Eternity

鱗。

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第一章

第二話

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人生二度目のタイムスリップを経験した僕は、取り敢えず父に連絡を取る事にした。見た事の無いスマホで管理しているカレンダーで、現在の西暦年月日は確認済みだ。どうやら今回は未来に飛ばされたみたいなのだけど、であれば尚更、事情を知る人間との認識の擦り合わせはしておくべきだと考えたからだ。すると、父は恐ろしい事に、『そうか、お前はまだ二回しか経験していないひよっこか』と事もなげに答えた。この時間軸にいる父の知る僕は、あと何回こんな経験を繰り返すというのか。あまりの現実の重さにげんなりとしながら、父さんの知ってる僕は、あとどれだけこんな事を繰り返してる?と尋ねると、それだけは教えられない、と平然と返された。


『下手な知識を与えてしまうと、お前という存在そのものにまで影響を与えてしまうからね。だから、余計な事は考えずに、真面目に生きる事だ。分かったね』


釈然としない気持ちを抱えたまま、しぶしぶと引き下がり電話を終えると、未来の自分が洗いざらしにしてしまった、部屋着か、ぎりぎりコンビニまでしか行けない様な仕上がりのTシャツと短パンの格好で、アパートの近くにある公園に向かった。仕事や恋愛で落ち込む度に、僕はこの公園に来ては時間を過ごし、実家の真後ろにある山々や森林を思い起こせる新緑に癒されていた。今日は、己の境遇を呪いそうになる自分自身を癒す為に来たのだけど、どうやらいつもの定位置にしているベンチには先客がいて、使えそうにない。弱ったなぁ、と頬を掻いて、ベンチの斜め後ろにある生垣の側から先客の後頭部を眺めていると、その先客は僕の視線に気が付いたのか、ゆっくりと此方を振り返った。


「・・・兄さん?」


幻を、見るかの様に。信じられない物を、目撃したかの様に。何処かで見た事のある顔立ちの青年は、そのベンチから思わずといった風に立ち上がると、僕の顔をまじまじと凝視した。兄さん、と未だかつて呼ばれる様な関係性を人との間に築いた経験が無かったから、彼が僕を誰かと見間違いでもしているんじゃないかと思ったけれど。次の瞬間、僕の認識の方が間違っていたのだと知った。


「兄さ・・・葵さん、まさか、本当に?」


泣き出しそうな、否、既に泣き出してしまった彼は、涙をぼろぼろと零しながら、首を緩々と横に振り、『信じられない、嘘だ』と繰り返し口にした。そんな、純然たる僕の関係者という空気を醸し出されると、一体どう反応したら良いのか分からなくなる。正直に僕の身の上を説明した所で、彼は納得するだろうか。しかし、しらばっくれて、この場を切り抜けるというのも、正しい選択とは思えない。だから、僕は小さくなって、その態度に相応しい声量で、吃驚するほど顔の整った鹿の目をした青年に向けて、ごめんなさいをした。


「あの、ごめんなさい。君には申し訳ないし、信じて貰えないかもしれないんだけど、僕、君とは一度も面識が無くて・・・」

「・・・は?」


泣き噦っていた青年は、ぴたりと泣き止むと、ぽかんと口を開いて、意味が分からない、という表情を浮かべた。僕は、自分自身が父以外の他者の目から見て、どう考えても頭が可笑しい人間にしか映らないと理解した上で、青年に事の経緯を説明した。


「信じて貰えないだろうけど、僕、実は、過去から来た人間なんだ。身体は今の年齢に合わせてあるから、頭の中身だけ過去から来た、って事になるんだけど・・・だから、君はきっと、僕の知らない未来の僕が知り合った人間なんだと思う」


つまり、僕の今体験している未来と、青年の知る僕との現在は、今こうして会話した事によって、僕の中で初めて交錯した、という事になる。だとしたら、青年の知る、この未来を歩んできた僕の意思は、どこに消えてしまうのか。この未来を迎えるまでに存在した空白の時間を埋める為に、僕はこれから先、何度あるとも知れないタイムスリップを経験していくなかで、どれだけの時間の逆行と過去への順行を経験し、運命の枝分かれを繰り返して行くのだろう。考えただけで、途方もない。それは、絶対的孤独と一体何が違うというのか。


でもまぁ、どうせ、まともに取り合って貰えるわけもないよね。それに、青年には悪いけど、彼との思い出なんて、今の僕には本当に無いのだし。僕の知らない時間を生きた僕との間に出来た知り合いなのは間違いないのだろうけど、気味悪がられて、それで青年の知る僕との関係が終わったとしても、今現在の僕には、彼に対する申し訳なさこそあれ、タイムスリップを経験したという衝撃以上のダメージは無い。だから、ここで彼との縁が切れてしまうとしたならば、それはそれだよな、と考えてしまうのも、ある意味では致し方無いのだ。僕にとって未来であり、過去でもある人生に大きく作用してしまう様な関係性を積極的に築くわけにはいかないし、きっとこれが正解なんだと思う。しかし、僕の事なかれ主義は、青年の意思に一石を投じるまでの効果を与えてはくれなかった。


「・・・その話が本当なら、葵さんは、今日初めて、俺と出逢ったんですか?」

「えっと、そう。君と会ったのは、これが初めてだよ。だから、君の事は、本当に知らないんだ。だからその、ごめんなさい」


おずおずと、だけど、一応は突き放すつもりで口にした。これ以上の深入りはしてはならないと線引きをするつもりで。しかし、青年は繁々と僕の表情や身体全体を観察すると、今度はゆっくりと自分の手の平で自分の口元を覆って、その場にずるずると蹲ってしまった。僕は、思わず彼の元まで駆け寄って、大丈夫?と慌てて声を掛けた。


「大丈夫?気持ち悪い、よね。ごめんね、突然こんな話をして。君、家はどこ?近いようなら、僕が送って・・・」


だけど、駆け寄ってから、はたりと気を取り戻した。自分から接点を持とうだなんて、何してるんだ、僕は。すると、内心に焦りを抱えて、青年から距離を取ろうとした僕のその腕を、彼が、がしり、と力強く掴んだ。驚いて青年の顔をハッと目に映すと、そこには。


「俺の名前は、聡です。君なんて、他人行儀に呼ばないで。貴方が俺を他人扱いするなんて、絶対に許さない」


僕の双眸を貫く、怒りに満ちた眼が二つ、並んでいた。

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