋に向かって直走っているというのに、その桜は爛漫に咲き乱れているんです。
貴方の笑顔、仕草の一つ。それを見て感じる、ただそれだけで、俺の心に春の嵐が巻き起こる。
春麗。貴方は、桜の香りを纏った、ただ唯一の人。
けれど、それでも、周囲の俺に対する態度は明らかに一変した。最初は、髪を切り、コンタクトレンズを着用し、服装を女性客からプレゼントされたハイブランドで固めるという分かりやすい変化に対しての反応が大部分を占めていたけれど、それが落ち着きを見せ始めると、次第に俺の内面に対しても言及する人間が増えていった。
『明るくなったね』
『見違えたね』
『こんなに話しやすい人だとは思わなかった』
それがどれほど分かりやすい段階を踏んだ変化だったことか。俺はその掌返しのオンパレードに、すっかりと呆れ返ってしまった。俺が前髪を落とす前まで、俺の名前どころか存在すら把握していなかった女子達は色めき立ち、学年を問わずして俺の元に押し掛けてくるようになった。
自分にどれほど自信があるのか分からないけれど、ミスコン経験者などもその中には含まれていて、彼女を作るつもりはないという俺の意思すら尊重せずに、次から次へと連絡先を渡してきたり、告白をしてくる様になった。人の話を聞こうとしない人間は、そもそも眼中に無い。それを本当の意味で理解してくれる女性は恐らく、この大学にはいないのだろう。
キャストとして働くようになってからというもの、女性の扱いは男性を相手する以上に得意な分野となった。当たらず触らず、やんわりと秋波を躱す手管も仕入れ済みだ。俺は出来るだけ角が立たないように、そして、彼女達のプライドを傷付けないように気を付けながら、連絡先を交換するのを断り、告白を躱し続けた。
友人と勝手に名乗り始め、俺に纏わりついて甘い蜜を吸おうとしてくる男連中もいた。見え透いた甘い言葉を用いては、合コンにサークルにと、俺を外の世界に積極的に連れ出そうとした。お零れに預かろうという魂胆が見え見えのその誘いには終始げんなりとしたけれど、それでも、本当の意味で俺と友達になりたいと思ってくれる人間も中にはいて。そいつらと連んで飲みに行く日なんかは、いままで友人関係が希薄で経験が無かったというのもあって、それなりに楽しかった。
何故か一方的な恨みを向けられることもあった。それも、男女問わずに。俺がお前達に何をしたというのかと頭を抱えることも度々あったけれど、これだけの人格に渡るまでの急激な改変をして、良い意味でも悪い意味でも目立つ存在になってしまったのだから、俺に対する見方に悪意が混じってしまってもおかしくはないなと、ある程度その結果を納得しつつ受け入れていた。
それに、他人が俺に対する態度をどう変換させるかというシュミレーションを繰り返し脳内で行うことにより、これくらいの過敏反応があるだろうという目算も予め立てていたから、実際に目の前にいる人間の反応を見たところで気構えがまるで違った。けれど、初めましてに近い存在でしかない有象無象がどれだけ俺に対する態度を軟化させ、近寄り、おべっかを使うようになったところで、そこに興味や関心は一度として向くことはなかった。俺の中にある、ただ一つの関心事。一度たりともブレる事なく、心の中心に在り続ける、唯一の存在。
宮ノ内 悠人さん。俺は貴方の関心が欲しいのです。まだ貴方自身が忙しくて、図書館にて逢瀬する時間は取れていませんが、俺の姿形の変化には気がついてくれていましたよね。夏休み明けにあった最初の授業の時、あれ、と驚いた表情を浮かべてから、手で鋏のジェスチャーをしてくれた貴方のその気遣いに、俺は胸を打たれました。
以前に比べて変わった俺を見て、貴方はどう思いましたか?俺はそれが知りたくて堪らない。貴方が俺に対して寄せてくれる好意的な感情の全てが眩しく感じられてなりません。
たった一ヶ月間会わないうちに、こんなにも貴方への慕情が募っていただなんて、知りませんでした。会わない時間が愛を育てる。貴方に出逢うまで、そんな言葉、実しやかだと思っていました。本当なんですね。本当に、愛とは勝手に育っていくものなんですね。
水も肥料も与えていないに、地に深々と根を張る、どっしりとした立派な幹の桜の樹が、俺の心の中でその枝葉を惜しみなく揺らしています。季節はもう秋に向かって直走っているというのに、その桜は爛漫に咲き乱れているんです。
貴方の笑顔、仕草の一つ。それを見て感じる、ただそれだけで、俺の心に春の嵐が巻き起こる。
春麗。貴方は、桜の香りを纏った、ただ唯一の人。
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