〜性悪説〜一家に借金を背負わせた性悪女に復讐を誓った僕でも愛せますか?

鱗。

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第一章『最悪の出会い』

第四話『最低の再会』

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一体、何が起こっているの。この現状は何。僕を背後から襲っているのは、人?獣?それとも化け物?分からない、何も分からない、のに。


「すっげ、中、きっつ……あは、あんた、処女だったんだ。やったね、当たりだ」


この凄惨な殺人現場に全くそぐわない、明るくて上機嫌なその声は、僕の心を、ぐちゃぐちゃに掻き乱していった。自分の人生を滅茶苦茶にした目の前の男の死という事実よりも、見知らぬ誰かから受ける猛攻にこそ、次第に心が支配されていく。


「あらら、切れて血が出てきちゃった。だけど、お陰であんたもキツくないでしょ?滑りもさっきより良いし、まぁ、結果オーライって事で許してね」


碌に慣らされず、潤滑剤すら塗布していない僕の身体を、太く長い灼熱が、容赦なく割開いていく。切れた肛門の患部より流れ落ちる鮮血が、潤滑剤の代わりとなって、見知らぬ誰かの腰の動きをよりスムーズにさせていった。


「い、やぁ、……も、やめ、……ッ、いた、い……」


誰。なんなの。なに、この状況。やめて、意味が分からない。どうして、人がいま、目の前で、死んでいる、のに。まるで、その死体が、自分の興奮材料のオブジェの一つになっているみたいに、関係なく、我武者羅に腰を振って。僕の身体が恐怖で動かないのを良い事に、こんな、好き勝手に。


「嘘みたい。俺、全然早漏とかじゃないのに……あんた、素質あるよ。奥にいくほど、キュッて締まる。ほんとに、ケツの使い方上手だね……だから、もう出していい?」


『だから』の使い方が、どう考えてもおかしい。それに、はいどうぞ、なんて言う訳ないでしょう。褒めたつもりかどうだか分からないけど、兎に角、頷くつもりなんてない。だけど、背後にいる存在は、間違いなく、中間管理職の男を屠った奴で。そんな奴の意思に反く事も出来ず、僕は目をギュッと瞑って、首を微かに横に振り、そいつの機嫌を損ねない様に慎重を期しながら『NO』を柔らかなニュアンスで伝えた。


すると、突然、目の前に。否、僕の口の中に、唐突に。熱く、硬い異物が、ぬぐ、と喉奥近くまで押し込まれた。その異物が一体なんなのか。それが判明したのと同時に、僕の強張っていた腰や、全身の筋肉は、だらんと弛緩した。


「まだ熱いでしょ。でも、これのおかげで、あんた無事なんだよ。お疲れ様って労ってやんなきゃ。あ、でも火傷には気を付けてね」


はは、と快活に、それでいて無邪気に笑って。背後にいるそいつは、僕の口の中に、男を撃ったばかりの熱を持った銃を、トリガーガード付近まで挿入した。そして、がたがた、と全身を震わせて、思い掛けずその場で失禁してしまった僕に、あちゃあ、と何処か他人事の様に呟いてから、背後の存在は、腰の抜けた僕を片腕で補助しながら腰を動かして、僕を再び犯し始めた。


「トイレも碌に出来ないかぁ。なら、俺がちゃんと躾けてあげないとね……だけど、今はこっちに集中して」

「ふ、ぐ……ぅッ……ぅ、ぶ……ッ、ゔ……」


口の中に熱い銃身がずっぷりと挿入されているので、声を抑える事も、抵抗する事も出来ず、只管に、背後からの猛追をこの身に受け続けるしかなくなった僕は、子供の様に泣き噦りながら、目の前に広がる凄惨な光景にも目を瞑って、背後の存在が早く満足してくれる事のみを願い続けた。この背後の存在が、殺人の高揚感か何かで得た自分の熱を放出した後に、僕をどうするつもりなのかは、以前として不明だ。だけど、こんな状態では、この先僕がどんな末路を辿っても、死ぬ以外の選択肢には、きっと生き地獄しか待っていない。それが分かっている僕は、どうして僕ばかりが、こんなにも辛い目に遭わなければならないのかと、深い絶望と悲しみに打ちひしがれた。


「やっぱ、泣くと締まり良いよなぁ。普通なら萎えるんだけど、でもあんたは……貴方相手だと、違うみたい。ぞくぞくするし、気持ちいい。だから、もっと泣いて」

「ぅ、……ぐ、ぅ……ッ、ふぅ……ッ」

「あー、それ、いいね。そのまま締め付けてて。そうそう、そのまま………」

「………ッ、ぃ、ぅ……ふ、ぐぅ、……ぅうッ」


ラストスパート、とばかりに、背後の存在の腰の動きが激しくなる。痛みや、恐怖しか感じない僕の身体は次第に力を取り戻して強ばっていき、しかし、それによって背後の存在に与える刺激は高まっている様だった。そして、口の中に入れられた銃身を、かちかち、と震える前歯で歯みながら、この生き地獄が早く終わりますように、と強く願った瞬間。


背後にいる存在は、自分の腰を深く打ち据えて、僕の身体の奥深くに、熱を解き放った。


中に出された。男の尊厳を、無茶苦茶に踏み潰された。あのままであれば、目の前で事切れている男に、いつかはそうされていたのは、分かっている。だけど、実際にそうされてみて、僕は思った。


もう、元の身体には、戻れない。そして、それをした背後にいる存在は。


「………あー、はは、引くほど出た。すげ」


僕の身体を作り変えてしまったその事実を、何とも思っていなかった。


「このおっさん、だいぶ体臭キツくない?貴方、良く相手出来たね。殺った勢いで頭が馬鹿になってたから何とかなったけど、今となったら限界だわ……ねぇ、場所変えてもう一回しよ。こっち来て」


絶景でしょ、とか言って乗り気になって僕に跨っていたのは、何処のどいつだ。死体があるこの場所から遠去かるのは、心の底から賛成ではあるけれど、この行為自体を辞めるつもりはないんだな、と暗澹とした気持ちになった。僕の処女を喪失させた事実にも、当たり前の様に労りの一つとしてない。優しさなんて求めていないけれど、せめて、自分の人生の分岐を選ぶ余地すら与えられなかった僕のこの気持ちが回復するまで、一人にして欲しいと思った。


けれど、中間管理職の男を殺した相手と、僕をいま強姦し終えたばかりの存在は、どう考えても同一犯だから。その存在の意思に逆らう気にはどうしてもなれず。僕は、全身を恐怖と、虚脱感と、合意無く犯された衝撃とに震わせながら、よろよろと死体のあるベッドが降り、背後にいた犯罪者の全容を確認する為に、ゆっくりと後ろを振り返った。すると、其処には。


「………え…?」


モデルの様な頭身と、厚い体躯を併せ持つ、見た事しかない青年が、感情の窺い知れない微笑を浮かべて佇んでいた。


歯医者で見かけた時のラフな格好とは違い、今は、僕の知る『会社』の人間の着ている其れよりも、もっと上等なスーツを着ている。だけど、その全身から滲み出る雰囲気は、どう取り繕っても堅気の人間のそれでは無く。だから、僕は、やっぱりこの人、只者じゃなかったんだ、と深い納得を得てしまった。


だけど、こんな偶然があるだなんて。世の中狭いな、とは思いつつも、どうあっても心を開いて話ができる心境にはなれず。というか、そもそも僕は、この青年に対して良い印象は持っていなかったから、そんな心境になるなんて、絶対に有り得なかった。その上に、彼は、殺人犯という立派な犯罪者であり、かつ、僕の身体を手籠にした強姦魔でもある。だから、僕の方から話し掛けたり、心を開いて対話するなんて、絶対に有り得なかった。なのに、青年の方はというと。


「へぇ、やっぱりよく見ても、綺麗なカラダしてんね。本当に今まで、誰にも悪戯されて来なかったの?なのに、最初からあんなおっさんと……金の為なのは分かるけど、よく出来るね」


さっきまでの流れを、全て過去に置き去りにして、自分が悪戯した一番手に乗り出した癖に、いけしゃあしゃあと。『よく出来るね』だなんて、感心しながら軽く軽蔑して。こいつ、本当に最低最悪な人間性をしているな。怒りが振り切れて、逆に冷静さと呆れを胸の中に呼び込んでしまう。デリカシーというものが、全く備わっていないんじゃないだろうか。だけど、そんな文句が次から次へと、自分の口から飛び出す事は無かった。そいつの右手には、未だに、中間管理職の男の命を奪った拳銃が握られていたからだ。


うっかりと機嫌を損ねて、その銃が再び火を吹かない様に黙って頷き、これまで全くの未経験だった事実に肯定を示すと、その青年は、へぇ、と小さく感嘆を漏らしてから、僕の全身を舐め回す様にして見つめた。バスローブを辛うじて羽織ったままでいたので、局部などは隠せていたけれど、そうした、あからさまな色欲に濡れた男の視線には全く慣れていない僕は、どうしたらいいのか分からず、頬を朱に染めて、拳を握り締めて俯いた。


「……まぁ、こんな事で嘘ついても仕方ないか。この部屋これから騒がしくなるから、隣の部屋に移動しよう。付いておいで」


暫く、無言のまま僕の全身を眺めていた青年は、漸く納得を深めた様にして呟くと、僕に注いでいた熱い眼差しをパッと取り止めて、僕に対して全く執着すら感じさせないさっぱりとした態度で、振り返る事もなく、部屋から姿を消してしまった。


死体と、自分だけが部屋に取り残されて、どうしたらいいか分からなくなった僕は、青年が姿を消して、本当に戻って来ない事をじわじわと理解していくにつれて、次第に焦りを感じるようになっていった。


一度そうなってしまったら、狼狽える事しか出来なくなって。もし、このままこの場所にいたら、僕は、会社の人間達に程の良い殺人犯に仕立て上げられてしまうんじゃ、とか、殺人を犯してもなんとも思っていない男の所に、これから向かわなくちゃいけないの?とか、色んな考えが、頭の中を駆け巡ってしまったのだけど。


悩んで、悩んで、悩み続けているうちに。全てが、どうでも良くなってしまって。そもそも、男の殺人と僕とは、無関係に近い可能性すらあるし、あの青年と僕とを繋げる接点は無いに等しいのだと、冷静になって考えられる様になって。


僕は、自分の尻から垂れてくる赤みがかった白濁を、ベッドサイドにある備え付けのティッシュで拭って、自分が着てきた服に再び着替えてから、青年に再び会う事もなく、そのホテルを後にした。

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