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第四話 この人に、抱かれたい
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「君は、煙草を吸うかい?」
あれから無言になってしまった二人をバーに残して、そのまま何となく真澄さんが経営する紅茶専門店に着いて来てしまった。真澄さんが、本当は店に用事などないのは知っていたけれど、その事を悟らせない様に振る舞っているのは見る目に明らかだったので、何も言わずに彼に付き合った。
真澄さんは、店に着くとすぐに俺をカウンターに迎え入れ、カウンターの奥から秘蔵の紅茶を取り出して来ては、お湯を沸かすところから始める、本格的な紅茶を淹れ始めた。しかし、いつもとは違い、用意されたティーセットは二客だった。個人所有の物と思われるそれは、紅茶用にしては分厚く、無骨な印象がある。紅茶に対しては拘りが強い真澄さんにしては、カップのチョイスが意外だな、と思った。
「いえ、……僕は、吸いません」
真澄さんを前にすると、俺は自分の事を『僕』と表現してしまう。歳の差がある大人を相手にするといつもそうだったから、これまで特別気にした事は無かったけれど。この人を相手にすると畏まってしまうのは、何も年齢差だけが問題になっている訳では無いと、いま漸く悟った。
俺は、この人を前にすると、つい猫を被ってしまう。
「そうか……あぁ、いや、君は悪く無いよ。俺の勝手な都合だからね。だから、気にしないでくれ」
何故だか酷く申し訳ない気持ちになって、頭を下げようとした所で、それを遮られた。確かに、俺に不備があった問題でもなかったので、そうされるのは当然と言えば当然なのだけど。不完全燃焼というか、消化不良というべきか。胸の中に、モヤモヤとした感情を持て余してしまった。
「この仕事を始めると決めたのと同時に、由依の勧めもあって脱煙してね。それからずっと触れていないのだけど、こういう日ばかりは、難しいと感じるよ。元々、堪え性がある人間じゃないから、寧ろ、君が持っていなくてホッとした。また癖になってしまっても、仕方ないからね」
この人を、恋敵にするのも憚られると、さっさと由依さんから手を引いた俺だったけれど。俺は一体、この人の何処を見て、尻込みしてしまったのだろう。
こんなにも、親しみがあって。
こんなにも、茶目っ気に溢れて。
「あぁ、また手順を間違えた。話に夢中になると、てんで駄目だな。集中しないと、また由依に怒られる」
こんなにも、隙があって。
こんなにも、可愛いらしくて。
「君が話しやすいからかな?……なんてね。はは、今度は怒っていいからね」
こんなにも、目が離せない人を、何故、わざわざ忌避していたのか。
「あぁ、これは参ったな……最初からやり直しだ。ふふ、もしかしたら、君に紅茶の淹れ方を教えた方が、早かったりするのかな」
この人に、紅茶の香りではなく、煙草の香りを再び纏わせたい。
「なら、教えて下さい。俺に、紅茶の淹れ方」
この人に、抱かれたい。
「君は、煙草を吸うかい?」
あれから無言になってしまった二人をバーに残して、そのまま何となく真澄さんが経営する紅茶専門店に着いて来てしまった。真澄さんが、本当は店に用事などないのは知っていたけれど、その事を悟らせない様に振る舞っているのは見る目に明らかだったので、何も言わずに彼に付き合った。
真澄さんは、店に着くとすぐに俺をカウンターに迎え入れ、カウンターの奥から秘蔵の紅茶を取り出して来ては、お湯を沸かすところから始める、本格的な紅茶を淹れ始めた。しかし、いつもとは違い、用意されたティーセットは二客だった。個人所有の物と思われるそれは、紅茶用にしては分厚く、無骨な印象がある。紅茶に対しては拘りが強い真澄さんにしては、カップのチョイスが意外だな、と思った。
「いえ、……僕は、吸いません」
真澄さんを前にすると、俺は自分の事を『僕』と表現してしまう。歳の差がある大人を相手にするといつもそうだったから、これまで特別気にした事は無かったけれど。この人を相手にすると畏まってしまうのは、何も年齢差だけが問題になっている訳では無いと、いま漸く悟った。
俺は、この人を前にすると、つい猫を被ってしまう。
「そうか……あぁ、いや、君は悪く無いよ。俺の勝手な都合だからね。だから、気にしないでくれ」
何故だか酷く申し訳ない気持ちになって、頭を下げようとした所で、それを遮られた。確かに、俺に不備があった問題でもなかったので、そうされるのは当然と言えば当然なのだけど。不完全燃焼というか、消化不良というべきか。胸の中に、モヤモヤとした感情を持て余してしまった。
「この仕事を始めると決めたのと同時に、由依の勧めもあって脱煙してね。それからずっと触れていないのだけど、こういう日ばかりは、難しいと感じるよ。元々、堪え性がある人間じゃないから、寧ろ、君が持っていなくてホッとした。また癖になってしまっても、仕方ないからね」
この人を、恋敵にするのも憚られると、さっさと由依さんから手を引いた俺だったけれど。俺は一体、この人の何処を見て、尻込みしてしまったのだろう。
こんなにも、親しみがあって。
こんなにも、茶目っ気に溢れて。
「あぁ、また手順を間違えた。話に夢中になると、てんで駄目だな。集中しないと、また由依に怒られる」
こんなにも、隙があって。
こんなにも、可愛いらしくて。
「君が話しやすいからかな?……なんてね。はは、今度は怒っていいからね」
こんなにも、目が離せない人を、何故、わざわざ忌避していたのか。
「あぁ、これは参ったな……最初からやり直しだ。ふふ、もしかしたら、君に紅茶の淹れ方を教えた方が、早かったりするのかな」
この人に、紅茶の香りではなく、煙草の香りを再び纏わせたい。
「なら、教えて下さい。俺に、紅茶の淹れ方」
この人に、抱かれたい。
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